第279話 向かいのホーム、路地裏の窓、こんなとこにいるはずはないけど

「おおっ! ここが噂の秋葉原なんだねっ」

「私も初めて来ました!」

「しかしやっぱここも人多いなぁ」

「でも、ちょっと独特な雰囲気ありますよね」


 東京駅から山手線に乗って2駅、たかだか4分程度の移動で目的地へ到着。

 この4分間の間に、真実は一生懸命スマホでお昼のお店探してたけど、どこかいいとこ見つかったのだろうか?

 いや、そもそもあーすがお昼行こうって言ったんだからあーすが探せばいいと思うんだけど、当の本人はね、電車乗ってる時から車窓の景色を見てずっとはしゃいでおりました。

 そんなあーすをゆきむらが全無視してたから、やむなく俺が「うん」、「そうだね」、「へー」と丁寧な相槌を打ってあげてたけど、いやほんと、改めてこのメンバーのやばさを感じたね!


 でもまぁ、集まってしまったものはしょうがない。こうなったら、14時までの時間を何とか過ごさねばならないのだから。

 真実としてもせっかくの東京だしね、出来ることならいい思い出を増やして欲しいし、うん。


 そんなことを思いながら、何となくの感覚で電気街改札を抜け、コスプレチックな格好をしたビラ配りの人や、メイド服姿のビラ配りの人、明らかなオタク臭漂う一行や俺らのような一般観光客等々で賑わう街中へ。

 ……って、まぁ俺らも一応分類は、ゲームオタクに入るのかな。いや、うん、少なくとも俺は、そこに入ると思うけど。


「いっちゃん、何か食べたいものは見つかったんですか?」

「あ、うんっ。ここの洋食、美味しそうじゃない?」

「おおっ、いいね洋食!」

「どれどれ」


 そしてとりあえず、で改札を出たものの、行先の決まっていなかった俺たちはすぐに立ち止まり、あーすが終始きょろきょろと秋葉原の街並みを眺めている中、ゆきむらが真実に声をかけた。

 先ほどからずっとスマホとにらめっこしてた真実だけど、ゆきむらに聞かれてようやく1つに絞る決心がついたのか、その画面をみんなに提示。

 どれどれ、と俺も覗いてみると、そこに書いてたのは……。


 いや、俺行ったことあるとこやん!


「神田方面ですか」

「ええと、それって遠いのかな?」

「さっき通過した駅だねっ」

「でも秋葉原からも徒歩5分って書いてますけど……」


 その、真実が提示したお店の場所について3人が色々と話し出すけど、うん。観光客二人に迷子の達人の3人じゃたぶん距離とかの感覚、分かんないだろうね!


「神田と秋葉原は歩ける距離だよ。そこも、神田駅から秋葉原寄りのとこにあるし、歩いてもそんなかかんないかな」


 ということで、このままだと路頭に迷いそうな3人へ俺は救いの手を差し伸べる。

 まぁ、うん。知った店だし、うん。


 でも、なぁ……色々とね、思い出すことが多くて懐かしい反面少しため息出そうだよ俺。


「お兄ちゃん行ったことあるの?」

「うん。1回だけな。もう3か月くらい前だけど、だいに誘われてね、付き合う前に行ったことあるよ」

「おおっ! なっちゃんとのデートの思い出の場所なんだねっ」

「そうなんですね」


 ええ、思い出ったら、思い出だよね。

 そこはいつぞやの外食の日、ちょっと早く仕事上がれたから、だいに誘われて神田まで足を伸ばした時のお店だったのだ。


 で、その帰り道……俺は逃げられないランダムエンカウントイベントを起こしてしまった日でもある。

 いやぁ……あれはきつかったな……。


 でも、ある意味あれが、だいにとっては友達が増えるきっかけになった日、でもあるんだけどさ。


「じゃ、ゼロやん案内よろしくっ」

「そこで決定でいいのか?」

「だいさんのおススメだったなら、外れはしないかと思うので私は賛成です」

「私もっ」

「はいはい」


 ということで、他の候補があったかどうかは知らないが、とりあえずお店はそこで決定ということになり、改めて俺らは移動を開始。

 フォーメーションはまたしても東京駅構内と同じ、前衛が男、後衛が女って陣形だけど、いつもなら颯爽と隣に来そうなゆきむらが来ないのは、あーすを避けるためなのか、真実への気遣いなのか、なんかちょっと不思議だな。

 いや、別に来て欲しいわけじゃないんだけどさ。


 それよりも、ね。

 方向としてこちらに進むと、あいつの生息エリアなんだよなぁ……。


 まぁまさかね、こんだけ人がいる中で、会うこともないだろうけど。

 でもとりあえず、途中に見えるたい焼き屋だけは行かないようにしとこう、うん。


 そんなことを思いつつ、俺たち一行は電気街改札方面から神田方面へと進み、目的地である洋食屋へと向かうのだった。






「ここだな」

「おおっ、意外とすぐついたね!」

「迷わない道案内……さすがです」

「さっすが社会の先生だねっ」


 そして歩くことそこそこ、俺たちは目的のお店へと到着。

 ばったりエンカウントしたりしないかと冷や冷やしてたけど、そんなイベントは発生しなかったことに安堵しつつ、俺たちは早速店内へ。

 駅からすぐ、ってほどの距離でもないからか、12時30分くらいでも店内には空いたテーブルが2つあったので、幸いにも待つこともなく俺たちはすぐに案内してもらうことができた。


 いやぁ、うん、懐かしい。

 あれだよな、ここはビーフシチューがおススメって話だったけど、あの日のだいはハンバーグも食べたがってて、俺がそっちを頼んでシェアしてあげたんだよな。

 俺がハンバーグを頼んだ時のだいの驚きと嬉しそうな顔、いやぁ、懐かしいなぁ。

 あれは、いい思い出だ。


「途中に見えたたい焼き屋さん、列出来てたけど美味しいのかな?」

「あっ、ありましたねっ! また来た道戻るわけですし、帰りに買っていきますか?」


 って、こ、こいつら見つけやがったのか……!?

 あのたい焼き屋を……!?


「ゼロさん、どうかしました?」

「え? あ、いや、何でもないよ。それよりほら、秋葉原から千葉駅までそれなりに時間かかるしさ、さっさと食べないと、集合遅れるぞ」

「えっ、そうなの?」

「あはは、流石にノープランすぎたねっ。でも街の雰囲気見れたし、僕はおっけ!」


 と、あのたい焼き屋の話題が出たことで俺は少々焦ったらしく、それが顔に出たのかもしれない。

 そんな焦りを誤魔化すべく、話を逸らしたわけだけど、俺が言ったことも間違いがない事実の一つ。

 1時間はかかんないけど、秋葉原から千葉駅もそこそこの時間かかるからね。食ったらすぐ秋葉原戻らないと、たぶん間に合わないんだよな。


 そんな時間配分を真実が理解してなかったのもしょうがないとはいえ、秋葉原行きたいと言ったあーすまでも同じ感じとは、ほんとノープランすぎるだろって思ったけど、当の本人がさほど気にした様子がないからね、まぁこれでいいんだろう、たぶん。


「じゃあ帰りがけに買えそうだったら、みんなの分のたい焼き買ってこっか!」

「あっ、いいですねっ」


 って、マジかよ。

 またたい焼きトークに戻るのかよ!

 ううむ、あのたい焼き屋は……イベント発生率が多少高そうだから、ちょっとやなんだけど……。


 でも、同じタイミングに買いに来る可能性があるなんてね、そうそうあるもんじゃないだろうし、気にしすぎ、かな……。


「ゼロさんは何味のたい焼きがお好きですか?」

「ん? あー……こしあんかな」

「ほほう」

「お兄ちゃん昔からあんこ好きだよねー」

「そうなんだねっ! 僕はカスタードがいいなぁ。二人はー?」

「私もあんこ派です」

「あのお店に何味があるか分かりませんけど、私はあんこかカスタードならカスタードですねっ」


 だがまぁ俺がたい焼き屋にあれこれ思ってることなど、他の3人からは分かるわけもなく。

 何だかんだみんな同じなら出てくるのも早いかなと、このお店でだいがおススメのビーフシチュー定食を4つ注文し、ゆきむらの質問をきっかけに話題がたい焼きの何味が好きかという話へ。

 4人がけのテーブルでは俺とあーすが並び、俺の正面に真実、対角にゆきむらが座ってる配置だけど、たい焼きの好みは見事に対角線を描く形となったわけだな。


 ちなみに真実ももうだいぶあーすに慣れたのか、すっかり普通に喋れるようになりました。

 まだ会ってそんな時間経ったわけじゃないけど、何だかんだの適応の早さ、うん、これぞ俺のイメージする妹です。


「あ、じゃあ頭から食べる派? 尻尾から派?」

「あー、俺は頭」

「えー、尻尾だよー」

「私は頭ですけど」

「僕は半分に割って真ん中からかな!」

「いや、お前から聞いといて……」

「でも、ゆっきーはお兄ちゃんと好みも食べ方も一緒だねー」

「え? あ……そう、ですね」

「……あれ? 私なんか変なこと聞いた?」

「あ、いえ。何でもありませんよ」


 そしてこの平和な会話の質問が、今度は頭からか尻尾からか論争へと切り替わったが、その答えを出す中でまたしても俺と同じ答えだったゆきむらへ、何気ない感じで真実が俺と一緒ということを指摘すると……なぜだかちょっと、恥ずかしそうな様子を見せるゆきむらが。

 いや、いつもならそれ、ゆきむらから「一緒ですね」って言ってきそうなとこだったけど……ううむ、やっぱり今日のゆきむら、何か変だな。

 真実に「何でもない」って答えたあと、ちらっと俺の方を見てきただけだし、どうしたんだろうか?


 あ、ちなみにあーすの答えについてはもうノーコメントで。


「お土産で買えたら、みんなの食べ方も観察しないとねっ」

「ええと、私たち4人に、菜月さん、ぴょんさん、ゆめさん、せんかんさん、ジャックさん、くもんさん、ロキロキさんで、合計11個ですか。何味買うかも問題ですねっ」

「色んなの買ってって、なんかゲームでもして勝った人から選ぶでもいいかもね!」


 そんなちょっとおかしなゆきむらと、その様子を伺う俺をよそに、真実とあーすの会話は続く。

 ほんと慣れたというか、はしゃぐ感じなってるのはあれかね、イケメンと話せて嬉しいとかなのかな……。でもあーすは……いや、皆まで言うまい。


 とまぁそんな会話を広げつつ、俺たちは運ばれてきたビーフシチュー定食をちょっと急ぎめに「美味しい!」なんて言いながら食べつつ、食後の余韻に浸る間もなく、店を後にするのだった。






「いやー、美味しかったね!」

「ですねっ!」

「うむ。美味かった」

「美味しかったです」


 そして昼食を終え、再び街中を歩きだし、秋葉原へ戻る道中。

 さすがだいのお墨付き、その味にみんな満足したようで、俺たちは何とも言えない幸福感を覚えながら、駅への道中にあるたい焼き屋へと向かっていた。

 

 たい焼きの話の時はちょっとよく分からない様子だったゆきむらも、食事が始まるやいつもの感じに戻ってたし、とりあえずは一安心。

 いや、なんでこんなゆきむらの様子気にしてんのかって話なんだけどね。

 

 それよりも今は、これから向かうたい焼き屋の方が心配なんだけど。


「ゼロやんはなっちゃんと色んなとこにご飯行ったりするの?」

「ん? ああ。毎週水曜は、外食の日って決めてるんだ」

「おー、いいねっ。サラダ記念日的な感じ?」

「いや、それはちょっと意味わからんけど」

「あははっ! でもいいね、仲良しでっ」

「まぁ、うん。って、ええい、いちいち触ってくんなおい」

「ただのスキンシップだよー」


 だが、俺があれこれ考えている間にも隣を歩くあーすは何に気づくわけでもなく俺に話しかけてきて、「いいね」なんて言いつつ俺の肩を触ってきたりする。

 さすがにもう肩組んだりはしてこなくなったけど、お前のスキンシップは色々と裏読みしちゃうからやめてくれ……。


 あ、ちなみに同じ道を戻るだけだからね、今度は真実とゆきむらが前を歩いている状態。

 同じ道でもゆきむらなら迷いかねない気がしなくもないけど、まぁ真実は別に迷子スキル高いわけじゃないし、ああ見えて割としっかりしてるからな、とりあえず迷うこともないだろう。


 だから俺たち男衆は女の子二人の後ろを歩いてるわけだが、まさか後方の男二人でじゃれ合ってる感じになってるとはね、きっと前を歩く二人は気づいてないだろうな。

 いや、俺はじゃれ合ってるんじゃなく、拒絶してるだけなんだけどさ!


「僕も恋人欲しいなぁ」

「……え? ど……」

「ど?」

「あ、いやなんでもない」

「なんだよー。僕だって普通に恋人は欲しいんだよー?」

「あ、そ、そうだよね、うん」


 あっぶね!! 危うくどっちの性別の? って聞くとこだった……!

 ほら、ギルドの何人かはあーすがいけるって知ってるけど、これ、あーすから直接聞いたわけじゃないんだよね……!

 あの日のだいとあーすの会話を、俺ら盗み聞きしただけだもんな……。

 うん、さすがに実は聞いてましたとはね、言えないよね……!

 最悪だいから聞いたで誤魔化せる気はするけど、何と言うか、おいそれと簡単に踏み込みたい話題でもないしな……!


「ジャックはくもんさんと結婚してるわけでしょー? リダと嫁キングの子どもも可愛かったし、僕も子ども欲しいなぁって思うよねー」

「お、おう……そうだな、仁くん可愛かったな」

「だよねっ! ゼロやんは、なっちゃんと子ども作る予定あるの?」

「……いや、まだ婚約すらしてないんだが?」

「えー、でも知り合って長いわけでしょ? それにほら、もうそれなりにいい年齢だしさ、考えたりはしてないの?」

「考えてなくは、ないけど……」


 っと、まさかあーすも子ども欲しいと思ってたは、意外と言うかなんというか。

 でもあれだよ? 子どもは男女じゃないと作れないからね? って、それは知ってるだろうけど。

 え、養子とか? ……って、いや、そもそもあーすはどっちも、なんだから、普通に女性と結婚して、ってこともあるんだよな。

 うん、なんか宇都宮の時のイメージであれこれ考えてたけど、あーすがね、普通に女性と結婚して子ども作る未来だって、ないわけじゃないんだよね。


 じゃあ、俺たち俺とだいは……?


 そりゃ、うん。結婚したいと思ってる。

 というかたぶん、今プロポーズしても、大丈夫な気はしてる。

 まだ付き合って3か月経ってないけど、あーすの言う通り、知り合ってからはものすごく長いわけだし。

 でもまだお互いの家族には会ったこともないし、まだ早い気もするんだよな。

 それに何と言うか、上手く言えないけどまだタイミングじゃない気がするし。

 いや、他に好きな子がいるってわけじゃないけどさ、とりあえずはゆきむらは何とかしてからじゃないといけないし。


 それに……亜衣菜も、俺は区切りをつけたつもりだけど、その後の様子とか見てると、何だかんだよくわかんねぇしな……。


 まずは俺がもっとしっかりしないと。

 だいを不安にさせないように。

 俺が支えられるんじゃなくて、俺が支えてるんだって断言できるように。


 亜衣菜と別れて、ぷらぷらとLAばっかやってたせいで、俺はたぶん学生の頃から成長してないだろうから。

 もっと、ちゃんとしないとな。


「おっ、たい焼き屋さん今けっこう空いてそうですねっ!」

「おおっ、やったね!」


 そんな風に俺が真面目にあれこれと考えている間にも足はどんどん動いていたようで、気づけば秋葉原駅から来るときの途中にあった、今日と同じく、以前にあの洋食屋の後にだいと訪れたたい焼き屋を発見。

 前を歩く真実が嬉しそうに列の少なさを報告してくれたけど、たしかに今は並んでるのが2組くらいで、あれなら十分買っても乗りたい電車に間に合いそうである。


 ほんと千葉駅着は14時ギリギリにはなっちゃうだろうけどさ。


「じゃ、ぱぱっと買って来ちゃおっか!」

「ですねっ!」

「味は任せた」

「お任せします」


 ということで、俺はあれこれとだいとの未来を考えることを一旦中座し、みんなと共にたい焼き屋を目指して少し方向転換。

 そして駆け足気味に真実とあーすが先にたい焼き屋へ向かって行ったので今度は俺の隣にゆきむらが並び歩くことに。


 みんなで動く時はよく隣に来ることが多いゆきむらだけど、今日はこれが初めてか。

 いや、別に気にすることじゃないんだろうけど、ほんと今日は珍しいな。


「真実と仲良くしてくれてありがとな」


 そして横並びになったとはいえ、特にゆきむらが話しかけてこないので、あえてここは俺から話しかけてみることに。

 ほら、兄としてね、妹と仲良くしてくれてることには、嘘偽りなく感謝だからさ。


「あ、いえいえ。私の方こそ仲良くしていただけて嬉しいです」

「あいつけっこう中身幼いだろ? どっちが年上か分かんない感じでごめんな」

「そう、ですか?」


 俺がお礼を言ってみると、ゆきむらもまんざらではない感じで受け答えはしてくれたけど、あまりにも普通すぎる答えにまた浮かぶ違和感。

 いや、別に普通だから普通なんだろうけど、ううむ、やはり、なんだろうこれ。


「ゼロさんたちも、仲良し兄妹ですよね」

「あー……まぁ、そうだなぁ。でもゆきむらのとこだって、仲良し姉妹なんだろ?」

「ええ、ゆずちゃんとは仲良しですよ」

「なら同じだな」

「そう、ですね。同じですね」


 だが、分からないことを気にしてもしょうがないからね。

 俺はそのまま継続して、差し障りない会話をゆきむらと続ける。


 でも、俺ら兄妹と、ゆきむら姉妹、どちらも仲良しなのは同じだなってことを伝えると、ゆきむらは少しだけ嬉しそうに笑ってくれた。


 その笑顔は、普段とは違う印象の姿と相まって、ものすごく可愛く見えて――


「あ、と、トイレ、ちょっとそこのコンビニで、トイレ借りてくるっ」

「え、あ、はい。お伝えしておきますね」

「おう! 頼んだ!」

「買ったところで待ってます」

「おっけ!」


 その可愛さに、思わず照れてしまいそうになったのが恥ずかしくて。

 俺は思わず見えたコンビニを利用して逃げの一手を打ってしまう。


 ……いや、何やってんだ俺……!


 可愛いと思っても、別にそう思っただけで終わらせればいいだけなのに。

 それ以上の感覚があるわけじゃないのに。


 今日は会ってからまだそんな経ってないのに、ずっと何か引っかかるゆきむらの前に、なぜかよく分からない感覚を覚えてしまう。


 ああもう、ほんとわけわかんねぇな俺……!


 でも、とりあえず行くって言ってしまった以上、コンビニには入らないと。

 とりあえずは有言実行。

 さっきの決意はどこへやらと内心でため息をつきつつ、ゆきむらから離れるように、ちょっと小走りに先ほど見えたたい焼きから50mほど離れたコンビニへ向かい、トイレを借りようと店内に入って、トイレの前へ。


 だがあいにくトイレは使用中で、すぐには入れず。

 ってかまぁ、ほんとに入りたかったわけじゃないんだけど。

 

 なら、まぁいいか。

 そう思って、振り返った瞬間。


「……え?」

「え?」


 背後から聞こえた声に、俺は再びトイレの方へ振り替える。


 そこには、ちょうどよく出てきたマスクをつけた小顔の女性が、なぜか小さく驚いたように目を見開く姿が。

 その姿に、思わず俺も反応してしまったけど――


 ……マジかよ。


 肩口がフリルになったノースリーブの紺色サマーニットに、青色のデニムパンツの、シンプルなよそおい。

 そのサマーニットが強調するラインは、思わず目を引くレベルだけど……それ以上に目を引く、度が入ってなさそうな、大きめレンズの眼鏡越しに見える、見たことのあるような愛らしい大きな猫目。

 その特徴的な目を強調するまつ毛の感じ、どうやら今日はすっぴんではなく、メイクもしてるご様子で。


 ああもう……たしかにこの街は、こいつの生息地だけどさ……!!


 逃げるように向かった先のコンビニのトイレから出てきた女性へ、俺は何と声をかけるべきなのか。

 はたまた、逃げるべきなのか。

 

 俺はその答えを探すため、女性と見つめ合ったまま脳内をフル回転。


 せっかくたい焼き屋には近づかなかったのにね……!

 つーかさ、あのたい焼き屋、呪われてんのかよ……!?







―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―

以下作者の声です。

―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★― 

 前話での後書きの予告タイトルは嘘でしたが、状況的には遠からず?

 今回もタイトルをパロディに。

 好きな歌です。笑

 秒速5cmにちなんで、コンビニの距離を50mにしてみました。あ、どうでもいいですね……!

 

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 本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。停滞を重ねつつも掲載しております。

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