第289話 たい焼き大戦争 前編

「あたしはカスタードがいいな~~」

「あ、じゃあ俺はあんこにするね」

「おーおー、夫婦で半分こパターンかー?」

「何その絡み方~」

「あははっ、ぴょんって面白いねっ」


 キッチンの方へ行ったジャックとくもんさんの食べたい味を聞いて返ってきたジャックの答え。そしてジャックがそれなら自分は別なのを、というくもんさんの答えにぴょんが茶々をいれ、その姿に今日初めてぴょんと会った亜衣菜が笑っている。

 しかし、なんだかんだ亜衣菜もすぐにみんなと打ち解けたなぁ。さすが見られる仕事してるどけあり、コミュ力高め女だわ。

 しかもぴょんとは同い年だからか、話し方もだいぶフランクだし、出会ってすぐの二人とは思えないね。

 とはいえ、この二人年齢は同じでも見た目は全然違うんだけど。

 活発な印象を与える小麦色の肌のぴょんに対して、普段引きこもりMAXの上道産子である亜衣菜は肌の色も対極的だし、何よりほら、横から見た時のアレがね、段違い……って、まぁこんなこと口が裂けても口に出来ないけど。

 あ、でもノリで生きてそうなところとかは、ちょっと似てる気もするか。


「うしっ、じゃあカード整理は終わったなー?」

「おっけっす!」

「しかし10人でやるとなると、なかなか終わらねんじゃねーか?」

「整理も何もなかったよ~」

「でもあーすさん、いきなり2枚はラッキーですねっ」

「あはっ、ラッキーボーイだったねっ」


 そして皆が色んなことを言うが、間もなく開戦のよう。

 しかし計53枚のカードを10人で分けると、一人平均5枚だろ?

 そらゆめの言う通り全然合わないってもんだって。

 とはいえ、+1枚を渡された俺と大和の中で、大和はワンペア、あーすは2ペア捨てるラッキーぶり。

 他にも何人か1組は揃ってたのか2枚捨てて3枚スタートのメンバーもいるけど、いきなりラスト2枚はあーすだけか。


「だいはあと3枚か」

「うん。でもこんな人数でトランプするのは初めてね」

「そうなぁ。ま、お互い好きなの取れるように頑張ろうぜ」

「そうね。あんこも美味しいけど、やっぱりあそこのたい焼きはカスタードが美味しいものね」


 おお……燃えておられる。

 一見いつも通りの落ち着いたというか、クールな表情に見えるんだけど、やはり食絡みのことでは負けず嫌いというか、妥協したくないのだろう。

 密かに闘志を燃やしているのが分かっただいに俺は少し苦笑い。


 あ、ちなみにあれね、元々テーブル周辺に座ってなかった俺と大和は、それとなくお互いの彼女にカードを引いてもらう位置に入ったのね。

 なので→の方向にカードが渡っていく順で言うと

俺→だい→真実→あーす→ロキロキ→ゆめ→ぴょん→大和→亜衣菜→ゆきむら→

 って順なのだ。

 つまり俺はだいにカードを引いてもらって、引くのはゆきむらから、っていうね。

 

「ゆきむらは5枚か。俺と同じだな」

「……はい」

「ん? どうした?」

「……別に何でもありません」


 ……え? なんだ、どうした?

 勝負に燃えるだいとは対照的に、なぜか隣に座るゆきむらが緊張気味。

 まぁ知らない人から見たら気づかないレベルの変化だとは思うけど、ある程度ゆきむらを見慣れた俺にはね、何となくわかるのだ。

 でも、ただのババ抜きでそんな緊張することあるかね?

 うーむ、相変わらずよく分からん奴だな……。


「じゃ、初参加のロキロキと最年少のゆっきーがじゃんけんで、勝った方が引いてくでスタートな!」


 と、俺がゆきむらの表情を窺っている間に、そのゆきむらとロキロキにじゃんけんするようぴょんから指示が出たのだが――


「レディファーストっす! ゆきむらさんからでどうぞ!」

「え、あ、はい」


 勝負が起こることもなく、譲られたゆきむらは少しだけ動揺というか、珍しく少し慌てた様子。

 でもさすがロキロキ。うん、俺がその立場でも、きっと同じこと言ったと思うぞ。

 いい男気だ!


「いや――」

「じゃあゆっきーがセシルの引いてスタートね~」

「おっけぃっ! さぁゆきむらちゃん、好きなの取るがいいぞっ!」

「はい。では」


 いや、テンションの差!!

 ロキロキの言葉に勝負好きなぴょんが何か言いかけたが、それを見事に遮ってゆめがスタートを決定すると、亜衣菜がさっとゆきむらの方にカードを見せて、早速ゆきむらが引いていく。

 引かせる側のが気合入ってるって光景は、まぁ不思議な感じだけど、これがこいつらだもんな。

 うん、亜衣菜のテンションのゆきむらとか想像つかないし……これが普通か。


「あ、揃いました」

「おおっ、幸先良いねっ」


 そしてワンペア揃えてゆきむらが2枚捨てたのを見て、なぜか喜ぶ亜衣菜。

 その姿はまるで妹の成功を喜ぶ姉のよう……って、それだとだいと姉キャラ被りか?

 いや、ま、楽しんでるならいっか。


 で、ゆきむらが引いたので、今度は引かれる番、つまり俺が引く番に。


「どうぞ」

「おう」


 とりあえず序盤から考えてもしょうがないからな。

 ということで俺はさっと差し出された3枚のカードの内、真ん中のを引こうとしたんだけど……。

 ん? なんでそんな緊張気味なんだこいつ?

 まぁいいけど。


 パッと引いたカードは……残念外れ。

 ゆきむらの表情がちょっと気になるところはあったけど、全体の進行もあるからね、気になるのを抑えて、俺はゆきむらから引いたダイヤの8を手札の真ん中らへんに加え、6枚に増えたカードをだいに差し出す。


「はいよ」


 そして俺のカードたちの一番右端を、無言のままカードを引いただいは。


「あっ、菜月ちゃん早い! もう2枚なのー?」

「おいおい、なんだ愛の力かー?」

「いや、ただの運だろうがっ」


 パッと2枚を捨て場に捨てたわけだが、それを見て早速冷やかしが発生するという状況が。

 いや、まぁなんか言われる気はしたけど、亜衣菜は自然な反応だとしても、ほんと、ぴょんは色んな意味で期待を裏切らねぇな。

 そんなぴょんに俺が安定のツッコミを入れるも――


「別に、ゼロやんが引いたカードを入れた位置が端じゃなく真ん中らへんだったから、もしかしたら無意識に昇順に並べてるのかもと思って、高い方の数字がありそうなところから引いただけよ」

「な、なるほどっ」


 さらさらと確率的にどこが当たりそうかを予想しただけというだいの言葉に、一同感心……特に真実なんかは感心越えて感動の反応。

 俺からすれば、苦笑いって感じですけどね!


 ……いや、別にだいに「やったぁ! 嬉しいっ、ありがとうっ!」みたいな反応求めてたわけじゃないけどさ。

 なんか、淡々と性格分析されて利用されたって気がするのは、気のせいでしょうか?

 いや、だって見やすいじゃん、順番にしてたほうが。終盤ならまだしも、ほら、まだ序盤だし?

 順に並べてた方がパッと見て持ってるか持ってないかすぐわかるし?


 って俺が思ってると。


「あ、ちなみに私は順番にはしてないからね?」

「ええっ、そうなんですかっ!?」

「いやいや、そう見せかけるだけのブラフかもしんねーぞー?」

「……ババ抜きってそんな心理戦だったっけか?」

「奥が深いっすね!」


 だいの言葉を聞いて、自分の手札を見返した真実が、たぶん数字の低い方を取ろうとしたのだろう。

 だいの手札の左側から1枚取ろうとした時に、さらりと告げられた言葉に思い切り驚く真実。

 それを聞いたぴょんが今度はそう見せかけてほんとは並べてるかも、なんて真実の動揺を誘い、ロキロキは「勉強なったっす!」みたいな顔してるけど、俺は大和に同感。そんな心理的な駆け引き別にいらねーだろ。

 って、あ、亜衣菜の奴密かにカード並べ替えてる。

 あいつも真に受けるタイプかーい。


「で、ではっ……はう、残念」


 で、結局悩んだ挙句真ん中らへんからカードを引いた真実は、引いた直後にちょっとしょんぼり。

 大丈夫だって、まだ1周も終わってないんだから、そんなすぐ上がる奴でないって……。


「はい、あーすさんどうぞっ」

「いくぜーっ、僕のターンっ」


 パッと下げテンションから上げテンションに切り替えた真実からカードを引くあーすに、いやなんだそのノリは、って思ったんだけどね!


「あ、やったぜいっ」

「マジかー」

「はや~」

「おめでとうございますっす!」

「やるなー、あーすくんっ」


 見事に真実の持つ6枚から当たりの1枚を引いたあーすが3枚になった手札から2枚を捨て、ラスト1枚。

 で、それをロキロキに差し出し、手札0。


 なんともまぁあっさりと勝ち抜けしてしまうではありませんか。


「いっちゃんありがとねっ」

「いえいえっ、あーすさんの力ですよっ」


 勝ち抜けたあーすは律儀に真実に笑顔でお礼を言って、それに真実も笑顔で応えるけど……ううむ、えらい仲良くなったなこいつらも。


「あーすはたい焼きどっちにするんだー?」

「そだねっ、僕はあんこでっ」

「おっけー」


 そして見事に勝者となったあーすへぴょんが勝者の権利として、たい焼きの選択権を与え、その答えを聞いてさっとスマホにメモを取る。

 いや、そんなの各自が覚えとけばいいと思うんだけど、意外に律儀だな、ぴょんの奴。


「じゃ、残りあんこ4、カスタード5なー」

「うっす!」


 っていうかやっぱ、みんなに食べたいの聞いて回った方が早かっただろって、どうしてもそう思えてくるんだけど。

 まぁ始まった以上もう今さらなんだけどさ。


 ということで、あーすのカードを引いて手札が4枚になったロキロキがゆめにカード差し出し、ゲーム再開。


「これだ~……って、ダメか~」

「おっしゃ、次はあたしだなっ! あたしの右手が真っ赤に燃えるー、当たりを掴めと轟き叫ぶー!」

「いや、さっさと取れって」


 ゆめが引いたカードは外れでゆめのカードが6枚になり、今度はぴょんが引く番となって現れたこの小ボケ。

 それは見事なアクション付きだったんだねど、隣には呆れ顔でツッコむ大和っていうね。

 っていうか、まず右手が燃えたら引いたカードも燃えんだろ。ババ抜きでその流派は不敗どころか腐敗してるわ。

 って、ちょっと呆れつつ見ていたのだが。


「ふっ、やはり気合が大事なのだよ!」

「おおっ、キングオブハート!」

「いや、どんな確率だよ!?」

 

 全力ツッコミ不可避案件。

 見事にそれが当たったどころか、それがハートのキングとは。

 おいおい、シャッフル同盟仕事してんの?

 これちゃんと混じってるー?


 なんてことを思ってる間に元々3枚だった手札が、2枚へと減るぴょん。

 信じ難し。


「マジかー。じゃあ俺もやるかっ。目標をセンターにいれて……ドロー!」

「いや、年齢ダブルスコアだからそれっ」


 そんなぴょんに触発されたのか、呆れてツッコんでたくせに今度は大和もネタに走り……まさかまさかのぴょんから引いたカードを当てて、元々4枚だった手札を1枚減らし3枚へ。

 そんな大和にツッコミを入れた俺だったけど、まさか……何かしらのネタをやらないと当たらないルールで領域展開されてるの?

 いや、でもそれ絶対途中でネタ切れるって……!


「えー、じゃああたしはどうしようかなー……」


 そしてそんな二人の流れを受けて、少しだけ頬を膨らましながら口元に手を当てて考える次の番の奴亜衣菜

 その動作は亜衣菜の年齢を考えればちょっと痛い気もするのに可愛いという、ずるさ付き。

 あざといなおい。ゆめとキャラ被ってんぞ……!


「強気に本気っ、無敵に素敵っ、もひとつおまけに元気に勇気! いっくぞーっ」


 って、ネタはガチトーンかーいっ。


「おおっ、やっぱり効果あり?」

「むむ……ええと……」


 そんなね、なんかもう年代バレしそうなネタの連続と的中の連続に俺ももうどう反応していいか分からないけど、とりあえず亜衣菜も見事に当たりを引いて残り3枚から2枚へ。

 しかしここから2周目を迎えるゆきむらは、この展開に困惑気味。


「ゆきむらこんな大人の真似する必要ないからな?」

「むむっ、こんなとは心外だなぁりんりんはっ」

「そーだぞっ、しかもこれでみんな当ててるし!」

「いや、でもお前らとゆきむらを同じで括るなよっ」


 そんな風にね、ノリと勢いで生きてる同世代コンビに、同じく同世代の一般人代表として俺が戦いを挑むも。


「ほら、ゆきむらちゃんも、月に代わっておしおきよっ、とかでもいいからさっ」

「あ、はい。では……月に代わっておしおき……です」


 見事に悪魔亜衣菜の声に唆されたゆきむらが、語尾を変えて少し恥ずかし気に、そう言ったのは……ちょっとすごい可愛かった。

 って、ちょっとすごいって俺の日本語ショート寸前。

 ごめんね、素直に言えなくて……って、ああもう、つまり、それくらい可愛かった、のだが。


「あ、当たりました」

「すごいね~当たるね~」

「マジかよ……」

「ほらー、りんりんも何かやらないとっ」


 あ、当たっただと!?


 そんな見事に当たりを引いて2枚捨てるゆきむらに、俺は脱帽亜衣菜はドヤ顔。

 い、いかん。この流れは……!

 俺はまだしも、俺がネタやって当てたら、次の奴だいもやらないといけないじゃん!?

 パッと隣を見てみれば、そこには真剣に何かを考える彼女だいの姿。

 やばい、この子ったらもうたい焼きしか見えてないやん!

 絶対ネタとかなんもないよねこの様子!!

 こ、このままじゃ俺がボケてもだいが普通に引いて空気読めない奴になりかねない!?

 いや、でも俺も今の流れを断ち切るわけには……!?


 気づけば周囲からはどんなネタでくるのか、そんな期待と冷やかし混ざりの視線が俺をロックオン。

 特にゆきむらとロキロキ、やめろ、そんな期待する視線をこっちに向けんな!


 ど、……どうする!? 

 どうする俺!?


 後半へ続く!!








―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―

以下作者の声です。

―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★― 

 まさかの前編です。笑

 

(宣伝)

 本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。停滞中……!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る