第239話 開幕誕生日オフ

 9月13日、日曜日、16時20分頃。


「忘れ物はない?」

「おう、ばっちし。そういやだいは二人に何買ったの?」

「秘密よ」


 今日はいよいよ大和とゆめの誕生日を祝うオフ会の日。

 いつものオフ会なら財布とスマホだけ持てば荷物なんて十分なんだけど、今日のオフ会はわけがちがう。

 俺はいつもの感じで下はジーンズ、上は白のTシャツに紺の半袖シャツ羽織る恰好で、だいは俺の好きな水色のワンピース姿。まるでこれからデートに行くみたいな感じだが、今日はね、主役たちへのプレゼントがあるのだ。

 そのため俺たちはお互いカジュアルめなリュックに荷物を詰め込んでいる。

 リュックならね、中身も見えないし。


 とはいえやはりだいが二人に何を買ったのか気になったので、事前に聞いてみたけど、案の定教えてもらえず。まぁ、予想通りったら予想通りな答えだったけど。


「でもセンスバトルって、誰が勝敗決めるのかしら?」

「んー、ゆめと大和がもらって嬉しかった順で順位付けするんじゃないかね?」


 いや、そんな真剣に考えることかね? 負けず嫌いだなぁ、だいは。


 家を出て高円寺駅を目指しながら俺は真剣な顔つきで考えるだいにちょっと苦笑い。

 微笑ましいったら微笑ましいんだけど、プレゼントはね、相手が喜んでくれるか、そこが大事だと思うんだよね。

 だからこそ俺のテーマは自分では買わないけど、もらったら嬉しそうな、そして俺たちの年齢や趣味を考慮した上でのプレゼントを用意したぞ。

 え、何買ったかって? それはまだ言えねぇな。

 どういう形でお披露目するのかは分からんけど、その時のお楽しみってやつだよ。


 ちなみに二人へのプレゼントが勝敗を分けるってことだけど、8月に誕生日を迎えたぴょんの分も俺は密かに買ってある。いつも企画してくれるぴょんへ、俺からのサプライズだ。

 これはきっとうまくいくに違いない、ふふふ。


「もうちょっとゆっくり歩いたほういい?」

「ん? あぁ。ありがと、でも大丈夫だよ。普通に歩くだけなら問題はないからさ」


 俺が喜ぶ3人の表情を想像していると、不意に横を歩くだいからそんなことを聞かれた。

 むしろ俺がだいに合わせてたつもりなんだけど、やっぱり俺の彼女は優しいなぁ、なんてね。


 一応念のためにテーピングはしてるけど、基本的に体重乗せたりしない限り足首は大丈夫なのだ。一昨日、昨日と演技の中でちょっと無理をしたせいで痛めてしまってたけど、うん、今日は大丈夫そう。


「それより頭の傷の方がちょっと恥ずかしいかな」

「そればっかりはしょうがないでしょ」


 そう言ってそっと昨日怪我した傷を隠すガーゼに手を触れる俺。

 隠さないとね、バリバリ縫いました! みたいな傷を見せちゃうからね。昨日大和が俺の傷見て痛がってたのもあり、今日もガーゼで隠してるんだけど、これ露骨に怪我してますアピールだからなぁ。

 やっぱちらちらとすれ違う人の視線が来るのを感じるよなぁ。


「怪我は男の勲章なんでしょ?」

「いや、そんな傷じゃねえだろこれ……っつーか俺もそんなキャラじゃないって」


 そう言ってちょっとだけ茶化しながら笑ってくるだいに俺は再び苦笑いを浮かべるけど、うん、やっぱこうして外を一緒に歩くのも、悪くないな。

 9月も中旬に入ったとはいえ、夕方の気温はまだ暑いけど、だいと一緒ならそれも苦ではない。

 起きてからはずっと一緒にLAデートしてたけど、たまには外にも出ないとだな。


「来週もみんなに会えるし、楽しい予定があるっていいね」

「そうなぁ。ほんと、こんな風になるなんて思ってなかったもんなぁ」


 今日もオフ会だけど、来週の4連休の間二日間にもオフ会の予定が入ってるからね。

 しかもジャックの家に泊まり、真実やあーすも遠征して参加という、豪華なオフ会だ。

 リダたちが来れないのが残念だけど、ほんとこんなオフ会を頻繁にやるギルドになるなんてね、予想もしてなかったよね。


 でもまぁ、楽しいのはいいことだ。

 だいが楽しそうな笑顔なのは俺も嬉しい、俺も何だかんだこのオフ会を楽しみにしてたのだから。

 きっと今日も、笑いに包まれる日になるに違いない。


 隣を歩くだいと共に目的地である新宿を目指しながら、俺たちはみんなが待つであろう待ち合わせ場所、ヨコバシカメラのゲーミングPCコーナーを目指すのだった。






「ゆめ誕生日おめでとうね」

「おめでとー」


 集合時間である17時の10分前頃、俺とだいは待ち合わせ場所に集合。

 そして開口一番ゆめにお祝いの言葉を贈る俺たち。


 ちなみにここは第2回オフ会の時の待ち合わせ場所でもあり、俺がゆきむらとジャックと初めて会った場所で、昨日の活動日の後、ぴょんから待ち合わせ場所に指定されたらしい。


 俺たちが到着した段階で既に来ていたのはぴょんとゆきむら、そして主役の一人であるゆめ。

 しかしゆきむらが既に到着していたのにはちょっとびっくりだな。一人で来れたのだろうか?


「ゆっきーよりおせーぞーって、ゼロやんその頭どうしたー?」

「ありがとね~、ってゼロやん怪我したの~?」


 そして案の定ね、現れた俺らに反応しつつ、俺の傷に驚く者が二名。


「文化祭でちょっとなー」

「なんだー? 喧嘩した生徒の仲裁にでも入ったのかー?」

「そんな物騒な文化祭じゃねーから……」


 そして心配そうなゆめの言葉に俺が答えるや、全く心配する気配のないぴょんがいつものように適当なことを言ってくるので、今日も会って早々ツッコミ1回目。

 いや、数えるのは不毛だからやめることにしよう、うん。


「でも怪我された時は、けっこう痛そうでしたよね」

「え、ゆっきーゼロやんの文化祭見に行ったの~?」

「はい。だいさんにお願いして、連れていってもらいました」

「おー、愛だな!」

「はい、愛です」

「いや、はい、じゃねーだろっ」


 そんな俺の怪我トークに、私は先に知ってましたよと言わんばかりのゆきむらが加わると、さっそくゆめとぴょんがそれに反応。

 しかしなんでこう、ぴょんのボケにゆきむらは真面目に答えちゃうかなぁ……。

 いや、愛が真面目ってのもおかしいんだけど。


「ゼロ様が怪我をしたので、だいさんがそれを助けてあげてました。あれも愛でしたね」

「へ?」

「む!?」

「おい! 呼び方!」

「むむ?」


 そして昨日までのボケかと思いきや、まさか今日も飛び出た「ゼロ様」呼びに俺は焦り、ゆめとぴょんは目を見開いて驚いた様子を見せる。

 だいは……あ、既に笑ってやがるこいつめ……!


「ゼロ様って何~?」

「おいおい、お前ゆっきーに何したんだよおい?」

「何もねーし、何もしてねぇって! ああもう、ゆきむらちゃんと説明して!」


 迫るゆめとぴょんを制止しつつ、俺はゆきむらにちゃんと説明するよう促すが。


「愛です」

「何が!?」


 いや、どや顔すな! 意味分からんから!


「おいおい、何ゆっきーの純情をもてあそんでんだお前ー?」

「ゆっきーダメだよ~? 変な男に引っかかったら~」

「いや、俺は潔白だからな!?」


 ああもう……まだ会って数分だぞ? それでこれかよ……はぁ。


「ゆっきーだけの呼び方考えたのよね」

「はい、そうなんです」

「おお、正妻の余裕かっ」

「ちょ、変なこと言わないでっ」


 さすがに俺が早くもツッコみ疲れしてきたのに気付いたか、やっとだいが俺の援護に入ってゆきむらの言動について説明してくれたけど、残念なことに今度はだいがぴょんの餌食に。

 ほんともう、ぴょんはいつもぴょんだな!


 相変わらずの焼けた肌を惜しげもなく見せる黒のノースリーブにカーキのパンツ、サンダル姿のぴょんに、ぴょんとは対照的な白い肌を肩だけ見せるオフショルダーの水色トップスに白のロングスカートを履いたゆめ、そして白のTシャツに紺色のスカートを履いたゆきむら。

 みんなそれぞれ綺麗だったり可愛いだったりの感想が出そうな感じで、黙ってれば大和が来るまでの俺は相当なハーレム状態にしか見えないはずなのに、ほんと、代われるものなら誰か代わってくれって感じの徒労感が俺を襲う。


「そういや、ゆきむらのスカートって珍しいな」

「あ、ゼロ様気づいてくれましたか?」

「そりゃ気づくだろ、ってその呼び方はやめろ」


 みんなの恰好を改めて眺めた俺が一番に気づいたのは、いつもはジーンズを履くことが多いゆきむらが、今日はスカートだということ。

 女性陣の中で一番背が高いゆきむらのスカート姿は、ちょっと新鮮で可愛かった。


 しかしこいつは、いつまでゼロ様呼びを続けるんだ……?


「似合いますか?」

「え、あ、うん。似合ってると思うよ」

「おーおー、さすが色男。目ざとく褒めるねー」


 いつものぽーっとした表情じゃなく、まるで気づいてもらえて嬉しいみたいなね、僅かながらにそんな変化を見せた表情で「似合いますか?」なんて聞かれたらね、そりゃ「似合ってるよ」しか言えないよね!

 あ、ぴょんの言葉はもうスルーで。


「え~、じゃあわたしは~?」

「え、普通に可愛いと思うけど」

「えへへ~知ってる~」

「出た! あざとゆめ!」

「そのリアクション、尊敬ものね……」


 そしてゆきむらとは対照的ににこにこ顔のゆめは、うん。元々可愛いし。

 あざとくてもね、可愛いものは可愛いからね。

 

 まぁ、一番可愛いのはだいだけどさ!


「お待たせ~~、今日も華やかだね~~」


 と、そんな会話を繰り広げる俺たちのところにやってきた、聞き慣れた感じの少し間延びした声。

 その声の登場に全員が声の方を振り向くと、そこには予想通りの人物が。


「あ! ジャックちょっと焼けたな!」

「海で遊んだからね~~、あ、ゆめ誕生日おめでと~~」

「ありがと~、ジャックも新婚旅行いけてよかったね~」


 予想通りの人物、現れたジャックはグレーの半袖サマーニットに白のパンツスタイルで、たしかに見えている肌が記憶よりも日焼けしていた。

 そりゃ10日間くらい小笠原の海で遊んだりしてたら、日焼けもするってもんか。

 でもなんというか、身長の低さも相まって夏休みを終えた子どもみたいだな、ジャックの場合は。


「ゼロやんそれどうしたの~~?」


 そしてジャックも俺の怪我に気づいたか、不思議そうな顔を向けてくる。

 まぁ聞かれるのはね、予想通り。


「文化祭で怪我しちゃったのよ」

「ありゃ、どんま~~い」


 その質問に何故か俺の代わりにだいが答えたんだけど、まぁだいなら間違いはないからな。


 とりあえずジャックも来たし、これで残る待ち人は一人、か。


「あとはせんかんだけかー。主役の一人のくせに、おせーな!」

「でもまだ2分あるし~~?」

「せんかんは大きいから、近くに来れば目立つんじゃないかしら?」

「そうですね、おっきくて黒いですもんね」

「あ、噂をすれば、みたいだぞ?」

「ほんとだ~、おっきくて黒いね~」


 いや、おっきくて黒いって、なんか人を形容する言葉としてどうなんだと思うけど。

 まぁ、事実そうだからな。


 ジャックとはおそらく信号1回分くらいの差だったのだろう。

 さすがに6人で陳列された商品の辺りに固まるのは迷惑なので、ヨコバシカメラの入口付近で集まる俺たちは、離れたところからちょっと急ぎ足でこちらにやってくる大和を発見。

 大和も俺らに気づいたのだろう、爽やかな笑顔を浮かべると、手を振りながらこちらに走り出したようである。


「悪い悪い、ちょっとトイレ混んでてギリギリなっちまった」

「ったく、主役の自覚あんのかー?」

「せんかんさんお誕生日おめでとうございます」

「おめでと~」

「おー、ありがとな!」


 みんなからの「おめでとう」を受ける、スポーツブランドの白地のTシャツにハーフパンツというザ・夏男みたいな大和が浮かべる笑顔はやはり爽やか。

 でもぴょんだけはちょっと冷やかしてたけど、時計を見ればまだ17時1分前だし、待ち合わせ時間には間に合ってるんだよな。


 あれか? 最近いい感じの大和に対する照れ隠しか?

 いや……普段通りにしか見えないけど。


 今日はゆめと大和が主役だけど、大和とぴょんもね、どうなってるのか、ちょっと様子見だな……!


「じゃ、全員揃ったし行くか!」

「お~!」


 そして幹事であるぴょんの声に従い、全員で移動開始。


 こうして会うのは宇都宮以来だけど、LAの中ではよく会ってるから、やはり久々感はないな。

 まぁ俺からすればだいと大和は言わずもがなで、2週間前にゆめとも会ったし、ゆきむらは昨日会ったもんな。

 ぴょんとジャックが、1か月ぶりくらいか。

 でもやっぱ、こいつらといるのは気楽でいいなぁ。


 さてさて今回はどんなオフ会になるのか。

 みんな、どんなプレゼント用意したのか。


 会っていきなりツッコミ疲れはしたものの、俺たちはみんな足取り軽く今日の会場となる居酒屋を目指すのだった。







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以下作者の声です。

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 プレゼントバトルは次話より開幕!!

 ちなみにゆきむらは集合1時間前に新宿に来たみたいです。


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本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。3作目となる〈Yuuki〉をゆっくり再開します。

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