第250話 「ヘイトリセット>なぜかタゲが来る」は安定セット

「って、結局音楽関係の人ばっかりなんだけどね~」

「ふむふむ。つまりゆめさんは、今まで5人の方とお付き合いしたことがあると」

「短いのもあるけどね~」


 ゆめがゆきむらに恋愛を教える、というていで始まったゆめの過去の恋バナは、それはそれはゆきむらの関心を高めたようだった。

 いや、ゆきむらだけじゃなく、途中までは二人の世界感を出してた大和とぴょんすらも途中から参加し、結局全員が聞き入ってたんじゃないかな。


 主な内容はどうやって付き合うに至ったか、というものだったけど、ゆめの場合は全て告白されてスタート、だったらしい。

 中には自分がアピールし始めて、告白させた話もあったけど、それは女の子ならではの技だよな。

 ちなみに彼氏一人目は中学生の時、二人目と三人目が高校生の時、四人目と五人目が大学生の時で、二人目以外が全員音楽関係の人、五人目のちょっと前に別れた人が最長だったらしい。


 いやぁ、しかし、5人か、すげぇなぁ。

 大和とぴょんの過去は知らないけど、最初から参加してただいの交際経験は俺だけだし、ジャックもくもんさんだけみたいだから、5人って数はこの中だと一番多いんじゃないだろうか?


 俺は高校生の時に人生初彼女が出来て、次が大学時代の亜衣菜、そしてかなり期間が空いて今、という28年に届かない人生経験で交際経験3人だから、まだ25歳なりたてのゆめが5人っていうのは、すごいなって思うよね。

 いや数が多いからどうなんだ、恋多きとか結局見る目がないから、とかっていう意見もあるかもしんないけど、全て告白された側ってことは、それだけ色んな人に好きになってもらえる魅力がある、ってことには違いあるまい。

 もちろん押せば落ちそうだから、って思われる人もいるんだろうけど、ゆめはそんな風には見えないし。

 モテるのは単純にゆめが可愛いってのもあるんだろうけどね。


「恋愛の先に結婚もあると思うけどさ~、結婚しちゃったら後に引けなくなっちゃうし、自分はどんな人と相性がいいのかとか、恋愛してる時の自分ってどうなるのかとか、そういうの知るためにも恋愛経験はしたほうがいいと思うんだよね~。近い距離にならないと見えてこない価値観もあるんだよ~」


 ……ふむ。

 まぁたしかに、燃え上がるような好きって感情って、永遠に続くわけじゃないもんな。長く一緒にいればだんだんと穏やかな好きに変わっていくっても聞くし、場合によっては好きかどうか分からなくなることもあるだろう。

 そういう感情に変化があることを知ってるからこそ、どう関係を築いていくか考える必要もあるだろう。

 つまり経験は無駄にはならない、ってことか。


 いやー、年下だけどゆめさん勉強になります……。

 とはいえ俺はもう、ずっと一緒にいるなら里見菜月だいがいいんだけどな。


「いや~~、耳が痛いね~~」


 だが、そんなゆめの言葉が刺さる大人が何人か。

 

「あ、もちろん最初から運命の人みたいにばっちりな人と出会う可能性だってあるし、変な意味で言ったわけじゃないよ~?」 


 そんなゆめの言葉が刺さってしまった大人たちへ、すかさずゆめのフォローが入る。

 とはいえ相手が年上だから、ゆめもちょっと焦り気味かな?


「大丈夫大丈夫、悪意ないのは分かってるよ~~」

「聞いてる感じ、ジャックはくもんさんと相性よさそうだよね~」

「あはは、かな~? たしかにくもんは一緒にいて居心地がいいんだよね~~」

「居心地、ですか」

「それも大事だなー」

「来週会えるの楽しみ~」


 ゆめの言葉が刺さってしまった一人目のジャックだったけど、たしかにジャックの話聞いたりしてると、二人は趣味も価値観も合ってそうな感じはあるし、何よりくもんさんに愛されてるんだろうな、ってのがよく分かる。

 見た目の好みだけで付き合って、実は内面が合わなかった、なんてパターンもあるからな、内面でマッチしてる二人はたしかに相性がいいのだろう。

 

「あ、だいも幸せならそれが一番だからね~?」


 そしてゆめの言葉が刺さった様子の、二人目。

 なんというか、複雑そうな顔してた気がしたのは、気のせいじゃない、よな?

 

 ……そんな顔されると、俺は何とも言えない気持ちなるけど……。


「あ、ううん。私も今幸せだなって思うこと多いから、気にしてないよ」


 そんな俺の不安を吹き飛ばすだいの言葉。

 いや、でもちょっと気にしてた感じ出してた、ような、うーん。

 ……とはいえ、だいもちょくちょく先々を見据えたことを言ったりするし、幸せって思ってる気持ちは本当だと思う、思いたい。


 そんな無意識が出てしまったか、気づけば俺は膝の上に置かれただいの右手に、そっと自分の左手を重ねてしまっていた。反対側のみんなからは見えないだろうし、幸いゆめもゆきむらも俺の動きには気づいてない、と思う。

 気づいただいが一瞬だけこっちを見たけど、少し嬉しそうな顔をしてくれたのが、俺も嬉しかったな。


「わたしは25年間で、何にも経験してこなかったなって思っただけだから。今がどうこうじゃなく、自分の過去にちょっと思うところがあっただけよ」

「まー、過去で出てくるのがあーすじゃなー」

「それは言わないで」


 あ、なるほど、自分の人生を振り返ってたわけね。

 そんなだいの言葉聞いて、すっかりいつも通りの様子に戻ったぴょんが宇都宮オフで発覚したあの件を口にすると、温かな表情だったはずのだいが一瞬にして豹変した。

 うん、いないのにどんまいあーす。


「というかだいだって、告白されたことくらいはあるでしょ~?」

「え、う、うん……それはあるけど……」

「いいなって思うくらいの人でもいれば、付き合ってみればよかったのに~」


 そして今度は話題の中心がだいへ。

 そりゃ、だいはこんだけ美人だからね、若い頃から可愛かったのは確定だし、告白されたことはあるだろう。

 というかされたことがあるって話は聞いたことあるしな。


 でもいいなって思うくらいの人と付き合う、かー。たしかにそれも考え方の一つではあるんだよな。

 さっきゆめも言ってたけど、付き合うって距離感になってから見えてくるものがあるし、その影響で気になるが好きになることもあるだろう。

 もちろん逆もまた然りだけど、実は好相性でした、なんて可能性もあるんだから、恋愛する元気があるんだったらそれも一つの考えなのかなとは思う。


 この辺は、経験が積み上げる価値観かなー。

 お見合いの時代が終わった自由恋愛時代の流れだね。


 とはいえどんな形にしろ、恋愛する、特に終わりを迎えるのは体力とメンタル消耗させるから、とっかえひっかえ、ってのはよくないと思うぞ。

 期間が短いとね、印象も悪くなるしね。


「うーん……そういう人はいなかったから……」


 俺がそんなことを考えている間に、苦笑いを浮かべただいがゆめに答えていた。

 これまで誰一人、だいの関心を引く男はいなかった、と。

 そんな男しかいなかった中、俺は付き合うまでいった。

 うん、素直に嬉しい。


「おーおーゼロやんにぞっこんってことねー。ちなみに、今まで何人に告られてなぎ倒してきたんだー?」


 そんな俺と付き合うまで誰も好きになったことがなかったと答えるだいに、今度はぴょんが質問。

 たしかに告白されたことがあるのは聞いてたけど、人数とかは聞いたことねぇや。

 いや、というかそんなこと俺からじゃ聞けないけどさ。

 ちょっと興味は、あります。


「え、覚え切れないわよそんな数」

「え?」

「マジかよ?」

「すごいな~~」

「え、な、なんでよっ?」


 そしてぴょんの質問に答えただいに、場の全員が呆気にとられる。

 覚えてない、じゃなく、覚え切れない、だと……?


「あたしは覚えてんぞー。中学、高校、大学と合わせて7人で、そのうち付き合ったのが3人だなー」

「え、覚えてるものなの……?」

「あたしは中学の頃と、くもんからの2回だよ~~」

「ん~、わたしは思い出せる限りだと10人くらいかな~」

「俺は3回だな。あ、今日もいれたら4回かっ」

「お、おいっ!?」


 そしてみんなが告白された回数を話し出し、だいが少し焦り出す。

 まぁあの危険人物である風見さんの元カレがだいに告白してきたって話も、当の本人は覚えてる感じなかったし、覚えてないってのはマジなんだろうな。もしやあれか、両手両足の指使っても足りないとか、そういう可能性あんのか?

 ……たしかに中高大時代も、告白したくなる、一目惚れで好きになるような綺麗な子だったのは間違いないんだろうけど……。


 っていうかゆめも、「思い出せる限り」ってだいと変わらないじゃん、っていうツッコミとか、今日告られたことを笑ってまたちょっとイチャイチャしだした大和とぴょんは置いておくとしよう。


「私はずっと女子校なので1回もありませんけど……ゼロ様はそういう経験あるんですか?」

「え? あ、俺は……高校の時3回と、大学の時1回、かな」


 そして大和とぴょんの様子にみんなが笑い出したため、答えるタイミングを逸してた俺にゆきむらがキラーパス。

 一応俺もね、人生振り返って思い出してたけど、うん、合計4回、だったはず。

いや、だいからもLA上ログで告白された、って取れば、5回か。でもちょっとそれを言うと正面のバカップルみたいになりかねんから、伏せとこっと。


「大学の時って、セシルさんとお付き合いされてたのでは?」

「え、あー、うん、そうだけど、それを知っててなお、告白して来た子もいなかったわけじゃないからさ」

「ほほ~、モテますな~」

「いや、ゆめに言われたくねーわっ」

「でも高校生の時3回も告白されてたんだ」

「え、あ、はい。って、だからだいの方が数は多いじゃん、って……」


 え、なんだ、この空気?

 あの二人は置いておいて、なぜかみんなの視線が俺に来ている。


 いやいや、だから数だったらゆめとだいが何倍もあるじゃん? だから俺とかどうでもよくない?


「ゼロやんはセシルが初彼女~?」

「あ、いや……」

「高校生の時、彼女いたって言ってたわよね」


 だいさん!?

 そこ、君が答えるの!?

 

「そうなんですか?」

「ほうほう~~」


 そしてそのまま、これはもうどう考えてもその時の話を聞かせてムードが漂い出す。

 いや、彼女の前でそれは……って、そうじゃん! こいつ平然と思い出を家宅捜索する子なんだった!!


 思い起こす、亜衣菜との決着をつける前に見つかった、ブラックボックスを前にした時のだいの反応。

 いやぁ、あれは辛かった。マジで辛かった。

 でも、あれアゲイン……?


「初彼女は、告白して来た子の一人~?」

「あ、うん、そう、だけど……」

「お~、じゃあその彼女とどうやって付き合ったのか、そして別れてそこから何を学んだのか、今度はゼロやんが話してよ~」

「私も聞きたい」


 ……マジすか。

 いや、ゆめがそう言ったら、だいもそう言うのは予想ついたけど……。


「あたしも聞きたい!」

「俺も興味あるな」

「私も聞きたいです」

「便乗~~」

「……マジか」


 ちゃっかりぴょんと大和も戻ってきてるし、6人の視線を受け、俺は露骨にため息をつく。

 誕生日祝う会だったんじゃなかったのかよ?

 つーかこちとら素面なんだぞ?


 みんながけっこうな量を飲んでるのを羨ましく思ってた俺の気持ち、分かってる?


 ゆめとぴょんへの甘くて美味しかったお祝いケーキを食べ終えたのがもう遠い過去のよう。

 だがこうなっては腹をくくるしかあるまい。


 俺は渋々と、苦い記憶を辿るのだった。







―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―

以下作者の声です。

―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★― 

 最近影が薄かった主人公のターンです。笑

 ストーリーが彼視線なので、人数多いと喋らせるのが気づくと減ってるんですよね……。


(宣伝)

本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。3作目となる〈Yuuki〉が本編と隔日更新くらいのテンポで再開しております。

 本編の回顧によろしければ~。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る