第251話 甘く切なく何より苦い
「付き合ったのはいつ頃~?」
「あー、高2の夏から、1年くらい」
「おー、高校生で1年ったーけっこうなげーじゃん」
「セシルとはどんくらいだったんだっけか?」
「ええと、大学1年の秋から大学4年なる前だから、2年半くらいだったわよね?」
「わ~~お、だい詳しい~~」
「さすが愛しのゼロやん情報」
「べ、別に1回聞いたことあるからよ!」
ゆめに聞かれた質問に俺が答えたと思ったら、続けて繰り出された大和の質問になぜかだいが答えるという不思議な流れ。
いや、合ってるし、だいに話したのも俺なんだけど……それをさらっと答えられると、なんか気まずいよ菜月ちゃん。
「今の段階だと一番お付き合いが短いのはだいさんということですか」
「ん~~、でもLAの中じゃ7年べったりだよね~~」
「俺が1回引退する前から、倫たちいつも一緒だったしな」
「仲良くお話する関係としては、だいが1番長いってことかー」
「な、仲良くって……っ」
「照れてる照れてる~」
「ゼロやんは罪な奴だなー」
「むむ、罪ですか?」
「ええい、聞きたいのか茶化したいのかどっちだお前らっ」
「おいおい、そんな聞いてほしいのかー?」
「いや、聞かねーなら話さねーよ!?」
「まぁまぁ〜」
「心を乱すな愚か者ー」
そう言って照れてるだいと不思議そうな顔のゆきむら以外は笑ってるけど、あーもう、何でこいつらはいつもこうなんだ、ホント。
俺らしいったらそうなんだけど、なんというか、話す前からすでに疲れたわ。
でも。
「それで、高2の夏にどういう経緯で付き合ったの?」
「おお、戻した〜」
「まさかの今カノが一番聞きたがるという展開かっ」
「飽くなき探究心だね〜〜」
いや、それもどうなの? と思いたくなるだいの視線に、俺はまたしてもため息をつく。まぁ、ホントだいは、だいだよなぁ。
でも改めてみんなを見ればそろそろ話していいよ、みたいな空気を感じるし、逃げるわけにもいかないか。
ゆめが自分の話してくれた後だしな。
いやー……あの頃は若かった。
「俺がその子と付き合ったのは、高2の夏休みの頃だった」
「夏休みか〜、いいな〜」
「青春の匂いがしてきたな!」
「おいおい、ゲーマーのくせに一丁前に青春謳歌マンかー?」
「むむ、ゲーマーは青春を謳歌してはいけない?」
「ゆっきーが誤解しちゃうよ〜〜」
「毎回横槍がひどいなっ」
って、全然聞く気ねーじゃん!
聞くのかボケるのか、どっちかにしてくれよ!
そんな風に俺はみんな、というか主にぴょんにそう思っていると。
「いいから。それで?」
「え、ばっさり!?」
様々な茶々を入れてくるみんなを一刀両断、
たった7文字で流れを戻すのが自分の彼女とかね、びっくりだね!
「あ、ええと、それであの日は……俺に初めての彼女が出来た日は、俺が当時好きだった子と夏祭りに行った日だったんだ」
それで? と言われた言葉に俺はまた話を再開。
先程のだいの圧を受けたのは俺だけではなかったようで、俺がまた口を開くと今度はみんながしっかり話を聞いてくれた。
とはいえ、今俺が伝えた言葉の意味がわからなかったのか、何人かが不思議そうな顔を浮かべている。
そりゃそうだよな。
言い方、回りくどいもんな。
気づいたやつは気づいたろう、この段階ですでに登場人物が複数いるということに。
「当時好きだった子〜?」
「それは告ってきた奴と同じ子かー?」
うん、やっぱゆめとぴょん、大和あたりは察してるな。
「いや、違う」
「だよな。となると、どういう流れなんだ?」
そう、俺が初めて付き合った子は、俺が高校生の時好きだった子とは違う。
この話の流れは予想していなかったのか、みんながみんな、大和が口にしたようにどういう流れで俺に彼女が出来たのか、その流れを考え出している様子に俺は一人苦笑い。
これは俺にとって初彼女だが初恋ではないし、決してハッピーエンドでもない、そんなストーリー。
亜衣菜との終わりとどっちがバッドエンドかって?
それは、その人の価値観次第だろう。
俺からすれば……。
「あの日の数日前、俺は渾身の勇気を振り絞って、当時同じクラスだった女の子を夏祭りに誘ったんだ」
蓋を開けた先に何が広がってるかなんて、もう年月が経ったせいで分からないけど。
俺はたしかにその蓋を開け、ぽつりぽつりと、もう10年ほど前になる高2の夏休みに思いを馳せるのだった。
あれはよく晴れた、夏の夜空の下だった。
「花火綺麗だったねー」
「う、うん。やっぱ近くで見ると、迫力違ったね」
「あ、わかるー。でも見上げすぎたせいで、首痛くなっちゃった」
「え、あっ、だ、大丈夫っ!?」
「そんな大袈裟だよー。ほんと、北条くんは優しいねー」
地元秋田の夏のイベントと言えば、東北三大祭の一つである秋田市の
当時高2だった俺が、勇気を出して当時好きだった女の子を誘ったのは、そんな地元民が楽しむレベルの夏祭りで、終盤には花火が打ち上がり夏を彩る、そんな夏祭りだった。
俺が誘った子は両親が県外出身のため、あまり訛りを感じさせない、表情豊かで明るいけど、どこか上品さを感じさせるような、そんな清楚系の女の子。
綺麗か可愛いかで言ったら可愛い系。
クラスの中でも上位に入るような、ちょっと子どもっぽい目をした、色白の可愛い女の子だったって、今でも覚えてる。
そんな子とその日は浴衣デート。
彼女の名前は
高2の文理選択で文系を選んだことによって同じクラスになった子だけど、彼女は俺と出席番号が前後だったので、割と春先から話すことが多かった。
あ、ちなみにみんなに名前は言ってないからな。
言ったら言ったで、だいが俺の家に置いてある卒アル見てきたりしそうで、ちょっと嫌だから。【Teachers】の女性陣でいったら、見た目のタイプはゆめっぽい子だったし。
なのでね、名前は秘密です。
好きだなって思ったのは、いつだったかなー……。
同じクラスの部活仲間にいい感じじゃんって唆されて、その気になってったんだったと思うけど。
明確な時期はあんまり覚えてない。
ただとりあえず、最初から可愛いな、ってのは思ってた気がするな。
っと、話が逸れたけど、とにかくその日は俺が人生で初めて自分から女の子を誘ったことで実現した、夏祭りデートだったのだ。
あの日の彼女はピンク地に大きな花が描かれた浴衣着ていて、普段は下ろしている肩ほどの長さの黒髪がその日は美しく結われていて、それはそれは可愛さを増幅させていた。
彼女が浴衣を着ると聞いてたから、俺は数日前に買った甚兵衛を着て行ったんだけど、慣れない下駄にかなり悪戦苦闘。
それでもなんとかそれを感じさせないように彼女の歩幅に合わせて歩く、そんなデートを終えた、帰り道だった。
夏祭りの会場は俺が住んでた街からは自転車で30分くらい。幸いなことに彼女の住むとこは俺の家と夏祭り会場の中間らへん。
行きは親に送ってもらったという彼女と
あ、自転車の二人乗りは法律で禁止されてるからな! やっちゃダメだぞ!
って、今この立場になったから強く言うけど、昔はよくやってたっけなー。
で、その東屋で、少し離れた所で手持ち花火を楽しむ集団を眺めつつ、俺は緊張に緊張を重ねながら、松田さんと話していたのだ。
「北条くんのいいところだよね、みんなに優しいところ」
「そ、そうかな?」
「うん、みんな言ってるよ。結婚するなら北条くんみたいに優しい人がいいって」
「え、み、みんな?」
「うん。けっこう北条くん人気なんだよー?」
「そ、そうなんだ……」
そんなことを言われたら、これはもしや、って誰だって期待するだろ?
松田さんと二人で出かけたのはこの日が初めてだったけど、俺は元から今日人生初の告白をすると決めていた。
だからね、そんな気持ちにより拍車がかかったんだよなー……懐かしい。
「あ、あのさ!」
「んー?」
この流れだったし、もう俺が何を言うか、あの時バレバレだったんだろうなぁ。
それでも俺は心臓の音が自分でも分かるくらい、人生でこれ以上ないほど緊張してた。
たぶん度合いとしては、亜衣菜に告白した時以上。
デートに誘って、OKをもらって、自転車も二人乗りしてくれて。
それまで告白されたことはあれど、彼女というものがいたこともなかった俺は、これはつまり俺のこと好きなんじゃないか!? って期待しちゃってたよね。
というかもう自分の仲では告白できるかどうかの勝負のようなもんだと思ってた。
でも、そんな確信があっても、いざ告白をするのはまた別な話。
俺は立ち上がって、真っ直ぐに松田さんの目を見ながら、なかなか出てこない言葉と戦った。
そして。
「お、俺、その、ええと、ま、松田さんのこと――」
噛み噛みの俺の言葉を、松田さんはじっと待ってくれた。
活発そうな大きな瞳に、控えめだが形のいい鼻梁、そして小さくて可愛い唇の彼女が、じっとこちらを見ている。
心臓のバクバクが止まらない。
でもここで言葉を止めることもできない。
なんとか、なんとか言わないと。
「す、好きです! 付き合ってください!」
そして絞り出したシンプルな言葉。
よくテレビで芸人が公開告白なんかしてるけど、すげーと思う。
だって告白ってすげー消耗するじゃん? テレビのは見世物としてやってるから消費量が少ないかもしれないけど、誰かに好きを伝える、それだけでかなりのエネルギーを持ってかれると思うんだよなー。
っと、話が逸れかけたけど、俺はついにその言葉を告げた。
その言葉を聞いて、松田さんは一度微笑んでくれた、気がした。
その表情に、うまくいった。
そう思ったんだけどね。
「ありがとね」
「う、うん」
「気持ちは嬉しいよ」
「……え」
気持ち「
そして松田さんは、変わらず俺の目を見たまま、言葉を続けた。
「倫くんのことは嫌いじゃないよ。ううん、いいなとも思ってる。でも、誰にでも優しくて、気を遣ってる人は嫌。私はもっと自分に自信を持ってて、私のことだけを見てくれる人がいいかな」
「え、あ……」
「ごめんね。デートしたら別な面も見えるかもって思ったけど、見えなかったから。もっと二人で出かけたりしたら変わってくるのかもしれないけど、今ここで付き合ってくださいって言われても、それには「うん」と言えないよ。だから私は、倫くんとはまだ友達のままがいいかな」
「あ、そ、そっか」
「うん、送ってくれてありがとね。私もう家すぐだから、帰るね。学校ではまた友達として、よろしくね」
「うん……よろしく」
ってね、何がよろしくだって話だよね。
ここで彼女はもしかしたら「またデート誘ってくれれば考えてあげてもいいよ」的なことを言ったつもりだったのかもしれないけど、結局その日は来なかった。
とはいえ夏休みが終わって2学期以降も、松田さんは普通に話してくれて、俺も話しかけられれば答えてたけど、俺の方の問題で、以前みたいには戻れなかった。
周囲の奴らもそんな俺たちの空気を察したのか、2学期以降は囃し立てやる奴もなし。
3年ではクラス別になったのは、もしかしたら先生たちの計らいだったのかもしれない。
彼女がどこの大学にいって、今何してるかなんて全然分かんないけど、こうして俺の人生初告白は、見事玉砕という形で終わったのだった。
「なるほどねー」
「優しくて気遣い出来るのは、いいことだと思いますけど……」
「高校生の時だからね~、ちょっと悪っぽい子がカッコよく見えるお年頃かも~?」
「いやぁ、青春だねぇ」
と、俺の思い出を詳細に話したわけではないが、ざっくばらんに俺に人生初の彼女が出来た日の前半部分を話した俺に、みんなそれぞれ感想を述べる。
この過去があって今がある、なんて今だからこそ言えるけど、まぁ当時のあの瞬間はね、ショックだったよね。
すぐに次のデートを誘うとか、そんな発想もわかなかったし。
「でも、その日に彼女が出来たのよね?」
「そうだよね~~、そういう話だったよね~~。この後何が起きたの~~?」
「あ、うん。本題っつーと変な言い方だけど、この後にそれは発生する」
「よし、じゃあ進めようぜ!」
過去の記憶にちょっと苦笑いを浮かべる俺などお構いなしに、食いつくように続きを聞きたがるだいへ、ジャックとぴょんが加勢する。
そう、この話の本題はここから。
この後、俺は人生で初めての彼女が出来ることになる。
……正直あんまり、話したい話ではないんだけどね。
「夜は長いんだ、じっくりいこうぜ!」
「いや、明日平日だからな?」
何が夜は長いだよぴょん。
でも、ここまで来て話を終えることも出来るわけがなく。
俺はさらに続きの記憶を呼び起こし、みんなに思い出を話し続けるのだった。
―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―
以下
―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―
後半へ続く……!
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本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。3作目となる〈Yuuki〉が本編と交互に更新くらいのテンポで再開しております。
本編の回顧によろしければ~。
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