第249話 ケーキを無限に食べれると思うのは序盤だけ、だよね?

 彼女が出来たら他の女性と関係を断つ?

 何をおっしゃる兎さん、当たり前じゃないですか。


 そう言えたら楽なんだけど、この「関係」という言葉をまずは丁寧に説明しないと、きっとゆきむらは色々誤解し兼ねない。

 さてどうしたものか……。


「えーっと、ゆきむらが言う関係って、どういう意味で考えてるんだ?」

「むむ、仲良くする、ということでは?」


 俺が質問に質問を返すと、さらに質問が返ってくる。

 うん、なるほど。ここでぴょんがいたら余計こじれる茶化しがきた気もするけど、さすがゆきむら、清らかな答えだな。


「仲良くするか、うん。関係……っていうとややこしいか。えーっと、間柄にもよるけど、やっぱり恋人がいるんだったらさ、恋人以外の間柄の異性と会うとか、恋人のよく知らない異性と仲良くするのはさ、相手の気持ちにいい感情を与えないと思わないか?」


 ゆきむらの考えもなんとなく分かったこともあり、俺はまるで生徒に話をするように、なるべく丁寧な説明を心掛けた。

 

 恋人が出来たら、優先順位は恋人。

 それが大前提って、伝わるといいんだけど……。


「ゆっきーはさ~、自分に恋人が出来て、その人が自分以外の女性と仲良くしてたり会ったりしてたら、やじゃない~?」

「え、そうですね……うーん……」


 そして俺の言葉に加勢してきてくれるゆめ。

 ゆめはだいのことを応援してくれてた存在でもあるからな、ありがたい……!

 

「私は恋人というものがいたことがないので分かりません……」


 だが、そんなゆめの言葉を聞いてもゆきむらはあまりピンとこない様子。


 というかまぁ、ゆきむらの状況ってものすごく不自然だから、ピンと来てないのも止むを得ないのかもしれないけど。


「ゆっきーの場合、今の状況が好きな人と色んな女性が仲良くしてる状況だもんね~~」

「そうなー。それに倫にとってのセシルとゆっきーは、過去の関係が違うしなぁ」

「だいとゆっきーの関係もあるしね~~」

「むむ、私はだいさんのことも好きですよ?」

「うん、ありがとね」


 俺同様ジャックと大和もゆきむらの状況が特殊であることは分かっているからか、苦笑いを浮かべてそんなことを言ってくれるけど、だいとゆきむらはやっぱ、なんというかズレてるよなぁ……。


 そしてそのまま、何だか有耶無耶な雰囲気になっていくけど、ゆきむらに俺の言いたいことは伝わったのだろうか?


「私は、ゼロ様と仲良くしていいんですよね?」


 だが、やはりゆきむらとしても結論が見えなかったのか、改めて小さな声でそう尋ねてくるゆきむら。

 仲良くしていいかって、そりゃ同じギルドで、結果次第では来年度からは同業者にもなる可能性があるんだから、亜衣菜と同じ扱いは出来ないけど……。


「そりゃ亜衣菜とゆきむらは別だけど、あれだぞ? 俺の優先は、だいだからな?」


 隣に彼女がいる状態でこれを言うってのもなかなか恥ずかしいけど、でもちゃんと言わないと。

 っても、亜衣菜とも関係が切れてるわけじゃないし、だいの様子じゃ切れそうにもないから、結局そっちは今まで通り、だからゆきむらにも強くは言えないんだよなぁ……。


「じゃあ今まで通り、未来の隣の座を目指して頑張りますね」

「そ、そうか……」


 そして俺と同じ結論に思い至ったのであろう、ゆきむらは今まで通りの様子で俺にそう宣言し、自分の分のお酒を飲みつつ微笑んでいた。

 

 でもやっぱり、亜衣菜は別として、色々な経験が少ないゆきむらは、いつまでもこのままじゃダメだよな。

 この子は、いつになったら色々分かってくれるんだろうか?

 いや、俺がビシッと言ってあげないとダメなんだろう。

 

 とはいえ、それは今じゃない、か。

 今日の集まりはゆめと大和、そしてぴょんを祝う目的になっているんだから。


 だいがゆきむらのことをどう思ってるかも含めて話してから、かな。

 

「ぴょん遅いね~」

「そうね、大丈夫かしら?」


 そんな風に俺がゆきむらへの対応を考えていると、ひとまず先ほどの話題がひと段落したと判断したのか、ぽつりとゆめが呟いた。

 その呟きにだいも反応するけど、確かに思ったよりも遅い、かな?


 と思った矢先。


「待たせたなっ!」


 勢いよく個室の扉を開け、ぴょんが参上。

 そしてパッと一度振り返り、再び振り向くと。


「え、何それ~?」

「ハッピーバースデー!」


 おそらく店員さんから受け取ったのだろう、両手で皿を持ちつつ、ぴょんの手にはザ・定番といった雰囲気のショートケーキのホールが。

 ご丁寧に蝋燭にも火がつけられていて、ぴょんがそれをテーブルの真ん中に置くと、みんなの視線がそれに集まる。

 チョコレートのプレートには『Happy Birth Day Yumeka&Yamato』って書いてるし、なるほど、これがぴょんの仕込んだサプライズケーキか。


「え、いつの間に~?」

「マジかー、ありがとなっ」


 そして素の雰囲気で嬉しそうに驚くゆめに対し、ちょっとわざとらしさを覚える大和だけど、さすが大和、空気読む男だな!


「なんか、パーティみたいですね」

「いいね~~、お誕生日会っぽいね~~」

「今日はそのための集まりだものね」


 先ほどまでのちょっと不思議だった空気は既になく、ぴょんが戻って来たことで空気は完全にお祝いムード一色に。

 いやぁ、さすがぴょんだよほんと。


「失礼しまーす。もう一つお持ちいたしましたー」

「え?」


 だが、そんなお祝いムードの中、今度は店員さんが新たなケーキを持って登場。


「ハッピーバースデー!」


 そしてそのケーキをゆきむらが受け取り、テーブルの上に置いた時、今度は大和が笑顔でぴょんをお祝いする。


「え!? 聞いてないんだけど!?」

「言うわけねーだろサプライズだぞっ」


 その新たに登場したのは、ぴょんが持ってきたホールケーキよりも一回りほど小さいチーズケーキのホールで、クッキーっぽい板にはホワイトチョコで『Happy Birth Day Airi』と書いてあった。

 こちらには蝋燭は立ててないみたいだけど、いやぁ、しかしぴょんのびっくり具合ったらね、完全に大和の手のひらの上って感じだなー。


「んだよー、あたしのサプライズにかぶせやがってよー」


 大和の隣に戻りつつ、表情とは全く一致しない言葉を吐くぴょんだけど、うん、嬉しそうで何より。

 自然体って、こういうことを言うんだろうなー。


「みんなおめでと~~」

「いい1年になるといいね」

「おめでとうございます」

「おめでとう!」


 そして祝う側の俺たちも、嬉しそうだったり楽しそうな表情を浮かべる3人へそれぞれお祝いの言葉をかける。

 さすがにもういい年だからね、ハッピーバースデーは歌ったりはしないか。


 そして代表してゆめが蝋燭の火を消したあと、だいが切り分けられたケーキをそれぞれの皿に移し、みんなに配り出す。

 こういう手際の良さは、さすがだな。


「ありがとね~」

「さんきゅっ」

「ぴょんがケーキ用意してるのは知ってたからなー。俺の分は少し小さめにしといたぞ」

「お~~、さすがにもうケーキ2個はつらい年なってきたもんね~~」

「え?」

「わ、さすがだいだな~」

「ゼロやんがだいのお祝いするなら、ウェディングケーキサイズじゃないと足りなそうだなー」

「あー……否定できない俺がいる」

「さすがだいさんですね」

「ほんと、食べた分だけ大きくなってそうだしね~」

「そ、そんなことないわよっ」

「少しくらい寄越せー!」

「変なこと言わないでっ」


 そしてジャックの年齢を感じさせる発言をきっかけに、同意しかねる様子のだいへの集中砲火が。

 ほんとうちのギルドは油断するといつタゲが来るかわかんないけど、このやり取りも、やっぱ俺ららしくて楽しいね。


 ちなみにもうみんなの視線がだいのどこに向いているかは言わずもがなだろうから、あえて言わないぞ?


「あ、せっかくだしぴょんとせんかんはお互いあーんってしてあげなよ~」

「いいね~~、ファーストバイトの練習だね~~」

「よっしゃ任せろ!」

「って、おい! でかいでかい!!」


 そして今度はゆめの言葉に従い、ぴょんが自分の皿に載ったショートケーキをフォークでグサッとさし、丸まる1個を持ち上げだすと、それに慌てる大和が。


「んだよー、男なら丸呑みしてみせろってー」


 と言いつつ、さすがに冗談だったのか、今度は一口サイズに切り分け。


「ほれ、幸せのあーんだぞー?」


 と言いつつ、大和の前にケーキを差し出し、それを大和が頬張ってみせる。

 幸せのあーんって言うけど、あれだな、やってるぴょんの方が、嬉しそうだなぁ。


「ラブラブだね~」

「今度はせんかんだよ~~」

「ふっふっふ、今度はお返しだな!」

「はやくしろよー」


 そして今度は大和がケーキを切り分けてあげて、ぴょんの前に差し出してあーんをすると、普段のイメージからは想像つかないほど可愛らしくぴょんがぱくっと大和のケーキを頬張った。

 いやぁ、いいですなぁ。付き合いたての高校生みたいだけど、この二人のこの光景、ニヤニヤしますなぁ。


 俺もだいにやってあげたら、食べてくれるだろうか?

 ……やってみようかなぁ。


 と思ってると。


「じゃあわたしはゼロやんにやってもらおうかな~」

「え?」

「なんかこのままだとゆめちゃんだけ寂しいし~」


 俺の隣の隣から、なぜか俺をご指名する声が。

 その言葉にだいが少し驚いた様子だったけど、ここで断るのも、空気壊しちゃうしな。


「しょうがねぇなぁ」

「ゆっきー見ててね~」

「むむ?」


 そしてゆめからフォークを渡され、それで俺がケーキを切り分け、ゆめの前に差し出し。


「あーん」


 とすると、じっと上目遣いに俺の目を見ながら、可愛らしくゆめが口を開けてケーキを頬張った。

 だが少しフォークの位置と食べようと思った位置がずれたのか、口の端に生クリームがついてしまった様子。


「おいおい、クリームついてんぞ?」

「え? どこどこ? ん〜、とれた~?」

「いや、まだついてるって」

「え~、とって~?」

「へ? いや、それくらい自分で――」

「ダメ?」


 おおう……!!!

 なるほど、これが孔明の罠……! 全ては計算だったのか……!?


 俺のあーんの結果、口の端にクリームがついてしまったことを俺が指摘すると、一度はペロッと可愛く舌を出して舐めとろうとしたゆめだったが、それでも取れてないことが分かると、今度は俺にクリームを拭くようねだってきた。

 そしてそれくらい自分でやれと俺が断るも、まるでそれを見越したかのように上目遣いのまま首を傾げておねだりの追撃。

 この一連のゆめの姿は、正直ものすごく可愛かった。


 気づけばね、ゆめのおねだりに応えて布巾でゆめの口を拭いてあげてる俺がいたからね!


「あざといわね……」

「すごいテクだな~~」

「むむ、今のが何かのテクニックですか?」


 あーんの一往復を終えた後も、今度は違うケーキでと2度目のあーんをし合うバカップルをよそに、俺ら側ではゆめのあざと可愛いテクニックにだいやジャックが驚きの様子。

 

「可愛いって思わせたら、女の子の勝ちってことだよ~」


 そのゆめの仕草に感心するだいとジャックだけど、ゆきむらだけはよく分かっていなかった様子で、熱心にゆめに今のテクニックの説明を求め出す。

 まるで可愛いは技術、とでも言わんばかりにゆめもゆきむらに説明してるけど、いや、でもそれ教えたら、すぐに実践しようとする子が出てくるんじゃ?

 って、だいもジャックに真剣に聞いてるんかい。


「ゆっきーは可愛いからね~、もっと色んな男の人を知るべきだよ~」

「むむ?」


 そして一通りの説明を終えたゆめが、先にゆきむらへ牽制を入れてくれたことで、今ここでの実践はなくなりそう。

 助かった……。

 分かってて食らうことってあるじゃんね?

 ほら、実は負けないと進まない戦闘もあったりするじゃん?


「ゼロやんもせんかんも、誰かのものだからね~。今度ゆっきーはわたしの友達とかと遊びにいこっか~」

「え?」

「色んな経験を積んだ方が、魅力的になるかもじゃん?」

「……なるほど、知識は力なり、ですもんね……」

「そそ。来週はあーすも来るけど、あーすはね~、色々また違うからね~」

「色々、ですか?」


 そしてそのままゆめがゆきむらへ色々とアドバイスというか、今後の成長を促すための言葉をかけ始める。

 あれだな、いつぞやのオフ会ではっきりしない俺を叱責したように、ゆめとしても今のゆきむらの状況はよくないって思ってくれてるんだろうな。

 でもあーすは色々違うって、うん、間違ってないか。


「偉そうなこと言えるほどわたしも人生生きてないけど、経験は多い方がいいと思うよ~」


 その経験って、もちろん恋愛、だよね。


「ゆめさんは、経験豊富なんですよね?」

「そこまでじゃないよ〜。いい恋愛かどうかも分かんないしね〜」


 その言葉はまるで自分にも言い聞かせるようにも聞こえたけど、ゆめもゆめで色々悩んだりはあるみたいだしな。

 いつかゆめにも、いい人が現れてくれるといいな。


 気づけば二人の世界に入っている感を出す28歳たちをよそに、俺たち側ではゆめの過去の恋バナという名の講義が続き、俺たちのオフ会は進んでいくのだった。





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以下作者の声です。

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本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。3作目となる〈Yuuki〉が本編と隔日更新くらいのテンポで再開しております。

 本編の回顧によろしければ~。

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