第259話 叩かれる内が花

「なるほどね~」

「なんだか唐突でしたね」

「仲良さそうだったのにね~~」

「まー、なんつーか高校生っぽいなー」

「悩めるお年頃ってやつか」


 だいぶ長くなってしまったが、俺が大ボリュームで伝えた初彼女との話を終えるや、真剣に聞いてくれていたみんなが口々にそれぞれの感想を言い出した。

 そんな様子に俺は苦笑いしつつ、長く話したせいで乾いた喉を潤すため、自分の飲み物を一口。


 今では思い返すこともほぼないけど、なんというか、ほんとあの頃は引きずったっけなぁ……。


 なんて思ってると。


「なんか……ちょっと聞いたことあるような流れにも感じたけど……」


 まさかのだいの発言に、俺は思わず飲み物を噴きかける。

 え、聞いたことある流れって、え?


「え、だいそれどういうこと~?」

「どなたかのお話ですか?」

「あ、うん。……なんていうか、言葉が足りなかったんじゃないかなって、思ったから」

「言葉~~?」

「うん。私は前にゼロやんに亜衣菜さんと別れた時の話も詳しく聞いたことあったから」


 え、今そこを持ち出すの!?

 てか、え……亜衣菜の時と、似てる?


「詳しくて……すげーな、だい」

「ね~……」

「え?」

「ゼロ様がセシルさんとお付き合いされていたのは聞いてますが、セシルさんと別れた時のお話というのは?」


 俺と亜衣菜の話も聞いたと答えるだいに対してぴょんとゆめが驚き、その驚かれたことにだいがきょとんとするが、ゆきむらはゆきむらでさらにだいの話に切り込んでいく。

 

 なんというか、やっぱそうだよね。

 ぴょんとゆめの反応、そうなるよね。


 我が彼女ながら、恐ろしい。


「あれだよな、倫とセシルのLAに対する本気度のギャップからって話だったよな?」

「あー、その辺の話は昔LAの中で聞いたね〜〜」

「って、あれ? 俺、大和に話した記憶ないんだけど?」

「ふふ、お兄さんはなんでも知っているのだよ」

「いや、なんだそれ……」


 そしてゆきむらの質問に対して答えたのはまさかの大和。

 うーん、いつ大和に話したのだろうか……、まぁ今はいいか。


「うん。ゼロやんと亜衣菜さんが別れたのは、ゼロやんが言いたいことを言わなかったからだと思う。……そうよね?」

「いや、それ本人に聞くかね……」


 そして大和の言葉を補足するように答えるだいだけど、俺に確認取るのはやめてくれ。

 

 でもたしかに亜衣菜の時は、そう思うけど……、うーむ。

 たしかに今思えば色々とカナはどう思ってたんだろう、ってことはあるけど、あの夏、浮気が発覚するまで普通に仲良くやれてたんだぞ?

 上手くいってない感じになってたんだったら別だけどさ……。


「松田さんと会ったお正月から、カナさんは不安だったんじゃないかな」

「そだよね〜、自分が違う学校ならなおさら思っちゃうよね〜」

「そうなー。明らかに彼氏のこと狙ってる女が自分より近くにいるのはやだよなー」

「うん、私ならそう思う。一番近くにいるのは、自分がいい、から」


 そう言ってなぜか少しだけ不安そうに俺を見てくるだい。

 いや、大丈夫だって。俺が好きなのはお前だって。


「だから、もっと向き合って欲しかったんじゃないかな」

「うんうん。バレンタインのくだりも不安煽っただろうね〜。放っておいてって言われて放っておくとか信じらんないし〜」

「うむ。それは俺でも思うぞ」

「むむ、そうなのですか?」

「気持ちと言葉が裏腹になることもあるだろー? 小説読め小説」


 だが、不安そうな顔を見せただいへ俺が大丈夫だぞー、的に視線を送ってる間に、さらにゆめからの追撃が放たれる。

 どういうこと? みたいな表情のゆきむらにはぴょんが対応してくれたのでとりあえず放置だけど……。

 ううむ、でもあの日のカナの迫力は……いや、皆まで言うまい。

 実際それは、俺だってあの日の内に後悔したし。


「たしかにもっとかける言葉はあったかもしれないけど……うーん……」

「ゼロやんはさ~、どうせ笑ってくれてるから大丈夫とかそんな風に思ってたんでしょ~」

「え?」

「始まりは勢いだったっぽいけど、クリスマス頃からカナさん相当ゼロやんのこと好きだったんじゃないかな~」

「だなー。だからそれまでは軽く言えた言葉も言えなくなるってことあっただろうなー」

「うん。バレンタインの日にカナさんが言おうとした言葉、その日聞けなくても聞くべきだったと思う」

「倫は嫌な記憶思い起こさせるのも悪いかな、とか思ってそうだけどな」


 そして始まる俺への集中砲火。


 あれ、この話はゆきむらへの恋愛講義のために始まったんじゃなかったっけ、とか思うけれども、ぐさぐさと突き刺さる言葉たちが、俺へ反論の余地を与えない。


 特に大和の言ったことはその通りで、相手を嫌な気持ちにさせたくない、というのは俺の根本にある部分と言っても過言ではない。

 けど。


「敵を作ることを嫌がるからなぁ、倫は。まぁ気持ちは分からんでもないけどさ」


 またしても大和の言葉が俺の胸に突き刺さるクリティカルヒット

 たしかに俺は松田さんの気持ちを断ったが、それでもなお向き合ってきた松田さんを完全に拒否出来なかった。

 同じ学校のクラスメイトだし、そこの関係が悪化して、それでクラス全体に悪い雰囲気を漂わせるのが嫌だったから。

 でもそれが巡り巡って一番大切だった人を傷つけたとすれば……。


「誰かを選ぶってことは、他を選ばないってことだからね~」

「んで、選ぶからには本気で向き合わないとだぞー」

「そこ分かってないと、また繰り返しちゃうぞ~?」


 と、そこでゆめが隣に座るだいの腕に抱き着きながら、意味ありげに俺の目をじっと見つめてくる。

 

 いや……うん、言い訳はすまい。

 それだけは、避けねばならないから。


「……ご教授痛み入るよほんと」


 でも、こうして言ってもらえるのはみんながいい奴だからなのは間違いない。

 ほんと、いい仲間に巡り合えたな、俺は。


「ええと、つまり結局カナさんは、今皆さんがお話してくださった不安の結果、浮気をされたということでしょうか?」


 そして何となく俺が反省する、という結末で終わりかけたと思った俺の話へ、もう少し延長戦を求めるようにゆきむらが尋ねてくる。

 いや、その答えは俺だって知りたいけど、とりあえずみんなの考え通りなら、そういうことで、俺に繋ぎ止める力がなかったから、ということだと思うんだけど。


「ん~、だからって浮気していいわけじゃないけどね~」

「あれじゃないかな~~、カナさんはゼロやんに怒られたかったんじゃないかな~~?」

「むむ?」

「あー、その可能性もあるなー」

「やり方としてはよくないけど、変わらないゼロやんを挑発したって可能性あるよね~~」

「なるほど、強制的にぶつかって気持ち引き出そうとしたってわけか」

「別れるって言われた時も、追いかけてほしかったのかもね~」


 ふむ……。


 ゆきむらの質問に対する質問の答えとしてジャックが言った言葉を、飲み込んでみる。

 たしかにあの時はカッとなって、カナを叩いてしまったことを後悔したり、悔しさとか悲しさとか、やるせない気持ちでその場に立ち尽くし、もうそれっきりになってしまったけど。


 もしかして俺が追いかけていたら、何か違ったことになっていたのかもしれない。

 その可能性を、俺は否定できなかった。


 そしてそれと同時に浮かぶ、似たような記憶。


「亜衣菜さんも、ゼロやんのお家出てくときに、本当は追いかけて欲しかったのよね」

「う……」

「おいおい、去る者追わずタイプかー?」

「うーむ……」


 奇しくも俺と同じことを考えただいの言葉が、さらに俺の胸をえぐる。

 いや、もう刺さりすぎて穴だらけなんだけど……ほんと、言われてみれば、バレンタインの時だけじゃないんだな……。


「大地くんの話の時も、私が大地くんを選ぶなら自分は引くって言ってたし」

「え、あ……」

「え~、ゼロやんそれは情けなくな~い?」

「結局幸せなれないやつだよなー、それ」


 そしてまだまだ足りぬとばかりに俺へのダメ出しが突き刺さる。

 あれだね、もし点数つけられるなら、俺の過去は0点どころか、って感じだよねこれ!


 あー……情けなくて穴があったら入りたい!


「ふむ……恋愛って難しいのですね……」

「ほら~、ゼロやんのせいでゆっきーが余計頭こんがらがってるよ~?」

「え、俺のせいなの!?」


 そして考え込むゆきむらを見て、笑ってゆめが俺に責任を突きつける。

 いや、そんなこと言われましても……。


「ちなみに」

「は、はい?」

「松田さんは、ゼロ様がカナさんとお別れした後何か動きはあったのですか?」

「え」


 と、俺がどうしたものかと困っていると、さらに俺を困らせることを聞いてくるゆきむらが。

 いや、たしかにゆきむらは言ってしまえばあの時の松田さんと状況が同じ部分もあるし、松田さん側のことも気にするとは思ってたから、聞かれる気はしてたんだけど……。


「お、それはたしかに気になるな」

「今までの交際人数的に、別れたあとに付き合ってはないんだもんね~~」

「あー……うん、そんな関係にはならなかったよ」


 これは、言えない。

 俺の名誉のため、色々あの頃の自分がやばかったせいだけど、これは言えない。

 いや、もう名誉もくそもないんだけど、とにかくこれは言えるわけがない。


 なので俺は、全力で普段通りを装ってみんなに答え続ける。


「ん~? なんか歯切れ悪くな~い?」

「そ、そんなことないって!」

「おいおい、倫は何焦ってんだ?」

「たしかにアプローチはさ、あったにはあったけど、うん。付き合ってないから」


 でも、なぜかみんなは俺の答えに納得してくれない。

 いや、大和だけとかならまだしも、最悪ぴょんとゆめとジャックはよくても、清らかなゆきむらや、何よりだいの前で、言える話じゃないから!


「あ、その焦りようだと~~……もしかしてセ――」

「変なこと言うなああああ!!」


 だが、俺の緊張感をよそに飛び出しかけたジャックの言葉を、俺は全力で止める。

 セで始まる言葉、言おうとするんじゃないよ!!!


「せ?」

「ない! 断じてない!」

「おいおい、なかなかにクズだなー、高校生だったくせに」

「違うってば!」

「嘘が下手だなぁ、倫は」

「だからね!?」

「ドン引きでありま~す」

「いや、笑いながら!?」


 ジャックの言おうとした言葉に、ゆきむらが首を傾げるも、おそらくジャックの発した一文字から察したぴょん、大和、ゆめが悪い顔をして俺を見る。

 そして隣を振り向けば……露骨に顔をしかめるだいの姿が。


 いや違うんだって!

 ああもう、やばいってこれ!

 ど、どうして……どうしてこうなった!?


「可愛い顔してるくせになー、悪い奴だなー」

「それで専門倫理だからなっ。いや、ある意味真実味のある人間を伝えられるのか?」

「傷心に付け込まれたんだろうけどさ~、ないわ~」

「お、俺だって余計後悔する羽目になったよ……」

 

 だが、もうここから取り繕うことなど不可能なので、俺も諦めて顔に手を当てつつ、当時の後悔を口にする。

 いや、ほんと一回だけの過ちだったんだ。

 1と0じゃ、全く違うのは自覚してるけどさ……!


「だいはこれから躾けることいっぱいだな!」

「そうね」

「躾、ですか」


 そんな俺の様子にだいはいたって真面目な顔つきでぴょんの言葉に頷いて見せる。

 ゆきむらは、うん、意味わかってなさそうだからそこはセーフか……!


「ま~~一応彼女なし状態だったから、ギリセーフってとこ~~?」

「ほんと、もうそんなの許されないよ~?」

「いや、分かってるって。ほんと、俺はもうだいだけだから」

「え?」

「おー、さらっと言えるようなったなー」


 後悔したからこそ、もちろん反省はする。

 2度あることは3度あるじゃダメだから。

 そんなの、あってはならないから。


 口々に発せられるみんなからのダメ出し指導を受け、とにかく俺は今の決意を口にした。

 その言葉にだいが少し表情を変えてくれたけど、ほんと、後で情けない話しちゃってごめんって言わないとな。


「言葉にするって大事だからなっ」

「そだね~、分かってても口にすることって大事だよね~」

「大人になると、色々恥ずかしくはなるけどなー」


 まったくごもっとも。

 だいと付き合ってからも思うことはあったけど、ほんと気持ちを口にすることって一番大事なんだ。

 たしかに恥ずかしいのはあるけど、それ以上に意味があるなら、恥ずかしいとかなんて言ってらんないしな。

 それでだいが笑ってくれるなら、安心してくれるなら、いくらでも言うってもんだ。


「……ちゃんとしてね?」

「大丈夫、大丈夫だから」


 みんなの言葉にへこへこする俺に、だいが少し不安そうな顔を見せるので、俺は自戒の念を込めながらだいに頷いてみせる。

 こんな話聞かせた後じゃ、言葉だけじゃ足りないから、これからの行動で示すしかないけどさ。


 しかし、まさか大和とゆめの誕生日オフ会でこんな展開なるなんて思わなかったけど、苦い思い出を話し、みんなからたくさんの指導を受け、改めて思い直すことは多かった。

 だいとの間で同じことを繰り返さないように、俺は決意を改める次第です、はい。


 そしてその俺とだいのやりとりで、今度こそ俺の話が終わりを迎える雰囲気に。

 その空気に、なんとなく全体が歓談の空気に変わっていった。

  

 でも、出来れば飲みながら話したかったね! 俺も!


 そっと昨日負傷した傷口をガーゼ越しに触れながら、テーブルの上の空いたグラスたちに視線を送る。

 ほんとまぁ、いつのまにやらみんなけっこう飲んでんなぁ、羨ましい。


 あ、俺が話し出すまでは俺がオーダー係だったけど、俺の話の間はジャックが代わりにやってくれてたんだぞ。

 でも明日もみんなは仕事だし、そろそろいい時間、か?


 時計を見れば時刻は間もなく21時。

 集合からもう4時間近くが経過しているとは、時の流れとは恐ろしいものよ。


 とりあえず、素面の俺が締めるしかないか。

 俺がそう思った矢先。

 

「……私は、何が正解なのでしょうか?」


 いちゃつき再開の大和とぴょんに、それを笑いながら写真に収めたりするジャック、俺への躾け方をテーマに話すだいとゆめ、お酒の力も含めつつ、まだまだ楽しそうにしているみんなをよそに、隣からぽつりと聞こえた、小さな声。

 俺はその意味が分からなくて、パッと自分の右隣を見る。


「え?」

「……難解です」


 そして、その言葉を最後に、俺の右隣にいたゆきむらの顔が消える。

 それと同時に感じる、右足に生じる重み。


「え?」


 ど、どうした!?

 どうしたんだゆきむら!?


 苦い思い出を振り返り終えひと段落したと思った矢先、俺は新たな展開に今日何度目か分からない焦りを覚えつつ、ただただ動揺するのだった。








―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―

以下作者の声です。

―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★― 

 主人公ぼろくそです。笑

 

 さて、年内の本編の更新はひと段落。

 大晦日と元旦はクリスマスに味を占めたので、またまた番外編を掲載する、予定です!

 大晦日編はもう構想ありますが、元旦編、もし何か気になるキャラがいればご意見お待ちしております。

 

 激動の2020もあと少しですね。

 当初はリアルカレンダーとほぼ連動してたのに、気づけば本編は9月に取り残され。

 新年以降の本編更新、ゆきむらどうした!? からの再開をお待ちください!


(宣伝)

本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。3作目となる〈Yuuki〉が掲載されております。

 こちらも年明けからの始動予定。

 本編の回顧によろしければ~。

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