第278話 大阪からのシ者

「さすが日曜、しかし人多いねー」

「ですね。はぐれたらもう出会えない気がします」

「いや、ゆきむらが言うと洒落なんねーから」

「あっ、お兄ちゃん! あの人たち夢の国行くのかな!?」

「んー? あー、そうな。京葉線はここ乗り換えだし、そうかも?」

「いいなぁ。久々に行きたいなぁ」

「夢の国ですか?」

「うんっ。ゆっきーも行きたいよねっ」

「そうですね。私は行ったことないですし、行ってみたいですね」

「えっ、行ったことないの?」

「お恥ずかしながら」

「明日、みんなで行ってもいいかもな」

「ほんとっ!?」

「いや、行きたい奴だけでだけどさ。真実が行きたいって言えば、少なくともだいは乗ってくれると思うよ」

「おおっ」


 ゆきむらを回収し、3人となった俺たちは4連休二日目の東京駅構内を移動中。

 さすが4連休とばかりに人混みがすさまじいが、そんな中にて真実は既に気分は夢の国なのか、耳をつけて歩いているJKっぽい集団を発見していた。

 それを見て真実が行きたいって言いだしたけど、明日の予定は特に決まってないだろうからね、明日のオフ会は夢の国に舞台を移してもいいとは思う。

 何だかんだ今日はジャックんち行こうってことが決まってたけど、それ以外は決まってないんだし。


 だいは真実のこと可愛がってくれてるから大丈夫だろうし、ぴょんもゆめもフッ軽だから、何だかんだ行ってくれるんじゃないかな。

 となれば大和もついてくるだろうし、あーすは……まぁ大丈夫だろう。

 ジャックとくもんさんと、まだ会ったことないロキロキは分かんないけど。


 あ、ちなみにさっきの子たちは知らない制服だったのは確認済み。

 思わずこういう時警戒しちゃうけど、ほら、うちの学校の奴らにプライベート見られるのは、ちょっと恥ずかしいからね……!


「4連休の真ん中なんて激混みだろうけどな」

「えーだって、普段はこっちこれないしっ」

「ま、それも東京の醍醐味か」

「あそこは、千葉ではありませんでしたっけ……」


 とまぁ、こんな感じで人混みをかき分けつつ、俺たちはあーすが待つ場所へと向かっていく。

 ほんと、連休とはどこからこんなに人が湧いてくるのかね。

 歩き始めこそ二人が前を歩いていたが、よくよく考えれば二人は目的地の場所がよく分かってなかったので、今は俺が二人の前。

 

 で、その二人は現在俺のシャツを掴んで移動中。

 まぁはぐれたらほんとゆきむらの言う通りになりそうだから、これはやむを得ないってことでFAファイナルアンサーで。……あ、古い?


「さて、まもなくだな」


 そんなことを考えながら歩いき続け、そして間もなく12時10分。あーすの言ってた時間よりは少し遅れちゃったけど、まぁあーすだし、いいよね。

 LAではアイドルみたいな見た目のあーちゃん☆でも、真実やゆきむらと違ってリアルでは大人の男だし、そこらへんは大丈夫だろう。


「さて、どこかな……っと」

「む、どしたのー?」

「何かありましたか?」


 不意に俺が立ち止まったことを不思議に思ったのだろう。

 俺の後ろを歩いていた二人からの声は疑問の色が浮かんでいたけど。


「いたけど、誰かと話してるな」

「あーすさんがー?」

「むむ、お知り合いですかね?」

「んー、どうだろ。手を振って別れたみたいだけど」

「別れたんならいいんじゃない?」

「東京のお知り合いとかでしょうか?」

「ま、とりあえず行くか」


 待ち合わせの場所である銀の鈴のところで、俺は一際目を引くイケメンを発見。

 さらさらの髪の甘い顔立ちで、ちらちらと道行く女性たちが視線を送っている。そんな、まるで男性アイドルのようなルックスは以前会った時と変わりない。

 恰好も白のハーフパンツと、Tシャツの上に羽織った柄シャツと、俺には出来なそうな割と派手めなんだけど、全てが似合って見えるから不思議である。


 とまぁ俺が見つけたのは見紛うことなくあーすだったんだけど、そんなイケメンが、さっきまで見たことない女性二人と話していたのだ。

 はてさて誰だったのだろうか?


「よっ。お待たせ」

「あっ、やっほーっ。来てくれてありがとね!」

「こんにちは」

「ゆっきーもおひさっ」


 でもとりあえずさっきの人たちとは別れたみたいだからと、今度は俺たちがあーすに近づき声をかける。

 それに応えてあーすもそれはそれは爽やかな笑顔で俺とゆきむらを迎えてくれたのだが――


「わっ、お兄ちゃんどうしよ!? しゃ、写真で見てたよりカッコいいよぅ……っ」

「あー……」


 迎えに来たもう一人、真実はおろおろした様子で、なぜか俺の後ろに隠れて服を掴みつつ、そんなことを言い出す始末。

 いやいや、ファンだった芸能人に会った時の反応かよおい。

 大丈夫、中身はほら、あーすだからな。


「あ、あれ? 僕なんか避けられてるみたいだけど……ゼロやんの後ろの子がいっちゃん?」

「おう。ほら真実、挨拶しろって」

「え、ええと……っ」


 そんな真実の様子に気づいたあーすが、俺の後ろに隠れて恐る恐る半分だけ顔を見せる真実に笑顔を向けると、さらに緊張したのか、さらに俺の服をギュッと掴む。

 うーん、こいつって、人見知りしないタイプだと思ってたんだけど……。


「は、はじめまして。いっちゃんこと、北条真実、です……。い、いつも兄がお世話になってますぅ……」


 それでもなんとかね、真実があーすに名を名乗ると。


「人見知りさんなんだねっ。はじめまして! あーすこと、上村大地です。よろしくねっ」


 ほら、勘違いされてるぞ。

 と、兄ながらには思ってしまうが、笑顔全開のあーすの前に真実は今度は完全に俺の後ろに隠れてしまう。

 その様子をゆきむらがものすごく不思議そうに眺めているのが、何とも変な光景だな。


「いやぁ、でもいっちゃんあれだね、ゼロやんに似て可愛いねっ」

「いや、だから――」

「それはもう私が言ったので、真似しないでください」

「か、可愛いなんて……っ」


 そしてあーすが真実を見た感想として、さっきゆきむらが言ったこととまるっきり同じことを言って、俺がそれを否定しようとするも、俺の言葉よりも早くゆきむらから冷たい一言が。

 真実は真実で照れてさらに俺の服を掴む手に力がこもっているご様子だけど、いや……ゆきむらに「可愛い」って言われた時と全然反応ちゃうやないか。


「あれ? ゆっきーとかぶっちゃった?」

「はい。可愛いと思ったのは私が先です」

「ありゃ。でもゆっきーも今日も可愛いねっ」

「え? あ……それは……ありがとうございます、ですけど……」


 ちなみにあーすはあーすで、ゆきむらから辛辣な言葉を受けても全く怯む様子もなく普通に話し続けている。

 たしかにギルド内で会話してても、ゆきむらはあーすには割と冷たい言動が多いけど、全く堪えてないとは、なんという鋼のメンタルか。

 しかも女の子に対してそんなさらっと「可愛い」とか、よくもまぁ躊躇いもなく言えるもんだなこいつ。

 

 そんなあーすを前に攻撃したはずが思わぬ反撃を受ける形となったゆきむらは、意外にも珍しく少し照れるというか、語尾を濁してるし。

 あ、もしやこれもあれか? イケメンスキルってやつの一部なのか……?

 いや、俺もゆきむらのことそう思ってはいたけどさ――


「あの、今日の私、可愛いですか?」

「へ?」


 と、俺があーすへささやかな尊敬の念を送っていたと思えば、今度はゆきむらがそっと俺の服の裾を掴んで、俺の目を覗き込みながら囁くようにそんなことを聞いてくる。


 いや、上目遣いやばっ……!


「あ、うん……いつもと印象違って、可愛いと俺も思う、よ?」


 そんなゆきむらに、完全に油断しきっていた俺はちょっとしどろもどろな感じで答える羽目になったけど、うん、会った時からね、ワンピース姿、可愛いとは思ってましたよ……!


「そうですか……嬉しいです」


 ……くっ、可愛い……っ!


 その俺の答えに満足したように、ゆきむらは俺の服から手を離し、目を逸らしてまたぽつりとそんなことを呟くけど……でも、なんだろ? いつもなら堂々とするはずなのに、何か今日はちょっと奥ゆかしいような……?

 いや、「可愛いですか?」って聞いてくることからして争奪戦を諦めたとかではないんだろうけど……ううむ、どうしたゆきむら……?


「って、あれ? そういえばなっちゃんは?」

「ん? ああ、だいはぴょんと会ってから来るってさ」

「あ、そうなんだ。じゃあお昼からメンバーは僕らだけってことなんだね」

「だな。ってか、さっき誰かと話してたみたいだけど、知り合いだったのか?」

「ん、ああ。見られてたかー」


 と、俺がちょっとゆきむらに対してあれこれ思っていると、ようやく迎えに来るメンバーにだいがいないことに気づいたのか、あーすが尋ねてきたので、俺は簡単に事情を説明。

 するとあーすは即座に納得した様子で、特に不満そうな気配もなし。

 いや、そうなることを予想してたわけじゃないけど、ほら、やっぱり昔はだいのこと、一応好きだった奴なわけだし? そういう過去を知っていたからこそ、少し警戒した俺だったけど、どうやらもうそんな想いは全然ないような様子で。

 ……いや、それこそそれはそれで、何となく違う警戒心も浮かんでしまうのだが。


 でも、それをゆきむらや真実がいる前で表に出すのもアレなのでね、俺は今度はあーすに対し、さきほど話していた女性たちについて聞いてみることに。


「さっきの人たちは、逆ナンってやつだよー。東京観光来たばっかりなんですけど、お昼どうですか? って誘われちゃった」

「おーう。いやぁ、さすがイケメン様だなおい」


 するとまぁね、何ともさらっと答えてくれたけど、ああそうですか、としか言えない答えが返ってくるではありませんか。

 さらっと「誘われちゃった」って言うけど、ほんと、そんな風に「今日もいい天気ですね」くらいの感覚でそれを言えるの、尊敬するわ。


 そんなことを思ったせいか、俺が少し呆れた顔をあーすに向けると。


「あれ?、焼きもち?」

「なんでだよ! キモイこと言うなお前」


 予想外の答えが返って来たので、俺は思わず全力で拒絶。

 

 ……いや、うん。これなら、まだだいのことを少し気にかけてくれてるほうが、よかったかな……。


「あははっ。ちゃんと待ち人がいるって言って断ったからさっ。ほら、みんなもお昼まだだよね? 僕お腹空いちゃったからお昼食べに行こうよ!」

「おー……って、ええい、やめんかい!」


 と、一通りの話も終わったので、早速あーすが俺と肩を組み、どこかへ向かおうとするではありませんか。

 もちろん俺はその腕を振り払ってね、すぐさま距離を取ったけど、ほんと、うん……はぁ。


 お前と肩組むくらいなら、まだ妹と手繋いで歩くわ。

 ああ早く大和生贄来てくれないかな……!


「あ、あーすさん、行きたいところ、あるんですか?」


 だが、歩き出そうとしたあーすの腕を俺が振りほどくことで足が止まったため、そこで久々に俺の後ろにいたままだった真実がひょこっと顔を出し、声を出した。

 あ、あれかな? やっと目があーすに慣れてきたのかな?

 でもそんな緊張する必要ある奴じゃないからね?


「時間も時間ですし、駅構内は、混んでそうですけど」


 そして目的地を告げていなかったあーすへ、真実に続きゆきむらも尋ねる。

 実際集合だけ決まってて、どこ行くかなんて全く決めてなかったけど、とりあえず昼食うにしても、たしかにゆきむらの言う通り丁度昼時の東京駅じゃ、どこ行っても混雑はしてそうだよな。


「行きたいお店は決めてないけど、せっかくの東京観光だからね!」

「いや、だからどこに――」

「ほら、僕らゲーマーでしょ?」

「え、ええと? つまり……?」

「となれば!」

「早く言ってくださいよ」

「いざ秋葉原だよっ!」

 

 あー……なるほどね。

 せっかくの東京観光組は真実も一緒のはずだけど、今の主賓はあーすのようで。


 こうも堂々とね、行きたいところを宣言されては、迎えにきたチームも反論はなし。


 と、いうことで。


 半ば押し切られる形とはなったが、俺たちはあーすが行きたいということで、14時の集合までの時間を秋葉原へ行って昼食を取ってから、その後少しだけ秋葉原を散策することに決定。

 まぁ俺も代案があるわけじゃないし、秋葉原なら、総武線で本番の集合場所まで一本だしな。

 そんなに悪い場所ではないと思うんだ、けど。


 秋葉原かー……。


 脳裏に浮かぶ、あーすと同じくらい、人目を惹きつける力を持った人物。


 まぁ、休日で人も多いだろうし、こんな日は引きこもってるだろうから、ばったり会ったりは、しないよな。


 そんな一抹のささやかな不安を胸に抱きつつ。

 諦めずに小さめのキャリーケースを引く手と反対の腕で俺と肩を組もうとし続けるあーすを何度も何度も振り払うという小競り合いをしながら、俺とあーすを先頭に、後続に真実とゆきむらを引き連れて、東京駅を出発し、一路秋葉原へと向かうのだった。








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以下作者の声です。

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 現れたイケメン、照れて素を出せない妹、いつもと違う様子の武士、この交わりが行く先で待ち受けるものとは。

 そこにあるのは希望か、絶望か。

 次回『オフ会から始まるワンダフルライフ』第279話『ゼロやん死す(嘘)』

 次回もサービス、サービスぅ!


 ……あ、何でもありません、タイトル含めてただの悪ノリです(反省)


 あーすは書いてて楽しい子ですね、ほんと。

 色々とオフ会2日目の予告と、次回へのフラグのようなものが立ったのか立たないのか。

 立たせておいて折るというのも一つの手ではあるんですが。笑


 ……ちなみにうちのPCは「一つ」とか「夢」とか変換したいときに、登録のせいで「Hitotsu」と「Yume」が先に出てくるので、よく間違えそうになります。

 単語登録、お気を付けください。

 

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 本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。停滞を重ねつつも掲載しております。

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