第172話 口の軽さには要注意

 現在時刻は21時57分。


〈Hitotsu〉『わっ!すごい綺麗!』

〈Cecil〉『でしょー?』

〈Daikon〉『いいわよね、ここ』

〈Zero〉『うむ。俺も結構お気に入りだなー』


 到着した海底都市は、どうのこうのファンタジーな理由で海の中に作られた都市で、NPCとしては人魚とかもいたりする人気のエリアだ。

 大きなサンゴを削って作った感じの建物から、ふわふわと浮かぶ気泡まで、細部にまでこだわったグラフィックから運営側のやる気を感じる。


〈Cecil〉『じゃ、最初は都市を回って色々話聞いてからだから、あたしたちのログでストーリーの邪魔しないように、妹ちゃん1回パーティ抜けるといいよー』

〈Hitotsu〉『わかりました!行ってきます!』


 初めてのエリアにテンションが上がり気味の真実は、リアルでも「おおっ」とか「綺麗!」と感嘆の声を漏らしつつ、亜衣菜の指示通りパーティを抜けて一人都市の内部へと走って行った。

 今はスマホでも簡単に攻略サイト見れるし、進行には問題ないだろう。

 意外とちゃんとゲーマーしてるじゃん。よきかなよきかな。


 ということで、真実が抜けて俺・だい・亜衣菜の3人パーティとなりました。


〈Cecil〉『いい子だねー』

〈Daikon〉『うん、素直でいい子だね』

〈Zero〉『あー、まぁうん。そうだな』


 二人とも真実には好印象な感じで、まずは一安心。

 とはいえ、ほとんど相槌打つくらいの反応しかしてなかったけどね。


〈Cecil〉『今いくつなんだっけ?』

〈Zero〉『今23で、あと3か月くらいで24かな』

〈Cecil〉『4歳差かー』

〈Cecil〉『兄妹喧嘩とかするの?w』

〈Zero〉『ないない。最近はちゃんとしてきたけど、昔は泣き虫の甘えん坊だったからさ』

〈Cecil〉『ほほう。お兄ちゃん子か』

〈Daikon〉『ゼロやんがやってるゲーム追いかけるくらいだもんね』

〈Cecil〉『でもなんで今になってなんだろ?』

〈Zero〉『いや、俺もわからんけど』

〈Daikon〉『社会人にも慣れてきたからとか?』

〈Zero〉『あー、たしかに去年の夏はてんやわんやしてたけど、正月はちょっと慣れた感はあったかなー』

〈Cecil〉『ほうほう。頑張ってるんだねー』


 ちらっと後ろを向くと、初めてのエリアを満喫するように楽しむ姿。

 俺も初めて来たときは、テンションあがったっけなー。


 その姿にはちょっとだけほっこりするような、そんな気分になった。


「お兄ちゃん、ここすごい綺麗だねっ」

「だろ? でも、空も綺麗なエリアだぞ」

「うー、早く行きたい!」


 うん、楽しんでるようで何より。

 でも最初に色々回るのはけっこう時間かかるからな、まずは今のストーリーを楽しむのだぞ。


〈Zero〉『すっかり海のとりこなってるよ』

〈Cecil〉『おー、つれてきてよかったねー』

〈Daikon〉『うん、よかった』

〈Cecil〉『でも、最初の方はけっこう街中走り回ってで時間かかるよねー』

〈Cecil〉『せっかくだし、何かする?w』


 え。

 今日はもうね、22時だし、解散してもいいんじゃないかな!


〈Daikon〉『うん、いいよ』


 って、何ですって!?

 まだこの修羅場を続行されるというのか!?

 

 うーむ……でもだいからすれば、亜衣菜と組むのは初めてだから、まだ遊びたいの、かな……。


〈Cecil〉『りんりんはー?』

〈Zero〉『お任せ』

〈Cecil〉『相変わらず人任せだなぁw』

〈Zero〉『やかましいわ』

〈Cecil〉『じゃあ軽くスキル上げでもする?』

〈Zero〉『うーん、さすがに後衛なしじゃきつくないか?』

〈Cecil〉『となるとー……菜月ちゃん何かあるー?』

〈Daikon〉『あ、じゃあヒヒイロカネ取りは?』

〈Cecil〉『あれ?菜月ちゃん製作スキルも上げてるのー?』

〈Daikon〉『うん。防具系ならだいたい作れるよ』

〈Zero〉『俺の盾用のクルセイダーズ一式も、だいが作ってくれたやつなんだよ』

〈Cecil〉『おお、すごいなっ』

〈Cecil〉『いいなっ、あたしも何か作ってもらいたいっ』

〈Zero〉『いや、亜衣菜なら全部買えるだろ・・・』

〈Cecil〉『えー、気分の問題じゃん?』

〈Daikon〉『じゃあ、今度新しく何かでたら、作ってあげるね』

〈Cecil〉『ほんとっ!?ありがとっ』

〈Cecil〉『じゃあそのための素材狩り、行こうかっ』


 いやそれが次の素材なるかなんてわかんないけどね?


 だがまぁそんなことを言うのも野暮なので、真実がストーリーを進めてる隙にベテランズで素材狩りが決定する。

 まぁ、火山入口の亀なら多少は経験値も入るしな。

 悪くないだろう。


「俺らちょっと素材狩り行って来るから、戦闘必要なとこまで進んだら教えてな」

「わかったー。でも、まだけっこうかかりそ」

「シナリオもけっこう面白いからな、ゆっくり楽しみたまえ」

「おうよー」


 真実にも一言伝え、準備完了、かな。


〈Cecil〉『りんりん盾やってもらっていいー?』

〈Zero〉『はいよ』

〈Daikon〉『私ロバー短剣でいくね』

〈Cecil〉『二人にセシルちゃんの腕前を見せてしんぜよう!』

〈Zero〉『え、タゲ大丈夫かな』

〈Cecil〉『ちゃんと守ってね?』

〈Zero〉『ヘイト減少装備あったかなー』

〈Cecil〉『おい!あたしの扱い雑だぞ!w』


 ということで、海の底から一路火山へと俺たちは移動するのであった。


 でもあれだな、思ったよりこのメンバーでも、意外と平気かなぁ……?




 22時16分、火山入口。


〈Cecil〉『よし、じゃあ狩るぞー!』

〈Zero〉『へーい』


 手近な亀にチアアップして、戦闘開始。

 まぁこの亀はHPと防御力は高いけど攻撃力はそこまででもないから、死んだりとかはしないだろう。


 でもなんというか、あの【Vinchitore】の〈Cecil〉がこんなところで一般プレイヤーと狩りしてるとか、知らないやつが見たらびっくりするだろうなぁ。


〈Daikon〉『亜衣菜さんは普段素材狩りとかするの?』

〈Cecil〉『んー。最近はしないよー。新しい素材が出たらって感じかなー』

〈Cecil〉『素材とか、ギルドで共有するんだけど、基本はくもちんのとこが集めてくれるんだよねー』

〈Daikon〉『くもちん?』

〈Cecil〉『あ、Kumonのこと!くもちんの部門にロバーの人多いからさ』

〈Daikon〉『そういうのもしっかり分担してるのね』


 ほうほう。くもんか。

 そういや、亜衣菜たちはくもんとジャックが結婚したこと知ってるのかな?

 聞いてみたいけど、もし二人がまだ秘密にしてんだったらと思うと……聞けないな。


 あ、ちなみに俺は攻撃防ぐのにいっぱいいっぱいなので、全然タイピングできません。

 わざと黙ってるわけじゃないからな?


〈Cecil〉『そそ。ほんと、くもちんはギルドの頭脳だからさ、ありがたいんだよねー』

〈Daikon〉『ルチアーノさんが全部指示してるわけじゃないんだ』

〈Cecil〉『んー、お兄ちゃんは取りまとめするけど、ギルドの運営よりも攻略とかに頭使うって感じかなー』

〈Daikon〉『そうなんだ』

〈Cecil〉『うんー・・・って、あれ?』


 ここまで倒した亀の数は4匹。よく喋りながらできるなぁと感心するほどのものすごいテンポで続いていた銃撃が、止まる。


〈Cecil〉『菜月ちゃんにお兄ちゃんのこと話したことあったっけ・・・?』

〈Daikon〉『あ』


 !!!!!!!!なんてこったい!!


 俺が焦りに焦った刹那、目の前にいた亀を闇の奔流が包み込み、カンストダメージがでてHPゲージが一気に0になる。

 このエフェクトは間違いなくサドンリーデス亜衣菜の技だよな……!

 MP使用量も気にせずこれを撃ったってことは……!


〈Cecil〉『ほほう』

〈Cecil〉『この中に一人、口の軽いやつがおるな?』


 お、怒ってらっしゃる!?


 こういう時はどうすればいいかって?

 そんなの1つしかないだろう!


〈Zero〉『すみません!』


 謝罪一択だ!


〈Cecil〉『まったくー』

〈Daikon〉『ごめんね、勝手に聞いちゃって』

〈Cecil〉『菜月ちゃんは謝らなくていいよー』

〈Cecil〉『ギルドメンバーにバレると色々面倒だから黙ってただけだし』

〈Cecil〉『二人とも外部の人だし、これ以上言わなければ大丈夫かなー』


 おおう……『これ以上』、そのログに変な汗が止まらない。

 でも、あとでバレるくらいなら、今言った方がいいよな……!


〈Zero〉『あ、あの』

〈Cecil〉『ん?』

〈Zero〉『ジャックも知ってる・・・』

〈Cecil〉『む』

〈Cecil〉『ジャックかー・・・ってなると、くもちんも聞いちゃったかなー・・・』

〈Zero〉『す、すまん・・・』

〈Cecil〉『もー、りんりんたちのギルドがオフ会やってるのは聞いてるけどさ、なんでそんな話になったのさー?』

〈Daikon〉『ゼロやんも、悪気があったわけじゃないんだけど・・・』

〈Daikon〉『あれ?でもジャックからくもんさんに話がいくかもって知ってるってことは、亜衣菜さんジャックとくもんさんのこと聞いてるの?』


 おお!!

 たしかに!!!

 ナイスだい!!!!

 そこの共通理解があるなら、俺の説明言い訳も伝わるか!?


〈Cecil〉『あ、もぶ以外の幹部は結婚の話聞いてるよー』

〈Cecil〉『って・・・あれ?ということは・・・もしや?』

〈Daikon〉『どうしたの?』

〈Cecil〉『ジャックに話したのいつー?』

〈Zero〉『11日の月曜です・・・』

〈Cecil〉『あー、なるほど。そういうことか』

〈Daikon〉『?』

〈Cecil〉『あたしたち聞いたの12日だったんだけど、くもちんが新婚旅行のために夏休みが欲しいって言ってきたんだよねー。それで20日から【Vinchitore】は10日間各自自由行動って決まったんだけど』

〈Cecil〉『お兄ちゃんが既婚者って知ったジャックがくもちんに伝えて、くもちんがお兄ちゃんに言ったって感じかな?』


 す、すげえ!

 え、ここまでの断片的な話で、そこまで察することできるの!?

 俺がルチアーノさんが既婚者って話までしたって、読み取ったというのか!?


 しかしくもんの行動の早さもすごいな!


〈Daikon〉『うん、私たちもジャックに新婚旅行行かないの?って話からルチアーノさんの話になったから、合ってると思う』


 素材狩りに来ていたはずだが、俺の失態の発覚から、完全に手が止まりただのフリートークと化す俺たち。

 でもなんとなく、ひと段落しそうな空気も感じられるような……?


〈Cecil〉『ほうほう。でもそっか、うん、なるほどね』

〈Zero〉『ま、まだ何か?』


 え、今度は何がわかったんだ……!?


 落ち着いたと見せかけての亜衣菜の不穏なログに、またしても冷や汗が滲みだす。


〈Cecil〉『菜月ちゃんさ、23日の日曜日暇ー?』

〈Daikon〉『え?』


 はい?

 あれ? その日は亜衣菜、予定あるって言ってなかったか……?

 え、どういうこと?


 え、その日は俺と会うだろ! とか言え……ないよな!?


 亜衣菜からすれば、だいは俺らが会うのを知らないと思ってるはずだから。

 俺と会うだろなんて言ったら、なんで会うの? って話になりかねないし……!


 変に割って入って、俺がだいと繋がってたことが露見するわけにはいかない。

 だいのアドリブに期待するのは難しいだろうし、ここで下手を打てばバレてしまう。


 けじめとして、俺から直接言うってだいと約束したんだし……!


〈Daikon〉『空いてるけど・・・どうしたの?』

〈Cecil〉『おー、よかったー。夕方からうちにおいでよー。一緒に遊ぼっ』

〈Daikon〉『え?』


 え、しかも夕方!?


 間違いなくだいも戸惑っていることだろう。

 ついさっき俺から、その日は亜衣菜に予定があったけど、なんとか昼だけでも会うという約束を取り付けたと聞いている日なのだから。


〈Daikon〉>〈Zero〉『どういうことだろ?』

〈Zero〉>〈Daikon〉『わからん!』


 会話の隙を縫うように個別メッセージが来たので、俺も手短答える。

 そして続けて『予定確認してみる』とかでいいんじゃないかとメッセージを打っている間に。


〈Daikon〉『わかった。亜衣菜さんのお家に行くね』


 だいさああああああん!?!?!?

 え、なんで受け入れたし!?


〈Cecil〉『楽しみー』

〈Cecil〉『あ、菜月ちゃんちのPCってデスクトップ?』

〈Daikon〉『ううん、ノートだけど』

〈Cecil〉『じゃあ、PCも持ってきてねっ』

〈Zero〉『え、家に呼んで、LAやるのか?』

〈Cecil〉『ひみつー』


 なんでやねん!!

 え、待って、亜衣菜の予定どうなってんの!?


 ダメだ、全然わからん!!


 8月23日、果たして何が起きるというか?

 覚悟を決めて亜衣菜と約束を取り付けたのに。


 でもたしかにこいつは昔から振り回すだけ振り回してくれるタイプだったよなー……って、今振り回されんのは勘弁なんですけど……!?


 まだ10日後だというのに、既に俺の中では不安でいっぱい。

 

 ゆっくりするはずの帰省初日だというのに、なんというか、初日から俺もう疲れたよ……!





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以下作者の声です。

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本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。現在は〈Airi〉と〈Shizuru〉のシリーズが完結しています。

 え、誰?と思った方はぜひご覧ください!

 

 3本目難航中。

 こうも暑いと疲れますね。皆様も体調にご注意ください!

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