第206話 親友の事情
まもなく19時前という頃、店内にも仕事終わりっぽいグループや、部活終わりの高校生、サークル後っぽい大学生が増えだす中、俺たちは注文した食事を終え、それぞれがまた飲み物を取ってきていよいよ大和の相談タイムを迎えていた。
「さて、じゃあ俺の相談なんだけど」
「うん」
話を切り出そうとする大和に頷くだい。
初めて会った時は大和に緊張を浮かべてたけど、今じゃもうすっかり、だな。
たぶん俺に色々アドバイスしてくれた効果もあるんだろう、信頼度が増している気がするね。
「今度の日曜、30日な。ぴょんから飲みにいかないかって誘われてさ、行くことになってんだけど、二人なんか聞いてる?」
「え、聞いてないけど」
「そうだな。俺も初耳だ」
「そっか。やっぱそうだよな」
ほうほう。ぴょんが大和を、ね!
で、その誘いが個人的なものなのか、グループでなのか気になってたと。
……いや、でもそのくらいなら俺に相談するだけでも分かるよな?
「グループでの連絡でもないし、個人メッセージできたからそうだとは思ってたんだけど、やっぱサシ飲みっぽいよな」
「そうね。ぴょんがみんなを誘うなら、グループで声かけるだろうし」
「だな。でもやっぱってことは、大和だって想像はしてたんだろ?」
「そりゃね。誰かさんと違って俺は察せる男だからな」
「おい」
ぴょんと1:1ということが分かっても、大和に慌てる様子はなし。
というか誰かさんって誰のことだよ、ったく。
でも、ぴょんの誘い、これはどういう気持ちでなんだろう?
たしか宇都宮オフの時「今は何もない」って言ってたけど……でも「今は」だったもんな。
となると、何かしらの心境の変化があったのか?
「ぴょんがせんかんを誘ったんだ、そっか」
そしてぽつりと呟くだい。
その声はほんとに小さく、たぶん大和には聞こえなかったと思う。
「あ、もしぴょんから何か聞いてたとしても、言わなくていいからな。別にそれを聞きたくて相談乗って欲しいって言ったわけじゃないし」
「ほほう?」
たしかだいとぴょんとゆめで作ったTalkグループもあるって話だし、だいなら何かぴょんが言ってた話を聞いてそうだけど、それが聞きたいわけじゃないのか。
いや、たしかにそれを聞くのはプライバシーの侵害になりかねないし、だいとぴょんの関係に気を遣ってんのか……さすがだなぁ……。
じゃあ大和は何を相談したいんだろうか?
「一昨日か、グループでみんなぴょんの誕生日おめでとうってメッセージ送ったじゃん? それもあったからさ、せっかく会うんだったら何か誕生日プレゼント渡そうかなって思うんだけど、相談したいのはこのことなんだ」
「あ、なるほど」
「プレゼントね。……ふむ」
なるほどね。律儀な男だなぁ、大和は。
でもそこがきっと大和の大和たる部分なのだろう。
そして大和が俺に対して「役に立たない」と言った理由もこれでわかった。
たしかにぴょんに何か送るものを相談するなら、同性だし、ぴょんとも仲が良いだいかゆめが適任だよな。
俺に聞かれても、お酒かなぁとかしか浮かばないし。
「最後に女性に何か贈ったりとか、もう2年も前のことでさ、まして付き合ってるとかそういうわけじゃない女性にプレゼントなんて、学生以来なんだよな、俺」
「ふむ」
「色々ネットで検索してみてもさ、いまいちピンとくるものがないし、だったら誰かに相談した方がいいなって思って。今日倫が俺に相談してきたけど、実は俺も昨日から倫にだいに相談させてくれないかって頼もうと思ってたとこだったんだ」
「あ、そうだったのか」
しかし付き合ってない女性への誕生日プレゼント、か。
うーん……そう言われれば俺その経験ないな……。高校の時も、亜衣菜の時も、付き合ってから相手の誕生日を迎えてたし。
強いて言えば真実にプレゼントあげるくらいだけど、それも何が欲しいか聞いた上で買ってやっただけだしな。
「うーん、私はそういう経験に疎いからあまり力になれないと思うけど……せんかんはさ、どういう意図でプレゼントしようと思ってるの?」
「意図?」
「うん。何ていうか、ぴょんが何を思ってるかは別として、ぴょんのこといいなって思ってるのか、ただの友達って思ってるのか。二人で会う時にもらうプレゼントなら、もらう側もどういう意図か気になるだろうし」
「あー。なるほど……」
おお、意外にもだいの奴、難しいとこに切り込んだな……!
そりゃいい年齢の男女が二人で飲むんだから、ただの友達止まりになるとも限らんもんな。ましてこれまで何となくいい感じというか、相性良さそうな二人だったんだし。
でも大和ってあんまり自分の気持ちとか人に言わない方だし、なんて答えるんだろうか?
「いいなって思ってる上で、プレゼントしようと思ってるよ」
「え?」
まさかの言葉に、俺は思わず間の抜けた声を出してしまった。
だがまさか、そんなあっさりと認めるとは……!
え、それはそういうことなの!?
「あ、でも明確に好きで付き合いたいと思ってるとか、そういうわけでもないからな? 倫とだいと違って、俺はまだそんなにぴょんと付き合い長いわけじゃないからさ。復帰前からお前らとはLAで知り合ってたけど、ぴょんは復帰してから出会ったわけだし。正直色々話したりはしてるけど、まだぴょんについてちゃんと分かってるわけじゃない。だから、ここで告白しようとか、そういうわけじゃないぞ」
「でも、ぴょんと付き合う可能性があるってこと?」
大和の発言に、真剣な表情で踏み込んでいくだい。
その表情を受けても、大和は焦ることもなく、いつも通りの飄々とした様子。
すごいなこいつ……!
「おう。可能性ならもちろんあるさ。サシで誘われたってことは、向こうもそういう気持ちあんのかなって思ってるし」
え、その話俺だけならまだしも、だいにも恥ずかしげもなくできるの!?
すごいな、俺そんなこと思っても、口にできる自信ないんだけど……。
「つーかさ、俺とぴょんが昔馴染みだったりとか、同じ職場だったならまだしも、共通の趣味で最近出会ったフリーって分かってる相手と二人で飲もうなんて、ただの友達ってとこで終わらんだろ。俺らももうすぐ30近いんだし」
あー、まぁ、それは一理あるか。
「なんていうか、婚活サイトとかで出会った人と会う感じっていうのかな、やったことないけど。でも俺は誰かと付き合うなら何回かデートして、相手のことをそれなりに知ってから付き合いたいと思うからさ。まずは何あげたら喜ぶのか、知りたいと思って」
「ふむ……」
自分の考えを語る大和の言葉に、少し考え込んだ様子を見せるだい。
しかし、俺と二人で飲んでてもそんな大和の恋愛観聞いたことないんだけど……!?
「もしぴょんがせんかんのこと本気で好きになってて、告白されたりしたら?」
「すぐには答えないかな。さっき言った通り、俺はぴょんとはまだ2回しか会ったことないんだし。今回二人で会ってみて、先を考えてもいいかもなって思ったら、デート重ねた上で俺から告白するよ」
いつも通りの調子のまま、だいに問いかける大和。
そしてそれに焦ることもなく答える大和。
なんというか、聞いてる俺の方が緊張しそうな質問なのに、よくもそこまで淡々と答えられるな……!
でも宇都宮オフの時はタイプはゆめって言ってたけど、やっぱぴょんに対してもそういう感情はあったのか。
まぁあれだけ話しやすそうにしてたし、フィーリングは合いそうだもんな。
「いつの間にそんな心境の変化があったんだ?」
「いや、変化っつーかなんつーか。俺だって人並みに恋人が欲しいとは思ってるぞ? そもそも復帰した理由だってそこにあったわけだし」
「あ、そういえば……そうか」
そうだった。こいつは俺がオフ会で女性陣と一緒にいるのを見て、復帰を決めたんだった……!
ってことは、この展開は願ったり叶ったりでも、あるのか……?
「つまり、ぴょんと付き合う可能性を持った上で、プレゼントを贈りたい、と」
「そういうこと。でもまだ可能性の域を超えたわけじゃない。いざサシで飲んでみてさ、価値観とか実は全然違うかもしんないじゃん? それで付き合ってもお互い幸せになれるわけじゃないし、まずはお近づきの第一歩、ってところかな。俺が探してるのは」
「なるほどね」
「おう。だからまずは喜んでくれるものをあげたいんだけど、何がいいと思うかね?」
そして話題を元に戻し、プレゼントのアドバイスを求めた大和だったが。
「だったらなおのこと、自分で考えた方がいいんじゃないかしら? せんかんだったらぴょんは何をもらったら喜ぶと思うか。それを考えることが、ぴょんを知ることにも繋がると思うし」
「ふむ」
「それにもしさ、ぴょんがせんかんに好意を持ってるとしたらさ、せんかんが選んでくれたことが嬉しいってなると思う」
「……なるほどね」
「私だったら、好きな人が自分のことを考えて選んでくれたものだったら何でも嬉しいもの。もらった物だけじゃなく、自分のことを考えて探してくれたってことが嬉しいし」
だが、だいは具体的な答えは出さなかった。
そしてその言葉を自分の胸にも刻み込む俺。
俺はこれまで、どれほどにだいを喜ばせることが出来てきただろうか?
……まだまだだなぁ。絶対。
「それにもしぴょんがただの飲み仲間として誘っただけでも、喜ぶと思ったものあげたなら、『おいおいあたしのこと好きなのかよ』って笑ってくれるわよ」
「あー、それは浮かぶわ」
そしてだいの言葉に笑って見せる大和。
なんていうか、余裕のある振る舞いで、ちょっと男ながらにカッコよく見えてくるな……。
でもやっぱ、ぴょんには大和への好意がありそうな気はするんだよなぁ……。
やっぱり知り合って間もない異性を1対1で誘うって、好意がなかったら普通はないだろうし。
となると、次の日曜の飲み会でうまく進めば、二人が……ってこともあるのか。
「でも一つアドバイスするなら、ぴょんはけっこう可愛いものが好きみたいよ」
「え、そうなの?」
「うん。LAでも小人族選ぶくらいだし、可愛いのが好きなのよ」
「ほうほう。可愛いものかぁ……」
ぴょんと可愛いものか……うーん、いまいちぴんとこないけど、でも仲が良いだいが言うならそうなんだろう。
しかしぬいぐるみとか、そういうのあげるような年齢でもないし、可愛いもののプレゼントってそれはそれで難しいような……?
「なるほど。参考なったわ。ありがとな」
「ううん。喜んでくれるといいわね」
「そうな。まぁ焦ることでもないから、何かあったらまた報告するわ」
「おう。二人の話だしさ、そこは俺らから何か言うこともないさ」
結局何をあげればいいか明確になったわけでもないが、何となく大和は方向性が見えたのか、すっきりしたような顔になっていた。
その表情に、俺らが何かあれこれ気を遣う必要性もないと感じる。
まぁ大和はね、自分で認めるのに抵抗がないくらい確実に俺よりしっかりしてるし、もし二人が付き合うまでいかなかったとしても、変に関係がこじれることもないだろう。
しかし、よくもここまで包み隠さず話せるもんだな……!
「いい日になるといいな」
「ま、なるようになるだろ」
あ、それぴょんも言ってた言葉じゃん。
「じゃ、そろそろ帰りますか。21前には家帰んないといけないしさ」
「そうね、今日は活動日だものね」
時計を見ればまもなく20時頃。
たしかにそろそろ帰らないと、大和は遅刻しかねないな。
「ジャックとゆめいないけど、今日は何すんのかなー」
「まぁそこはリダ任せだろ」
「あ、ゆめといえば、せんかんは28日の金曜日、早めに上がれたりする?」
「金曜? えーっと……外部のプールで他校と合同練習だから、早めは無理かなー。なんかあんの?」
「ゆめがね、発表会あるんだって。16時スタートらしくて、私も補講で行けないし、ぴょんも三者面談入ってるみたいだから、ゼロやんは行けるみたいなんだけど」
「おー、行きたかったけど残念だなー。俺の分もしっかり聴いてきてくれよ」
「おう。でもまさかこんな足で来るなんて、ゆめをびっくりさせなきゃいいけど」
「むしろゆめなら笑ってくれるんじゃね?」
「そうね。それはありそう」
「おいおいひでーな……」
今週末の金曜にあるというゆめの発表会、大和も来れないか、残念。
ちなみにゆきむらの予定はだいが聞いたみたいだけど、妹とどうのこうのの予定があって行けないらしい。
ということで、金曜は【Teachers】のメンバーで行けるのは俺一人ということになる。
まぁ仕事の予定や家族の用事はしょうがないからな。
代表としてしっかり聴いて来るとしますかね。
まぁ、音楽とか門外漢だから、上手い下手とかあんまりわかんないんだけど。
花束とか、なんかそういうのは用意しておくべきなんだろうか?
うん、あとで調べてみよっと……!
ということで、19時57分、俺の話と大和の相談、2つの話題を終えた俺たちは、長居してしまったファミレスの席から立ち、店を出るのであった。
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以下
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本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。3作目となる〈Yuuki〉はちょっと途中で停止状態ですが、1,2作目掲載中です。
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