第288話 誰だって中には人がいる
「しっかし、いい家住んでんなー」
「そんなことないよ~~。駅近ってわけでもないしさ~~」
「そうだね、だからその分なんとかって感じだよ」
「あ、くもんさんて何のお仕事されてるんですか~?」
片付けやらなにやらが終わって、リビングの方に集合する俺たち。
ちゃっかりとテレビの正面にあるソファーに座ってるのがぴょんを真ん中として、左右にゆめと亜衣菜で、だいとゆきむら、ジャックとロキロキ、真実とあーすがそれぞれ横並びでソファーとテレビの間にあるテーブル周辺の床に座り、俺と大和とくもんさんはダイニングテーブルを囲んでた椅子を運んできて、テーブルから少し離れて着席中。
さすがに12人で囲めるテーブルなんて一般家庭にはないからね、とりあえずアダルトメンズチームだけテーブルを囲むひと固まりから離れているって構図である。
そんなみんなで囲んでるテーブルの上には買い出し班が買って来た紙コップに入ったお茶やらジュースやらと、雑に広げられたお菓子が広がっているけど、そのお菓子俺らからは届きません。まぁいいけどさ。
「俺は在宅で出来るWeb関係の仕事してるよ」
「カッコいいっすね!」
そして改めてジャックんちをぴょんが褒めたところから、くもんさんの仕事についてゆめが尋ね、くもんさんがそれに答える。
しかし在宅で出来るWeb関係か、ううむ、けっこう儲かるもんなんだなぁ……。
「おかげさまで太客がいてね、そこからの収入が大きいんだけどね」
そんなくもんさんにロキロキが羨望の視線を向けて賞賛すると、続けてくもんさんがどうやらその収入を与えてくれる存在がいるとほのめかす。それと同時に、なぜか亜衣菜の方に向けて微笑んだんだけど……。
「北の方角には足向けて寝られないよね~~」
そう言って、ジャックもなぜか亜衣菜の方を向いてニコニコ顔。
あ、まさか……!?
「え、あたし……?」
だが、その視線の意味を理解していないようで、当の亜衣菜はきょとんとした顔を浮かべているけど……。
大丈夫、たぶんお前じゃないぞ。
「
「えっ、そうなの!?」
……やはり、か。
「武田リゾートって、あの~?」
「いや、ピンとこねぇんだけどー?」
「いやいや、マジすか!? あの札幌を中心に道内にホテル展開してる会社っすか!?」
「私も、大学の時友達と北海道行った時泊まりましたよっ! ホテルとアミューズメントパーク併設の、おっきなホテルですよねっ」
俺は実物を見たことないから、正直ぴょんと同じ感覚ではあるんだけど、どうやらその名を聞いて、北海道に行ったことがありそうなゆめと大和、真実の反応を見る感じ、なかなか立派らしい。
「僕も使ったことあるけど、ご飯美味しかったですっ」
あ、あーすもあるみたい。
でも俺と同じくだいとゆきむら、ロキロキは知らなさそうな感じ、かな。
とはいえ俺は以前ルチアーノさんのお友達という『月間MMO』の編集も手掛ける上杉さんからその名を聞いて、後日HP見て調べたことあるけど、たしか札幌に2つ、函館やら旭川やら、北海道の空港がある都市にはだいたい系列のホテルを置いてる大企業なんだよな。
あとはマンション経営もやってるみたいだし、どんな資産を保有しているのか、ちょっと気になるレベルの大富豪が、亜衣菜の実家らしいのだ。
その規模の会社から仕事受注するって、たしかにそれは相当な収入になりそうな……?
もちろん個人で出来る量には限りがあるだろうから、全部くもんさんの仕事ってわけじゃないんだろうけどさ。
「ってことは、セシルの実家お金持ちなんだね~」
「あはは~、うーん、まぁそれなりに?」
この話を聞いて、亜衣菜は少し苦笑いな様子だったけど、横浜のいいところに邸宅持ってるゆめの実家より資産があるのは間違いないだろう。
まぁそうじゃなきゃ、亜衣菜の仕事だけで東京で食ってくのは難しいだろうしな。
「なるほど、その収入あってのログイン率ってことかー」
「でも、納得っす!」
そして色んな事の合点がいったぴょんが、みんなを代弁してログイン率に触れると、それに乗っかる
実際あの手の廃ギルドはね、俺も経験あるから言うけど、普通に仕事しながらじゃ限界あるよ、マジで。いや、毎日定時だけの勤務とかなら、まだなんとかなるかもしんないけどさ。
「逃した魚はでっかいか?」
「……そういう言い方はやめろ」
この話を聞いててね、俺の隣に座る大和が冗談っぽく、俺にしか聞こえないくらいの声でそう言ってきたけど、だいもいるところでそういうこと言うのはやめなさい。
「んー、だからくもちんは、お兄ちゃんの言うことなんでも聞いてるの?」
「あ、そういうわけじゃ――」
「え、お兄ちゃん!?」
と、俺が大和と小声で話してる間に、今度は亜衣菜がくもんさんに質問したところで、くもんさんの答えを遮るように驚くロキロキ。
そうか、この前のオフ会いた組はこの話知ってるけど、いなかったら知らない話よな。
とはいえLA歴の浅い真実はまだ【Vinchitore】の凄さをそこまで理解してないからかそこまで驚かず、あーすも「そうなの?」くらいの反応だったけど。
しかしやっぱ元々所属してたギルドのリーダーの話だしな、ロキロキは聞き流せる話じゃないか。
「あ、うん。あたし〈Luciano〉の妹なんだよー」
「そうだったんすか!?」
「いやー、世の中ってのは面白いよなー」
「俺も初めて聞いた時は驚いたけどね。たぶん日本、いや世界中見ても、LA最強兄妹プレイヤーだろうね」
驚くロキロキにさらっと亜衣菜が答えるが、そんな亜衣菜に対するくもんさんの言葉、俺も同感です。
「話を戻すけど、俺がルチアーノさんの指示に従うのは金銭面での恩があるのも0じゃないけど、純粋にプレイヤーとして尊敬してるからの方が大きいよ」
「そだね~~、るっさんはプレイヤーとして意識高いもんね~~」
「そっか、ならよかったぜいっ」
そして改めてくもんさんが『ルチアーノの犬』と時折言われる由縁を答え、ジャックも相応の尊敬を持っていることを言うと、亜衣菜は安心したように笑っていた。
まぁこの辺の感覚は【Vinchitore】関係者ならではの感覚なんだろうな。
……とはいえ、俺も一緒にプレイしてそのすごさとLAへの愛と理解度には驚いたけどさ。
「ちなみに最強兄妹って言ったけど、最強夫婦プレイヤーでもあるんだよ~~」
「あっ、言おうとしてたのにっ」
「夫婦~?」
「ルチアーノさんって既婚者なんすかっ」
「セシルの兄ったら、結婚しててもおかしくない年齢ではあるかー」
そんなルチアーノさん関連の話題が続く中、今度はジャックが新たなネタを投下。
同じくそれを言おうとしていたらしい亜衣菜が少し悔しそうな顔を浮かべるが、「夫婦」の言葉にピンとこないメンバーたちは、またまた表情に疑問を浮かべる。
まぁそれ知ってるの、【Vinchitore】本家の関係者以外だと、俺とだいくらいだもんな。
……まぁ当のだいはさっきから聞き役中心で、時折ゆきむらとお菓子を食べてるくらいの静かなもんだけど。
元々寡黙なの知ってるけど、ちょっとエアーすぎないかね!
「お兄ちゃんの奥さんで、あたしの義理のお姉ちゃんが〈Moco〉なんだよー」
「マジすかっ!」
「ほほー」
「そうだったんですか」
そしてジャックにネタの投下役こそ奪われたものの、ネタばらし役は見事に果たせた亜衣菜が言葉を続けるが、今度はロキロキ以外そこまで大きな驚きなし。
もこさんも知名度は高いけど、【Mocomococlub】の規模は01サーバーだけだし、しょうがないか。
でも、その名に珍しくゆきむらが反応してたのは、きっともこさんへのリスペクトがあるからだろう。
でもほんと、久々に声聞いたな。
ってだいさん、新しいお菓子開けてますやん。
もうちょっと会話入りなさいって。
「で、お義姉ちゃん今おめでたでね、もしかしたら【Mocomococlub】は今後どうなるかわかんないかも」
「おー、ルチアーノさんもやることやってんなー」
「でもおっきな会社の跡取りなわけだし、会社続けるには必要なことだわな」
「嫁キングも子育てで必ずインするわけじゃなくなったし、もこさんも子育て始まったら今みたいにはできないんだろうね~」
「リアルを大事にしてくださいって、毎回ログインの時に言われるもんねっ」
「リアルは大事ですもんね」
「生きてくには、働かないといけないっすもんね!」
そんな亜衣菜の続けた言葉に、反応は各々って感じだけど、うん。夫婦ならばいずれ子どもを授かる可能性があるんだし、俺もリアルが大事だと思うよ。
そっちあっての、ゲームなんだしさ。
ジャックとくもんさんもいずれはそう言う日が来るだろうし、俺だって、結婚すればいずれは……。
そんな、ちょっと未来のことを考えながら俺が何気なくだいの方を見ると、だいも同じことを思ったか目が合って……なんてことはなく。
新しく開けた袋のお菓子を「あ、美味しい」みたいな顔をしてるだいは俺の方を見向きもせず、むしろその隣にいるゆきむらが手を不思議な形にして、俺の方を見ていた。
その手の形は、両手でハートの形を作るときに似ていて……でもハートではなく、ハートの下の部分を作る親指が上に曲げられていて、「∞」の形に見えなくもない。
え、何だ、どういう意味だ……!?
え、何、愛は永遠です的な意味?
それともLAは永遠には続かないよ、的なこと?
……いや、さすがに天然のゆきむらでも、そんなことは急に言い出さないだろ!
喋ってるわけじゃないけど。
うーん、なんだ、どういう意味だ……!?
「あっ!」
そんな、俺がゆきむらのサインの意図を理解できないでいる中、俺と同じくゆきむらの方をちらっと見た直後、唐突に声をあげるあーす。
当然みんなが急な発声に視線を向けるわけだけど、どうしたんだろうか?
「たい焼き買って来たんだよっ!」
「あっ、そうですねっ」
……!!
そ、そういうこと!?
あの形、魚を表してたの!?
そんなあーすの言葉に、一緒に買ったメンバーの一人である真実が声を上げると。
「たい焼きー?」
「いつ買ってたの~?」
「お土産持参してたんすか! 俺もなんか買って来ればよかったっす!」
他のみんなも、それまでの話題を打ち切って新たなテーマ「たい焼き」に頭がシフトしたようで。
「あっ、でも11個しか買ってないや……」
「おいおい、1個たんねーのかよっ」
「でも11個もあれば、誰かと分け合えるでしょ~」
しかし、購入した時は亜衣菜がいなかったから、追加で+1個買ったことを知らないあーすがしょんぼりとした声を上げ、ツッコむぴょんにゆめがフォロー。
いや、でもさ。
「大丈夫です」
大丈夫だ、って俺も言おうとしたところで、俺に先んじて静かだが、はっきりした声がみんなの耳に届けられる。
その表情は、なぜかちょっとドヤ顔っぽい、気もした。
いや、いつも通りの表情ったら表情なんだけどね!
「ちゃんと
「はい。なので12個あります」
「おおっ、よかったよっ」
「安心ですねっ」
「うちの近くのたい焼き屋さんなんだけど、けっこう美味しいんだよー」
そしてゆきむらに続き、亜衣菜があーすと真実に自分の分も買ったから大丈夫と伝え、さらにそこのたい焼きを、こちらは分かりやすいくらいのドヤ顔で自慢。
別にお前が作ってるわけじゃないだろうに……って。
おおう。
その亜衣菜の言葉を聞いたからか、気づけばここでようやくだいの視線が俺に向いているではありませんか。
その視線は、まるで俺に「またあそこに行って亜衣菜さんと出会ったのね」的なこと訴えて、るのかな?
いや、怒ってるとかそういうわけじゃないんだけど、ううむ、だいの感情が分からん。
……あ、もしやあれか? ちゃんと私の好きなのは買ったんでしょうね、的な意味なのか……?
だ、大丈夫だよ。お前の好きなカスタードは、たぶんちゃんとあるはずだからね?
「じゃ、温めてくるね~~」
「あ、じゃあ俺はあったかいお茶淹れるよ」
「あっ、手伝うっす!」
そんな、だいの視線の意図を俺が理解しかねていると、あーすとゆきむらから人数分のたい焼きが入った袋を受け取ったジャックが立ち上がり、それにくもんさんが続くとまるで弟分のようにロキロキも立ち上がる。
「何味買ったんだー?」
「色々種類あったけど、外れないようにあんことカスタードを半々で買ったよっ」
「ほうほう。となるとこれはあれだな」
そして残されたメンバーの中で、ぴょんがあーすに買った物を確認すると、なぜか神妙な顔をして腕を組み、よくわからない「あれだな」が発生。
……まぁ、なんとなく想像つくけどさ。
「誰が何が好きとかいちいち聞いてくの面倒だから、なんかゲームして選択権の争奪戦だな!」
……でしょうね。
いや、俺は聞いてった方が早いと思うんだけど……まぁこうなったら、、ノントスップだもんな。
「すぐそういうの思いつくな~」
「こんなこともあろうかと、俺はトランプ持ってきたぞ」
「用意いいですね」
「あ、でも場所貸してくれてるジャックとくもんさんは、優先でいいんじゃないかな?」
「そうですねっ、それがいいと思います!」
「たしかに。よし、二人は優先しよう! ロキロキ、戻ってこーい!」
そんなぴょんにゆめが少し呆れつつ、おそらくぴょんの指示を受けていたであろう大和が鞄の中をごそごそしだし、取り出されるトランプ。
でもさすがにあーすがジャックたちには気を遣うべきだって言ったので、家主たちは勝負を免除で選択特権が与えられるらしい。
でも手伝いにいったロキロキを呼び戻すとは、さすがぴょんだな。
「10人で何やるの~?」
「ま、ルール簡単だしババ抜きでいいべ」
と、いうことで。
唐突に開催が決まった、好きなたい焼きを選ぶ権利争奪戦。
果たして俺は無事
沈黙を続ける
次回、たい焼き大戦争、勃発!
……だいも、次回はもう少し喋ろうね。
って、俺も人のこと言えないか!!
―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―
以下
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セリフがないので、行動だけ見られるメインヒロイン。
次回はたぶん、喋ります。笑
(宣伝)
本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。停滞中……!
雑記(2021/2/27)
エヴァの公開3/8決定は激熱です。幸いのお休み日。初日に行かねば……!
さらにFF7リメイクの続編、本編じゃなくともユフィ主人公という点にテンション爆増予約完了……しかし……PS5だとう!?!?!?
6月までに手に入るんですかねソニーさん、スクエニさん……。
とりあえず、PS5当たりますように……。
でも、時間差でPS5との特典付きセットとか出たらどうしよう……笑
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