第205話 戦力外通告

「おっす。悪いね、二人の時間に割り込んじゃって」

「ううん、いつもゼロやんがお世話になってるだろうし」

「おーおー、まるで嫁じゃん」


 午後17時40分頃、先にファミレスについた俺と大和の席にだいが合流。

 そしてボックス席にて大和と向かい合って座っていた俺の隣にだいが座ると、その光景に何を思ったか大和が茶化しをいれてくる。

 大和の「嫁」発言にちょっとだいが照れてるけど、うん、今日も可愛いな。


「一人で出勤してみて、足は大丈夫だった?」

「うん。今日は大丈夫。心配ありがとな」


 そして照れつつも、俺の心配もしてくれたり。

 ほんと出会った頃とは別人だな、嬉しいけど。


「えっと、それでせんかんが私に相談があるんだよね?」

「そうなんだけど、俺の話はあとでいいから。あ、まず話す前に何か食うか?」


 そっか、俺の話が先か。まぁ内容的に早く済ませたほうがいいもんな……!


「あ、そうだな。でもまだけっこう時間早いし、もうちょっと後でもよさそうだな」

「じゃ、とりあえずドリンクバーだけでも頼むか」

「おう」


 やはりだいを前にしては少し緊張してきたけど、俺はそれを気取られないように大和の提案に答え、俺たちは先にドリンクバーを3つ注文することに。


「せんかんの話があとって、ゼロやんも何か話があるの?」


 俺と大和の注文のやり取りを黙って見ていただいだったが、それぞれ自分の飲み物を持ってきたところで、やはり察してしまったようで、俺の方に不思議そうな顔を向けて尋ねてきた。

 その視線に、また緊張が走る俺。


「え、ええと、うん。伝えなきゃいけない話があるんだ」

「そ。俺の話はおまけみたいなもんだからさ」

「そうなんだ。何?」


 ちらっと大和の方を見ると、小さく頷いてくれる。

 その仕草はまるで「考えは単純に」と伝えてくるようで。


 しかし脳裏によぎる、可能性として大和が口にした「だいが穏やかじゃなくなるかもしれない」という言葉。

 いや、大丈夫だと思うんだけど……。


 でも、逃げるわけにはいかない。


「ええと、風見さんのことなんだけど……」

「風見さん?」


 意を決して口を開いた俺に、だいは不思議そうな顔を浮かべたまま、小さく首を傾げた。

 そんな表情を浮かべるだいに、俺は昨夜起きたことを話し始めるのだった。




「……そう。そんなことが……。連絡くれたら行ったのに」


 俺の話を小さな相槌を打ちつつ聞いてくれただいは、荒れ狂ったりすることもなく、俺が話を終えると神妙な顔を浮かべていた。

 とはいえやっぱり、穏やかではない気もする。

 どことなく不機嫌なのが感じ取れるような、そんな感じ。


「いや、さすがにあの時間じゃ、遅すぎるかなって……」

「何かあったら呼んでねって言ったじゃない」


 あ、やっぱりすぐに連絡しなかったことが不服そうで、その表情がちょっと怖い。


「すげーな、警備会社セ〇ムかよ」


 だが穏やかではない雰囲気のだいを見ても、軽く笑いながらそんなことを言ってくる大和。


 すげーのはお前だよ……!


 でもおかげで少しだけ話しやすい雰囲気になったような、そんな感じもある。


 うん、やっぱ来てもらってよかった……!


「大和にも言われたけど、俺が追い出さなかったからそんなことになっちゃって……ごめん」

「別に、ゼロやんが夜中に『助けて』なんて声を聞いて無視できるような人じゃないことは知ってるから」

「う、うん……」

「でもそっか。私、そんなこと思わせてたんだ……」

「そうらしい、です」


 そして風見さんがだいに対して思っていたことを聞いて、口元に手を当て何か思案しだすだい。

 この反応的に、だいはほんとに気づいてなかったみたい、だな。


「でもこの件について、だいに悪いとこはないだろ」

「そうな。その子の人間性の問題だな」

「でも、私が風見さんの気持ちに気づいてたら、違ったかもしれないじゃない」


 うーむ。

 だいはそういうけど、俺も大和が言う通りこれは風見さんの性格に問題があったからだと思うぞ。

 つーか、そもそもさ。


「だいは、告白してきた人が風見さんの元カレだったって知ってたの?」

「いいえ、全く」

「ですよね」


 まぁ、聞く前からその答えは予想してたけど。

 たぶんだけど、当時のだいって他人との距離感に迷走してた頃って話だから、そりゃ誰が誰と付き合ってたとかも、興味なかったんだろうな……。


 時に無知は罪になることがあるとはいえ、この件に関してはどう考えても風見さんの筋違いに違いないだろう。


「まぁ、過去の話してもしょうがないだろ。とりあえずその風見さんってのが今後倫にちょっかいだしてくるかもしれないし、写真で脅してこようとするかもしれない。それにだいにも何か挑発めいたことをしてくるかもしれない。その可能性があることを二人が共有しておくのが大事だな」

「そうね」

「うん、何とかして写真は消させるようにするよ」


 客観的な大和の視点に、だいも同意。

 そして改めて募る申し訳なさ。


「いいわよ別に、消させなくて」

「え?」

「だって、消させるためには接触しなきゃいけないでしょ?」

「あ」

「倫が消させるなら、そらそうだわな」

「うん。だからゼロやんは何もしなくていい」


 そしてそんな俺に告げられた、ほぼほぼ戦力外通告のようなだいの言葉。

 お前は戦わなくていいからみたいな、コンテンツの攻略から除外されたようなそんな気分。

 それはそれでつらいな!


「いや、でも俺のせいでもあるんだし……」

「話聞いた感じ、風見さんはゼロやんとまた話したがってるみたいだし、私はそれの方が嫌」


 おおう。

 俺も何か出来ないかと思っていたけど、だいの表情は今までに見たことがないような、ちょっと怖い感じなっていた。

 パッと見は普段のクールな感じと変わらないんだけど、何というか内なる闘志を秘めていそうな、そんな雰囲気。


 でもこれって、嫉妬……か?


「もし風見さんが何か言ってくるなら、私は望むところよ」

「おー。いいねぇ、愛する姫を守る騎士ってとこか」

「いや、え? 俺が姫なの!?」

「そうね。私に原因があったとしても、さすがに風見さんの行動は看過できないし」

「紙装甲のガンナーは、タゲ取ったらすぐヤられちゃうからな」


 こんなだいを見るのは、初めてだった。

 ゆきむらが争奪戦宣言してきた時は笑って受け止めてたし、俺が亜衣菜と話すのも、何だかんだ心配はしてたけど送り出してくれた。

 でも今回は、だいと風見さんの関係性からか、今までとはちょっと思う所が違うみたいだな。


 そしてそのだいの様子に、大和はちょっとにやけた感じ。

 俺が姫でだいが騎士ってのも変な言われ方だが、それよりもだよ大和くん、LAで例えるのはいいけど、やられちゃうの「や」が「殺」じゃなくてカタカナの「ヤ」だった気がしたのは俺の気のせいかな?


「私に言ってきたり、ゼロやんから話そうとしたならまだしも、ゼロやんのことを騙したり脅したりしたのは許せないから」


 あ、なるほど。そのあたりの点がだいの沸点だったのね。

 うーん、でもやっぱ本質的に風見さんが悪い人間だとは思えない部分もあるにはあるんだけど……。

 でもだいからしたら嫌ってことで……。

 って、そうか。こういうとこか。


 うん、俺の判断なんかより、だいがそう思ってる事実が重要なんだ。

 俺だってだいが誰か知らない男と二人でいたら嫌だしな。

 そういうことなんだろう。


「あ、暴力はダメだぞ?」


 とはいえ、何も出来ないというはなかなかに歯がゆい。

 今度会うことがあったら、ビシッと「俺が君に話すことはない」って言わないと、だな。


「しないわよそんなこと」


 だいはそう言うけど、何となく女同士の戦いというものを想像し何だか不安になる俺。

 髪引っ張り合ったりとか……いや、さすがに冷静なだいがそれはしない、か……?


「ま、ちゃんと話したから今後どうするかも見えた。あとは二人が同じ考えでいりゃいいってこったろ」

「そうね。ありがとね、ゼロやんの話先に聞いて、相談乗ってくれたんでしょ?」

「お、ご名答。倫のやつさ、風見さんとだいが友達になれる可能性もあるんじゃないかとか、そう思ってどう話せばいいかわかんなかったんだとよ」

「あ、おい!?」


 俺が大和に相談した理由をあっさりと暴露する大和に俺がツッコむも、だいはその言葉に驚いた様子もなし。


「やっぱりね。でもそもそも私が好かれてないのに、どうして友達になれると思えるのかが疑問だわ」

「え、いや、そりゃ高校時代の仲間なんだし……」

「同じ部活やってたとしても、考え方が違いすぎるわよ。同じ趣味でもあれば別かもしれないけど、無理に友達増やそうなんて思わないから。今の私にはぴょんやゆめたちもいるんだし」

「だとよ?」

「そ、そうか……。うん、勝手に思い込んで、ごめん」

「別に。相手のこと色々考えちゃうのがゼロやんでしょ。でも、今回のこと教えてくれなかったら許さなかったかもしれないけど」

「は、はい……」


 半分呆れの色を交えつつ、じとっと睨んでくるだいを前に冷や汗をかきはじめる俺。


「な? すぐ話してよかっただろ?」

「う、うん……そうだな」

「一人で考えたってどうしようもないかともあるんだし、人を頼るのは悪いことじゃない。困ったら相談しろって、俺ら生徒にもよく言うじゃん? 同じだって」

「そう、だな。うん。たしかに俺もよく言うわ」


 いや、うん。ほんと大和に相談してよかった。

 

 みんなで仲良くできればいい、みんなが楽しんでくれれればいい。俺はそう思ってるけど。

 それで俺とだいが幸せにならないなら、意味がない。

 一番大切なことって、そういうことか……。


 そしてそこに向かって、考えは単純に、か。


「じゃ、何となく話もまとまったことだし、そろそろ何か飯食うか」

「そうね。食べながら、せんかんの話も聞かないとね」

「おう、ま、大した話じゃないんだけどさ!」


 気づけば時計は18時20分を示し、夕飯にしてもいいかなという時間帯。

 一人テンパって焦って納得して、そんな脳内を展開していた俺をよそに、だいと大和がそれぞれメニューを開いて何を頼むかを考え出す。合わせて俺もだいと一緒にメニューを眺め始めるけど、うん。


 ほんと、だいにちゃんと話せてよかった。

 予想以上にだいの反応が好戦的だったのにはびっくりしたけど、それはきっと俺とだいのため、なんだもんな。

 俺としても今後風見さんがどう出てくるかわかんないけど、とりあえずもう君の脅迫は通用しないぞとは言えるし。

 ……出来ることなら会いたくないけど。


 そんなことを考えつつ、俺はだいと一緒にメニューを眺めながら、この後の大和の相談とやらに向け、心を切り替えるのだった。


 ま、それも役に立たないとは言われてんだけどね!!






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以下作者の声です。

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 正妻論争に様々なコメントありがとうございました。笑


 さて、一日空きましたが続きとなりました。

 しかしながら10月半ばまでなかなか休みが少なくなるシーズンに突入しまして、ちょっとまた更新のない日もあるかもしれません。

 気長にお待ちいただけると幸いです。

 

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本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。3作目となる〈Yuuki〉はちょっと途中で停止状態ですが、1,2作目掲載中です。 

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