第190話 豪華メンバー集結

「あ、でも俺PCないけど」


 亜衣菜がルチアーノさんの車椅子を押してPCデスク前に連れていく中、俺はふと根本的な疑問を抱いていた。


 だいは亜衣菜から言われていたから自前のノートPCを持ってきているけど、俺はそもそもノートPC自体を持ってないのだ。

 亜衣菜にはログインIDとパスワードは忘れずにって言われたけど、そもそもPCがないと何もできないぞ……!?


 え、俺だけお預け!?


「え、これゼロのだよ?」

「え?」


 と思っていたところ、その言葉に俺の視線は意味が分からず、もこさんが指さしていたPCともこさんの顔をいったりきたり。


「これ、ゼロにあげるから」

「はいっ!?」

「純也さんから、妹がお世話になったお礼だって。初期設定とかLAのインストールは終わってるから、自分のIDとパスワードでゲストログインしてね」

「え、マジすか?」

「すごい……それ、かなり高性能なやつじゃ……」


 もこさんが指さしていた先を見れば、そこには職場で使っているリースのノートPCとは比べ物にならないくらいスタイリッシュでカッコいい、黒いノートPCが置いてあった。

 どう見てもかなり新しい型のPCのようで、だいが若干引きながらも驚いている。


 ご丁寧に既にUSBケーブルでコントローラーもついているし……え、てか待って!? 今、あげるねって言われた!?


「それ、買ったら30万円越えるわよ……」

「マジ!?」

「あ、だいも欲しかったかしら?」

「え? あ、いえ、そういうつもりで言ったわけじゃ」

「じゃあ今度亜衣菜に送っておくね。亜衣菜の友達になってくれたお礼に私からプレゼント」

「い、いえそんな! お構いなく!」

「これからも亜衣菜のことよろしくね?」


 だいから値段を聞いて驚く俺だったが、だいの反応に何を思ったか平然ともこさんがだいにもプレゼントする発言。

 しかもだいの言葉なんか完全スルー。


 何この人!?

 え、これが上流階級ってやつ!?


 30万のPCとか、ボーナス入っても買うか迷って、結局買わないよね……!?

 だってLAやるだけなら、そこまでハイスペックじゃなくても大丈夫だし……。

 それをあげるって、えっ!?


 あ、だいも金銭感覚の違いに完全に引いてますね……!


 だがそこで、もこさんに言われた言葉が引っ掛かった。


「って、ゲストログインってことは、このPCで別なアカウント取ってあるってことですか?」

「あ、そだよー。昨日亜衣菜ちゃんがりんりんのサブアカウント用に作ってあげましたっ」


 ルチアーノさんを所定っぽい場所に移動させた亜衣菜が俺らの方に戻ってきて、ちょっとどや顔でそんなこと言ってくる。

そして入れ替わるように、もこさんも自分の場所なのか、ルチアーノさんのそばの机へ移動していく。


 ってか今気づいたけど、その机前来た時なかったよね。

 まさか、今日のために買った、のか……?


「メインアカウントのIDはAinachanでパスはAina1103だよっ」

「何その設定!?」

「1回ログインしてみてー」

「1103って、亜衣菜さんの誕生日とか?」

「あ、そだよー。文化の日生まれなのでーすっ」


 俺の右側に自分のノートPCを置いた亜衣菜が、俺用と言われたPCでのログイン用IDとパスワードを教えてくれたけど……いや、「あいなちゃん」と「あいな1103」ってそれ俺に使わせるんかい! って言いたくなるやつだよね!

 

 でも俺の激しいツッコミはスルーしつつ、だいの質問に笑顔で答える亜衣菜。

 ほんともう、こいつはこいつだな……!


 ちなみに俺がとりあえずのメインアカウントとやらへのログイン作業を進める中、俺の左側に座っただいは少しだけ俺らの方を気にしながらも、自分のPCを立ち上げ、ログイン作業を進めているようである。


 そして一応ログインしてみると。


「おい?」

「可愛いでしょ~? ちゃんとね、01サーバーまで連れてきてあげたんだよ?」

「マジかよ。ってことは、もし動かすことがあったら、キャラ作り直せばちゃんとサブ垢で使えるのか」

「あっ、ひどーいっ」

「いや、お前この名前はない。断じてない」

「どうしたの?」


 もうね、呆れて逆に冷静になったよね。


 言われるがまま、一度このPCのメインアカウントでログインしてみたところ、登 録されたキャラクターは、髪の色が金髪になっているが〈Cecil〉そっくりの猫耳獣人だった。

 だがここまではね、まだギリギリ許すとしてだ。

 キャラクターの名前はね、受理されないレベルだぞ?


 そう、セシルそっくりのキャラの上に表示されている名前は〈Ainyaloveあいにゃらぶ〉。

 たしかに昔付き合ってた頃の甘々期に呼んだことないわけじゃないけど……って、これは黒歴史だから!

 痛すぎるだろ! 今俺がこれ使ってたら!


 もはや、苦笑いも越えて真顔になるレベルである。


 俺の画面をのぞき込んできただいも、さすがに苦笑いを浮かべていた。


「なんだよあいにゃって。猫耳意識しすぎか」

「いやー〈Ainaloveあいならぶ〉にしようと思ったんだけどさー。はじかれちゃってねー」

「え、それはいたのっ!?」

「あいなをセシルにしてないから、別にバレないのにー」

「そういう問題じゃねぇ!」

「でも、かなり可愛く作れてると思うけど……」

「え、だいは俺がこれ使ってもいいっていうの!?」


 まさかの亜衣菜をフォローするようなだいの発言に、俺は全力でツッコミをいれる。

 マジでこいつら、どんな思考してんの!?


 というかあれだけ何となく分かってたとか、勝てないとか思ってたって言ってたくせに、よくこの名前つけたなおい。


 何が悲しくて、元カノの名前ラブみたいなキャラ使わにゃならんのだ。

 初めて彼女できた中学生が作るメアドかよ。


 って、今の子はこの感覚わからんか……!


「あはっ。まぁ、その子は暇な時育ててみてよ~。だいたい何でも出来るように、装備はばっちし送り済みだからさっ」

「……マジかよ」


 念のため所持品を確認してみると……わーお。

 メイス以外の製作できるレベルの最強武器と、後衛職の装備以外は全て揃っていた。

 てかこれあれか、真実にあげたやつの残り持たせたってことか!

 いらないからって送るには高価すぎんだろ!


「ちょっと鍛えたら、すぐ色々参加できそうなレベルの装備たちね……」


 その所持品に、だいも驚きの様子。

 うん、富豪かつ廃人の思考はわかんねーな!


「楽しそうね」

「こちらはいつでも動けるぞ」


 そんなやり取りをしていた俺たちに、少し離れたデスクの方から声をかけてくる最強夫婦。

 その言葉に少し慌てて俺は〈Ainyalove〉をログアウトさせ、〈Zero〉でログインするべくゲストログイン画面へ切り替える。

 亜衣菜も二人の言葉に、自分のログインを進めだしたようである。


 とりあえず、このキャラは封印する。うん、そうしよう。


 ……いや、でもこのPC読み込みとか動作全部はえーな……。グラフィックもうちのPCより綺麗だし……さすが高性能……!


「準備おっけー」

「私もログインしました」

「俺も、OKっす」


 ということで、全員がログインを完了したことを伝えると、ルチアーノさんからPTのお誘いが届き、同時にフレンド申請も送られてきた。

 え、マジすか。いいんすか!


「登録させていただいても、いいんですか?」


 驚く俺と同じように、だいがルチアーノさんの方に向かってそう言ったってことは、そうか、だいにもフレンド申請がいったってことか。

 うん、これはね、驚くよね……! ちょっと声、緊張気味だし。


「もちろんだ。いつでも気軽にメッセージ送ってもいいぞ」


 いや、恐れ多いわ!

 なんて言えないけど!


「あ、ありがとうございます」


 そんなやり取りがありつつも、組まれたパーティメンバーは〈Luciano〉さんをリーダーとして、〈Moco〉さんに〈Cecil〉、〈Daikon〉と〈Zero〉の5人が並ぶ。

 いやぁ……まさかこんな日がこようとは……!


 並んだメンバーの名前に、若干手汗かいちゃうよこれ。


「行先はキングサウルス。全員自分が一番強いと思う武器で来ていいぞ」

「でも、このメンバーだと後衛がいないのでは?」


 ルチアーノさんの言葉に疑問を投げかけるだい。

 いやぁ、よく普通に聞けるね!


 でもたしかに、ヒーラーもサポーターもいないし、キングサウルス討伐にウィザードは必須だし、どうすんだろ?


 と思ってると。


〈Ume〉『活動休止期間って聞いてたんですけど・・・』


 パーティメンバーに一人追加。


 おお!? ジャックの後任で、現【Vinchitore】のサポーター統括の〈Ume〉さんだと!?


 そしてさらにもう一人。


〈Koppepan〉『ルチアーノさんから誘いって、びっくりなんですけど!』

〈Koppepan〉『って、何このメンバー!』

〈Koppepan〉『もこさん説明求む!』


「あ、懐かしい……」


 ぼそっと呟くだいだったが、その表情はちょっと嬉しそうだった。

 うめさんに続いて入ってきたこっぺぱんは、俺らが【Mocomococlub】にいた頃にギルド選抜メンバーのヒーラーを務め、俺とだいが初めてもこさんと組んだ時にも同じパーティだったプレイヤーだ。

 もちろんその腕前はずっと【Mocomococlub】にいるだけあり、お墨付きだろう。


 でもその名前に俺も懐かしさが込み上げるけど……こっぺぱんはヒーラーだったと思うけど……。


〈Moco〉『今日はプライベートで遊ぶだけー』

〈Moco〉『懐かしいでしょー?ゼロとだいだよー』


 俺の疑問も、こっぺさんの疑問も何も解決しなさそうなもこさんの回答ログ

 いや、それ説明!? 雑すぎない!?


〈Cecil〉『こっぺちゃん今日はウィザードね!』

〈Koppepan〉『それはいいですけど・・・』

〈Ume〉『・・・嫌な予感がする』

〈Luciano〉『うめはサポーターだぞ』

〈Ume〉『抜けていいですか』

〈Cecil〉『だめーw』

〈Ume〉『もこさんいるなら、たろさん呼んでくださいよ』

〈Ume〉『なんでオフにノーヒーラーのPTやらなきゃいけないんですか』

〈Moco〉『たろは今ギルドメンバーとスキル上げ行ってるからだめでーす』


 完全無言になる俺とだいをよそに進む会話。

 ってか、こっぺぱんウィザードもできるようになってたのか。

 ……まぁ、そりゃ俺らがいたの4年前だし、ずっと【Mocomococlub】にいれば別スキルも上がるか。


 しかし、うめさんってけっこうズケズケと言いたいこと言うタイプなんだな……!


〈Cecil〉『うめちん今日は回復そんないらないと思うよー』

〈Ume〉『あー、Zeroさんってガンナーでしたっけ?Daikonさんは?』

〈Zero〉『はい。俺がガンナーで、だいはロバーです』

〈Koppepan〉『相変わらずだいの分もゼロやんが答えてるw』

〈Moco〉『変わらないよねーw』

〈Cecil〉『今日はリチャード脳筋アタッカーいないから平気さっw』


 いやぁ、しかし豪華メンバーだなマジで……。

 普段からジャックっていうすごい奴とは組んでるけど、各スキルの第一人者級揃いじゃんこれ。


〈Luciano〉『もこも今日はアタッカーでいいぞ』

〈Moco〉『ほほう?この豪華アタッカー陣相手にタゲを守り切るとおっしゃるのですな?』

〈Luciano〉『俺から奪えるものなら奪ってみろ』

〈Cecil〉『あ、言ったなー?』


 ちらっと亜衣菜やルチアーノさんたちの方を窺うも、同じ部屋にいるのに全員がお互いに顔を見ることもなく、3人はログでちょっとバチバチ状態。

 でもこの言葉は、俺とだいへの挑戦でもあるよな。


「りんりん、ガンナーの力見せてやるぞっ!」

「お、おう」

「菜月ちゃんも、フルスキルでいくぞ!」

「う、うん」


 盾にルチアーノさん、アタッカーに俺とだい、亜衣菜にもこさん、サポーターのうめさんのウィザードのこっぺぱん。

 【Vinchitore】3人に、【Mocomococlub】2人に、【Teachers】2人。

 ギルドの格で言えば俺とだいがどう考えても格下だけど。


 このメンバーの中で、俺はどれほど通用するのか。


 だいの方をちらっと見ても、その表情は緊張より楽しみという感じのようで。


 俺たちは揃って火山へ転移し、キングサウルス討伐コンテンツを開始するべく、移動を開始。

 銀髪エルフのルチアーノさんを先頭に、モニター内を移動する男ヒュームの俺とだい、猫耳獣人の亜衣菜、女小人族のもこさん、うめさん、こっぺぱん。


 久々に自分よりも確実に強いと思う人たちとの共演に、俺のプレイヤーとして闘志が燃え出すのは、もう止められなかった。





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以下作者の声です。

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 懐かしの〈Koppepan〉を覚えてる方はいるのでしょうかレベルですよね。第3章後半の回想シーンで登場してます。

 ちなみに名前だけ出てきてるリチャードは【Vinchitore】のメインアタッカー〈Richard〉で、火力全振りで範囲攻撃などでガスガスHPを削られるから、うめは嫌いみたいです。


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本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。3作目となる〈Yuuki〉がこそっとスタートしました。

 お時間あるときに、興味がお有りの方はそちらも読んでいただければ幸いです!

 更新は亀の如く。また間が空いてすみません><

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