第201話 何が起きてるのか俺にもわからねぇ……

※今回はちょっとR15チックです。ご注意ください。

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以上作者の声でした。

以下より本文です。

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 ピンポーン


 ……ん? 気のせい、か?

 なんだかインターホンが鳴ったような気がしたけど、こんな夜中に人なんて来ないよな……。

 寝なおそうっと……。


 ピンポンピンポーン


 む!?

 え、気のせいじゃない……? こんな時間に、何だ……?


 ドンドンドンドンッ


 うお!?

な、なんだ!?


 続けざまに鳴らされたインターホンの直後、玄関の方から部屋の方まで響き渡る打撃音に俺ははっとして身体を起こす。


 え、もう朝なのか?

 そして寝ぼけまなこで枕元においてあったスマホを確認すると……現在午前1時34分。

 

 真夜中やんけ!


 こんな時間になんだ!? 強盗!? って、だったらこんな堂々とこねーよな!?

 じゃあ知り合いか……? いや、だったらさすがに電話くらいかけてくるだろ……。


 だが、まだ回り切らない頭を回そうとする間も続く打撃音。

 とりあえず何事かを確認するため、俺はベッドを降りてひょこひょこと玄関へ移動。


 そして何かあった時のため、松葉杖を両脇に挟み、準備完了。

 この間もドンドンと叩かれ続けるドア。

 意を決し、俺は声をかけてみることに。


「ど、どちら様ですか?」


 もちろん鍵は開けないし、なんだったらドアスコープを覗くこともない。

 だが、俺が声をかけると叩かれ続けていた打撃音が止んだ。


「ヘルプ!」

「へ?」


 俺が声をかけたことに気づいたのか、玄関越しの存在が声を発する。

 とりあえず、人間だったことに安心。

 

 って、あれ、この声……?


「開けて!」

「え、ど、どちら様?」

「莉々亜っす! 風見莉々亜!」

「え?」


 え、風見さん? え、何で? 行くならせめて隣だろ?


「やばいって! 助けて!」


 え、じ、事件か!? ストーカーとかか!?

 その緊張感溢れる声に、俺は慌てて鍵を開けると――


「トイレ借りますっ!!」

「へ?」


 俺が鍵を開けガチャっという音がした直後、勢いよく開かれた扉から数時間前に会ったばかりの風見さんがこれまた勢いよくうちの中に入ってきて、パッと履いていたサンダルを脱ぐや否や、うちのトイレへ直行して行く。

 よくトイレの場所わかったなーって……あ、そっか。隣も間取りは同じだもんな。


 って、え!? 助けてってそれなの!? そのためにうちに!?

 なんで!? 隣行けよ!!


「あっぶねー! 漏れるかと思ったー!」


 そんな声がトイレの扉越しに聞こえてくる。

 だがとりあえず不審者とかじゃなかったみたいだから、俺は松葉杖を玄関付近に立てかけて、ひょこひょこと声の方へ少し近づく。


「いやー、助かったっす! この年でお漏らしするとこでしたよー」

「そ、それはよかった……って、え、いや、なんでうち?」


 トイレの扉越しに、先ほどまでの緊張感から解かれたのか風見さんは弾むような声で話しかけてくるけど、いやマジで意味わかんないって!

 確かにお互い自己紹介して、知人くらいにはなったかもしれないけど、こんな深夜にいきなりやってきてトイレ借りるとか、ちょっと非常識すぎないかね……。


「あ、ちなみに今日はちゃんと部屋間違いじゃないっすよ。そんな飲んでないし。でもあの野郎電話もでねーしインターホン押しても反応しないしドアにフルコンボ決めても全然開けてくんないんすよ」


 あー……なるほど、隣の家に帰ってきたつもりが入れなかったのか。

 ってそれ202号室の人不在なんじゃ?

 いや、でもここが男の一人暮らしって、分かってるよね……?


「やー、ほんとあざっす!」


 そしてトイレから出てきて手を洗った風見さんは、また八重歯が可愛らしい笑みを見せてから、仰々しく俺に向かってお辞儀。

 なんというか体育会系のノリは感じるけど、元行員ってのは全然イメージつかねぇなー。


「どういたしまして。……じゃあ、俺寝なおすんで……」


 まぁトイレが急務だったんならね、だいの知り合いを助けられてめでたしめでたしだろう。

 そんなことを考えつつ、俺は玄関の方へ移動しつつ、帰宅というか、退出を促す。

 明日も仕事だし、寝ないと怪我も治りづらいだろうし。


 だが。


「え、こんな時間に女一人外に追い出すんすか?」

「へ?」

「あたし、隣の奴開けてくんないと行くとこないんすけどー」

「え、いや、それはそうかもしれないけど……」


 玄関の方へ移動した俺に対し、風見さんはまだ洗面台付近に立ち止まったまま。

 いや、たしかにそうかもしんないけどさ、駅の方行けばカラオケなりネカフェなり、泊まれるとこあるよね……?


「それに、ピンチを助けてもらった恩もありますし」

「へ?」

「これは何かお礼しないと気が済まないっすねー」


 そんなことを言いながら、両手を頭の上で組んでにこにこしだす風見さん。


「いや、俺今日の昼に助けてもらったし、それでおあいこじゃ?」

「あ、それはあれっすよ。この前部屋間違いで迷惑かけちゃったから、それであおいこで。だから、今はあたしが借り1状態でしょ?」


 なんだその理論は……!?

 俺からすればこんなの貸しと言えるほどのことじゃないんだけど……。


「借りたものは返すのが筋じゃないっすか」

「いや、まぁそれはそうだけど、別に貸しを作った気なんてないんだけど」

「いやいや、それじゃあたしの気が済まないっす」


 そう言って風見さんが俺の方に近づいてくる。

 ていうか借りを返すなら帰ってくれるだけでいいから! 俺は寝たいから!

 

 え、この状況ってやばくない?

 深夜に、男女で二人っきりって……しかも相手はだいの知り合いって、いや、やばすぎだろ!?


「お礼はー」


 ニコニコ顔の彼女が、今の俺にとってはむしろ恐怖。

 ま、まさか……変なこと言わないよな!?


「身体でいいっすか?」

「いやいやいやいや!?」


 雰囲気的にそう言うと思ったけど!!

 だが近づいてくる風見さんの足は止まらない。玄関前にいる俺には、退路はもうドアを開けた外のみ。


「遠慮しないでいいですよー。それなりに満足させられる自信もありますしー」

「いやいやいや、聞いてない聞いてない!」


 いや、もういざとなれば外に出られるようにと、俺は再び松葉杖を取ろうとして。

 

カシャーン


 と、慌てふためいたせいで立てかけていた松葉杖を倒してしまう。

 オーマイガッ!


「菜月には言わないからー」

「いや、そういう問題じゃ……!?」

 

 そして慌てふためく俺に、まさかまさかの風見さんが抱き着いてくるではありませんか!


 い、いかん捕まった!!

 こうなると機動力を失った俺には逃げ場が……!


「あ、けっこういい身体……」


 いやまぁ部活とかで運動はしてるし……って、違う!!

 至近距離というか、もうゼロ距離にいる風見さんから漂う、ちょっと甘ったるい感じの香水の香り。

 それは否が応にも女を感じさせる匂いで。


「いや、ダメだって!」


 危うく匂いにやられかけたが、俺は何とか理性を取り戻し両腕で彼女を押し返す。

 しかしそんな俺の反応に、風見さんはちょっと不満気な様子で。


「えー、いいじゃん、ね? シよ?」

「しません!」


 シのカタカナやめろ! っていうか露骨すぎるわその言い方!!


 少しだけ首をかしげながらそう言ってくる姿は、ちょっとギャルっぽい雰囲気もあってくるものはあったが、俺はそれを断固拒否。

 というか今日名前知ったばかりの奴とそういうこととか、ダメだから! もっと自分を大事にして!


「別にあたしのお礼なんだから、浮気に入んないって」

「いや、どう考えたってダメだろ!」


 っていうか君さっきから何でため口なってんの!?

 俺、年上だぞ!?


「むー」


 何を言っても俺が両腕を伸ばして距離を取ろうとすることにようやく観念してくれたか、風見さんは不満気ながらも俺から離れ――


「いや、そっち行くの!?」


 何を思ったか彼女は俺の部屋の方へと向かって行く。


 だがひょこひょこしか歩けない俺では彼女に追いつけるわけもなく、あっさりと部屋への扉を開いた彼女は中へと進み、部屋の電気を点灯。


「あ、なるほど。今日はもう満足しちゃってんのか」


 そして聞こえてくるそんな声。

 え、なんでそんなことわか……ったあああああ!?


 そう言えばテーブルの上に、アレの箱置きっぱなしやん!!!

 しまった!! 見られたか!?


 懸命にひょこひょこと足を動かす俺が、ようやく部屋の方へたどり着くと。


 パシャッ、と軽い音が響いた。


 え、この音って……!?


「お、おい!?」


 特徴的な八重歯を見せずに、目を細めた笑顔でこちらを振り向いた風見さんに、俺は絶句。


「いい写真でしょー?」


 そして口元から何かを手に取ったあと、彼女のスマホの画面が見せつけられる。


「いや、消せって!!?」

「えー、やだー」


 その画面にあったのは、奥の方から焦った様子で近づく俺と、テーブルの上にあった箱の中身の包装を1つだけ切り離して、それを口に咥えた風見さんが微笑んでいる写真。

 当然俺にその気が一切なくても、写真に写った内装と俺の姿から俺の部屋であることは明白。

 そんな部屋の中で、アレを咥えた笑顔の女性の写真なんて……。


 どう考えても圧倒的にアウトな状況にしか見えないだろう。


「やだじゃないって!」


 なんとかその写真だけは消さねばと、俺は彼女のスマホを奪おうとするも、機動力に劣る俺では追いつけず。


「別にシてくれれば消してあげるけどー?」

「いや、なんだよその条件!?」


 痴女か!? 君は痴女なのか!?


 再び逃げだした風見さんは、もう少し部屋の中を進み、そして俺のベッドに腰かける。

 ようやく移動を止めてくれたので、俺もひょこひょこと動いて彼女前に立ち、いい加減にしてくれよという怒りを交えた表情で彼女を見下ろす。

 だが、風見さんは飄々と笑うのみ。


「はいスマホだして、写真消して」

「いやでーす」

「嫌ですじゃねえだろって。警察呼ぶぞ警察」

「えー、でも部屋に入れてくれたの北条さんじゃないですか」

「それは! 君が助けてとか、紛らわしいこと言ってたからだろ」

「でもさー、警察が来て、私が襲われかけたとかって言ったら、北条さんピンチじゃない? それが嘘だとしてもさ、先生っていう立場の人なんだし色々問題になりそうじゃん?」

「う……」


 余裕たっぷりの笑みを見せる風見さんに対し、俺は完全に劣勢。

 こういう案件の時、俺が警察を呼んだとしたって、彼女の言葉と俺の言葉、男女トラブルならまず警察は女性の味方になるだろう。

 女性からのセクハラも有罪になる時代だが、この状況は、俺の無実が証明されるにしても時間はかかりかねない、と思う。


 そして、どうしたものかと考え込んだ俺は、たぶん油断してしまったのだろう。


「おわっ!?」

「わっ、だいたーんっ」


 パッと俺の腕を掴んだ風見さんがそのままベッドに倒れ込むように俺を引っ張ったせいで、俺はバランスを崩しそのまま転倒。

 つまり、まるで俺がベッドに押し倒したような形となる。


 そして倒れ込んだ俺の真横にあった風見さんの顔は、俺を向いていなかった。


 え、どこ見て――。


 そして聞こえる、2度目のシャッター音。

 その写真に写ってる光景は、画面を見なくても分かった。


「あー、これはもう言い逃れできませんなー」

「何なんだよおい!?」


 その音の直後、スマホを手放した彼女が俺の身体に腕を回してきたのだが、その力が思いのほか強く、足も床から離れてしまったせいでふんばりが効かず、俺は再び彼女と密着状態に。


 俺としてはかなり怒ってる顔をしてると思うんだけど、鼻と鼻が今にも触れそうなれそうな距離でなお、彼女は余裕の笑みを浮かべていた。

 再び香り出す、あの香水の匂い。


 そして。


「いいから――」


 離せ。


 そう言おうとした言葉が、遮られる。

 視界いっぱいに広がる風見さんの綺麗な顔と、唇に感じる柔らかな感触。

 その状況に一瞬思考がフリーズした俺だったが、口内への滑らかな侵入への驚きに硬直が解け、俺は両腕に全身全霊の力を込めて彼女の身体を引き離した。


 のだが。


「おわっ!?」


 全力で後方に逃れようとした勢い余って、そのままベッドの下にケツから落下してしまった。幸い頭は打たなかったけど。


 くそ……いてぇ……!

 

 だが落下の際に右足を着いてしまったせいで、鋭い痛みに俺は顔をしかめた。


「あっ、今の痛そう。大丈夫っすかー?」

「いやお前のせいだろって!」


 生々しく舌なめずりしながら、思ってなさそうな心配の言葉をかけてくる風見さんについに俺の彼女に対する呼び方が「お前」に変化。

 でもこれはしょうがないだろう、もはや敵。そう、敵認定だぞこれは。


「素直にあたしにお礼させてくれればそれで済むのに」

「いや、だからそれがおかしいっつってんだろ! 帰ってくれるだけで十分だ!」

「えー、そんな真面目に考える必要ある? あ、もしかしてもう婚約とかしてんすか?」

「え? 婚約とかまだまだだけど……って、そういう問題じゃねえ! 真面目な話だわ!」


 身体を起こしベッドに腰かけた体勢の風見さんは、不思議そうな顔を浮かべて床に腰を下ろす形となった俺を見つめてくる。


「お互いのことも名前くらいしか知らない上に、お前だいの友達なんだろ!? こんなのおかしいだろうが!」

「だい?」

「あ! あっと……菜月の友達なんだろ!?」


 勢い余って言いなれた「だい」呼びをしてしまったが、それを説明する気にもならず、言い直した俺に、それまで表情豊かだった風見さんの表情が、一瞬にして真顔に変化。


 え、な、なんだ……?


「友達、ふーん。菜月がそう言ってたの?」

「え?」


 急に変わったその雰囲気に、俺は一瞬にして委縮してしまうような気持ちにさせられた。

 部屋にはクーラーをつけているけど、そのせいじゃない寒さを感じたような、そんな心地。


「と、友達って言葉が出たわけじゃないけど、高校の同級生で部活の仲間だったら、友達だろ普通」

「ふーん……」


 いや、何だよ?

 え、何? だいと何かあったのこの人!?


 真顔になった風見さんは、冷たい視線を俺に向ける。


 そして彼女がゆっくりと口を開く光景を、俺は固唾を飲んで、見守るしかできなかった。






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以下作者の声です。

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本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。3作目となる〈Yuuki〉がこそっとスタートしました。

 お時間あるときに、興味がお有りの方はそちらも読んでいただければ幸いです!

 更新は亀の如く。いや、かたつむり……。

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