第215話 気になる二人
「お、いたいた」
時間にして12時半頃、俺は社会科準備室にて予想通り昼食を取っていた大和を発見した。
社会科で担任をやってるのは俺と大和だけだからか、どうやら他の先生とは休憩の時間が異なったようで幸い室内には俺と大和の二人のみ。
なんという好都合だろうか。
「いやー、昨日休みなんて思わなかったよ」
「あー、うん。ちょっと体調悪くてな」
「え、大丈夫なのか?」
そして冷蔵庫からコンビニで買ってきた弁当を取り出し、レンジで温めている間に俺が大和へ話しかけると、予想外の答えが返って来た。
今日の様子を見ても、そんな具合悪そうには見えなかったんだけど……。
「おう。二日酔いだっただけだから」
「へ?」
「いやー、すげえなぴょん。同じペースで飲んでたらその
そう言って笑う大和。
まぁたしかにぴょんはよく飲む方だけど……そこまで飲んだのかよこいつら……。
「なんか話したりとかは?」
「あー、まぁそれは普通、かな」
「いや、なんだよ普通って」
そして気になる質問には何とも要領を得ない答えが返ってきた。
お前の普通と俺の普通は違うんだぞー? って、こう考えると誰かさんみたいだけど。
「期待されるような色っぽい展開は何もないよ。23時過ぎまでずっと飲んで、お互い家に帰っただけだから。でも向こうもどう思ってたのかねー。とりあえずプレゼントは喜んでくれたけど」
「ふむ……あ、結局何あげたんだ?」
「いやー、悩みに悩んだんだけどさ、可愛いのが好きって聞いてたから、くまのアロマポットにしたよ。好きな匂いは分かんないから、とりあえず無難に柑橘系のアロマオイルとセットで」
「え、くまってあの鮭咥えてるような……?」
「アホか。普通に可愛いやつに決まってんだろ」
「あ、さすがにそうか」
しかしなるほど、アロマか……おしゃれなセンスだな……!
「アロマオイルとか使ったことねーわ! って笑ってたけど、うん、喜んでくれてたとは思うよ」
「ほうほう。そりゃよかった。で、次回は?」
「ぐいぐい聞くなー。まぁ来週、13日の日曜にまた飲みに行こうって話はなった」
「お、近いじゃん!」
そうかそうか、ちゃんと次回の約束も出来たのか、うん。これはなんかいい感じそうだなー。
「うむ。もらいっぱじゃ悪いからって言うからさ、俺の誕生日今月の9日だし、今度は俺のお祝いしてくれるらしい」
「あ、大和ももうすぐなんだ」
「おいおい、まさか俺の誕生日忘れてたなんてことないよな?」
「え、いや、忘れるも何も聞いた記憶ないんだけど……!?」
「いやいや飲み会の時話したことあるって。俺はちゃんと倫の誕生日知ってるぞ?」
「え、マジ?」
「1月3日だろ?」
「え、マジで合ってるし」
う、嘘だろ……!?
え、そんな話したことあったっけ……うーん、全然思い出せないんだけど!
すごいな大和、その記憶力……。
「でも13日ってゆめの誕生日らしいじゃん? だからその日はゆめにも予定確認して、みんなで飲んでもいいかもなって話にはなったよ」
「あー……そっか、そういやたしかゆめも今の時期だったか」
「あやふやだなー。ちゃんとだいの誕生日覚えてんのかー?」
「そ、それは分かるよ! だいは12月27日。俺の1週間前」
「おー、一応ちゃんと彼氏だな」
「え、馬鹿にしてる?」
「はっはっは!」
いや、はっはっは! じゃねえから!
でもそうか、ゆめの誕生日ってなると、みんなでお祝いするのもいいかもしれないな。
これまでのゆめの誕生日報告は、LAの中での事後報告で彼氏から何もらったとかってよく聞いてたけど、今は彼氏なし、だもんな。
だったら仲間内で祝ってあげるのはありか。
となると……だいにもぴょんから連絡いってたりすんのかな。
「まー、とりあえず色々話して、改めていい奴だなってのは分かったから、収穫はあったって感じかね」
「ほうほう。それは、そういう意味で?」
「うむ。次のテスト前あたりで、飲みじゃない遊びに誘ってみようかなとは思ってる」
「おおっ」
「いやー、でもやっぱ学生の時と違って色々考えることあるし、何も考えずに好きになったら付き合うって思考じゃなくなったのは、年取った証拠かねー」
「あー……そういうもん?」
「いや、それは相手の性格次第か。だいって聞いてる感じ、けっこう乙女だったわけだろ?」
「え、いや、うーん……まぁそういう部分がなかったわけじゃないと思うけど……」
俺はだいのこと好きだって思ったから、他のこととか考えなかったけど……大和もぴょんもそこらへんの感覚は違うってことか。
そんな難しく考える必要ないと思うけどなぁ、俺は。
「学生時代と違って、何気なく学校で会うとかさ、そういうのもないしな。会う機会が少ないと、会った時に探り探りになっちゃうし、なまじっか元々友達感覚で始まってるから、なおさら難しいわ」
「でもLAではすぐ会えるじゃん?」
「あれを会うと捉えるのかー? あんなんメールとか
「あー……まぁそうか」
「倫みたいに家が近ければまた違うんだろうけどな」
まぁ、うん。俺とだいはちょっと色々奇跡が重なったとは思ってるけどさ。
勤務校も近い方だし、家なんてかなり近かったから、仕事終わりに一緒にご飯行ったりできたもんな、付き合う前も。
LAの中でも7年以上いつも一緒だったし、だいは俺に片想いしてたって話だし、大和とぴょんとは、条件が色々違う、か。
「ゆっきーからの倫に対する矢印みたいに、分かりやすく好意向けてくれればまた違うんだろうけどなー」
「いや、変なこと言うなっ」
それについては対処に苦慮してんだからな! こっちだって!
「ははは、まぁ俺のこと気にはかけてくれてんだろうけど、ぴょんはそこらへんそこまで素直でもないみたいだし。これで実は純粋に飲み仲間が欲しかった、とかだったら笑えるなー」
そしてまた豪快に笑う大和。
まぁ、たしかにぴょんが恋愛状態で目がハートになったりする光景はちょっと想像できないけど……。でもやっぱ二人ともいい年齢なんだし、ねぇ?
「ま、ということで俺の話はそんな感じ。それよりも、なんかゆめが意味深な感じだったけど、演奏会で何かあったのか?」
「え、あ、いやー……」
「お兄さんに話してごらんなさいよ」
「いや、タメだろうがお前」
「俺、今月28。お前、4か月後28。俺、年上」
「細かすぎるわ! しかもなんでカタコト!」
「まぁまぁ、細かいこと気にすんなって。で、どうせなんかあったんだろ?」
「まぁ、色々あったっちゃあったけど……」
ということで、気づけばまたいつものように大和の話を聞いていたはずが、俺が話す番になるというお決まりの展開へ。
まぁ今日はいつもより大和の話を聞けたけど。
ということで話を聞いた以上、俺も言わないではいられないので、13時からの会議まで残り少ない時間の中、俺はかいつまんで大和にこの前の話をするのだった。
「なるほどなるほど。いやぁ、またしても君は色んなことを巻き起こすねぇ」
「いや、巻き起こしてねぇ巻き込まれてんだ……」
俺の話を聞いた大和は、相変わらず話しやすさを増長させるいい相槌を打ちながら俺の話を聞いてくれた。
とはいえ話終わった段階でもうすぐ13時になりそうだったので、今は職員室へ戻りながら話している状態である。
「でもまぁ、この前と違ってそっちはそうそう会う人じゃないだろうし、ゆめが何とかするって言うなら任しとけばいいだろ」
「まぁ、そうだよな」
「でも人のためにそうやって本気で怒れるって、さすが倫だな」
「……褒めてんのかそれ?」
「褒めてるって」
なんかちょっと釈然としない言い方だったけど、相変わらずいい笑顔で話してくる大和に俺はそれ以上追及せず。
「でもま、今回のことに限らず、優しいのはいいことだけど、優しすぎるのはいいことばかりじゃないから気を付けたまえ」
「……どういう意味だ?」
「そこは大人なんだから自分で考えろよ」
「うーむ……」
「じゃ、こっからは会議会議だ。仕事モードで頑張ろうぜ」
と、そこまで話したところで間もなく職員室に着くため、ここでいったん俺と大和の会話は終了。まるで先輩のように大和はぽんと俺の肩を叩くと、自分の席へと向かって行った。
俺の方が、教員歴1年長いんだけどね……!
なんだか宿題を与えられた生徒の気分だけど、たしかにここからはまず学年での会議をして、休んだ生徒に連絡してとやることが多いのは事実なので、俺も切り替えて仕事モードに脳をシフトさせる。
ま、うちの学年の会議は、けっこう緩い感じなんだけどね。
もうちょっと大和と話してたかった思いにいったん区切りをつけ、俺は職員室の机からこの後の会議資料を取って、2学年の学年会議へと移動するのだった。
そして17時を少し過ぎた辺り。
「では職員会議を終了します」
あー、やっと終わったー……。
司会の先生の言葉を受け、多くの先生が足早に会議室を出ていく中、俺は椅子に腰かけたまま一度大きく伸びをした。
なので会議が終わっても焦ることなく、少しそのまま席に座ってゆっくりしていた。
たしか欠席した十河の保護者、帰ってくるの18時くらいって前聞いたことあったし。
何して待つかなぁ……。
「北条先生、その足大丈夫なんですか?」
「え? ああ、大丈夫っすよ。全治2週間って言われて、もう1週間は経ってますから」
そんな俺に話しかけてきたのは同じ学年の久川先生。
相も変わらず、生真面目そうな表情ですこと。
会議中彼女は俺から少し離れた席に座ってたけど、自分にそこまで関係なさそうだなぁって話の時は話半分に他の資料を見たりしている俺と違って、彼女はほぼ全ての話にしっかり耳を傾け、メモを取ったりしていた。
というか、毎回そう。
正直、そこらへんは年下ながら尊敬に値する人だよなぁ。
「そうですか。このあとは、菜々花に電話ですか?」
「ええ。たしか十河んちは親が帰ってくるの18時頃って面談で聞いてるんで、とりあえずそれまで待ってみてっすかね」
「ふむ。でもあの子、どうしちゃったんですかね」
どうやら本命の話題はこっちらしい。
そういや十河は去年久川先生のクラスだったもんな。
元担任の生徒だし、去年は休んだりとかする子じゃなかったから心配なんだろう。
厳しいとこもあるけど、やっぱ久川先生はいい先生だなぁ、ほんと。
「1学期の頃はなんかやる気なくなって、って言ってたんすけど、そういえば1年の頃は進路とかなんか目標言ったりしてました?」
「そうですね。グラフィックデザインの専門学校に行きたいって言ってたのは覚えてます」
「ほうほう。それ俺との面談の時は言ってなかったなぁ。なんか考えでも変わったんですかね」
「うーん、どうでしょうか」
まぁ、本人なしに分かる話じゃないけど、そうか、1年の頃はちゃんと目標あったのか。
となると、やっぱその目標がなくなったとか、そういう感じなんだろうか。
「仲良かった奴らに話しても、来れば話はするけどあんまり遊ばなくなったとかも聞くし、なんか悩んでるのかなぁ」
「いじめとかって感じもありませんしね……」
「そうっすね。
あ、篠原と別所はあれね、十河と仲が良い子ね。3人とも去年は久川先生のクラスで、今年は3人まとめてうちのクラスになった、ギャルかギャルじゃないかでいえばギャルではないし、大人しいか元気かでいったら中間くらいで、サブカルは好きそうな、そんな女子3人組だぞ。
「ま、連絡ないだけで体調不良かもしれませんし、とりあえず連絡してみてっすね」
「そうですね、よろしくお願いします」
「はは、今は俺が担任なんで。任せといてくださいよ」
とまぁそんな話をしつつ、俺と久川先生もみんなが出ていった会議室を出て職員室へ移動する。
職員室に戻ると、まだ半分くらいの先生は電話したり明日以降の準備をしたりと、何かしらの仕事をしていた。
とりあえず、18時まで待って電話か。
つまりそれまでは待つ必要がある。
大和と何か話そうかと思ったけど、大和は大和で会議後も3学年で集まって話し合いをしてたので、邪魔するわけにはいかない。
卒業学年だしね、これからAO入試とか就職試験の奴らとかいて、やることは多いだろうし。
ということで、職員室の自席に戻った俺はPCのスリープを解除し、しばしの間明日以降の授業の準備をしながら、残業代が出ない残業を開始するのだった。
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以下
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本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。3作目となる〈Yuuki〉はちょっと途中で停止状態ですが、1,2作目掲載中です。
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