第11章
第266話 学校は今日も平和です
「悔しいっす!」
「いや、でもほら、生徒会特別賞はもらえたじゃん?」
「えー、でもたぶんそれ、市原さんの可愛さのおかげじゃん?」
「たしかに市原さんは可愛かった!」
「ま、最優秀賞はいつも3年だしさ、最後なんだし、その花道は今年は譲っとこうぜ?」
「来年もこのクラスで文化祭やりたいねっ」
9月15日、火曜日の午後2時半過ぎ。
日曜と月曜の代休を挟んで迎えたこの日、星見台高校は祭りの余韻を残しながら、午前中に全校で文化祭の片付けをし、昼休みを挟んだ午後、文化祭閉会式を行った。
閉会式では各クラスや部活動、有志団体など全団体の企画に対する表彰が行われ、我が2Eは残念ながら最優秀賞は逃したものの、生徒会役員のみが選ぶ生徒会特別賞を受賞した。
この結果に台本を考えた山中は少し悔しそうだけど、それ以外の生徒は、それほどでもなさそう。
まぁね、千秋楽たる一般公開の午後公演で、担任負傷でラストシーンカットという結末になったんだからしょうがない、って、俺が言える立場じゃないんだけど。
最優秀賞は3年A組の企画だった英国カフェが選ばれたんだけど、賞を取るだけありたしかに内装や衣装のレベルが高く、SNS映えが際立ってた点が評価されたらしい。俺も市原やらのみんなと校内回ってる時に覗いたけど、たしかに異彩を放つくらいね、気合入った内装だったもんな。
贔屓目に見て俺たちもよく頑張ったとは思うけど、うん、夏休み中からずっと動いてた上級生たちと比べたらね、至極真っ当な評価だと思うよ。
俺たちのもらった賞は、十河も委員長の谷本も言ってるけど、生徒会役員に市原ファンがいるからだと俺でも思うし。
ちなみに今日俺が教室いくや否や、いつもはすぐに近づいてくる市原や、最近近づいてくる十河を抑え、いの一番に俺のとこにやってきたのは谷本だった。
俺に怪我させた負い目を感じてたからだろうけど、土曜日にも大丈夫だよって言ってたのに、改めて「大丈夫ですか!?」って言ってくるもんだからね、ほんと思わず笑ってしまったよ。
もちろんまだ傷にはガーゼ貼ってるから、ザ・怪我人ってアピールはどうにもならんのだけどね。
「私も来年もこのクラスがいいなー」
「俺もっす!」
「私もっ」
「俺も俺もっ」
で、現在は閉会式を終え、教室に戻ってホームルームの時間なんだけど、教室に戻ってくるや自分の席につきながら、色んなことを言う奴らの中で市原が「来年もこのクラスで」的な発言をしたからか、合わせて十河や谷本やらみんなも合わせてそんなこと言ってくる。
いやぁ、うん、途中どうなるかと思ったけど、結果的にクラスはまとまったみたいだし、万々歳だな。
元々市原や十河のグループはほとんど会話もしなかったけど、今じゃすっかり仲良くなってるし、行事はこうして生徒の変化の機会になるから、いいものだ。
「あー、みんなの意見は覚えとくよ」
「ほんと!?」
「いや、まだクラス替えするか決めてないしさ。俺としても3年で初担任の生徒持つよりは、分かってるメンバーの方が進路指導とかも楽だからな」
あ、ずるい大人ですみません。
でもね、やっぱ話しやすい間柄の方がね、進路決める最終学年は、生徒にとっても楽だろうね。
もちろん、全員が全員俺と相性がいいってわけでもないんだろうけど。
俺はクラス替えなし派で学年に意見言っておこうっと。
「とにかく、みんなで文化祭やって楽しかったな」
「ねっ!」
でも今は、とりあえず来年のことはよしとしよう。
席に座るみんなが、1年間の中で大きなイベントの一つを終えたばかりのみんなが、いい表情を見せているから。
こういう時はなぁ、やっぱこの仕事やっててよかったと思うなぁ。
「あ、そうだ、先生!」
「ん? なんだ谷本」
と、俺がしみじみと感慨深く文化祭の余韻を感じていると、なぜか颯爽と手を上げた谷本が声を上げる。
いや、別に今何も発言求めてないんだけど、なんだ?
「結婚式はいつですか!?」
「はあ!?」
いやいやいやいや、どんな脈絡!?
そんな話題の様子、欠片もなかったよね!?
え、何、どうした!?
だが、その質問から今日一番のざわつきを見せる我がクラス。
それは閉会式で賞をもらった時の数倍のざわつき。
いやいや、そんな予定まだないけど!?
「いやぁ、先生の彼女めっちゃ美人だったなー」
「ずるいっすよマジで!」
「しかも見た? 超巨乳だったよ!?」
「え、マジ!? うわ、そこ見逃した!!」
「しかも彼女さんのお友達も美人だった!」
「え、何そのリア充!」
「爆発しろ!」
「ええい、黙らんかい!!」
そして主に男子諸君が口々に思ったことを言い出す始末。
というか爆発しろとか、島田先生かよ、なんてツッコミは置いておいて、俺はそれらを一喝して止めようとする、が。
「うわ、倫ちゃん怪我してた時にどこ見てんのー?」
「男子サイテー」
「引くわー」
と、今度は盛り上がった男子たちへ突き刺すような女子たちの口撃が。
その口撃に、男子たちは一斉に沈黙。
よわっ!
っていうか、いやいやいや、さっきまでいい感じだったじゃん!
え、なにこれ、一瞬でこれ!?
こわっ!
「倫ちゃん結婚するの!?」
「聞いてないんだけど!?」
そして、大半の男子たちに対してドン引きの表情を見せる女子たちと違い、真っ直ぐな視線を俺に浴びせる教卓の前の女子二人。
いやいや、仮に結婚するとして、俺が
どの立場だおい!
「あーもう、まだそんな予定ねーよ……」
「え、まだ!?」
「ってことは、あるの!?」
「別にそこは俺の自由だろ!?」
「異議あーり!」
「そうだそうだっ」
「ああもう、文化祭終わりの雰囲気台無しだなおい!?」
とまぁね、結局は俺に向かって言葉を投げてくる二人に、クラスのみんなが笑うけど、うん、このみんなでわいわいする感じは、文化祭がもたらしてくれた結果なのだろう。
だいのこと多くの生徒に見られたのは誤算だったけど、まぁ止むを得まい。
「明日からはまた平常授業! 部活の奴らは新チームで新人戦も始まるだろうし、中だるみしたりすんじゃねーぞ! あと卒アル候補にしてほしい写真あるやつは、後ろの黒板に書いてあるアドレスに写真送っておくこと! 以上! 解散!!」
今ばかりは、調子乗るこいつらを許すとしよう。
とはいえ、ずっと言われ続けるのもしんどいので、退散はするけどね!
ということで。
2学期スタートから始まった文化祭関連のイベントもこれにて終了。
俺は明日からの生活について一言釘を刺し、足早に教室を後にするのだった。
「あー、つかれたー」
「お、おつかれ倫! いやぁ、色々大丈夫だったか?」
そしてホームルームを終え、部活指導を終えた18時過ぎ、いつものように社会科準備室に俺が戻ると、そこには先客の大和がいた。
ほんと、俺ら以外は定時で帰っちゃうからね、この光景も俺がここに来てから、何回目だろうな。
「日曜はお楽しみだったんですかねぇ?」
「おいおい、質問に質問で返すなよ。でもまぁ、うん、その点についてはありがとうって言っとくかな!」
「ええい、爽やかな笑顔を見せよって」
大和が聞いてきた「大丈夫?」はオフ会でのゆきむらのその後についてだったと思うけど、先に小言を言いたくなった俺はあえてそれについては何も言わず、ぴょんの家に行ったという大和自身のことへと話題を変えた。
そして返って来た、大和の爽やかな笑顔。
うん、その笑顔が全ての答えってことね。
あの日の帰宅、ぴょんは家がそれなりに遠いからけっこう遠かったと思うのに、元気なこって。
こっちはゆきむらに嚙まれた痕隠すのに必死で、クールビズ継続中だってのにネクタイ締めてんだけどな!!
まぁ、俺も昨日はだいの仕事終わりにだいの家に行って、買ってあげたスイーツ持ってって一緒に食べて、二人だけの時間過ごせたんだけどね。
大人の時間を過ごしてる時なんかだいがふざけて反対側も嚙んであげようか? なんて言ってくるおふざけも発生したけど、何、最近噛みつきは流行ってるの? 恐ろしい……。
あ、ちなみに昨日はちゃんとアレは持参しました。
え? ヤル気満々やないかって? ちげーよ、マナーだよ!
「ま、大和たちが幸せそうならよかったよ」
「おー、優しいなぁ倫は」
「いや普通だろ。友達の幸せ喜ぶのは」
「はは、そんなことさらっと言える奴なかなかいねぇと思うけどな」
「でもほんとびっくりだったけどさ。聞いてた話と全然ちげーし」
「いや、だからそれは俺だって同じだって。まさかいきなり好きって言われるなんて思ってなかったし」
「思った以上にぴょんの矢印大きかったんだなー」
「それはあるかもな。でもなんつーかさ、波長は合う気はするかな」
「ほうほう」
「ま、俺らは倫たちと違って知り合って間もないし、まだ知らない面もあるとは思うから、ゆっくりお互いのこと知っていこうと思うよ」
「うん、大和たちのペースでいけばいいさ」
とまぁ、結局ゆきむらのことを話してはないけど、あえてそこに大和が話題を戻さないから、気にしない。
でもほんと、大和とぴょんが幸せそうで何よりだ。
「しかし今週末もまたオフ会とは、ほんと1回辞める前にはこんなギルドなるなんて思わなかったな」
「それなー。その辺さ、ぴょんの存在が大きいよな」
「うむ。俺らもそうだけど、引退したちょんもかもめも、オフ会開こうって言うようなタイプじゃなかったし」
「つーかあの頃、みんながどこで先生やってるかすら話してなくないか?」
「そういやそうだな。二人ともたしか小学校の先生だっけか。話してたのって、そのくらいだよな」
「うむ。でも二人とも女だったし、いたらいたらでほんとかしましギルドだったな」
「ほんと、ゲーマーは男が多いはずなのに、うちはなんでか女ばっかよな」
「条件が条件だし、そう簡単に増えることもなさそうだしなぁ」
「ジャックといっちゃんは例外か?」
「あー、じゃあいっそ教師か公務員のギルドにするとか」
「それなら増えるかも? って、俺らで話してもしょーがねーだろ」
「そりゃごもっとも」
ほんとに、もうちょっと男メンバーがいればね、ゆめもゆきむらも、いい相手見つかるかもしれないのに。
って、それはそれで俺ら何のためにゲームやってるのかよく分からなくなるけどさ。
LAは決してそういう場ではありません。
純粋にゲームを楽しむ場所です。
って、俺が言っても説得力皆無なのは、否定しないけど……!
ゆめにもゆきむらもリアルがあるんだし、まだ若い二人は今後も色んな出会いがあるだろうしな。
うん、特にゆきむらにはあってくれ。マジで。
そしてその後も大和とこんな感じでのんびりとした雑談をしつつ一緒に退勤し、今日は火曜日なのでじゃあまたLAでと別れ、俺は我が家へと帰るのだった。
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以下
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ザ・日常。
会話に何か意味があるのかないのか。
新章スタートはいつもまったりです。
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本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。3作目となる〈Yuuki〉が掲載されております。
ゆるーく更新していきます。
本編の回顧によろしければ~。
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