第171話 やる気スイッチは人に押してもらった方が入りやすい

〈Zero〉>〈Daikon〉『え、えーと、落ち着いて聞いてくれよ?』

〈Daikon〉>〈Zero〉『何?』


 もちろんだいからのメッセージを無視するわけにはいかず、亜衣菜がどこに行くかを考えている隙にだいにメッセージを作成する俺。


 とりあえずこいつには、ありのままを伝えねばなるまい。


〈Zero〉>〈Daikon〉『えっとね、いつの間にか妹がLA始めててさ』

〈Daikon〉>〈Zero〉『おー』

〈Zero〉>〈Daikon〉『そんで、俺と一緒にやりたかったらしいけど、サーバーが違くてね』

〈Daikon〉>〈Zero〉『あら』

〈Zero〉>〈Daikon〉『移転希望掲示板に書いたらさ、妹が俺の妹ですって書いちゃってさ』

〈Daikon〉>〈Zero〉『それは大胆なこと書いたわね』

〈Zero〉>〈Daikon〉『だよな。で、それに亜衣菜が気づいたみたいでさ』

〈Daikon〉>〈Zero〉『ふむ。亜衣菜さんも、掲示板見ることあるんだ』

〈Zero〉>〈Daikon〉『あ、それはたしかに』

〈Zero〉>〈Daikon〉『で、俺にほんものの妹って聞いてきてさ』

〈Daikon〉>〈Zero〉『たしかに書いてたら、気になるわよね』

〈Zero〉>〈Daikon〉『それで本物だよって話をしたとこから、【Vinchitore】の人で移転してくれる人見つけてくれたんだけど』

〈Daikon〉>〈Zero〉『おー。よかったわね。でもそんな簡単に見つかるとは、すごいわね』

〈Zero〉>〈Daikon〉『うむ。それは俺も驚いた。で、移転できたから妹と組んで何かしようと思ったら、亜衣菜も来てさ』

〈Daikon〉>〈Zero〉『うん。たしかに私もゼロやんの妹いるなら、気になるかな』

〈Zero〉>〈Daikon〉『それで、色々装備ももらっちゃったし、これから何かやりにいこうって話にはなってるとこなんだ』

〈Daikon〉>〈Zero〉『なるほど』


 必ず相槌くれるあたり、流石だいだなー。マメだ。

 でもこれで状況は伝わった、かな。


〈Daikon〉>〈Zero〉『じゃあ、私も行くね』

〈Zero〉>〈Daikon〉『はい!?』

〈Daikon〉>〈Zero〉『私もゼロやんの妹に会ってみたいし』

〈Zero〉>〈Daikon〉『え?マジ!?』

〈Daikon〉>〈Zero〉『とりあえずパーティ誘って』


 マジかよ!?

 え、何これ。不安しかないんですけど!?


 たしかにだいと亜衣菜は不思議と仲良くなってるけど……今カノと元カノと組むとか、え!? こんなことある!?


 でも、亜衣菜と組んでるのにだいを断るのは、できないか……!


〈Zero〉『もう1名はいりまーす・・・』

〈Cecil〉『おお?』


「だれー?」

「あー、たぶん俺の画面見てたなら、見たことあるやつだよ」

「んー?」


 まだエリアは違うけど、新たにパーティに加わった〈Daikon〉の名前が、画面の右下に登場する。


〈Daikon〉『こんばんは』

〈Cecil〉『あ!やっほー!』

〈Hitotsu〉『あ、だいこんさんだ!はじめまして!』

〈Daikon〉『はじめまして。だいこんです』

〈Daikon〉『セシルさんも久しぶり』

〈Daikon〉『えっと、ひとつちゃん、でいいのかな?』

〈Cecil〉『菜月ちゃんと組むの初めてだねっ』

〈Daikon〉『うん、そうだね』

〈Hitotsu〉『呼び方はなんでも大丈夫ですよ!』

〈Hitotsu〉『って、菜月ちゃん??』

〈Daikon〉『あ、私です』

〈Hitotsu〉『え!だいこんさんって女性だったんですか!』

〈Cecil〉『妹ちゃんは、ほんとにりんりんの画面見てたんだねーw』

〈Daikon〉『うん。中身は女です』


 うわー。この会話、緊張感半端ねぇ……!

 すごいなだいのやつ、よく普通に話せるな……!


 しかし亜衣菜のやつ、だいはセシルって呼んだのに、お前は菜月呼びなんかい!!


「この人、よくお兄ちゃんと一緒にいた人だよね?」

「うん。フレンド歴は一番長いかな」

「女の人だったんだ……」

「いやー、俺もずっと気づかなかったわ」

「オフ会はこの人もいたの?」

「おう。同じギルドだしな」

「綺麗だった?」

「いやぁ、それはもう」

「ふーん……ってことは、なるほどなー」

「え、あ、あ!」

「彼女さん、昔からの知り合いって言ってたよねー?」


 し、しまった!!


「そっかー。この人がお兄ちゃんの彼女さんかー……」


 くっ!?

 認めたわけじゃないのに、断定だと!?


「今カノと元カノと一緒にいるなんて……これ修羅場ってやつ……?」


 それは間違ってないけど!

 

 黙ってるつもりだったわけじゃないが、せめてバレるなら、ログアウト後とかにしたかったな……!


「でも、セシルさんはだいこんさんの本名まで知ってるみたいだけど、どういうこと?」

「そ、そこはそっとしといて! 後で話すから! 今は俺とだいの関係に触れないで!」

「だい? ああ、だいこんさんのことか。セシルさんには二人が付き合ってること、言ってない、と」

「い、色々あるんだよ!」


 だが、ここで亜衣菜にバレるわけにはいかない……!

 もうしょうがないと腹をくくり、後で説明することを条件にここは真実に色々聞きたい気持ちを抑えてもらうことを約束する。


「ふーん……ちゃんと教えてね?」

「教える! 約束するから!」


 だが今はこの修羅場をどう切り抜けるかが最優先……!


〈Cecil〉『4人かー。何でもできそうだねー』


 だが、俺の気も知らず亜衣菜はいつも通りの自由さのようで。

 でも思考はおそらくゲームについてになってるかな……?


 っと、そうだ。今のうちに、23日の話伝えとくか……!


〈Zero〉>〈Daikon〉『亜衣菜、23日昼ならOKだって!人目につかない場所がいいっていうから、場所はうちになっちゃったけど・・・』

〈Daikon〉>〈Zero〉『え、ゼロやんのおうち?』

〈Zero〉>〈Daikon〉『う、うん。夕方からは予定あるみたいで、ちょっと無理言った感じになったから、断れませんでした・・・』

〈Daikon〉>〈Zero〉『ふーん・・・』

〈Daikon〉>〈Zero〉『別に次の週でもよかったのに』


 あ、やばい。これは俺でもわかる、不機嫌モードだ……!

 や、やっぱりうちはダメだったか……!


〈Daikon〉>〈Zero〉『じゃあ、土曜日はちゃんと掃除しないとね』

〈Zero〉>〈Daikon〉『は、はい』


 こ、この感じ、なんか怖い……!


〈Cecil〉『そいえば妹ちゃんは、ストーリーは進めたのー?』

〈Hitotsu〉『あ、中央都市までは進んでます!』

〈Cecil〉『おー、ってことは、海と空はまだなんだ』

〈Hitotsu〉『あ、まだいけません・・・』


 俺とだいが影でこそこそメッセージを送り合う中、亜衣菜と真実のログでパーティチャットでは続けられる。


 そんな会話をしているうちに、だいも俺たちのいるエリアへやってきた。

 画面上では男女比2:2なのに、中身は1:3で、その3が今カノ、元カノ、妹という、とてつもない修羅場感。


 ちなみに海と空は通称で、3回目の拡張データで配信された海底都市周辺のエリアと、4回目の拡張だった空中都市周辺のエリアのことだぞ。


〈Cecil〉『じゃあストーリー進めちゃおうか!』

〈Daikon〉『そうね、海底都市も空中都市も、グラフィックがすごい綺麗だからおすすめよ』

〈Hitotsu〉『ほうほう!』

〈Cecil〉『どこまで進んでる感じ?』

〈Hitotsu〉『えっと、オアシスに行ったとこで止まってます』

〈Daikon〉『じゃあ、砂漠のミイラ討伐かしら?』

〈Cecil〉『おー、菜月ちゃんよく覚えてるねっ』


 だがどうやら焦っているのは俺だけのようで。

 さくさくと決まっていく、これからの動き。


 しかし亜衣菜も褒めてるけど、俺もだいの記憶力には驚きである。

 砂漠エリアのストーリーが実装されたの、もう6年前だぜ?


 攻略サイト見ないと、全然思い出せないぞ俺には。


〈Cecil〉『じゃあ、オアシスに移動しよー』


 そして亜衣菜の仕切りでだいが転移魔法を唱え、神殿前にいた俺たちの画面が、砂漠エリアの小さなNPCタウンである、オアシスへと切り替わる。

 実装当時はオアシスを拠点として砂漠でスキル上げも行われてたけど、今じゃもうね、誰もいないよね。


 閑散としたエリアは、何となく時の流れを感じさせて、少し寂しかった。


〈Cecil〉『道覚えてるー?』

〈Daikon〉『うん。大丈夫』

〈Cecil〉『じゃあ任せたっ』


「この人たち、すごいね……」

「まぁ、二人ともガチ勢だからな」


 ぐいぐいと移動していく二人に、ついていくだけの俺ら兄妹。

 月明かりに照らされた砂漠は、幻想的な美しさを俺らに伝えてくる。

 

 話題がゲーム内容になったことで、その美しさを見る余裕くらいは持てるくらいには、少し落ち着けた気がした。


〈Cecil〉『そういえばさー』

〈Zero〉『ん?』

〈Cecil〉『菜月ちゃんもフラガラッハ手に入れたんだねー』

〈Daikon〉『あ、うん。2個目がドロップしたから』

〈Cecil〉『銃も上げてたのー?』

〈Daikon〉『手に入れた時は、まだ100くらいだったけど』

〈Daikon〉『今は254かな』

〈Cecil〉『おー』


「フラガラッハってなにー?」


 みんなで砂漠を進む中、だいと亜衣菜の会話にどう入っていいか分からないであろう真実は、パーティチャットじゃなくリアルトークで俺にそう尋ねてきた。

 ま、さすがに武器の名前とか、知るわけねーよな。


「今のとこ一番強い銃だよ。俺も亜衣菜も使ってる」

「ほーほー。で、亜衣菜って、セシルさんのこと?」

「はっ!」


 ゆ、油断した!!

 普通にさらっと言ってしまった!!


「ふーん……セシルさんはお兄ちゃんのことりんりん呼びだし、お兄ちゃんは彼女さんのこと名前で呼んでないのに、セシルさんのことは下の名前呼び……まさか二股?」

「してねぇわ!」


 後方を振り返って全力否定ツッコミをいれるも、俺を見る真実の目は完全に俺と亜衣菜の関係を怪しんでいる様子。というか若干ゴミを見るような視線にも感じる。

 いや、兄に対する目かそれ!?


 たしかに俺は呼ばないのに、亜衣菜だけが菜月って呼んでるのは、知らない人からすれば違和感だろうけどさ……!


「日本は一夫多妻制の国でねーや……?」

「いや、分かっとるわい!」


 お前はゆきむらか!

 聞いたことあるような言葉に全力でツッコミつつ、再びモニターに視線を戻す。

 

 いや、やはり油断大敵……!

 ここは戦場、遊びじゃないんだ……!


〈Cecil〉『でも、ジャックは欲しいって言わなかったのー?』

〈Daikon〉『うん。特には』

〈Cecil〉『そっかー。うちで一緒にやったとき、今話題の性能だし、もしドロップしたら欲しいなぁって言ってたけど』

〈Daikon〉『え?』


 真実に気を取られていたが、モニター上では少々気になるログが書かれてた。

 たしかだいがフラガラッハをもらった時、ジャックは使う機会ないからとか、言ってたような……?


「ジャックって誰だべ?」

「うちのギルドの仲間」

「……女の人?」

「うん、オフ会で会った」

「え、まさか……?」

「いや、ジャックは既婚者だから!」


〈Cecil〉『菜月ちゃんは銃欲しかったの?』

〈Daikon〉『別に、そういうわけじゃないけど・・・』

〈Cecil〉『でも手に入れたらりんりんとお揃いだもんねー』


 あの日もお揃いいじりはあったけど、亜衣菜のログにだいは何も言わなくなった。

 亜衣菜は、どういう意図でそう言ったのだろうか……?


 でもあの日は、防具を転用できるキャラってことで、だいがもらうって流れになったけど……確かに普通に考えて、ジャックが防具揃ってないなんてこと、ないよな……。

 いや、ジャック基準だと足りてないって意味だったのかもしんないけど。


〈Cecil〉『菜月ちゃんが銃上げたら、トリプルガンナーで遊べるねっ』


 何その状況。恐ろしすぎるんですけど。


〈Cecil〉『でも先にメインスキルキャップまで上げたら~?』

〈Cecil〉『ま、それはりんりんにも言える話だけどー?』


 そして亜衣菜の矛先……いや、銃口が俺にも向けられる。


 でもたしかに最近はだいの銃スキル上げに付き合って、ほとんどの時間を盾に費やしていた自覚はある。

 秋の拡張までには銃のキャップスキル350を目指すつもりだったけど、たしかに近頃はさぼり気味だったのは否めない。


〈Cecil〉『今度みんなでスキル上げいく? あ、でもそれだと妹ちゃんが来れないけど』

〈Hitotsu〉『わ、私のことはお構いなく!』

〈Cecil〉『ごめんね、あたしもう110に近いスキルの武器って、全く上げてない弓くらいしかないんだ><』


「え、お兄ちゃんこの人何者!?」

「いわゆる廃人という域のプレイヤーなのは、間違いない」


 亜衣菜のログに、おそらく真実はドン引きしているのだろう。

 まだ8か月ほどしかプレイしてないにしても、スキル上げに時間がかかるのは十分理解できているだろうし。

 うん、普通にどんだけ時間かけてんだよって、思うよね。


〈Daikon〉『お誘いは嬉しいけど、セシルさんは【Vinchitore】のメンバーでスキル上げとかしないの?』

〈Cecil〉『しないわけじゃないけど、あたしは割と自由にやらせてもらってるんだー。ちなみにりんりんも油断してる気がするけど、たぶんあたしの部門のメンバーにはりんりんより強い人何人かいるからねー?』

〈Zero〉『む』

〈Cecil〉『6人で5分』

〈Zero〉『何の話だ?』

〈Cecil〉『盾一人、ガンナー3人、ウィザードとサポーター一人でのキングサウルス討伐タイムだよー』

〈Daikon〉『え?』

〈Zero〉『マジかよ』

〈Cecil〉『秋のPvPがどんな仕様かまだわかんないけど、うかうかしてると昔はあたしの次に強いって言われてた実績も霞んじゃうぞー?w』


 その言葉は、俺のゲーマーとしてのプライドを少し刺激した気がした。

 いや、もう廃ギルドにいるわけじゃないからね、そりゃ俺より強い人がたくさんいてもおかしくないんだけど。

 でもやはり、俺自身、どこかで自分より強いのは亜衣菜だけだと思ってた部分はあった。


 でもそりゃそうだよな。

 スキルキャップですらないんだもんな、まだ。


 亜衣菜に追いつきたい、心の奥底にそんな気持ちが湧いてくる。

 いや、変な意味じゃなくね、ゲーマーとして、ってことね。


〈Daikon〉>〈Zero〉『秋までに2つキャップね』


 だが、亜衣菜の言葉に刺激を受けたのは俺だけではないようで。


〈Daikon〉>〈Zero〉『私は短剣と銃。ゼロやんは銃と盾ね』


 パーティチャットではなく、個別メッセージでだいが俺にそう告げてくる。


 いや、でも2つて……それ、恐ろしいほど時間かかりそうですけど……?

 しかし君、短剣の次に強いの、樫の杖だったはずじゃ……?


 負けず嫌いなのは、知ってたけどさ……!


〈Daikon〉>〈Zero〉『返事は?』

〈Zero〉>〈Daikon〉『は、はい』


〈Cecil〉『妹ちゃんも、早く追いつけるように頑張ろうね!』

〈Hitotsu〉『ぜ、善処します・・・』

〈Cecil〉『あ、その言い方りんりんっぽいw』

〈Cecil〉『なんでも手伝ってあげるから、いつでも言ってねっ』

〈Hitotsu〉『あ、ありがとうございます』


 おそらく真実も、住んでいる世界の違いには気づいただろう。

 うん、その反応は普通だと思うよ、お兄ちゃんは。



 その後俺が不安に思っていたような修羅場はなく、亜衣菜の役に立つゲーム情報を聞きつつ、戦闘部分はあっさりとベテラン3人で終わらせ、真実の海底都市到達まで俺たちはストーリーを進めてあげたのだった。




―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―

以下作者の声です。

―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―

 嵐の前の静けさ、ですかね。 


(宣伝)

本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。現在は〈Airi〉と〈Shizuru〉のシリーズが完結しています。

 え、誰?と思った方はぜひご覧ください!

 

 3本目難航中。

 書く時間が欲しいなぁ……。

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