第286話 男って生き物は

「はいどうぞ」

「配りますねっ!」


 あ、いい香り……何の豆だろ?

 シンプルなカップに注がれたコーヒーから立ち上る香り。

 うーん、なんと穏やかな時だろうか……。


 くもんさん&ジャックんちに到着して10分ほど、ダイニングテーブルを囲む俺たちへ、優雅な感じでコーヒーを差し出すくもんさんと、それをみんなの前に置いていくロキロキ。

 オフ会中にこんな時間が流れたこと、今まであっただろうか?


 そんなことを思いながらも、俺はパリっとした襟の紺色シャツにベージュのズボンを履いたくもんさんに心の中でお礼を忘れない。

 あ、もちろんコーヒー配ってくれてるロキロキにも、ね。


 ちなみにロキロキは関係が関係だからか、くもんさんに勧められても「まだくもんさんが座ってませんから」と着席しなかった。

 そんなロキロキを見かねて「座りなさい」、「座りません」……なんて無駄なやり取りも、もちろんない。

 「気にしなくていいのに」なんて言って微笑を浮かべてたくもんさんの落ち着き払った言動や所作といったらもうね、まるで高貴な人のような、そんなイメージさえ抱いてしまうほどだった。

 いやぁ、さすが【Vinchitore】の頭脳と呼ばれるだけあるわ、うん。

 穏やかだけど、何事にも動じなさそうな冷静も感じるし。


 ……冷静さを欠いた者から戦場では死んでいくとかそんな言葉を見たことあるけど、この冷静さ、俺も見習いたい……って、戦場なんか行かな……いや、今日のオフ会は、ある意味戦場、か。

 今日はいつものだい今カノゆきむら争奪戦宣言者に加え、亜衣菜元カノもいるんだし。

 そう、今は束の間の休息なのだよ……!


 いや、でもゆきむらは今日話してる感じ、いつものぐいぐい感がないから、もしかしたらいつもと違うかも……?

 あ、もしそうだったら……亜衣菜とは一応この前話つけたはずだし……も、もしや……勝てる!? この戦、勝てるぞ……!?


「あっ、ちょっとお手洗いお借りします!」

「どうぞ。廊下出て、左手壁添いだよ」

「ありがとうございますっ!」


 とね、俺が優雅なひとときに酔いしれた後、これから女子チームが合流した後のことを少し考えていると、くもんさんが淹れてきてくれたコーヒーを配り終えたロキロキが席を中座していきました。

 あ、もしやトイレ行きたかったから、立ったままだったのかな?

 いや、わからんけど。


 そんなロキロキがパタンとドアを閉め、廊下の方に消えていく姿を、穏やかな感じで眺めるくもんさん。

 そして。


「えっと、ロキくんって……」


 あ、やっぱ気になってましたよね。


 さすがにここまでは我慢してくれていたのだろうけど、さしものくもんさんといえどやはりロキロキのことは気になってたようで。

 ようやくロキロキが場から離れたことで、俺たちと同じテーブルを囲むように椅子に座ったくもんさんが、その穏やかな顔に小さな困惑の色を浮かべて俺たちにロキロキについつ聞いてきたってわけである。


「身体的には女の子なんだけど、心の方は男の子みたいですよっ」

「性自認が男の、トランスジェンダーらしいっす。だから、ロキロキは男チームで間違ってないんですよ」

「ああ、なるほど、そういうことだったんだね。じゃあ俺もロキくんのこと男として接さないとか」


 そんなくもんさんにまずあーすが答え、俺がそれに続く。

 そんな俺たちの答えにあっさりと理解を示し、受け入れてくれたくもんさん。

 いやー、順応早いなー。


「最初見た時はあれ? ってびっくりしちゃったけど、今は多様性の時代だもんね。LAでもそうだけど、人を見た目で判断しちゃいけないよね」

「LAもっすか?」


 そしてどこか懐かしそうな顔を浮かべるくもんさんの言葉に大和が聞き返す。

 たしかにロキロキ然り、見た目で判断するのは色々リスキーなこともあると思うけど……LAもって、どういう意味だろ?

 俺もそんな風に、大和と同様にくもんさんに疑問の視線を投げると。


「キャラの性別と中の人の性別が一致するわけじゃないでしょ?」


 なぜかニコッと笑いながら、そう言ってくるくもんさん。

 

 言われた言葉はたしかによくあること、というか、今この家の中にいる5人中2人は、リアルの見た目とキャラの性別違うしな。


「僕も昔しずのことキャラ通り男だと思ってたんだ。危ないよね、知らずに失礼なことを言ってしまっていたかもしれないし」

「んー、それも含めてMMORPGじゃないっすかねー?」


 だが、くもんさんに言葉を返してるはずなのに、そちらを見るわけでもなく言い返す大和の視線の先は……。


 ええい、ニヤニヤすんな!!


 そう、もちろん大和の視線の先はもちろん俺。

 いや、たしかにだいのこと男だと思ってましたけど!


「僕はLAの中ではあーちゃんですよっ」

「あっ。あーすくんは女キャラなんだっけ。もちろんそれも楽しみ方だよね」

「うちのギルドだと、むしろ女で女キャラなやつの方が少ないっすよ」

「だな。ゆめといっちゃんくらいか」

「だねー。なっちゃんもぴょんもゆっきーもジャックも嫁キングも男キャラだねっ」

「そうなんだ。うちの幹部は、けっこうキャラと中身の性別が一致してると思うんだよね。セシルは顔出ししてるから確定として、やまちゃんもうめも女の人っぽいしさ」


 ほうほう。

 って、まぁ、うん。やまちゃんは正解です。うめさんは知らんけど。


「そういや、もうオフ会の企画もでないって言ってましたけど、幹部さんたちって仲良くないんですか?」


 そんな、とりあえず始まったLAトークに颯爽と切り込んでいくあーす。

 いや、でもその質問からいく勇気、すげぇな。


「悪くはないよ。でも、俺はもぶだけは好きじゃないかな。色々……あったからさ」

「ほうほう」

「いやぁ、でも動画とか見てると〈Mobkun〉の攻防一体型のグラップラースタイルは、同じ武器使いとしてはけっこう参考なるけどなぁ」

「あ、プレイヤースキルはうちの幹部って言われるほどだからね。使う武器こそ違うけど、同系の〈Moco〉さんと比べても遜色ないと思うよ」

「そうなんすか、うーむ、やるなぁもぶくん」

「あ、そっか。ゼロくんは昔【Mocomococlub】だったんだっけ」

「あ、はい。俺とだいは、昔所属させてもらってました」

「元【Vinchitoreうち】の幹部に、元【Mocomococlub】の二人、そして別サーバーの元【Vinchitore】支部幹部か。人数こそそこまでだけど、十分な戦力を持ったギルドだよね、【Teachers】は。……職業が先生の集まりとは思えないよ」

「はは、たしかに」


 そしてあーすの質問を皮切りに、色々な名前やギルドの名前が出てきたが、とりあえず大和がリスペクト送ってても、俺もくもんさん同様、もぶくんは好きじゃないかな。

 ……そういや萩原のやつ、まだ別サーバーで元気にやってんだろうか?


「あーすくんは、メインの武器は盾だっけ?」

「そですよっ! あーちゃんはみんなを守る盾なんですっ! ……でも、ギルドのメインはリダがやってますし、他にやってる弓はゼロやんの銃と役割かぶってるんですけどねっ」

「でも盾が2枚いると、色んな安定攻略ができるからね。今後のために鍛えておくのはいいことだと思うよ」

「ほほう、じゃあ頑張りますっ」


 いやぁ、口だけじゃなく行動で頼むよ、君は。


「トイレありがとうございましたっ」


 そしてLAトークでのんびりと会話をしていた俺たちのところへロキロキが帰還。

 さすがに今度はくもんさんも座ってたから空いた席に座ったロキロキだけど、なんかこうやって男だけでテーブル囲むって、不思議な光景だなぁ。


「くもんさん、後で装備見せてもらってもいいっすか!?」


 と、そんな不思議な光景の中で、着席後すぐに口を開くロキロキ。

 その表情はまるで少年のようで、なんというか、憧れの人に会えた感動と、新しいおもちゃ買ってもらったばかりの子どものような喜びと、その二つが合わさったような笑顔だった。


「もちろん」


 そしてそれに笑顔で答えるくもんさん。

 その表情には一切ロキロキへの疑問感もなく、先ほどロキロキはトランスジェンダーなんですよって話を聞いた影響なんか微塵も感じさせない、そんな笑顔だった。


 ……しかし、こうやってロキロキ見てると、昨日だいと装備のこと話し合ってたのも、純粋にLAを楽しんでるからだったってよく分かるな。

 ううむ、変に嫉妬してた俺が馬鹿みたいだなぁ……反省、っと。


 そんなこんなでね、今度はしばしロキロキがくもんさんとLAトークを開始。

 その会話が繰り広げるのを俺と大和、あーすはほぼ見守ってんだけど、色々装備とか動きとかの話もあったし、勉強になる時間にもなりました。

 でもその話はだいもいれてあげて欲しいから、ぼちぼちジャックとの結婚までの話でも聞こうか、そう思った時。


Prrrr.Prrrr.


「あ、すみません」


 くもんさんとロキロキの会話が盛り上がる中、急に鳴り出す俺のスマホ。

 テーブルの上置いてたからね、鳴った瞬間全員が俺の方を見たわけだけど、とりあえず俺が着信の相手を確認すると、そこには里見菜月の4文字が。


「誰からー?」

「だいからみたい。……はい、もしもしどうした?」


 あーすに聞かれ、さらっと答えつつ、電話してる人がいるとみんな自由に話せなくなるから、俺は席を立って、少し離れたリビング側へ移動。


 なんだろ、荷物重いから来てとかだったら笑うけど。


『あ、ゼロやんあのさ、ロキロキのことなんだけど』

「うん、どした?」


 あ、荷物重いではなかったね。

 でもロキロキ? なんだろ。


『アレルギーとか好き嫌いとか、そういうのあるか聞いてもらえる?』

「ああ。分かった、ちょっと待ってな」


 あー、なるほど。さすが料理担当だなぁ。

 たしかにそれ、聞いてなかったもんな。

 とはいえ好き嫌いまでか、優しいなだいのやつ。

 いや、まぁたしかに今日はロキロキ初参加だし、気遣い的な感じなのかもしれないけどさ。


「ロキロキに、アレルギーとか好き嫌いあるか、だってさ」

「あ、俺っすか! えっと、アレルギーは特にないっすけど……強いて言えば、ブロッコリーとカリフラワー、ちょっと苦手っすかね」

「ほお」


 そして俺がみんなの方に戻り、ロキロキにだいからの質問を聞いてみたところ、返って来たのはちょっと嬉しい言葉だった。


「ロキロキ好き嫌いはよくないよっ」

「あー、分かってるんすけどね、ダメだってのは……」

「でも誰だって苦手なものくらいあるよね」

「あ、くもんさんはなんか苦手なんすか?」

「俺は納豆が苦手なんだよね」

「あっ、それ分かります!」

「えー、ダメだよっ好き嫌いしちゃっ」


 と、俺がロキロキの答えを伝えるためまたみんなから離れる間、背中側から聞こえてきた会話。

 大和が納豆嫌いなのは、修学旅行の引率の朝食で出て困ったって話を昔聞いたことあって知ってたけど、ほほう、くもんさんもなのね。

 でもあの感じだと、あーすは好き嫌いなしか。偉いなぁ。


「あ、ロキロキアレルギーはないって」

『そっか、よかった』

「でも、ブロッコリーとカリフラワーは苦手らしい」

『え、ブロッコリーって……誰かさんと同じじゃない』

「いやぁ、思わぬところで同士に会ったわ」

『ふーん。わかった』

「あ、ちなみにあいつも――」

『亜衣菜さんも好き嫌い多いみたいでゆめと意気投合してたけど、ダメよ? 好き嫌いしてちゃ』

「あ、左様ですか……」

『うん、でもとりあえず聞いてくれてありがと。もう少ししたらそっち向かうね』

「おう。買い物ありがとな」

『ううん。くもんさんによろしくね』

「おう。じゃあまたな」

『うん、バイバイ』


 という感じで、とりあえずだいとの通話終了。

 亜衣菜も好き嫌い多いよって伝えようとしたら、すでにだいが聞いてたみたいで出鼻を挫かれた気分だけど、いやぁ、これだけの大所帯の献立考えるのって大変だろうなぁ。


 って、そういやくもんさんが納豆苦手は伝え忘れたけど……まぁあれか、そっちはジャックから聞いてるかもしれないから、いっか。


「ちゃんと伝えといたぞ」

「あざっす! でも、なんか同士って聞こえたっすけど……」


 そして三度みたびみんなの方に戻って椅子に腰かけつつ、俺がロキロキに苦手なものを伝えといた旨報告するや、俺とだいの電話の声が聞こえてたようで、話していた時の言葉を聞き返された。


「あ、うん。俺もブロッコリー苦手でさ」

「あ、そうなんすか! 仲間っすね!」


 その質問に俺が苦笑いで答えるも、仲間ってことが分かったからかロキロキは俺に得意のキラキラした笑顔を見せて笑ってきてくれて……なんていうか、無邪気で可愛いなぁと、思ってしまったり。

 いや、俺と1個しか違わないはずだし、あーすよりも1個年上のはずなんだけど……ううむ、これが弟属性ってやつ……なのか?


「でも、LAでもそうっすけど、ゼロさんとだいさん仲良いっすよね!」

「え」

「そりゃそうだよー」


 そんな、純粋な眼差しを向けてきたロキロキに俺は思わず言い淀むが、あーすの笑いながらの言葉を受けロキロキがきょとんとした表情へ。


 あー、そういや言ってないんだった……。


 あの日、ロキロキにぴょんが【Teachers】について説明した時、ぴょんが大和と付き合ってること言ってなかったから、俺らも言わなかったんだよな。

 てか、そもそも前回のオフ会いなかったから、あーすも大和とぴょんが付き合ったことも知らない……か?

 真実には話しちゃったけど、となると、この手の話題は一歩ミスると、ぴょんのサプライズ計画を邪魔する結果となり、思わぬヘイトを集めてしまうかも……!?


「そりゃそうって言われましても……えっと?」


 だが、俺の心配とは別に、あーすの言葉にピンとくるものがないロキロキは依然として困惑の色を浮かべていて……。


「だってゼロやんとなっちゃんはラブラブだもんねっ」

「あ、そうなんすか!?」

「奇跡の二人だからな、倫たちは」


 あーすの言葉に俺は何とも言えない表情を浮かべながら、ロキロキの驚きの視線を受けることに。

 くもんさんは……あ、雰囲気的にジャックから聞いてそう。

 となるとロキロキ……まぁでも、遅かれ早かれ、か。

 大和もにやけ顔はしてるけど、自分のことを言いそうな雰囲気ないし、とりあえずこの話題は俺だけに引きつけておくが吉、だな。


「うん、俺ら付き合ってるんだ」

「えっ、マジすか! 出会いは……LAっすか!?」

「うん。LA始まって1年後だから、7年前くらいにフレンドになってね、初めて会ったのは初オフ会の時だったけど、そっから色々ありまして、付き合ったんだ」

「すごいっすね! くもんさんたちだけじゃなく、ゼロさんたちもLAからなんて! ……しかもだいさんめっちゃ美人じゃないっすか!」

「あ、そうなんだ?」

「そうっすよ! 俺もさっき初めて会いましたけど、だいさんだけじゃなくみんな綺麗だし可愛いし、すごいギルドっす!」


 そして俺がしっかりと付き合ってる報告をすると、かなり興奮気味なロキロキはだいのことを絶賛し、それについてくもんさんが穏やかに聞き返すと、他のメンバーについてもその容姿を大絶賛。

 たしかにみんな綺麗で可愛いってのは俺も同意するけど、でも、君もかなりいい方だと思うよ……? まぁ男メンバーじゃな、あーすの前には全員が霞むから、そこはあえて触れないけど。


「サプライズゲストさんもすごい可愛かったですし、色鮮やかなオフ会っすね!」

「だねっ! いやぁ、ほんと可愛かったなー」

「ほうほう。うん、俺も楽しみにしておくね」

「はいっ! ぜひっ! ……でもそっかぁ、ゼロさん、だいさんと付き合ってるんすかー……」

「ん?」


 そして興奮しつつも、今日の飛び入りゲストについてはちゃんと名前を伏せるあたり、ロキロキ意外と冷静だな……って思ってると……。

 ん? なんだ、だいについてなんかあるのかな?

 少し興奮が収まったロキロキが、なんか言いたげに俺の方を見てたけど。


「どうかしたか?」

「あ、いえ、なんでもないっす!」

「そうか」


 そう言ってロキロキが俺から視線を逸らしたので、俺はそれ以上何も追及せず。

 でも、何か思う所はありそうな気がしたけど……まぁいいか。


「ふっふっふっ、しかもゲストさんもだいも、立派なものをお持ちなんすよ!」

「え、立派なもの……っすか? えっと……?」

「わっ、せんかん今その話するのー?」

「おいおい、男だけだからこんな話するんだろっ」


 そんな風に、俺がロキロキの言葉をスルーしたと思ったら、今度は大和が何ともまぁ、男子ならでは話題を振ってきた。

 もしかしたらね、大和とぴょんの話に内容が波及しないようにって意図もあったのかもしれないけどさ。

 で、その話題のポイントがピンときてないロキロキはきょとんとした顔をしていて、あーすは大和を少し非難する……と見せかけて、あ、めちゃくちゃノリノリな顔してるやんこいつ。

 顔と言葉一致させる気ないなー。


「ジャックも身長の割に、けっこうおっきいですよねっ!」

「え? あ……そ、そういう話はノーコメントで」


 そしてほんと恐れを知らぬ勇者の如く、結局大和の話題に乗っかったあーすがくもんさんに話を振ると、ここでついにくもんさんの冷静さと落ち着きが乱れ、恥ずかしそうに顔を逸らすという事態へ。


「あっ! そういうことっすか!」


 そしてそのくもんさんの反応にロキロキが何の話題かを察したようで、少し顔を赤くしながら立ち上がる。

 いや、立つ意味わかんないけどさ。


 あ、ちなみに俺はあれね、この手の話題は基本ノーコメント進行です。

 加わっても、絶対いいことないし。


 って、思ってたのに。


「巨乳美人と付き合うとは、ゼロさんは男の夢を掴んだ男っすね!」

「いっ!?」


 まさかのロキロキの発言により、強制的に会話への参加を促される俺。

 いや……否定しないけど、いや……!


「うむ。ロキロキの言う通り、倫は男の夢を掴んだ敵だ」

「いや、お前!?」


 そんなロキロキの言葉に加勢してくる大和だけど、お前それ彼女ぴょんの前で言ったら刺されるぞ!?


「そういえばさ、ロキロキは身体的には女の子なんでしょ? そういうのって、大きくなったりしなくて済んだの?」

「え、あー……」


 そして俺が大和に対しこれでもかと睨みを飛ばしていると、今度はあーすが何とも大胆な発言を発射。

 いや、大和がこの話題を振ってそれに乗っかった辺りでね、二人ともロキロキをちゃんと男って扱ってるの分かったけど……いや、でもさすがにあーすの質問は……。

 とはいえ、なんだかんだ視線が集まりそうなとこに集まるのは、興味故とご理解頂きたい。


「やっぱりどうしてもある程度は成長しちゃう部分はあるんすよね。だから俺は」

「お、おいっ!?」


 おいおいあーす、って思ったのに、なんとロキロキは恥ずかしがることもなく、着ていたTシャツをまくろうとするではありませんか!

 いや、ええと、ああこれ頭混乱すんな!!


「こういうの着て対処してるんす」


 だが、ロキロキがTシャツをまくって見せてきたのは、どうやらただの紺色のタンクトップのように、見えた。

 そしてそのタンクトップの下の胸あたりは、平らなように見えた、んだけど。


「これ着ると、押しつぶしてくれるから平に見えるんすよ」

「ほほう」

「色んな服があるんだねー」


 なんか見てはいけないものを見てしまったような気がした俺だったけど、そのタンクトップの性能を説明するロキロキの言葉を聞いて、大和とあーすは動じることなくマジマジとそれを眺めている。

 え、ええと、この状況の正解って、そっち……なの!?


 しかもさ、押しつぶされるくらいはあるってことは……これは、ぴょんにはシークレット……!


「ま、いつか手術したいなーって思う日がきたら、その時一緒になくしてもらうっす!」


 だが、各人それぞれの反応を見せる中、あっけらかんとした感じでそう話すロキロキは、やはり女性ではないな、って雰囲気を見せていた。

 

 ……それはたぶん生来のロキロキの性格と、俺らが同業者であり、同じ趣味を持つ仲間への信頼とが合わさった行動、なんだと思う。


「下着もロキロキみたいな人用のあるのー?」

「もちろん! あるっすよ!」

「いや、見せんでいいから!!」


 そんなロキロキに対し興味津々な様子であーすがさらに切り込んでいって、ロキロキがそれも見せようとしたところで俺は思わずストップをかける。


「えー、後学のためだよー?」

「いや、それ何の学びだって!」


 いや、まず男だって下着見せ合うことなんてないだろ!

 自分で調べろ自分で!


「あ、俺はボクサーだぞ」

「あっ、僕も一緒だよっ!」

「そうなんすね!」

「いや、聞いてねぇから!」


 なのにね、こいつらときたら平然と下着トークを続けやがる。

 ああもう、初対面の人んちに来て、こいつら何の話してんのさ!!


 頭では理解しつつも、目の前の光景に視覚情報と混線したせいで、もう脳がバグりそうだわ!


「ははっ! でも皆さん俺のことちゃんと男扱いしてくれて嬉しいっす!」

「みんな仲良しなんだね」


 でも、こんな俺らを見て、今日初めて会ったばかりの二人はそう言って笑う。

 いや、くもんさんは苦笑いではあるんだけどね。


 そんな何ともくだらない話題になったせいで、俺はなかなか目的だったくもんさんとジャックの話に踏み込めず。


 その後どんな女の子がタイプとか、好きな女の子の恰好とか、効率のいい筋トレ方法とか、そんな男だけの話題が続き、俺たちは買い出しを引き受けてくれた女子たちの到着を、なんだかんだわいわいと話しながら待つのだった。







―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―

以下作者の声です。

―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★― 

 ちょっとバタバタしていて更新遅れました。


 ちなみにゼロやんとくもんはトランクス派みたいです。

 

(宣伝)

 本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。停滞中……!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る