第218話 オフを知ってるからこそね

 時刻は21時53分。


〈Soulking〉『あ、仁起きちゃったからちょっと放置するね!』

〈Jack〉『おお、いってらっしゃーーーーい!』


 そして途切れるみんなでの会話が続いている内に嫁キングが離席。

 これはもう、このまま雑談パターンなりそうだな。


〈Yume〉『せんかんは今お仕事大変なのー?』

〈Senkan〉『んー。まぁAO入試と就職試験の準備で、ちょっとバタバタではあるな』

〈Senkan〉『卒業学年の担任の2学期って、なかなかハードだなと痛感はしてるw』

〈Yukimura〉『就職試験、ですか・・・ちょっとイメージつかないです』

〈Hitotsu〉『大変そうですね~・・・』

〈Zero〉『学年で連携しないとしんどいぞ』

〈Pyonkichi〉『おw何か先輩風吹かしだしたぞ!w』

〈Zero〉『いや、俺は1回高3担任やってるからな?w』

〈Daikon〉『そうね、高校で卒業生出してるのってゼロやんだけよね』


 だいナイスフォロー!

そうなんだよね! 何だかんだリダと嫁キングの次に教員歴長いのって俺なんだよな。

 リダ夫婦は小学校だから、高校教師の俺とだい、大和、あーすの中で卒業生出した経験があるのは俺だけなのだ。


〈Gen〉『卒業式は泣けるぞw』

〈Zero〉『うむ。涙なしでは見送れない』


 そして担任として卒業式を迎えたことのあるリダが乗っかってくる。

 ほんともうね、あれは泣ける。3年間の全ての苦労とむかつきが吹き飛ぶ、卒業までを導いた者の特権だな。


 しかし高3担任かぁ……思い出せばまぁ、それはそれは多忙な日々だった……。

 とはいえ練馬商業はだいたい就職だから、色々やらなきゃいけない星見台よりある意味楽だったかもしれないけど。

 ある程度ルーティーンでみんなで仕事回してたし。


〈Senkan〉『そこまでに力尽きないようにしねーとw』

〈Jack〉『先生たちって大変そうだよねーーーー』

〈Yukimura〉『私も早くそのステージ立ちたいです』

〈Hitotsu〉『お兄ちゃん実家戻って来た時よく愚痴ってたねー』

〈Zero〉『まぁ、それは否定しない・・・』

〈Senkan〉『そういや倫の学年、今日の放課後ちょっと揉めてたように見えたけど、平気だったのか?』

〈Yume〉『あら。どったの~?』

〈Daikon〉『問題?』

〈Pyonkichi〉『なんだ服務事故かー?w』

〈Zero〉『変なこと言うな!w』

〈Zero〉『俺のクラスで不登校気味な子がいて、今日欠席だったから連絡取ってたんだけど、俺がその子と電話で話してた時に元担任の先生がちょっと暴走したんだよ』


 そして仕事大変トークの流れの中で、まさかの大和からのパスが来たので、もう今日は完全に雑談で終わるだろうと決め込み、俺は今日あった出来事についてみんなに相談することにした。

 後でだいに聞こうと思ったけど、幸い初担任ってメンバーも多いんだし、色んな意見聞けそうだしな。


〈Zero〉『電話でどうしたのか聞き取ろうとしてたんだけど、元担任の先生、けっこう猪突猛進型というか、突っ走る系だからさ、俺から電話奪って、いきなり明日待ってるって言っちゃったんだよね』

〈Zero〉『そしたら案の定生徒は電話切っちゃって。それに対して俺ともう一人の先生で注意したって感じ』

〈Zero〉『初担任だし、まだ一人も退学も転学もさせたことないから、気持ちは分からんでもなかったけどさぁ・・・』

〈Senkan〉『なるほどwあの子ならやりかねんなw』

〈Daikon〉『あの子って、女の先生なの?』

〈Yume〉『お、知らない女性に嫉妬かな~?w』

〈Daikon〉『ち、違うわよ!』

〈Pyonkichi〉『私も同じ職場だったらなー的な?w』

〈Yume〉『やきもきしちゃうねwww』

〈Daikon〉『話逸らさないの!もう・・・』


 すげえなぴょんとゆめ。ほんと一瞬でふざけだすなー……。

 しばらくぴょん単品だったせいか、ゆめもセット今日はほんとノリノリだな。


〈Senkan〉『俺が1年の担任の時に入都してきた新卒新採だから、ゆめと同い年か?』

〈Yume〉『ほほ~』

〈Zero〉『だな。まぁやる気はわかるんだけどさぁ。今回は完全空回りなんだよなぁ』

〈Zero〉『今回の生徒はまだ分かんないけど、無理矢理引っ張るだけじゃなく、環境を変えてリスタートっていう選択肢もあるって、指導する側としては分かって欲しいところではあるね』

〈Gen〉『そうか、義務教育じゃないからそういうこともあるのか』

〈Yume〉『義務だと来なくても卒業できちゃうしね~』

〈Pyonkichi〉『あたしのクラスなんか中1の頃数回しか来なかった奴いるぞ』

〈Hitotsu〉『校種で色々違うんですねー』


 俺の発言に、義務教育を受け持つ小中教員ズが反応してるけど、俺からすれば何が何でも面倒見なきゃいけない義務教育の方が大変だと思うけどね。

 暴力沙汰起こしたら、高校ならだいたい1発で進路変更ってなるからな。


 あ、ちなみに校内暴力とか起こしての進路変更ってのは、事実上の退学処分と同義に近いんだけど、懲戒処分とすると生徒の経歴に残るのだ。これは調査書とか指導要録とかにその生徒の記録として残ってしまうので、相応の不利益を被ることは免れられない。

 でも学籍がない生徒には懲戒処分を下せないので、処分を受ける前に進路変更を促す、ってのが学校の対応として主流らしいぞ。

 つまり退学っていう懲戒処分の経歴残したくなかったら自主退学するか転校してね、ってことである。


 停学処分も同じく懲戒だから、これは言い方を変えて謹慎を申し渡す、って感じだな。うちの学校なんかだと登校謹慎の形にして、問題起こした生徒を反省が見られるまで一定期間以上一人別室に登校させて指導するって方法を取ってるぞ。


 っと、話がそれたけど、十河はそういう問題を起こしてるわけじゃないから、環境変えるなら普通の転学処理になるんだけどな。


〈Daikon〉『でもやっぱり受け持った以上、責任持って卒業まで面倒みたいものなんじゃないかしら?』


 あ、だいはやっぱり久川先生寄りの考えか。

 うーん、これはあれだな、初めて赴任した学校の影響な気はするな。


〈Senkan〉『いやぁ、それが理想とは思うけどねー。なかなかそううまくいかないんだよなー。俺も担任なってから学んだわ』

〈Earth〉『そだねー・・・その生徒一人に取られる時間分、他の子に使う時間なくなっちゃうからねー・・・難しい><』

〈Zero〉『うむ。正直学校来てくれないことには、どうにもならんからなぁ』


 そしてだいとは反対に、俺の考えに同調するメンズたち。

 あーすもけっこう大変そうな学校で働いてるって話だったし、俺寄りみたいだな。


 しかしごめんな、この会話教員じゃない真実やジャック、ゆきむらからするとイメージつかない話だよな……!


〈Earth〉『あ、でも来ないなら家庭訪問しちゃえばいいじゃん☆』

〈Zero〉『え』

〈Earth〉『やっぱ顔合わせて話すのが1番だと思うよ☆』

〈Senkan〉『なるほど。たしかに』

〈Pyonkichi〉『うむ。家庭訪問だな!あーすたまにはいいこと言うな!』

〈Zero〉『あー・・・そうか、その手もあるか』

〈Earth〉『そうだよ☆あーすくんは来なくなった子いたら、どんどん行ってるみたいだよ☆』


 いいアドバイスしてくれるなぁ……って、あーすくんは、ってなんだその言い方。

 え、ネカマロールプレイ中だから、そういう設定でやってるのかこいつ……?

 性別も顔もバレてんだから、意味ないと思うけど……。


〈Yume〉『そうなんだ~』


 つめたっ!

 あーすくん発言にまさかのノーツッコミか!


〈Gen〉『不登校気味ってことは来てないわけではないんだろうし、ゼロやんが信頼されてれば会ってはくれるんじゃないか?』

〈Daikon〉『そうね。行ってみたら?』

〈Zero〉『うん。明日生徒来なかったら、主任に相談してみる』

〈Hitotsu〉『お兄ちゃんがんばれっ』

〈Yukimura〉『来るようなるといいですね』

〈Zero〉『ありがとな。みんなに聞いてみてよかったよ』

〈Jack〉『同業者多くてよかったねーーーーw』

〈Pyonkichi〉『そうなー。このギルドの真価が発揮されたかwww』

〈Yukimura〉『お話聞くのも勉強になります』

〈Jack〉『ちなみに図書室だって、相談してくれれば図書室登校の子とか対応するよーーーーw』

〈Yume〉『あ、そういうのもありなんだ~』

 


 そんなこんなで結局この日はずっとうちのギルドならではの話が続き、大和から高3担任の時の話を聞かれたり、ゆめの生徒対応での悩みを聞いたり、ゆきむらがみんなに授業の時に意識してることを聞いたりと、完全にリアルとリンクした会話が続いた。


 みんなそれぞれ色んな話をしてたけど、意外だったのはあーすがけっこう管理職や先輩の先生に物申すことがある、って話にはちょっと驚いた。


 唯一学校と一切関わってない真実からすれば相当退屈じゃないかなと思ったけど、適度に相槌打って聞いてくれていたし、学校特有の体質なんかについても質問したりしていた。


 ちなみにこの会話中途中で嫁キングも戻って来たから、ほんと文字通りみんなで話をする時間となったぞ。


 そして気づけば時刻は23時近くなるっていうね。

 教員という職業のおしゃべりさ炸裂だね。


〈Gen〉『おっともうこんな時間か!さすがに寝るか!w』

〈Yume〉『久々にいっぱい話したね~』

〈Jack〉『たまにはこんな日も悪くないねーーーーw』

〈Yukimura〉『勉強になりました』

〈Senkan〉『いい相談会だったw』

〈Daikon〉『私も参考になったわ』

〈Hitotsu〉『皆さんのお仕事知れて楽しかったです!』

〈Zero〉『うちのギルドならでは、だな』

〈Soulking〉『私も少し現場の思い出蘇ったよw』

〈Earth〉『あーすくんが困った時もよろしくね☆』

〈Pyonkichi〉『来週に向けてのプレゼント用意忘れんなよ!w』

〈Gen〉『そこは参加する諸君頑張りたまえ!じゃ、解散!w』


 ということで、リダの合図で今日の活動、というか雑談も終了の流れに。


 俺としても明日十河が来なかったら、家庭訪問って選択肢ももらえたし、ほんとにいい時間になったと思う。

 連絡がつかなくなったからって理由で家庭訪問は行ったことあったけど、こういうパターンでもたしかに顔合わせて話した方が得られる情報多いだろうから、有効そうだよな。


 そんなことを思いながら、一人また一人とログアウトする流れに乗り、俺もだいと一緒にみんなに『おやすみ』を言ってログアウト。

 

 さてじゃあ寝るか、そう思った時俺のスマホが振動した。


 んっと……あ、だいだ。どうしたんだろ?


「どうした?」

『あ、ううん。今日は足の具合は大丈夫だった?』


 あ、もしや声が聞きたかった、か?

 まぁたしかに昨日までは夏休みで、俺が怪我して以来仕事終わりにほぼ毎日会いに来てくれてたからな。

 寂しくなっちゃったのかな?


「うん。もう松葉杖はなくても大丈夫そうだな。なんだ、心配してくれたのか?」

『べ、別に……。それも気にはなってたけど、話したいのはそのことじゃない』

「ん? どうしたの?」


 電話口から聞こえるだいの声は、声を聞きたいからって感じのちょっと甘えたような感じ、ではなかった。

 それはそれでちょっと寂しいけど……となると要件はなんだろうか?


『ゼロやんのクラスの不登校気味って子って、前に三者面談したって言ってた子?』

「あ、よく覚えてんなー。そうそう、その子」

『その子次第では、転校とか勧めるの?』

「んー、そうだな。原因次第だけど、今の学校だと頑張りづらいって考えてそうだったら、それも選択肢の一つかな」

『でもそれだと、逃げ癖みたいなのついたりしないかしら? 私としては、少し辛くても頑張ることで身に付く力があると思うんだけど』


 あ、俺がみんなに相談したこと、だいとしては腑に落ちないとこあったのか。

 まぁ大和もあーすも俺寄りの考えで、だいに味方がいなかったからあの時はあれ以上言わなかったのかもしれないな。


 そう思った俺はだいの意見に対して自分の意見を伝えるべく、言葉を探した。


「でもさ、その辛さに耐えられる許容量は生徒によって違うじゃん? そこもひっくるめて、一緒に考えてあげることが俺らの役割なんじゃないかな?」

『うーん……理屈では分かるんだけど、なんか納得できないのよね……』

「俺だってすぐ環境変えるか、なんては言わないよ」


 なるほど。やっぱだいもどっちかっていうと久川先生と似た思考があるんだなー。

 まぁ女性の方が感情的とは言うし、関わったなら面倒見たいって気持ちは分かるけど。


「だいだってさ、あえて地元から離れた高校進学して、そっちで頑張ったわけじゃん? その選択は自分の中で正解だった?」

『え……うーん、結果的にそこでいい先生に会えたから、今先生になったとは思うけど……』

「後悔は?」

『してない、かな』

「じゃあ地元離れて、環境変えてよかったってことじゃないかな? それで100%うまくいくなんて保証はできないけどさ、少なくともそのままだったらやりづらい、精神的に辛いって状況を変えられるなら、環境変えるのは1つの手だと思うよ」

『ふむ……』

「ま、今回のことはまだどっちとも言えないけどな」

『わかった。その子が今後どうなるか、また教えてね』

「うん、わかった」


 とりあえず俺の意見は伝えたけど……たぶんまだ感情的に納得はしてないんだろうなぁ。

 『わかった』という割に、だいの声はすっきりしていない感じだったし。


 でもこの辺は経験がないと何ともだろうし、俺が上手く事を進めて、お手本となるように色々教えてあげるとしますか。


『うん。あ、そうだ。明日は文化祭の準備で遅くなるかもしれないから、ご飯うちでもいい?』

「あ、忙しいなら無理しなくて――」

『やだ』


 食い気味やん!

 でも「やだ」って……可愛いなおい。


『買っておいて欲しい材料連絡いれておくから、買い物お願いしてもいい?』

「任せろ」

『ありがとね』

「いや、作ってもらうの俺なんだし、それくらいはやるよ。歩くのもいいリハビリになるだろうしな」

『そっか。じゃあ明日からも頑張ろうね』

「おう。だいも受験生の指導も入ってくるだろうし、頑張れよ」

『うん。頑張る』


 とまぁ、結局プライベートな話になっていくと、だんだんと甘えたい感じになっていっただいは、正直電話越しでも安定の可愛さでした。

 その様子に、自分の心も落ち着いたのが自覚できてしまうほどです。


 うん、せっかく同業者の恋人なんだから、色々協力してやっていくのが正解、だな。


「じゃあおやすみ」

『うん、おやすみなさい』


 そして名残惜しくも通話が終了。

 

 まぁ今日も色々あったけど、明日のことは明日次第。

 十河が来るかどうかで、色々変わるのだ。

 こればっかは人間相手の仕事だから、予想はできないし。


 ゆめと大和への誕生日プレゼントも考えないとなぁ。

 ってか、何だかんだぴょんへも買っておいた方がいいかな。

 うん、そうしよう。


 っと、あれ? 電話中に別なメッセージも来てるな。誰だ?


田村大和>北条倫『口裏合わせ助かった!』23:06

田村大和>北条倫『やー、ぴょんに怒られたわw』23:06

田村大和>北条倫『十河の件がんば!おやすみ!』23:06


 いや、俺何かしたわけじゃないけど……相変わらず大和は気配りすげえな。


北条倫>田村大和『俺は何もしてないよ(笑)』23:15

北条倫>田村大和『でもあれで察するのは無理ゲーだろ(笑)』23:15

北条倫>田村大和『ありがとな!じゃ、また明日!』23:15


 よし、と。


 大和とぴょんのデートは先送りになっちゃったけど、みんなで集まるのもあの二人なら楽しめるだろうしな。

 とりあえず、大和とぴょんの行く末はしばらく持ち越し、か。

 うまくいくといいけどなぁ……。


 そして電気を消してベッドに横になり、これから先の考えているうちに、気づけば俺は夢の世界へと誘われるのだったZzz...






―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―

以下作者の声です。

―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★― 

 校種・職歴・経験校数・現在の担当を補足しておきますと


 リダ(小学校・9年・2校・小5担任)

=嫁キング(小学校・9年・育休中)

>ゼロやん(高校・6年・2校・高2担任)

>せんかん(高校・5年・1校・高3担任)

>だい(高校・4年・1校・高2担任)

=ぴょん(中学・4年・1校・中2担任)

>あーす(高校・3年・1校・高1担任)

>ゆめ(中学・2年・1校・中1担任)

となります。

 新卒新採で教員採用試験に合格したのが嫁キング・ゼロやん・だい・ぴょん(※大学卒業まで6年)・ゆめ(※大学卒業まで5年)ですね。リダとせんかん、あーすが1回試験に落ちたみたいです。

 一応補足までにお伝えいたしました。

 

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本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。3作目となる〈Yuuki〉はちょっと途中で停止状態ですが、1,2作目掲載中です。 

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