第274話 様々な戦果
〈Gen〉『ジャックの方は、まだ終わってないみたいだなw』
22時17分、コンテンツをクリアし、俺たちが排出された先は突入時と同じエリア。
そこにはまだジャックたちの姿はなく、これから突入するのだろう、見たことあるようなないようなのプレイヤーたちがいたりするくらいだった。
〈Soulking〉『あっちの方が火力ありそうだったけどねー』
〈Zero〉『まー、ボス戦はほんと盾次第だからなー』
とりあえずいないということは、まだきっと戦闘中なのだろう。
わざわざギルドチャットで話して向こうの集中に水を差すのもあれなのでね、俺たちはそのままそのエリアに留まり、今日の振り返り、というかほぼほぼ雑談をスタートした。
あ、ちなみに今回は武器のドロップはなし。
うん、ロキロキのビギナーズラックというか、新加入ボーナス的なドロップあるかとちょっと思ったりもしたけど、ロキロキ自体が初でもなかったんだし、そんなことはなかった。
って、そもそもそんな初挑戦ボーナスとかの設定なんてなく、ただのイメージなんだけどね。
〈Gen〉『あーすがうまく立ち回れてるかどうかかw』
〈Zero〉『あーすもだけど、ゆきむらと大和がうまく噛み合ってるかどうかも、かな』
そして話題がジャックたちのパーティについてに切り替わるが、ジャックたちのパーティが勝てるかどうかがあーす次第というのは間違ってないと思う。
アタッカーを活かすには盾がしっかりタゲをキープして、アタッカーが全力を出せるようにするのはLAの基本だし、向こうのアタッカー陣は普段からキングサウルスを余裕で倒してる面々だからな。
だからこそ、あーすがその火力相手にタゲを奪われないか、そして奪われてしまった場合、サブ盾役のゆきむらと大和がそこをうまくフォローできるかが重要だろう。
俺がパーティリーダーをやるなら、もしあーすがタゲ取られたら、サブ盾1番手には大和を指名するね。
刀使いよりも格闘使いの方が装備の関係でHPは多いし。
〈Zero〉『大和はアタッカー装備より盾寄りの装備が充実してるから、もしあーすがタゲキープできない時にゆきむらがヘイト抑えて、大和とあーすでタゲシーソー出来てるかどうかもあると思う』
ってこと。
復帰して間もない大和はまだアタッカー装備を最新のものにし切れてないのもあるけど、元々1回目の引退前から盾寄りの装備の方揃えるのが好きそうだったからな。
ここら辺は、性格だろうな。
〈Loki〉『ゆっきーさんアタッカーとしてもかなりいい装備してますよね!』
〈Zero〉『うむ。ゆきむらは気合入ってる』
〈Gen〉『本気度なら、ジャックは当然としてゆきむらも高いからなw』
〈Soulking〉『そだねー』
そう、そして性格的、なのかは知らないけど、日本一の兵の名を関するゆきむらはアタッカー寄りの装備を揃える傾向があり、バザールでかなり高額な火力底上げ用のアクセサリー装備もけっこう揃えているのだ。
刀と格闘、両方サブ盾も出来る武器ではあるが、これをメインで扱ってるメンバーがそれぞれ違う方向性なのがね、うちのギルドの強みだと思うよ。
〈Daikon〉『ゆめも』
〈Hitotsu〉『あ、そうなんですか?』
〈Daikon〉『うん。スキル上げサボってるけど、ゆめも装備しっかりしてるよ』
〈Loki〉『そうなんすね!今度見せてもらおうかな!』
と、誰の装備が凄いか、なんていう話題になった時、珍しくもだいがこの雑談に加わってきた。
でも、ほほう……。
ゆめの装備とか、いつぞや見せてって言って『恥ずかしいからやだ!変態!』って言われて断られて以来、見せてって頼むこともなかったけど、そうだったのか。
……ってそうか。言われてみればたしかに新しいコンテンツ実装されても、ゆめが足引っ張ったことってないな。斧は基本性能で命中が低めだけど、そこで悩んでることもなかったし、何でかってたら装備揃ってるから、だよな。
なるほど……。
「知らなかったわー」
と、そこでせっかく近くにいるし、もうモニターに集中する必要もないからね、俺は椅子を回転させてだいの方に振り返り、ログの続き的に話しかけてみた。
「元々ゲーマーだしね。ぴょんと仲良くなってからはおしゃべりメインみたいになってるけど、おしゃべりしつつもゆめはアクセサリーの製作スキル上げて、作ったもの売って金策して装備集めたりしてるし、頑張ってるのよ」
「そうだったんですねっ」
ほうほう。いやぁ、全然知らなかったな……!
ギルド加入して間もない真実はいざ知らず、もう年単位で付き合いのある俺ですらそんなこと知らなかったぞ。
「元々ギルド入ってきた時から、それなりに装備整ってたからね。ソロで出来ることコツコツやるのは嫌いじゃないみたいよ。装備の相談もたまにしてくるしね」
「そうだったのか」
「うん」
「ぴょんさんは?」
「ぴょんは……普通、かな」
「あ、そこはイメージ通りなんだ」
「そうね。ぴょんはコミュニケーションツールとしてLAやってるってとこが、大きいんだと思う」
「そこは人それぞれだからな」
「うん。私はもそれはそれでいいと思う。楽しみ方はそれぞれだし」
「MMOの醍醐味ってやつですねっ」
「そうね。そういう意味だと、うちだと大地くんがぴょん寄りよね」
「そうなぁ。あーすは可愛い装備取りくらいか、本気出すの」
「そうなんだー」
「でも、言われたことはちゃんと頑張ろうとするよね、大地くん」
「あー、それはそうだな。……考えたり調べたりするのサボってるだけな気もするけど」
とまぁ、俺が話しかけたところから少しだけ改めてギルドメンバーについての話になったけど、だいってほんと、よく見てるなぁ。
うん、LA上じゃ全然喋らないけど、喋らない分みんなのこと観察してるのかもしれないな。
言われてみればって分析、多いしな。
「あ、出てきたけど、あちゃー」
「あら……」
「ん?」
そんな会話をしていた間に、どうやらジャックパーティが排出されてきた模様。
でもなんだか歯切れの悪い雰囲気の二人に、俺が視線を自分のモニターに戻すと、そこには。
〈Gen〉『失敗かw』
ジャックたちが出てきた直後、ジャックたちには聞こえないように
〈Pyonkichi〉『くそーw』
〈Jack〉『負けちゃったーーーーw』
〈Yukimura〉『不覚・・・』
〈Earth〉『ごめんねー;;』
〈Senkan〉『いや、俺もすまん!』
〈Yume〉『殺るか殺られるか編成だったね~。やられちゃった~』
その死屍累々の光景を前に、嫁キングと真実が地に伏せたメンバーたちへ順に蘇生魔法を唱える間、
ゆきむらが落ち込み、あーすと大和が謝ってるから、やはりタゲキープのとこで失敗があったってことか?
〈Gen〉『おつかれw』
〈Soulking〉『きつかったー?』
〈Jack〉『やーーーー途中まではいい感じだったんだけどねーーーーw』
〈Jack〉『6人突破はゼロやんありきだったなってわかったよーーーーw』
〈Zero〉『ほお?』
〈Loki〉『回復対象4人っすもんね!』
〈Jack〉『そそーーーーw』
〈Jack〉『誰も死ななきゃいけたかもしんないけど、誰か落ちたら立て直せないやーーーーw』
〈Gen〉『なるほどw』
〈Zero〉『落ちたのはあーすか?』
〈Earth〉『最後はみんな落ちたよ☆』
〈Zero〉『あ、違うのか』
〈Yukimura〉『申し訳ありません、私が』
〈Senkan〉『ゆめの火力にタゲがふらついたw』
〈Yume〉『いつも通りやってたんだけどね~』
と、それぞれが色んなこと言ってくれたが、結局のところ敗因はやはりあーすがタゲをキープし切れなかったところから始まったらしい。
そしてさらに話を聞いていけば、中ボスまでは時間はかけつつもテンポよく進行したが、ボスであるキングサウルス戦で失敗してしまった模様。
展開としては連撃を開始できる硬直スキル持ちが3人という状況を活かし、テンポよく連撃を放ってたみたいだけど、そのテンポの早さにあーすのタゲを取るためのヘイト上昇スキルのリキャストが間に合わなくなっていったらしい。
そしてふらついたところで、ゆきむらと大和がそれぞれヘイトを上昇させようとするスキルの発動がかぶり、安定せず。
その結果いつ自分に攻撃くるかが分からない状況になり、ゆきむらと大和は攻撃を捌けず被弾が増え、結果回復が追い付かなくなり、まずゆきむらが沈んだらしい。
まぁ大和とゆきむらじゃHPの量も違うし……たぶんあれだな、ぴょんは大和の回復に寄ってたんだろうな、気持ち的に。
で、ゆきむらが沈んだ後、ジャックがタイミングを見計らってゆきむらを蘇生させるも、起き上がるタイミングと範囲攻撃のタイミングがかぶってしまい、ゆきむらが再び死亡。
蘇生魔法は消費MPが多いから、そこでジャックのMPが不足気味に。
それでもしばし5人で粘って戦っていたものの、じわじわと全員のMP切れが進行し、ついに範囲攻撃の被ダメを回復しきれずゆめ、大和、あーすの順に死亡。
そして前衛が全員沈んだので、後衛の二人はもう為す術なく、全滅したとのこと。
もしアタッカーの一人がガンナーかアーチャーだったら攻撃阻害もできたし、被弾もないのでMPに余裕が出来たかもね、というのが総括的なジャックの反省。
いやぁ、ついに
〈Gen〉『ま、失敗から学ぶことは多いからな!w』
〈Jack〉『また違う編成考えるねーーーーw』
〈Gen〉『各々精進せよ!w』
〈Loki〉『うす!』
〈Yukimura〉『はい』
〈Hitotsu〉『頑張ります!』
〈Soulking〉『勝てた側ばっか返事してるw』
〈Earth〉『頑張るぜい☆』
とまぁね、そんなこんなで、今日の活動もだいたい終わり。
となれば、残る会話は。
〈Pyonkichi〉『ま、今日の本題はこれじゃないからな!』
ですよね。
うん、分かってた。君にとってはそうだよね。
リダの精進についてはノーコメントなあたり、ほんとぴょんさん、流石っす。
〈Pyonkichi〉『明日の集合について、ジャック!』
〈Jack〉『14時に千葉駅のみどりの窓口でーーーーw』
ほほう。14時か。だとすると、朝もけっこう余裕あるな。
あ、あれか。あーすが遠方からだから、気を遣ったのかな?
〈Pyonkichi〉『遅刻禁止な!』
〈Yume〉『さっきの戦闘も今くらい張り切ってほしかったんですけど~w』
〈Senkan〉『まったくだw』
〈Pyonkichi〉『人には、輝く時と磨く時があるのさ・・・』
〈Yukimura〉『戦闘中に磨いていたとは・・・御見それしました』
〈Gen〉『ゆっきーwww』
〈Earth〉『14時なのかっ☆』
〈Earth〉『誰か早く来れる子いるかなー?』
〈Earth〉『東京駅に12時に着いちゃうぜ☆』
〈Yume〉『ん~、わたしはゆっくり準備したいな~』
〈Pyonkichi〉『同じく!』
ふむ。あーすに気を遣ってかゆっくりだと思ったけど、まさかのあーすが早いパターンか。
俺は別に準備なんかないけど……。
だいをつれてあーすと会うのは、うーん、俺の一存だと決めれないかな……!
「どうするー?」
「私は大丈夫だよっ」
「だいは?」
「そうね、私も早く行っても平気。今回は会っても前みたいにはならないだろうし」
「前?」
「じゃ、人助けしに行くか」
返って来ただいの返事は、思っていたよりも不安を感じさせない声だった。
それに対して真実が疑問を抱いたみたいだけど、真実は宇都宮の時いなかったから、その意味を理解できないのはしょうがない。
あとで説明してあげるとしよう。
〈Zero〉『じゃ、12時に東京駅行くよ』
〈Hitotsu〉『行きます!』
〈Pyonkichi〉『おー、さすが!』
〈Yukimura〉『あ、ゼロさんたち行くんですか? なら私も大丈夫ですよ』
〈Yume〉『ならw』
〈Senkan〉『じゃああーす救援は倫たちに任せるかw』
〈Pyonkichi〉『ロキロキはー?』
〈Loki〉『えと、俺明日11時まで部活なんで、14時で!すんません!』
〈Loki〉『それっぽい大所帯見つければいいんですよね?w』
〈Pyonkichi〉『あたしを筆頭に美男美女揃いだから、たぶんすぐわかるぞ!』
〈Soulking〉『自分で言ってるっwww』
〈Gen〉『ま、せんかんも目立つしなw』
〈Yukimura〉『黒くて大きいですもんね』
〈Pyonkichi〉『目印遅刻禁止な!』
〈Senkan〉『はいはいw』
〈Pyonkichi〉『では、各自明日に備えよ!お泊りだからな!着替え忘れんなよ!』
〈Yume〉『先生みた~いw』
〈Zero〉『前日の念入り確認は職業病だなw』
〈Loki〉『楽しみっすw』
〈Gen〉『今回も報告待ってるぞw』
〈Soulking〉『楽しんできてねっ』
〈Jack〉『掃除しておくねーーーーw』
と、いうことで、明日の流れも確認完了。
あーすの救援の関係で俺とだい、真実とゆきむらは12時からの0次会から。
いやぁ、ちょっとこのメンバーでの会話、想像つかないな。
だいとあーすの化学反応とか、あーす自身のこととか、ゆきむらの暴走とか、考えればちょっとした不安要素はキリがないけど、これまでも何とかなってきたんだし、きっと大丈夫。
何だかんだ色々あっても終わってみれば楽しいのがオフ会だったしな。
今までもそうだったし、きっと今回もそうだろう。
真実も楽しんでくれればいいな、ほんと。
「明日も楽しみだな」
「うん、そうね」
「楽しみっ」
俺がそんなことを思いながら、パーティを解散して各々ホームタウンに戻って行くギルドのメンバーたちを見送り、俺たちも戻ってログアウトして寝るかなーと思っていた矢先。
〈Loki〉『あ、だいさんちょっといいすか!』
みんなが解散していく中で不意に現れた、ロキロキからの
ロキロキがだいに? なんだろ?
〈Daikon〉『はい?』
〈Loki〉『明日くもんさんと会うじゃないすか!』
〈Daikon〉『そう、だけど』
〈Loki〉『その前にだいさんの装備見てみたいっす!』
〈Loki〉『戦闘中けっこう細かく装備変更してたみたいですし!』
〈Daikon〉『あ、よくわかったね』
〈Loki〉『俺も本職ロバーですし、見てれば分かりますってw』
〈Loki〉『予想以上に強い方だったんでほんとびっくりしましたw』
〈Daikon〉『そ、そう?』
〈Loki〉『はいwで、俺の方で装備情報まとめてみるんで、明日くもんさんの意見ももらいながら、いい装備検討しましょ!』
〈Daikon〉『分かった。私も勉強させてもらいたいから、ギルドハウスに行くね』
ほほう。なるほど、同じ武器使いとしての情報交換か。
いやー、リダとあーすでそんな光景見たことないけど、やる気ある奴ってのは違うねー。
でも意外とあっさりOK出したな、だいのやつ。
今までだったら、大したことないよって言いそうな感じだったのに。
やっぱあれか、これもロキロキの見事な活躍のおかげかな。
なんというか、始める前は勝手に劣等感を覚えて気まずそうな感じだったのに、今じゃちょっとした尊敬っぽいもんな。
あれだけだいが褒めるというか、賞賛するって今までなかったし。
しかもあれでロキロキは本職じゃなかったわけだしね。
きっと勉強になることだろう、うんうん。
こうやって色んな奴と仲良くするのはね、いいことだよね。
うん、いいことだ。
「じゃ、俺風呂の準備してくるな」
「あ、うん。ありがと」
「お兄ちゃん私も手伝うよっ」
いいこと、なんだけどな。
そう思って〈Zero〉をホームタウンへ移動させてから、俺は席を立つ。それに合わせて真実も立ち上がって、一度大きく伸びをする。
だいだけは、座ったまま。
だいが他のメンバーと仲良くするのは、いいことのはずなんだけど。
なんだかうまく言葉に出来ないけど、なんだろう、LAのことで俺以外を頼っているだいを前に、ちょっとだけよく分からない感覚が、なぜか俺の胸にあるのだ。
少人数トライも無事に成功させ、明日はオフ会。楽しい気分のはずなのに。
俺が風呂の方に向かう際、ちらっと見ただいは、何だか少し楽しそうだった。
ネガティブになられるよりは、全然いいことなんだけどね。
仲良くしてほしいとは思ってたはずなんだけどね。
うーむ……なんだろうか、この感じは……。
「どしたのー?」
「何でもないよ」
そんな俺の違和感に、真実が不思議そうな顔を見せてくるけど。
ううむ、ちょっとした子離れみたいな寂しさ、なのかな。
LAの中でだいと二人で何かするのは、基本俺だけだったから。
でも大人数のプレイヤーがいるMMOにおいて、これは普通のことなんだ。
俺だってだい以外の奴と何かすること、普通にあるし。
うん、今までなかっただけで、これは一般的には普通のこと。
でも、うーむ。
真実と一緒に簡単に風呂を洗って、風呂を沸かしながら。
俺はちょっと何ともいえない感覚と、一人向き合うのだった。
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以下
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(宣伝)
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