第246話 驚天動地

 ぐいっと今日4、5杯目ほどのビールを呷り、ドンッとジョッキを置いたぴょんは、満面の笑み。


「選択肢を2つあげよう!」


 ほほう。罰ゲーム食らう側に選ぶ権利を与えるとは、ぴょんなりの慈悲の心か?


「1番! 一発ギャグ10連発!」

「ええっ!?」


 って、慈悲無し!! 鬼か……!?

 なんという恐ろしい選択肢……!

 1回じゃなく10連発とか、1個はウケたとしても、2個目以降は99%だだスベり確定の地獄だろそれ!


 ぴょん……恐ろしい子……!


「2番! 自分の秘密トーク!」


 って、あれ、なんか急に軽いような……?

 って、あ、いや、大和が抱えてる秘密次第ではそれの方が重いし、知られたくないこともあるかもしれないけど、リアルじゃ知り合って間もないメンバーも多いんだし、秘密っていうか言ってない話くらいなら、簡単に出てきそうだよな……。


 俺の思いと同調したのか、1番の選択肢を聞いた時の大和ったらほんともう、絶望感溢れる様子だったが、2番目の選択肢を聞いて少し安堵した様子。


 これは、2番で決まりかな?


「秘密、ですか……。皆さんに秘密にしてること……。私だったら何だろう……」


 だが、何となくみんなも大和が2番を選ぶんだろうなぁと思ってそうなところ、不意に俺の隣から考え込むような声が聞こえた。

 もちろんそんなことを言うのはゆきむらに決まってるが、ほんとこいつは真面目だなぁ。


「オフ会で会う前の人生はそれぞれなんだし、みんなに言ってない話くらいあるだろ?」


 お前が話すわけじゃないのに、そう思いながらもさすがに無視するのも可哀想だったので、俺は口元に手を当てて考え込むゆきむらにそう伝えると。


「むむ? 言ってなかっただけのお話って、秘密っていうんですか?」

「え?」

「おー! ゆっきーいいこと言うな!」


 予想外の返事に俺が呆気にとられていると、ゆきむらの返事に嬉しそうにリアクションを取るぴょん登場。


 たしかに秘密ったら、隠し事って意味だろうけど……。

 隠そうと思ってたかどうかなんて、本人にしか分からないだろ……!?


 どうとでも言えないか……?


「その解釈は国語科としてばっちりだぞ!」


 だが、ゆきむらの言葉を受けて嬉しそうなぴょんとは反面、大和は何てこと言いうんだという風に顔に手を当てる

 いやー……これでちょっと、適当なこと言えなくなっちゃったよな……!


「大人ってのはずるいなー。ゆっきーはそんな大人になっちゃダメだぞー?」

「むむ、私もう22ですけど……」


 そしてその笑顔のままゆきむらにちょっと偉そうにするぴょんだけど、ほんと同じ国語の教員免許持ちでもここまで真逆なもんかね……。


 ちなみにずるいって、あれ、俺への言葉?


「さ、大和くん、1番と2番どっちにする!?」


 そして自分が大和にあげたサングラスをかけ直し、そう問い詰めるぴょん。


 とはいえ、やはり1発ギャグ10連発なんてそんな拷問よりは……!?


「ふむ……」

「わたしなら2番だな~。1発ギャグとかもってませ~ん」

「そだね~~。あたしもかな~~」

「うん、私も」

「むむ、みなさんそんなに秘密が?」


 大和が考え込む間、ゆめ、ジャック、だいと女性陣が迷わず自分だったら2番という意見を表明するが、やはりそこにも疑問を抱いたのか、ゆきむらが少し驚いたような気がする表情を浮かべていた。

 

 だいもなんか秘密あるのか。うーん、なんだろ?


「むしろゆっきーは秘密ないの~?」

「え、そうですね……」


 そして驚いた様子のゆきむらが、ゆめに逆質問されると、ちらっと俺の目を見てきた、気がした。

 そして僅かにだが、恥ずかしそうな雰囲気を醸し出したような。


「ないわけでは、ありませんけど……」

「女ってのは秘密があるくらいでちょうどいいんだよな!」


 そのゆきむらの様子に何人が気づいたかは分からないけど、今俺を見たのは、あれか? ちょっと前、俺に壁ドンというか、タックルかました後不意打ちでキスしたってのが秘密って意味か……!?

 いや、たしかにあれは絶対言えない秘密だけど……!


「ほれ、せんかんは何番選ぶんだ!?」


 だが、そんな俺の密かなドキドキがバレる前に、ぴょんが大和に選択を急かしたことでみんなの視線が大和に戻る。

 

 そして考えた大和が、ゆっくり口を開き。


「1番」

「えっ!?」


 マジかよ!?

 こ、こいつ!? 剛の者か!?


 神妙な顔をして一言そう呟いた大和に、みんなが一瞬驚きに包まれるが。


「は、さすがにきついわなー」


 と言って笑って見せる大和。

 

 やはり、さすがにか!

 その大和の様子に、他人事ながらみんなちょっと安堵したような、そんな気がした。

 いや、ぴょんとゆきむらは別っぽいけどね。


「うーん、でも秘密トークかー……ふむ」


 しかし笑って見せたものの、大和自身何を話すかはまだ決まってないようで。


「別の選択肢はないの~?」

「そうね、言いにくいことって誰にでもあるでしょうし」

「おいおいそれじゃ罰になんねーだろー?」

「いや、でも大和だって今日の主役の一人なんだからさ……」


 そんな大和を擁護するように、ゆめやだいがぴょんに他の選択肢を尋ねるが、なかなかそれには首を縦に振らないぴょん。

 そもそも誕生日祝いなんだし、苦しめるのもなんなので俺もフォローに入ったけど、そもそもプレゼントあげたのがゆめだけって点で、大和は絶対的不利だったんだよな……!

 さすがにちょっと気の毒である。


「言っていいものかなー」

「ん~~? 何か候補はあるの~~?」


 だが、みんなの擁護をよそに、何か思いついたことがあるのか、歯切れは悪いけど大和は何か思いついた様子。

 でもいつも歯切れがいい大和がこうなるって、相当珍しいことだと思うけど……。


 そんな大和にみんなの視線が集まるも、当の本人の視線の先は。


「言やあいいだろ、なんでもー」


 隣に座るサングラスをかけたぴょん。


 って、今なんか、確認したのか……?

 むむ?


「じゃあ話すかー。これさ、今日の昼過ぎの話なんだけど」

「今日の昼過ぎ~?」

「すごく最近ですね」


 そして何を話すかを決めた大和が口を開くと、その秘密は今日の昼の話だという。

 

 いや、それほんとに秘密か?

 単純に今日あった話で、みんな知らないこととじゃねーのか?

 ゆきむらが求めた秘密の条件満たしてるのかー?

 あ、まさかさっきあげたプレゼント、来る前に誰かに選んでもらったとか?


 と、思ってたんだけど。


「田村大和28歳、彼女が出来ました」


 一瞬、時が止まった気がした。

 そして。


「へ?」「えっ?」「むむ?」「ほほ~」

「なん、だと?」


 一瞬の間の後、個室の中に驚きの表情と声が溢れる。

 無論、それは俺も例外ではなく。


 え、え、え、えええええええ!?

 

 え、誰!?

 いや、誰とかそんなん最近の大和の話だと相手は一人しかいないけど、え、聞いてた話と違うんだけど!?


 おいおいお前、デート重ねてゆっくりお互いを知っていってからみたいなこと言ってなかった!?


 大和の話をある程度聞いてただいも相当びっくりしてるし、ぴょんから話を聞いてそうなゆめもびっくりしてるし、ほんとまさに驚天動地、青天の霹靂。


 ……ただ一人を除いて。


「こういうフリだった、ってことでいいんだよな?」


 そして驚いていない人物へ、ちょっと呆れ顔で視線を向ける大和。

 その大和を見て、みんなの視線がブリキのおもちゃのようにゆっくりとそちらに動くと。


「じょーできっ」


 かけていたサングラスをあげて、ニカっと白い歯を見せて笑う我らが盛り上げ隊長。


「秘密にしとこーって、言ったのぴょんだったじゃねーか」

「乙女は気まぐれなんだっつーの、こまけーこと気にすんなっ」


 だがいまだに脳が動かないのか、驚きに声を失うみんなをよそに、呆れ顔の大和に向かってちょっと唇をとがらせたぴょんが、今度はくるっとみんなの方を向いて立ち上がった。


「ということで! 山村愛理、彼氏ができました!」


 そしてみんなが見上げる先のぴょんは、これ以上ないくらいの笑顔を浮かべていた。

 

 いや、ほんと驚きしかなかったけど、その笑顔は今まで見たことがないくらい幸せそうで。


「「「おめでとー!!!」」」


 この話は、大和が披露した秘密トークだったんだけど、あっという間に主役は交代。


 大和をちょっと置き去りにしつつも、皆がぴょんを祝福する声は、まるでうちのギルドの仲の良さを象徴するように、見事にハモるのだった。






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以下作者の声です。

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 予想される展開になってしまってましたが、この流れは既定路線でした……!


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本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。3作目となる〈Yuuki〉が本編と隔日更新くらいのテンポで再開しております。

 本編の回顧によろしければ~。

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