第277話 人懐っこいのは人生の武器かな

「ゆっきーさんとあーすさんって、どんな人ー?」

「ん? そうだなぁ……」


 中野駅で中央線に乗り換えて、たまたま空いてた席に真実と横並びに座り、現在東京駅へ移動中。

 何気ない感じで真実が俺にゆきむらとあーすについて聞いてきたけど、さて、どう答えたもんか。


「ゆきむらは……一言で言えば天然で、あーすは……イケメンかな」

「ほうほう」


 色々考えたけど、とりあえず俺が伝えたのは、とりあえず当たり障りないと思われる答え。

 争奪戦の話なんかできるわけないし、正直ゆきむらがどんな子って言われてもね、最近のあいつの暴走を思い出すと、俺もよく分からないって感じだからなぁ……。

 とりあえず今回は、冷静でいて欲しいんだけど。


 そしてあーすはね、見た目は俺らの中でも圧倒的だからな。そこらへんは写真見せた時にも真実もカッコいいって言ってたから分かってはいるんだろうけど。

 でもさすがにあーすの性癖は……プライバシー的に言えない、よね。


「で、ゆきむらは真実の1個下で、あーすがだいとタメかな」

「あ、菜月さんと地元一緒とかって言ってたよね」

「そうそう。中学であーすが大阪行っちゃったみたいだけど、元々はクラスメイトなんだって」

「すごー。美男美女のいるクラスだなー」

「そうなぁ」


 でもその辺のくだりは、だいにとってあんまいい思い出じゃないからね、あんまり詳しくは教えない。

 だいが話したいと思えば話せばいいだろうし。


「ま、先生なろうってやつらだからさ、多少変わってても悪い奴らではないよ」

「あはは、たしかに。ほんと先生ばっかなんだなー」

「自分もなっとけばよかったか?」

「んー、私には向いてねって」

「やりたいって思う気持ちがあれば、あとはなってからでもなんとかなると思うけどな」

「まず免許がないし?」

「うむ。そこだな」

「教育学部にすべきだったか」

「ま、その気なったら考えてみればいいべ」

「んだね~。それが先か、上京が先か……」

「ん?」

「んーん、何でもないっ」


 とまぁこんな感じで兄妹での会話をしてる間にも、着実に電車は進んでいく。

 

 でも、会ったら会ったで何話そうかな、あいつらと。

 ほんと、先が見えないメンバー構成。期待するのは、真実と二人のいい感じの化学反応、か。


 そんなことを思いつつ、俺は何やら隣で考え事を始めた様子の真実をそっとしておきながら、約束の場所で待つであろう二人を加えたメンバーでの会話をシミュレーションしつつ、時を過ごすのだった。






 11時49分、神田駅を過ぎ、あと1駅で東京駅に到着する、そんな時。


神宮寺優姫>北条倫『こんにちは。東京駅に着きました』11:49


 ポケットに入れたスマホの振動に気づいた俺が取り出し確認をすれば、どうやら少しだけゆきむらの方が早く着いたようで、その旨を告げる連絡が。


「ゆきむら着いたって」

「おお。律儀だね、これから合流なのに連絡くれるなんて」

「そうだ、な……っと」

「んー?」


神宮寺優姫>北条倫『銀の鈴ってどこでしょうか・・・』11:50


 っと、いや違う。これはあれか、救難信号か!

 ええと、いや俺だって東京駅構内の説明はそう簡単に出来ないし、看板見て進めって言っても、あのゆきむらだ、乗り換えくらいなら出来ても移動は危険かもしれない。


「どしたの?」

「いや、待ち合わせ場所わからんっぽい」

「あら」


 と、なると。


北条倫>神宮寺優姫『何線できたんだ?』11:51


 こうなったらさ、動かないでいてもらう方が、救助しやすいよね。

 そう思った俺はね、とにかくゆきむらの質問を無視しつつ、現在の場所を確定させることに。

 どう考えても、うろうろされるゆきむらを探すよりね、こっちから行った方が早いだろうし。


神宮寺優姫>北条倫『上野東京ラインです』11:51

北条倫>神宮寺優姫『そこにステイだ』11:52

神宮寺優姫>北条倫『来てくださるんですか?』11:52

北条倫>神宮寺優姫『うむ。行くから待ってろ』11:52

神宮寺優姫>北条倫『お手数おかけします』11:52


 よし、これであとは向かうだけ、だな。


「ゆっきーさんどこだってー?」

「上野東京ラインらしい」

「じゃ、まずそっち?」

「だな」


 ちょうどよく俺たちの電車も到着したので、まず目標はゆきむら救出。

 そのクエストをオファーした俺たちは、とりあえずさっさと達成すべく、中央線のホームから上野東京ラインのホームを目指すのだった。




 そして、およそ5分後。


「あ」

「ん? どしたの?」

「いた」

「え、どれー?」

「ほら、あのスラッとした黒髪の子」

「わっ、美人さんだっ」


 上野東京ラインのホーム中ほどにて、俺と真実は少し先にいるゆきむらを発見。

 そのゆきむらに気づいた瞬間、思わずちょっとドキリとする。

 なんでかって?


 いや、うん。ゆきむらの奴、今日は白のワンピース姿なんだよね。

 いつもはTシャツにパンツスタイルが多いのに、今日は珍しくというか、初めて見るゆきむらのワンピース姿。

 さらさらとした黒髪、透き通るような白い肌、ホームに吹く風を受けてゆらゆらと揺れる裾、まるで絵画から出てきた令嬢のようで、なんともまぁ絵になっているではありませんか。


 うん。正直に、可愛い。


「あ、こんにちは。すみません、お迎えに来てもらってしまって」

「いや、別に大丈夫、だよ」

「むむ? 私の顔に何かついてますか?」

「いやっ、何でもない! うん、今日もいい天気でよかったな、ははっ」

「むむ?」


 そして俺らがゆきむらの方に近づくと、律儀に立ち止まったまま辺りを窺っていたゆきむらも俺ら、というか俺に気づいたようで、こちらの方に歩を進め、挨拶をしてきてくれた。

 でもやはり見慣れない姿だからか、可愛いと思ってしまった脳のせいか、俺は少し自覚できるレベルにキョドってしまった気がするね。

 そんな俺にゆきむらがいつも通りのぽーっとした視線で見つめてくるけど、何だろう、ちょっとドキドキしてしまいます。


 いや、こんな子が先週はあんな大胆発言してきたとか、ちょっとほんと、ギャップすぎるだろ……!


「初めましてっ。〈Hitotsu〉こと真実ですっ。いつもお兄ちゃんがお世話になってますっ」

「あ、始めまして。神宮寺優姫、ゆきむらです……」

「あれ? どうかしました?」


 今もし俺がゆきむらと二人だったら、ちょっと何とも言えない空気に包まれそうだったけど、今日は真実もいるからね。

 真実がゆきむらに話しかけてくれたおかげで、ゆきむらの視線から外れることに成功。


 いやぁ……装備服装でこんなに被ダメイメージ変わるんだな。あぶねぇ……。


 ちなみに俺から視線を外したゆきむらは、今度は真実をじっと見つめてるんだけど、どうしたんだろう?

 内心の安堵を覚えつつ、俺が真実ともども不思議そうな顔をゆきむらに向けていると。


「ゼロさんに似て可愛いですね、いっちゃんさん」

「は?」

「あははっ、ゆっきーさんもすっごい美人さんでびっくりですよっ。ほんと、お兄ちゃんは仲間に恵まれてますっ」


 いやいや、何普通に返しとんねん!

 俺に似てる、その点はまぁうん、別にいいけど、似て可愛いってどういうことじゃ。

 なんで俺もそのくくりに入ってんのさ。


「菜月さんも超美人さんだったし、いいなぁ。私もお二人みたいに美人に生まれたかったです」

「菜月さん……あ、だいさんは、そうですね。私も羨ましいです。でも、いっちゃんさんも可愛いですし……羨ましいですよ?」

「え?」


 と、俺が何を言ってんだこいつ的にゆきむらを見ていると、今度は真実とゆきむらによる褒めの応酬が発生。

 まぁだいが美人っていうのはね、鼻高々に認めるけど……ゆきむらのやつ、どこ見てんだ?


 真実の顔を見ていたと思えば、今度はゆきむらの目線がなぜか少し下に下がり、ちょっとだけ、ほんのわずかに唇を真一文字にするくらいに、どこか少し不満げなような、嫉妬するような雰囲気に変化。

 その視線を俺が辿ると……あ。


「菜月さんと比べたら殺すよ?」

「いやっ!? えっ!?」

「ゼロさんは巨乳美人さんがお好きですもんね」

「おいっ!? ゆきむらさんっ!?」

「むぅ。この変態っ」

「いやいやいやいや、誤解誤解誤解誤解っ!」


 真実が着ている水色のブラウスの胸元の、それなりの膨らみ。

 

 って思ってない、思ってないから!

 「真実>ゆきむら」とか思ってないから!

 それに巨乳が好き、ってのは、全世界の男の共通項だし!?

 

 だからほら、そんな笑顔で「殺す」とか言うな妹よ!?


「ごめんなさいね、こんな兄で」

「いえいえ。ゼロさんにはたくさんお世話になっておりますから」


 そんな、必死に焦る俺をよそに、4,5歳下の女性たちによる会話が続くけど……いや、いきなりこれ!?

 この展開なの!?

 なにこれ、うわ、疲れそう……!


「っと、もう12時になっちゃいましたし、あーすさんもう着いちゃったかな?」

「あ、そうですね。そういえばあーすさんを迎えに来たんでしたね」

「いや、忘れてやるなよ……」


 ほんとね、この先ここにあーすが加わったらどうなるんだろうか?

 

 先が思いやられるって、今この時のための言葉なんじゃないでしょうか?


「じゃ、行きましょっ」

「はい。行きましょういっちゃんさん」

「あ、いっちゃんでいいですよっ。私と1個しか違わないですし、ギルドだとゆっきーさんが先輩なんですから」

「むむ。では私のこともゆっきーでいいですよ。敬語も不要です。人生においては、いっちゃんさ……いっちゃんが先輩ですので」

「そう、ですか? じゃ、ゆっきー行こうっ」

「はい、いっちゃん行きましょう」

「私にも敬語いらないけどねっ」

「それは……ちょっと難しいです」


 だが、一人内心のため息エンドレスの俺を置いて、早速仲良くなった様子の真実とゆきむらが歩き出す。

 しかしあのゆきむらとこうも簡単に打ち解けるとは、我が妹ながら恐ろしいな。まぁ昔から人懐っこい奴ではあるけどさ。


「ほら、お兄ちゃん置いてくよっ」

「ゼロさん、行きましょう」


 そんな二人を眺める俺に、少し先に行った二人が振り返って手を伸ばす。


「はいはい、じゃ、あーす捕まえにいきますか」


 その手を取ったりは、しないけど。


 俺は二人に続いて歩き出し、快晴の陽ざしが差し込む上野東京ラインのホームから、もう新幹線が到着し、待ち合わせ場所に移動しているであろうあーすを迎えに、3人で移動するのだった。








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以下作者の声です。

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 まずはゆきむらと合流。

 そしてあーすが加わり……いやぁ、何が起きるのか……。


 最近ちょっと書く時間が減っていて更新ペース下がってます。

 頑張ります(2021/2/5現在)



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 本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。3作目となる〈Yuuki〉が掲載されております。

 ゆるーく更新していきます。

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