第287話 アイドル無双
午後2時ちょっとに千葉駅でみんなと集合して、男チームは先にジャックんちに、女チームが夕食やらの買い出しに行って一度別れて、そこから約1時間半後の午後3時27分。
「ただいま~~」
「おおー! 中も綺麗だな!」
「おじゃましま~す」
くもんさんがジャックから「まもなく着くよ」って連絡を受けてから少し経った後、玄関の方から聞こえた元気な声たち。
「お邪魔します。いいお家ね」
「お邪魔しますっ。わっ、ほんと綺麗!」
そして続いて聞こえてきたのは、最初の3人よりも落ち着いた、聞き慣れた2つの声。
あいつも、こういう家を見て将来住みたい家とか考えるのかなぁ、なぁんて。
「お邪魔します」
「おっじゃましまーすっ!」
そして最後に入ってきた二人は、なんとも真逆なテンションに感じられたけど、買い物中もあの二人色々喋ってたのだろうか?
ううむ、まさかあの二人が仲良くなるとは、予想外。
「おかえり。そしてようこそ。ゆっくりしていってね」
「おかえりなさいっす!」
「買い物ありがとねっ」
そして帰って来た7人の侍、ならぬ7人の姫たちを迎えるべく、ダイニングテーブルを囲んでいた俺たちも立ち上がり、玄関の方へとみんなを迎えに行く。
先頭はくもんさんで、ロキロキとあーすがそれに追随。俺と大和は、家主と若者たちよりも少しゆっくりって感じにね。
「や~~、こんなにたくさんの人がうち来るのは初めてだよ~~。狭くてごめんね~~」
「いやいや、むしろこの人数上げてくれてありがとうだろ」
そして真っ先に家の中に入ったジャックが、玄関側へ振り返って謙遜。
全然そんなことないのにね、日本人らしいっちゃ日本人らしいけど、そんなこと誰も思ってないことに対して謝るジャックに俺が謝辞を返しつつ、男子チームは女子チームが買ってきてくれた荷物たちを受け取り、再度テーブルの方へ。
しかしあれだな、ぴょんが大和に渡したの重そうだな……ほぼアルコールだろ、あれ。
ゆめから俺に渡されたのはお菓子多めで軽かったけど。
「あたしらいない間、くもんがなんか失礼しなかった~~?」
「全然っすよ!」
「くもんさん、すごくいい人だったよっ」
「そんなことないよ……って……え?」
そしてだいたいみんなが廊下を抜けて部屋の方に向かう中、ジャックの言葉にロキロキとあーすが返事をしつつ、ジャックから受け取った荷物をテーブルに置いたくもんさんがみんなの方に戻ってきたのだが――
「え? サプライズゲストって……?」
そこでようやく女子チームの中で最後に家の中に入って来た存在を認識したのだろう。
そりゃね、くもんさんからすればジャック以外は初対面なわけだから、ジャックから話を聞いていたとしても見た目と声で誰が誰かまでは分かるはずがない。
でも、その中で一人なぜか見たことある人物がいたんだからね、そりゃね、驚くよね。
「やっほーくもちんっ! 会いたかったよー!」
「えっ、ええっ!? セ、セシル!?」
そしてここまでサプライズのつもりでなるべく姿を隠していたのだろうが、買って来たものを置いたりと色々ひと段落したからか、女チームの一番後ろにいた亜衣菜が、颯爽とくもんさんの前に
もちろんもう屋内で変装の必要もないから、既にマスクも伊達眼鏡もなし。
いや、あの眼鏡姿もなんだかんだ割と可愛かったと思うけど……っていえ、何でもないです。
とりあえずそのね、コラムページで何度もMMORPGユーザーたちに笑顔を振りまいていたご本人様の登場に、あのくもんさんが今日一番の驚きを見せているのが楽しいです。
慌てるくもんさんと両手で握手しながら笑顔を振りまく亜衣菜、その二人の光景に、俺だけでなくみんなもサプライズ成功って感じでね、楽しそうだ。
「いっや~、くもちんイメージ通りって感じ!」
「え、俺LAと見た目全然違うけど……」
「まさかあんな毛むくじゃらだなんて思ってるわけないじゃん! 優しそうで、理知的で、イメージ通りの紳士だよっ」
「え、あ、あ、ありがとう……」
まぁ、俺がくもんさんの立場でもこの状況なったら同じように混乱するだろうけど、そんなくもんさんのことはお構いなしに亜衣菜はぶんぶんと掴んだくもんさんの手を振って、それをジャックが笑いながら眺めてる。
側から見ててその光景は超平和で、LAプレイヤーの先駆けたるスーパープレイヤーたちとは誰も思わなさそうだけど、ま、リアルってこんなもんだな。
……相変わらずこいつは子どもっぽいけど。
「っていうか、え、なんでセシルがここにいるの?」
そんな風に俺は二人のやりとりを見ていたわけだが、少しずつ冷静さを取り戻したくもんさんが、そこでようやく思って当然の疑問に突き当たる。
そしてその質問を受けた亜衣菜は――
「あれ? 聞いてないのー?」
と言って、掴んでいたくもんさんの手を離し。
「何を隠そう」
つかつかと、ある方向に歩き出し。
「あたしこの人の」
その人物の背後に回って、後ろからその両手をぽんと相手の肩に置いて。
「元カノだからさっ」
きっと笑顔で、そう言い放ったのである。
……はぁ。
「理由になってねぇぞそれ……」
「え、え? え!? マジすか!?」
「あ、そっか、ロキロキも知らなかったんだっけ~」
「いやー、でもこうやって並んでるとこ見ると、ゼロやんのハンタースキル半端ねぇなー」
「うむ。だいもハイレベルだし、倫はほんと男の敵だな!」
「爆発しろーっ」
そして、肩に手を置いてきた亜衣菜の手を振りほどきつつ、俺は再び大きくため息。
くもんさんよりもロキロキの方が驚きは大きそうだけど、そんな二人の反応を見て色々言ってくる我がギルド仲間たち。
つーかあーすは語尾に「☆」ついてそうな言い方やめろ。お前の方がどう考えてもイケメンなんだからな?
「びっくりだよね~~。あたしも初めて聞いた時は固まったよ~~」
「いやぁ……そうか、そういうことだったんだね。しずも、知ってたんだったら言ってくれたらよかったのに」
「ん~~、まぁほら、そこはセシルのプライバシーでもあるし~~?」
そんな驚くくもんさんへ、ジャックが楽しそうに笑ってるけど、たしかに一緒に住んでたんだったら話しててもおかしくないレベルの話だよな、これ。
俺がジャックに話した時、くもんさんと俺が会うことになるなんて欠片も思ってなかったんだから。
「あ、ちなみにっ」
そんな驚いたり冷やかしたりとするメンバーが多い中、再度亜衣菜が家の中をパタパタと移動し、今度は。
「菜月ちゃんとは、仲良しの友達ですっ」
だいの後ろに回ってバックハグをしながら、笑顔でそう言い放ったのである。
……なんという亜衣菜劇場。
猪突猛進狂喜乱舞。
みんなが戻ってきてまだ全然経ってないのに、完全にこの場は亜衣菜の一人舞台ではありませんか。
まぁ、アイドルみたいな奴なのには違いないんだけどさ。
しかし、今カノと元カノが仲良さそうにくっついてるの見るのは、複雑である。
「亜衣菜さんご機嫌ね」
「えー、だってほら、友達いっぱいできるって、嬉しいじゃん?」
「私も亜衣菜さんと会えて嬉しかったです」
「わたしもだよ~」
そんな亜衣菜のハグを受けつつ、穏やかな感じで対応するだいに続き、行きの電車やらで話が盛り上がっていたゆきむらも、買い物中に意気投合したというゆめも、友達が出来て嬉しいという亜衣菜に笑顔を向けている。
可愛い子たちがみんな楽しそうなのは、そりゃこれ以上ないほど絵になるけど。
……まぁ、うん、可愛い上に表情豊かで、人を惹きつける魅力は、ステータスの中でも突き抜けてるもんな。
ゆめなんかは亜衣菜と似ていいとこのお嬢様育ちだし、そこらへんも感性似てたりしたのかな?
……まぁたしかに、振り回す系女子ってとこは、似てる気もしなくもないけど。
「しかしほんと、たまたまばったり遭遇するとか、相変わらずゼロやんは奇跡の人だよなー」
「そだね~~。別れてなおその力を発揮するとは、恐れ入るよ~~」
「そのうちその前の元カノともばったり会ったりしてな!」
「変なこと言うなよ……」
「さすがゼロの兄貴だねっ」
「そっすね! さすが兄貴っす!」
「む、いつのまにお兄ちゃんが兄貴にっ?」
「ああもう、それはもういい!」
ほんと、なんでこんなに人がいるのに、いじられるのは俺だけなのか。
たしかに亜衣菜が来た理由は、俺と会ったからなのは分かるけどさ……!
「とりあえず、買って来た物の整理しましょうか」
「おっ、さすが兄貴の正妻。しっかりしてんなー。これはだいが姉貴かー?」
「ちょっ、変なこと言わないでっ」
「あ、菜月ちゃん照れてるーっ」
「亜衣菜さんもっ」
そんな俺のため息連続な光景に、救いの手を差し伸べてくれたのは愛しの
さすが我が女神……!
だがその救いの手も、あーすとロキロキが言ってた「兄貴」にインスパイアされたぴょんがすぐさまネタに変えてきた挙句、「正妻」なんて言葉を使ってきたり亜衣菜の茶化しも入ったり。
「お姉ちゃんではなく、姉貴だったのですか」
「ゆっきー真顔はやめてっ」
ゆきむらまでも加わってきたことで、穏やかだった表情のだいが頬を赤くして取り乱す。
でも多勢に無勢。
ああ……共倒れかーい。
……やはりオフ会は、戦場か。
そんなやりとりをしつつもね、結局はジャックがだいの言う通りに買ってきたものを冷蔵庫に運んだり、くもんさんにお菓子をリビングに運ばせたりし出したから、面倒見のいいぴょんやら新参意識の強いロキロキがそれに続いていって、この状況もなんとかひと段落。
そして合わせて亜衣菜劇場も一旦終演、かな。
いや、でもまだ午後3時台……しかも今日はお泊りまであるんだよな……はぁ。
終わってみれば、きっと楽しかったってなるんだろうけど、うん。
前途多難とはこのことか。
まるで登山始まる前だなこれ。
願わくば登るのは2つの大きなお山がいいんだけど、っていえ、なんでもありません。
うん、大丈夫、まだボケれるくらいには俺の耐久性も上がってる気がするし。
荷物整理に加わりながら俺はそんなことを思いつつ、ジャックの家を舞台とした過去最大級となる12人での【Teachers】&【Vinchitore】合同オフ会の開幕に、俺は心を引き締めるのだった。
……いや、遊びに来てるはずなのにね!!
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以下
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セリフが減る減る大人数。
メインヒロイン……まるで空気……!
(宣伝)
本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。停滞中……!
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