第284話 だんご◯兄弟

「おー、住宅街だなー」

「あのマンションだよ~~」

「お~、おっきなマンションだね~」


 バスに乗って移動すること10分ほど、ジャックの家の最寄のバス停に到着した俺らはみんな揃ってバスを下車。

 そしてそこから見えた、ジャックが指差すおそらく12階建てくらいのマンションにみんなが注目。

 近辺には他にもマンションがいくつか見えたけど、たしかにそれはゆめの言う通り、他のとこよりもちょっと大きめなマンションだった。

 賃貸? 分譲?

 ううむ……いくらくらいすんだろ。

 

 うーん、でもやっぱ俺は将来は戸建てかなぁ。

 庭付きの一軒家で、犬か猫も飼って、休日は庭でBBQ……。

 って、いやいや。気が早い気が早い! まだ同棲すらしてないのに。

 そもそもこれは俺は一人じゃ決めらんないし、あいつの意見も重要だし。


「じゃ、さっそくジャックんちに突入すっか!」

「いや〜〜1回帰って、また外出るのも面倒だからさ、先に夕飯の材料とか買いに行かない~〜? そこの交差点右に行けばスーパーあるからさ~~」

「そうね、その方がゆっくりできるし、それがいいかも」

「えー、早くくもちんに会いたいよー」

「急がなくてくもんは逃げないよ~~。エントランスまで来るようにお願いしてるからさ、先に買い物行っちゃお~~」

「うしっ! じゃあ女チームで買い出しいくかっ」


 と、俺が密かに将来のことなんかを妄想している間にも、ぞろぞろとみんなはジャックの家に向かって歩いていたので、俺はちょっと慌ててそれに続く。

 そしてまもなく信号機のある交差点に差し掛かりそうなところで、ジャックがみんなに先に買い出しをしちゃうことを提案。

 それに応えるように、珍しくぴょんが買い出しは女子チームがやる、とのこと。


 でも荷物持ちとか、男手あったほうが楽だと思うんだけど、いいのかな。


「あ、俺荷物持つの手伝いますよ!」

「それなら僕も手伝うよっ」


 そしたらね、俺と同じ考えになったのか、颯爽とロキロキが荷物持ちを申し出て、それにあーすも続く。

 ……うむ、手伝うって言ったってことは、女チームという言葉聞いても、ロキロキはそっち買い出し班じゃないって判断したってことか。

 っても、ロキロキの細腕じゃ、あーすより役に立たなそうな気もするけど……。


「二人も行くなら、俺と倫も行って全員でいいんじゃないのか?」

「そうだな、人数多いし、買い物多いなら腕力必要だろ」


 そして見た目弱そうな二人に大和も思うところがあったのか、俺と大和も買い出しに同行することを申し出るが。


「買い物に11人もいらねーだろ! ほれ、男衆はさっさとくもんに会って来いよ」


 ばっさりとぴょんから切り捨てられるっていうね!

 おいおい、彼氏の荷物持ちという気遣いガン無視かよ。

 ちょっと彼氏くん、どうなってんのー?


「そうね、多すぎても無駄話増えるだけだし邪魔ね」


 って、ぐはっ!!

 お、俺の彼女も辛口やな……!

 しかも真顔、相変わらず安定の美しさだけど、超真顔。


 ま、まぁたしかに、11人は多いと思うけど……。


「あ、じゃああたしは先にくもちんに会いに……」

「それはダメ。亜衣菜さんも料理覚えたいんでしょ? まずは材料から覚えないと」

「あ、あはは……分かったよぅ」


 で、逆に亜衣菜は人が多いならと買い出しから離脱しようとするも、その企みはだいにバサッと言われて阻止される。

 たしかに料理教えてって亜衣菜が頼んでたけど……きっとあれだな、食絡みのことだから、だいのスパルタは他人への妥協も許さないんだろうな。

 我が彼女ながら恐ろしい。

 実際……この話題なら俺ですらバッサリ切り捨てそうな雰囲気だし。


 いやー、しかしほんと、このやり取り見てる感じじゃこの二人、どっちが年上か分かんねーな。


「ってことで、男どもは早くジャックんち行ってこーい。しっしっ」

「なんだかワンちゃんみたいですね」

「ぴょんが扱い雑なのは、今に始まったことじゃないけどね~」

「でも男女別れて、女子が買い物担当って、なんか学生時代みたいですねっ」

「むむ、そうなんですか?」

「思い出は人それぞれじゃないかな〜〜? はいはい、じゃ買い出しチームはいきますよ〜〜」


 そしてこれはもう決定事項とばかりに、ぴょんが男チームに対しジャックのマンションを指差して移動を促す。

 そして女チームは、ジャックを先頭に交差点を右折方向に向かって行く。


「ま、幹事様がああ言うんじゃしゃーねぇな。ここは女性陣任せるとしますか」

「だな」

「わかったよー。みんな、買い物よろしくねっ」


 その光景に、これ以上の反論は無駄と大和も悟ったようで、俺とあーすも大和に続いて荷物持ちを辞退し、ジャックが指差したマンションへ向かおうとすべく、手を振って女チームを見送って、ちょうど青信号になった横断歩道を渡ろうと動き出す。 

 

 が。


「いや、えっと、俺新参ですし雑用とか……」


 まだ一人、ぴょんの決定に従いきれないに慣れてない者が。


「あ〜〜、ロキロキは~~……」

「う~ん、こっちでもいいのかしら……?」

「え、でも……」


 そして移動により少しだけ距離ができた男女の間で、置いて行かれたようにぽつんと一人になったロキロキにジャックたちが気づき、どうしたものかと立ち止まる。

 特にだいと真実は困惑モードって感じだな。

 

 でも。


「ほら、男はこっちだっつーの!」


 そんなロキロキの方にだいや真実が向かいかけたところで、俺は渡っている途中の横断歩道から引き返した。

 だい女性たちからすれば、ロキロキは自分のことを男だと認識しているとはいえ、身体的には女なのだから男だけの集団に放り込むことに抵抗があったのかもしれない。

 でもね。


「あ、そ、そっすよね!」


 自分で自分のことを「男」だって言い切ってんだから、こいつはこっち男チームなのだ。


 ということで、俺は引き返したままロキロキの方へと駆け寄って、パッとの手を掴み、点滅している赤へとなりかける横断歩道を渡って、前を行く男チームの方へ一緒に走り出した。


「じゃ、またなー!」

「くもんのことよろしくね~~」


 そして俺がロキロキを引っ張っていくことを確認したからか、背中側から聞こえたぴょんとジャックの声。


 急いで渡ってたから、振り返ることなんかできなかったけど。

 でも、とりあえず信号間に合ってよかったよかった。

 

 ……しかしこいつ、やっぱ手の感じとか、女……だな……。

 手は小さいし、見た目もあんまり筋肉もないし……って、やべ、いきなり触ったからこれセクハラ!? 

 ……って、いや違う違う! 変なこと考えるな俺! ロキロキは男! 男だから!

 俺は遅れてる仲間を迎えに行った、ただそれだけのことよ!


 そんな風に、横断歩道を渡り終えた辺りまで手を掴んだままだったことに気づき、慌てて手を離す俺。


 でも。


「……ゼロさん、あざっす」

「ん?」


 信号を渡り、駆け足を終えたところで聞こえた、小さな声。

 急なダッシュに少し呼吸が乱れたが、ふとそっちを見ればね、会ってからよく見せてくれる無邪気な笑顔が、こちらへ向けられているではありませんか。

 ロキロキの身長は俺よりも低いから、その笑顔に浮かぶ目線は必然的に上目遣い的な感じになってて……超ボーイッシュな女の子みたいで、あ、ちょっと可愛いかも……って、いやいや! 

 

 だ・か・ら・な! 

 俺! しっかり!!!


「会ったばっかなのに、俺の言葉理解してくれて、ちゃんと男って扱ってもらえて嬉しかったっす」

「いや……だって、そうなんだろ?」

「はいっ!」


 そんな無邪気な笑顔に、俺には少しだけ沸き上がる罪悪感みたいなものも、実はあるんだけど。

 そんな気持ちがあったから、歯切れのいい答えが出来ない俺。


 でも、やっぱりだいと仲良さげだったさっきの光景が、俺の中にまだ残ってるから。

 だいと引き離したかったって思いが、多少なりとも俺にはなかったわけじゃないのに。


 そんな俺の内心なんか気づくはずもない笑顔は、あまりにも純粋だったから。

 俺はロキロキの笑顔を真っ直ぐには受け取れなかった。


「今のゼロやんカッコよかったねっ」


 そんな、もやもやとした感情が消しきれない俺の肩にふと現れた重み。


「だな。弟迎えに行く兄貴みたいだったな!」

「え、俺弟っすか?」

「うむ。倫の方がロキロキより背も高いし、実際年上だしな。あと数ヶ月はタメだけど」

「兄貴感あるのはせんかんだけどねっ」

「最年長だからな!」

「あ、じゃあ最年少の僕も弟枠でいいっ?」


 ロキロキを引っ張っていた腕とは反対側から、俺と肩を組んできたのは……予想通りあーす。

 そんなあーすの言葉に同意しつつ、横断歩道を渡り終えたところで立ち止まってくれていた大和がロキロキを弟、俺のことを兄貴みたいなんて言うもんだから、そこでも男扱いしてくれたことが嬉しかったのか、ロキロキはまた嬉しそうな笑顔を見せている。

 そこからほんと、俺らを兄弟に見立てて順番を決めるみたいな会話が生まれたけど……。


「今日の最年長は、これから会うくもんさんだろうが」


 その会話はあまりにもくだらなかったけど、そんなこいつらを見ていると、さっきまでもやもやと考えてた自分が馬鹿に思えてきたから。

 

 俺は呆れた顔を浮かべながら、大和に対してこいつの最年長発言を否定してやった。

 

「そっか! 五兄弟か! だんご超えだな!」

「だんごっすか?」

「いや、古いわお前。しかも4でも越えてるし」

「あはっ、今の子どもには伝わらなそうだねっ」


 でも、俺の呆れ顔を華麗にスルーした大和がボケてくるので、今度は俺らがそれに総ツッコミ。

 いや、ロキロキはツッコミってか、ちょっときょとん顔だけど。


「ほれ、くもんさんが待ってるかもしれないんだから、さっさと行こうぜ」


 そんなことやってたからね、すっかり足が止まってしまってたけど、ジャックがくもんさんにエントランスまで来てもらうって言ってたから俺らは急がねばならんのだよ。

 そう思った俺は、しょうもないだんご……じゃなくて兄弟トークを打ち切って、足を動かすようにみんなを促す。


「あ、やっぱゼロやんが兄貴っぽいっ」

「そしてお前はくっつくな。触んな」

「ええっ!? 自分だってロキロキの手引っ張ってたくせに!」

「それはさっきだけだろうがっ」


 そんな俺にあーすがわけのわからないことを言ってくるけど。


「皆さん面白いっすね!」


 どこに面白さを感じたのやら、さっきと同じように、無邪気に笑うロキロキが。


「うむ。このギルドは見てて飽きない奴ばっかだぞ!」

「ホントっすね! 楽しみっす!」

「……お前らが普段どんな風に働いてんのか見てみたいわ」

「えっ、大阪来るっ?」

「行かねーよ!」


 はぁ。

 ほんと、もやもやと無駄なこと考えてた自分が馬鹿みたい。


 でも、これが俺ら、か。


 男だけになっても変わらずツッコむ場面が多めなのはどうなのかとも思うけど、気づけばさっきまであったもやもやが、今はなし。

 昨日消えたのがさっきまた出てきたように、また出てこないとは言い切れないけど……とりあえず今はこれでいいか。


「ほれ、行くぞ」

「よし、倫の兄貴に続け!」

「おおっ、ゼロやんの兄貴っ」

「あ、ええと、兄貴よろしくっす!」

「ええい、やめんかい!」


 ……やっぱ、前言撤回。

 もうちょっと普通がいいです、はい。


 そんな風にね、ほんとくだらないやりとりをしながら。


 俺たち4人は大和、あーす、俺、ロキロキと横並びになって、9月の清々しい晴天の下、しょうもない会話を続けて笑い合いながら、ジャックの示したマンション目指して進むのだった。







 

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以下作者の声です。

―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★― 

 作者の世代がバレそうなネタですね!

 あ、ちなみにBL作品ではありません。あしからず。

 

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 本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。停滞中……!

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