第214話 夏休みの終わりは寂しい

〈Zero〉>〈Senkan〉『明日のプレゼントは買えたのか?』


 そしてみんなでの活動が終わり、リダ夫婦や真実がログアウトした後、俺は明日ぴょんと二人で飲みに行くって話を聞いている戦友にメッセージを送った。

 俺があれこれ聞くようなこともないとは分かってるんだけど、一応ね。


〈Senkan〉>〈Zero〉『おうよ。この前相談乗ってもらったおかげでな』

〈Zero〉>〈Senkan〉『おー。報告楽しみにしてるよ』

〈Senkan〉>〈Zero〉『するようなことがあればなw』

〈Senkan〉>〈Zero〉『倫も今度ゆめの演奏会の話聞かせろよw』

〈Zero〉>〈Senkan〉『まだ言うか!w』


 と、結局また俺がいじられる結末になったけど。

 ま、大和はしっかりしてるからな、何も心配はない。というか俺が心配するような奴じゃないだろう。


 ちなみに、分かってはいたがぴょんから『明日飲もうぜ!』ってみんなへの提案はなかった。

 もしかしたらだいの方にゆめを含めた3人のグループでは相談とか来てるのかもしれないけど、あえて俺がそこに踏み込むことはしていない。

 もし連絡が来ていたとして、話せるならだいから言ってくれるだろうし、大和と俺の関係を知ってるからこそ、ぴょんはあえて何も言ってないのかもしれない。

 そこらへんは仲間内だからこその微妙なとこだろうし。


 うん、俺はこの件については大和からの話待ちに徹しよう。


〈Pyonkichi〉『夏休みももう終わりかー。あー、あたしの夏が終わっていく・・・』

〈Yukimura〉『夏はぴょんさんのものだったんですか?』

〈Pyonkichi〉『当たり前だろー。紀元前からあたしのもんだぞ!』

〈Yume〉『ボケが雑www』

〈Daikon〉『酔ってるの・・・?』

〈Earth〉『2学期もみんな頑張ろっ☆』

〈Senkan〉『ま、1年頑張ればまた夏休みはくる!w』

〈Pyonkichi〉『1年ってなげーな!』

〈Zero〉『そう言ってて気づけば年とってきただろw』

〈Pyonkichi〉『心はいつでも17歳』

〈Earth〉『あーちゃんもっ☆』

〈Pyonkichi〉『あ、ごめんなさい。やっぱ撤回します』

〈Earth〉『なんでーーーー!?;;』

〈Yume〉『でたあーすのジャック化www』

〈Yukimura〉『ジャックさん、来週には戻ってきますかね』

〈Daikon〉『そうね。なんかこんなにずっとジャックがいないっていうのも変な感じだったけど、旅行楽しんできてくれたらいいわよね』

〈Zero〉『だなー』

〈Pyonkichi〉『ジャックんちでのオフ会も企画せねば』

〈Senkan〉『ほんと毎月のイベントだなw』

〈Yukimura〉『でも、皆さんと会えるの嬉しいです』

〈Yume〉『だね~ほんと、こんな風になるなんて思ってなかったな~』

〈Earth〉『いいな~;;』


 そして俺が大和とメッセージをやり取りしている間にも、ぴょんを口火として雑談のログが続いた。

 相変わらずなぴょんに対して天然かますゆきむらとか、スルーされるあーすとか、毎度のことながら見てて安心するレベルだなぁ。


 2学期が始まってもまたスケジュール合わせながらオフ会やってくんだろうし、うん、やっぱりこの仲間たちと出会えて、LAやっててよかったなぁと思うよ。


 そんなことをしみじみ思う俺の後方からは、まだ続く会話に参加するだいのタイピング音が聞こえてくる。

 こいつも、昔よりはよく喋るようなったなぁなんてね、親心に近いことも思ったり。


 9月からはまた忙しくなるとは思うけど、頑張ろう。


 その後、日が変わるくらいまで会話を続けたあたりで、ぽつりぽつりとみんながログアウトする流れに乗り、俺とだいもログアウトし、夏休み最後の土曜日を終えるのだった。






 そしてついに8月が終わり、迎えた9月1日、新学期初日。


「おはよーっす」

「倫ちゃんおはよっ!」


 俺は新学期でガヤつく我がクラス、星見台高校2年E組の教室で久々に生徒たちと対面した。

 ちなみに昨日から俺は松葉杖を使わないスタイルへとチェンジし、今は右足首をガチガチに固定した状態でサンダル履いた状態へとなっている。

 まだ体重かけたりとか捻ったりするのには恐怖があるが、普通に歩くだけなら固定してれば大丈夫な感じがする程度には回復したみたいである。

 

 まぁそれでもみんな、俺の右足の違和感にはすぐ気づいたようで。


「えー、倫ちゃん足どうしたのー?」

「こけた? こけた?」


 俺の登場にばたばたと自分の席に戻る生徒たちの中から、俺の足を心配する声や、人の不幸を笑う声など、慣れ親しんだ奴らの声が飛んでくる。

 教卓前に座る市原はいつも通りの挨拶をしてきた後、私はもう知ってたもんね、みたいな謎のどや顔を浮かべているけど。


 いや、意味はわからんからな、その顔。


「ちょっと事故っただけだから、大丈夫だよ」


 そんな風に返事をしつつ、席に座る生徒たちを確認。

 部活に入ってなかった奴らなんかは久々の早起きだったのか、眠そうだったりの顔もしているが、やはり久々の学校に少しテンションも高めなのか、珍しくみんな俺の方をちゃんと向いていた。

 こうして制服姿の大勢の前で話すのも久々だなぁ。


「えー今日から2学期が始まるということで、まずは学校生活のリズムに戻して、2週間後の文化祭に向けて準備を……って、あれ、十河そごうは?」

菜々花ななかちゃんはきてませーん」


 全員の顔を確認しながら話している俺の視線が、窓側の後方から2番目の席の生徒が来ていないことに気づいた。

 その生徒の名前を俺が出すと、その後ろに座る生徒がまだ来ていない旨を教えてくれる。


「まだ夏休み気分なんじゃないのー?」

「まだ授業始まんないもんねー」


 そしてそれをきっかけに、何人かの生徒たちが適当なことを言い出すが、俺の中には少しだけ不安がよぎった。

 その生徒、十河菜々花は1学期の間も割と来たり来なかったりがあった生徒で、今後頑張っていけるかについて三者面談をした生徒だったから。

 今年から俺のクラスになった生徒で、部活には所属していないが、1年の頃はけっこうちゃんと学校には来ていたのに、2年のGW明けくらいから途端に欠席が増えたのだ。

 クラス内には1年の頃仲良かった生徒もいたし、クラス替え初日なんかは一緒になってよかったー、なんて話もしてた。4月の俺との二者面談の時も元気そうに「E組でよかった~」なんてことも言ってたんだけど、GW明けからは登校しても心ここにあらずみたいなことが多かった生徒である。

 話しかければ答えはするし、「なんとなくやる気出ないだけだけど、ちゃんと進級して卒業するから~」なんて言ってたんだけど、欠席のペースが進級不可になりかねないペースだったので、俺は1学期の期末テスト前に三者面談を実施したってわけだ。

 保護者の前ではちゃんとするとは言って、テストもちゃんと受けてはいたんだけど……。


 そんな生徒が夏休み明け初日から来ないとなると、なんとなくね、不安ではあるよね。

 女子高生って難しいし。


 あとで家に電話連絡しないとな。


「うーん、お前らも休むならちゃんと連絡するんだぞー。あと、文化祭までもうあんまり時間ないから、実行委員中心に準備計画ちゃんと立てていけよー」


 心の中での不安を生徒に伝えないように隠しつつ、俺はその後も新学期の動きを簡単に伝えた後、体育館で行われる始業式へと生徒を誘導するのだった。




 そして始業式と各クラスでのHRホームルームを終え、俺はすれ違う生徒たちとちょこちょこ話したりしながら職員室へと向かっていた。

 生徒たちは今日はもう放課でここから部活をやったりするけれど、残念ながら今日ばかりは教職員はそうはいかない。担任団による学年会議や、進路部や生活指導部などの各分掌会議が開かれ、その後各分掌主任と管理職による企画調整会議、そしてその後職員会議という、会議ラッシュが発生するからだ。

 まぁこれは新学期初日の恒例なのでもう分かり切ってることなんだけど、色々処理しなきゃいけない情報が多いから、やっぱちょっと面倒ではあるね。


「北条先生のところ、欠席は?」

「あ、うちは一人っす。十河だけいませんでした」

「あー、十河かー。1学期に三者面談してたよな? それはちょっと確認しないとな」

「そっすね。企画会議中に、1回電話いれてみます」


 俺が職員室に戻ると、俺より先にHRを終えていた学年団6人の内4人の男性教師陣が椅子を向き合わせて話をしていた。

 そこに合流するや、学年主任の三竹先生が俺に話を振ってきたって感じである。

 始業式初日の登校状況の確認はマストだから、俺も報告するつもりだったけど。


「いやぁ、今んとこ皆勤のクラスはなしかー……っと、きたか」

「すみません、ちょっと文化祭のことで生徒と話していて遅くなりました」

|いやいや、大丈夫。久川ひさかわ先生のとこは、誰か休んでたかい?」

「いえ、C組は皆勤です」

「お! じゃあC組だけが皆勤か。となると合計で……」

「Aが1、Bが2、Cが0、Dが4、Eが1、Fが2で10人っすね」

「おお、計算が早いなっ」

「いや、メモってただけですって」


 そして6人の担任団最後の一人、学年の紅一点である国語科の久川先生が戻ってきて、三竹先生にクラスの出席情報を報告し、合計数を数えようとした三竹先生に代わって数学科の島田先生が生徒名簿を見ながら答えていた。

 なるほど合計10人かー。うーん、去年よりはちょっと多いな……。まぁ、高2ったら中だるみの学年ではあるけど、やっぱ普通科高校だとこんな感じなのかね。

 

 俺の前任の練馬商業は、商業高校だけあり卒業後ほとんどの生徒が就職をする、という点から欠席についてはけっこう厳しく指導していたので、勉強はいまいちでも学校を休む生徒はかなり少なかった。

 それに対して星見台は普通科で、あまり将来のことを考えてない生徒も多いみたいだから、目的がない分やる気も出しづらいのかもしれないな。

 もちろん頑張ってる子は相応にいるけどね。


 とまぁ、そんなことを思いつつ、俺は他の先生たちから他のクラスの様子を聞きつつ、自分のクラスの様子についても報告した。

 

 あ、ちなみに補足しておくと、うちの学年は6クラスで全生徒230人。A組の担任が学年主任で体育科の三竹先生、B組が数学科の島田先生、C組が国語科の久川先生で、D組が理科の森先生、E組が俺でF組が英語科の久保先生が担任をしている。

 三竹先生と久保先生がベテランの50代で、森先生が元民間企業経験もある40代で3校目の中堅、俺と島田先生が2校目で比較的若手扱いにあたる。若手扱いとはいえ、島田先生はうちの学校に着任して5年目で担任2周目だから、俺より3年分キャリアが長い。頭の回転も早くてすごい頼りになる先生だ。

 そして紅一点の久川先生はうちの学校が初任校で、教師になって3年目の初担任。新卒採用って聞いてるから、俺より3つ年下の先生でもある。学生時代はずっとバレーボールをやってたという体育会系のカッコいい系の女の先生で、生活指導なんかは学年内で1番厳しいと生徒たちから囁かれる存在だ。

 そんな男5、女1の学年団で、星見台高校の第2学年を受け持ってるのである。

他の学年からは5教科+体育科とバランスの取れた教科のメンバーで構成されてるから、テンプレ学年なんていう風にも言われたりしてるぞ。


「いやー、久川先生が一番しっかり指導してるなっ」

「私も勉強させてもらわないとなぁ」

「いえいえ、たまたまですよ」


 そして全員の報告が終わると、学年の親父的存在でもある三竹先生が豪快に笑いながらそんなこと言い、同じく頼れるベテランの久保先生もそう言って笑っていた。

 それに対し、久川先生は真面目な顔つきで謙遜する。


「いや、うちなんか4人欠席ですからね、お恥ずかしい……」


 そしてさらに謙遜する森先生。

 森先生は生徒にも敬語だからね、いつも腰が低いんだよなぁ。


「やっぱ担任は若い方が生徒も来やすいのかもな!」

「そうですねぇ。北条先生がよかったー、なんて女子は多いですからねぇ」

「いやいや、やめてくださいよ……」


 そして何て返せばいいか分からないベテランたちの発言に、俺は苦笑いで手をパタパタと振って応えるしかできず。


「男子からすりゃ久川先生のクラスがいいだろうしな!」

「それセクハラっすよ……」


 だが勢い止まらない三竹先生に、表情を変えない久川先生に代わって呆れ顔の島田先生がツッコミを入れる。

 自分以外にもツッコミがちゃんといるって、かなりありがたいよね!


「うちのクラスの男子でもE組がよかったって男子はいますけど」

「そんなん言い始めたらキリないって……」


 だが、まさかの久川先生の発言に俺は苦笑いを続けるしかできず。

 生徒との相性ってあるからね、ベテランのクラスの先生がいいって生徒だってもちろんたくさんいるんだし。


「ま、とりあえず13時から学年会ってことで、それまではいったん休憩だな!」


 気づけばただの雑談と化していた学年団の話し合いに三竹先生が区切りを入れる。

 まぁこのしょっちゅう雑談になる感じも、うちの学年の特徴なんだけど。


 とりあえず、休憩はちゃんと休憩するべきだからな。


 職員室を見渡せばどうやら3学年担任団は一足先に昼休みに入ったようで。

 昨日はまさかの全日休暇を出していた大和と色々話したかった俺は、おそらく大和がいるであろう、社会科準備室へと移動するのだった。






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以下作者の声です。

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 部活以外の仕事パートは初ですね……!


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本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。3作目となる〈Yuuki〉はちょっと途中で停止状態ですが、1,2作目掲載中です。 

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