第226話 職場の愉快な仲間たち
「最近の若者の出会い方はおじさんの想像を超えるな……」
「いや島田さんそこまで俺らと変わんないでしょ……」
だいのプライバシーというか名誉もあるので、だいが7年間片想いしてたことは伏せつつ、俺は合同チームの練習の際に出会った月見ヶ丘高校の先生が7年ほど前にLAの中で出会ったフレンドと同一人物であったこと、オフ会でそれを知ったこと、そこから色々ご飯とか行ったりして交際に至ったことを簡単に説明した。
この話については大和も特に茶々を入れてこなかったから、ちょっと安心。
まぁオフ会トークはな、下手すると大和にも飛び火するかもしれないから、そこのとこのリスクマネジメントなんだろうな……巧い男め。
「いや、なんかすごいっすね! 7年越しの出会いって、ロマンティックっすね!」
「北条先生の彼女さんは、月見ヶ丘の先生なんですか」
「部活絡みもあったから、そらちゃんが先に知ったってことねー。なるほどー」
どこまで本気か分からないが、大げさに感動したふりを見せる将斗に、話の中で登場しただいの所属校に反応する久川先生、そして市原が知っていたことに部活という話から合点がいった笹戸先生がそれぞれ反応。
まぁ一様に驚いてはいるみたい。全てを知る大和は除いて……って、あれ?
「そっかー。北条くんに彼女かぁ」
何だか少し残念そうというか、悲しそうな雰囲気を出す宮内先生。
……え、その反応って、まさか……?
「割といいなぁって思ってたのに、残念。ちゃんと幸せにしてあげるんだぞ?」
「なんだと!?」
「え、宮ちゃんマジ!?」
「宮内先生そうだったんですか?」
「まさかのカミングアウトっすか!」
「宮ちゃん分かるー。うちの学校の中なら、倫くんの顔が一番いいよねー」
そして俺の話に対する驚き以上の反応が、宮内先生の言葉に対して発生する。
同じ学年組んでる大和や女性陣の久川先生も笹戸先生も知らなかったってことは、相当密かないいなだったんだろうけど……。
「が、がんばります……」
俺としても来た時から一番タイプだなぁって思ってた宮内先生に「いいなと思ってた」って言われ、返せた言葉はこのくらい。
いや、俺も思ってただけで何かしたわけじゃないから、向こうもその程度の気持ちだったんだろうけど。
「今日は倫さんの彼女さん呼べないんすかっ!?」
「おっ! そうだぞ北条! 呼べ呼べ!」
「いや、月見ヶ丘明日明後日文化祭っすから、今日はダメです」
「あ、月見ヶ丘は今週なんですね。さすが進学校……」
そしてわずかに流れた不思議な空気を察したかは分からないが、ほぼ定番ともいえるような、彼女いるやつは彼女呼べよという展開を将斗が発生させてくる。
今日が普通の金曜だったらいいけど、明日明後日の土日も仕事の人間をどうして呼べるというのか、いや呼べない。
自分の身で考えれば、絶対行かないだろあんたらだって。
「でも会ってみたかったな、北条くんの彼女さん」
「マジで美人だぞ? それに……」
「おい田村、お前今どこ見た?」
「え、いや! 落ち着け宮ちゃん! 誤解気のせい気の迷いだって!」
俺が将斗と島田さん、久川先生と話しているうちに、普段の様子に戻った宮内先生が「会ってみたかった」発言をするや、会ったことがあるアピールをしたかったからか大和がそれに反応したけど、彼は真横にあった絶壁に目をやってしまったが最後、踏んではいけない虎の尾を踏んでしまったようである。
……気の迷いはお前だな。南無。
一瞬にして修羅の相貌に変化した宮内先生に胸倉を捕まれる大和の光景は、それはそれは壮観でした。
その迫力たるやぴょんの比ではない。あれは完全にね、
「倫くんの彼女さんの、そんなにおっきいの?」
「え、あー……まぁ、それなりには……」
「えー。あたしよりもー?」
「いや、え、何してんの!?」
そしてみんなが修羅と化した宮内先生の方を見る中、つんつんと俺の肩をつついて、大和が目で語ったせいで宮内先生が激怒した話題について尋ねてくる笹戸先生。
そして彼女はブラウスの上の方のボタンを少し外し、前かがみになってその谷間をアピールしてくるではありませんか。
そんな光景見せられたら、俺の視線はそこから離そうと思っても離れるものではないが、残った理性がかろうじて彼女を止めさせる言葉を吐いていた。
「えー、誰かのものって考えると、欲しくなっちゃうときないー?」
「いや、落ち着け! 俺ら公務員だから! その考えはアウトだって!?」
そう言って隣の席から前かがみになっていた笹戸先生が、かがんだ方向にそのまま倒れて、もとい俺にもたれかかってくる。
胸元ばかりに目をやってしまっていたが、よくよく見れば彼女の顔はかなり赤いようで……。
そうだった! 笹戸先生お酒めちゃくちゃ弱いんだった!!
でも君、今日まだ2杯目だよね!?
「いや、笹戸さん頑張って!?」
「おいおい、恵理華ちゃん大胆だな!?」
そして俺たちのやりとりに気づいたか、みんなの視線が俺たちというか、笹戸先生に集まる。
俺からすれば助けて欲しい状況なのに、島田先生なんか完全に悪ノリモード。
とりあえず俺は笹戸さんが倒れないように焦りながら肩を支えるが、いや、女性陣助けてくれませんかね!?
「笹戸先生大丈夫ですか?」
「だいじょーぶらよー」
「相変わらず恵理華は弱いわね……」
「いや、とりあえず久川さん、場所代わって!?」
「えー、別にいいじゃーん」
俺の心の声が聞こえたか、女性陣から心配する声が聞こえて俺は隣に座る久川先生に助けを求めるも、当の笹戸先生に起き上がる気配なし。
「いーじゃないっすか、そのまま寝かせてあげれば!」
「彼女ありだからな、逆に安心なんじゃねーの?」
「いや、他人事だと思ってますよね!?」
一瞬立ち上がろうとしてくれた久川先生が笹戸先生の「いいじゃん」に怯んだ隙に、正面側からは完全に面白がる後輩と先輩の声。
そして大和といえば。
「いや、笑いながら写真撮ってんじゃねぇ!」
「あ、バレたか!」
どんな神経してんだこいつ。つーかちゃんと消せよそれ!
もっかい宮内先生に殴られろお前!
「とりあえず明日香助けてあげて」
「わ、わかりました」
そしてだいぶ笹戸先生の意識が危うい感じになったところで、ようやく宮内先生から俺へ救いの手が差し伸べられる。
女神か……!
その指示に従いやっと立ち上がってくれた久川先生が笹戸先生を後ろから抱き上げ、自分がいた席へ運び、壁にもたれさせてあげる体勢へ。
それに合わせ俺がいた席に久川先生が座り、俺はその隣の端っこへ。
ああ、やっと解放されたぜ……。
しかしまだあれだぞ、笹戸さんたち来てから3,40分しか経ってないんだぞ?
弱すぎだろさすがに。
「恵理華さん疲れてたんすかねー」
「そうね、新学期スタートで相談に来る子いっぱいいたって言ってたわね」
「あ、そうなんすか?」
ほう。そうだったのか。……となると、まぁそこまで悪くは言えないのか……っても、さすがにさっきのはやりすぎだろ。
普通に寝てくれ、どうせだったら。
「まぁ2学期はなげーからな。来週はうちも文化祭だし、明日は俺らも我が身だわな」
「お酒飲んで、眠くなったことないんですけど……」
「それは明日香さんが強すぎるからっすよ……」
みんなで既に夢の世界に行ってしまったであろう笹戸先生を眺めつつ、起こさないように配慮したか声のトーンを落とした島田先生の言葉に、久川先生が天然炸裂。
この人たまに、こういうとこあるんだよなぁ。
その後一旦場が落ち着き、しばし新学期始めの生徒の話なんかをし出す俺たち。
大和が時々スマホいじってたけど、仕事の話になるとみんなやはり思ってることが多いのか、だんだん愚痴になってくから不思議だよね。
そして再び島田さんと将斗が一服で中座し、戻って来た時。
「そういや、理恵ちゃんと恵理華ちゃんは北条派だったみたいだけど、明日香ちゃんは誰派なんだ?」
「え、な、なんですか急に」
まるで時間を戻すように島田先生の質問が久川先生に炸裂。
よく見れば島田先生もけっこう顔赤いし、さっきは真面目なこと言ったと思ったけど酔ってんなーこりゃ。
「これで倫さんって言われたら今日は倫さんの奢りっすね!」
「お、そりゃいいな!」
「いや、なんでだよ」
そして慌てる久川先生を横目に悪ノリする将斗とそれに乗っかる大和。
っつーか島田さんさ、その質問――
「明日香、それセクハラだから答える必要ないのよ?」
その通り!
いくらプライベートで飲んでるとはいえね、モラルは大事だからね!
だが。
「え、ええと、別に好きとかそういうのはないですけど、タイプなのは……」
ん?
だが、真面目にも島田先生の質問に答えようとする久川先生の視線が、彼女から見て正面左の方向へ。
目は口ほどに語るというが……ほほう。
「え、俺!? いやぁ、悪いな倫。お前の三冠阻止しちゃって!」
「え、そうなの明日香?」
「大和さんも黒いけどイケメンっすもんね!」
「結局顔かー!」
久川先生の視線の先にいた大和が、ちょっとだけ嬉しそうに俺を見て、それに続く他のメンバーの反応たち。
いや、俺だったらどうしようとかちょっと思ったけど、そうかそうか、ほうほう……。
「こいつデリカシーないわよ?」
「べ、別に好きとかじゃないですって!」
先ほどのことの留飲が完全に下がったわけではないのだろう、隣にいる大和を親指で指差しながら、怪訝そうな顔で久川先生に物申す宮内先生と、慌てたように手を振る久川先生。
でも、久川さん少し顔赤くなってるぞ……?
酒じゃそうはならないはずだよな……?
「明日香さん照れてるじゃないっすか!」
「お、なんだ? オフィスラブか!?」
そんな様子に反応を見せる
俺もこれ、あの話を知らなかったら一緒に盛り上がれたと思うけど……でも大和は、なぁ……。
「せっかくの好意頂いたとこ悪いけど、俺今気になる人いるんだよなー」
「え、田村そうなの?」
「まだ気になるくらいだけど、マジマジ」
おおう。ここで自分でそれを言うのかお前!
久川先生の視線を受けても動じることなく、さらっと自分の恋愛事情を話す大和に対し、宮内先生の方がびっくりの様子。
「明日香さん失恋っすか! 可哀想!」
「ち、違うからね! 変なこと言わないで!」
そして大和の言葉に大げさな動きを交えつつ久川先生を慰めようとする将斗に、久川先生は声を大にして反論する。
でもこの反応見るに、割と本気でいいなとは思ってたのではないだろうか、そんな風にも思えた。
大和はね、ほんといい奴だからね。
基本ふざけがちだけど、根は真面目で優しいし、優良物件だと俺も思うよ。
「大和さんの気になる人って、うちの職場っすか?」
「違う違う。隠してたわけじゃないけど、倫が彼女と出会ったオフ会、俺もメンバーなんだけどさ」
「え、何それ」
そして将斗の相手は誰かという質問に、先ほどの俺の話の時には入ってこなかった大和が、自分もオフ会メンバーであるとカミングアウト。
その発言に再び驚く宮内先生。
島田先生なんか、オフ会とか全くイメージなかったみたいで理解を超えてるのか、なんかちょっと考え込んでる風だな。ほっとこ。
「そこメンバーの一人なんすよ。だから倫は知ってる」
「オンラインゲームって、知らない人と遊ぶゲームじゃなかったんですか……?」
続けた大和の言葉に、俺の隣から不思議そうな声が上がる。
大丈夫、久川先生の考えは間違ってないよ。
普通はこんなリアルでぽんぽん会って恋愛に発展するとか、あるわけじゃないからね。
「え、LAって出会いの場なんすか!? 俺もやってみようかなぁ」
「いや、勘違いすんなおい」
そんな不純な動機でゲームしようとすんな、将斗め。
って、大和はそれ目的で復帰して今に至り、俺はそこで彼女出来てるから言っても説得力ないだろうけど……。
「おじさんにはもう理解できん……」
「北条くんも知ってる人なのね。どんな人なの?」
「え」
明後日の方向に視線を送る島田先生を放置しつつ、宮内先生の質問を受けた俺はどう答えたものか大和に視線を送ると、大和は焦るでもなく、小さく頷いてくれた。
言える範囲で、言っていいってことか……。
「ええと、たしか町田市内の中学校の先生で、面倒見とノリが良くて……」
と、そこまでの説明をしたところで、俺はぴょんの見た目の特徴を考えているうちに、無意識に似ている人のある部位に視線を送ってしまった。
その視線に、俺の正面の人物が何かを察する。
「ん? 北条くん、君は今何を見たのかな?」
「え!? あ!! ちがっ!?」
って、ここで否定したら逆効果か!!
「倫さん、南無」
「貴様、そこになおれ」
「いや!? それジョッキ!? 死ぬって! それは死ぬ!!」
後悔先に立たずとはよく言うけど、俺はこの時ほどに自分の無意識を恨んだことはあるまい。
俺の正面には笑顔に青筋を浮かべ、飲み終わった中ジョッキを振りかぶる宮内先生の姿。
両サイドの男二人は、何故か姿勢を正して俺に向けて合掌。
いや、マジでそれ下手したら死ぬって!?
「今のは倫が悪いなー」
「倫さん、今までありがとうございましたっ!」
「や、大和だってさっき同じこと言ってたじゃないっすか!?」
「……ほう。貴様も同じことを思っていたんだな?」
「しまった!!」
「
墓穴を掘った先で塹壕に逃げ込もうとした俺が入ったのは、どうやらまたしても墓穴のようで。
「イケメンが一人死ねば、俺らに回ってくる女性も増えるなぁ」
「何その理論!?」
とまぁ、誰一人俺を助けてくれるものはなく、万事休す。
ああ、短い人生だったなぁとか、少し達観したりしながらも、この場をどう切り抜けるか、脳内全力フル回転で弁明の言葉を探すのだった。
―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―
以下
―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―
(宣伝)
本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。3作目となる〈Yuuki〉はちょっと途中で停止状態ですが、1,2作目掲載中です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます