第170話 安息の地は何処
俺のモニターの〈Zero〉のステータスバーの下に表示される〈Hitotsu〉のステータスバー。人生初の兄妹での二人パーティ。
そういや真美は武器は何鍛えてるんだろうか……って、あ、そうだ。
まずは亜衣菜にはちゃんとお礼言わないとな。
俺はフレンドリストを開き、亜衣菜にお礼を言うべく、〈Cecil〉相手にメッセージを作成した。
〈Zero〉>〈Cecil〉『無事妹移転できたよ。ありがとな』
〈Cecil〉>〈Zero〉『おお、よかったねっ』
〈Cecil〉>〈Zero〉『いまどこー?』
間髪入れず返って来るメッセージ。
そういやさっき移転できたら会いに来るって言ってたっけ。
別にリアルで会うならまだしも、ゲーム内のキャラと会ってどうすんだとは思うけど……助けてもらったのはこっちだし、ここは亜衣菜の希望通りにしよう。
〈Zero〉>〈Cecil〉『移転用の神殿のとこ』
〈Cecil〉>〈Zero〉『おk!すぐいくぜー』
いやー、ほんとにすぐ来そうだよな、亜衣菜なら。
なら真実と何かするなら、とりあえず亜衣菜と真実を会わせてから、か。
俺がそんなことを考えていると。
「お兄ちゃん何するー?」
「ん? ああ、そういえば真実はスキルとか、どの武器上げたの?」
「んとねー、メイスは上げて損ないって攻略サイトで見たから、メイス上げたー」
「おー、LAC見たの?」
「ううん、『LAノススメ』ってサイトー」
「あー……なんか新しくできたってとこか」
背後から聞こえる声に、一度振り返って言葉を交わす。
いやー、ほんと東京でだいとログインしてる時みたいだな、ほんと。
しかし『LAノススメ』っていや、いつだったか亜衣菜から聞いた、【Vinchitore】の運営してる『Legendary Adventure Complete』、通称LACのライバルサイトとかっていうやつだよな。
具体的に何上げた方がいいとか書いてんのかー。
まぁ、たしかにもう8年目のこのゲーム新規でやるなら、ありがたい情報ではあるの、かな?
「パーティ経験とかは?」
「それなりにー。今スキル110!」
「ほうほう」
元気よく答える声に相槌を打ちつつ、出来そうなことを考える俺。
とりあえず、なんか装備とか買ってやるかなー、何するにしても装備はあって困らないし。
そんな風にこれからの動きを考えていると、真実の視線がモニターへ移った。
「あれ、誰か来たよー……って、あれ? え、セシルさんってあの、雑誌載ってる可愛い人だべか!?」
その声に俺もモニターを確認すると、〈
街中の移動用なのか、現在行われている夏祭り用のイベント装備である桃色の浴衣を着たキャラクターは、めちゃくちゃ可愛かった。
もしや今月のコラムはこのコスプレか……!?
「あー、うん。今回俺が移転のお願いしたの、こいつ」
「えっ!? お兄ちゃん知り合いなの!?」
「うん。てか、真実も『月間MMO』読んでたんだ」
「あ、最近は読んでねけど、始めたての頃は読んだりしてたから……え、てか、そんなことよりなんで知り合いなん!?」
「え? あー、うん。まぁ、色々?」
とりあえず適当にはぐらかす俺。
でも、最近は読んでないってことは、亜衣菜のコラムで俺が炎上したことは知らないっぽいか。
さて、じゃあ亜衣菜のことはあまり知らないだろうし、どう説明するべきかなー。
〈Cecil〉>〈Zero〉『やっぴー』
〈Cecil〉>〈Zero〉『パーティいーれてっ』
〈Zero〉>〈Cecil〉『え、マジ?』
〈Cecil〉>〈Zero〉『マジマジー。え、さすがに
〈Cecil〉>〈Zero〉『あと、色々プレゼントも持ってきたぜい!』
〈Zero〉>〈Cecil〉『お、おう』
たしかにオープンチャットはリスキーだな。
兄妹とか、プライベートな話題になりかねないし。
ということで俺は亜衣菜の言う通り、〈Cecil〉をパーティに誘う。
しかし会うだけって思ってたけど、まさか同じパーティを組むとは。
……こいつと組むの、何年ぶりだ?
「えっ!? パーティ誘ったの!?」
パーティメンバーに〈Cecil〉が加わったせいで、真実の驚く声が聞こえてくる。
うん、まぁ、びっくりするよな!
そんな〈Cecil〉の登場に、俺たちの近くにはちらほらと色んなプレイヤーが足を止め始めていた。間接的に、俺らも目立っているのは言うまでもないだろう。
移転していきなりこんな場面に立ち会うとは。
でもこれも、01サーバーならではの光景だよなー。
〈Cecil〉『はっじめましてー!セシルでーすっ』
〈Hitotsu〉『は、はじめまして!』
〈Zero〉『ほら、お礼言って』
〈Hitotsu〉『あ、ありがとうございました!』
〈Cecil〉『いえいえーwって言っても、あたしが何かしたわけじゃないけどね!』
〈Cecil〉『てか、りんりんお兄ちゃんっぽいw』
〈Cecil〉『ほんとに兄妹なんだねー』
〈Zero〉『その呼び方はやめてくれ・・・!』
「え、りんりんって何!?」
「あー、まぁ、うん! ほら! 色々あるんだよ、色々!」
案の定、その呼び方に反応する真実。
元カノだよとかね! 言ってないし、言えないからね!
さて何と説明すべきか……!
恐る恐る、ちらっと背後の真実を振り返ると、それはもうものすごい怪訝そうな顔でこちらを見ていた。
その視線から逃れるように、俺はまた再びモニターに視線を戻す。
しかし今の顔、どうやら俺と亜衣菜の関係が気になって仕方ないご様子で……。
こんなことなら、せめてそれぞれ自分の部屋でやってればよかったな!!
「色々ってなにさ!」
「いやー……」
〈Cecil〉『妹ちゃんも、自分に似せてキャラメイクしたのー?』
だが、俺のハラハラをよそに、亜衣菜のログは止まらない。
やばいな! この会話、危険な香りがぷんぷんするぜ!!
〈Hitotsu〉『は、はい!お兄ちゃんのキャラを見てたので、そういうものなんだと思ってました!』
〈Cecil〉『なるほどー。
〈Hitotsu〉『え?リアル、でも?』
おおおおおお!!!?
「え、お兄ちゃん、リアルでも知り合い、なの……?」
「え、あー、うん、まー、うん、そんな感じ?」
や、やばい。変な汗が止まらんぞ!?
え、これはもう素直に説明するしかないのか!?
いや、でも彼女できた報告した日に、元カノと電話してたとか、変な目で見られないか!?
だが、俺のただならぬ雰囲気を察したのか、カタカタとキーボードを叩く音が響く。
〈Hitotsu〉『セシルさんは、お兄ちゃんとリアルでもお知り合いなんですか?』
〈Cecil〉『あれ?聞いてないのー?』
間髪入れずに返ってくる亜衣菜の返事。
いや、ジャック並に打つのはえーな!
待てい!!
だが俺がそうタイピングするよりも早く――
〈Cecil〉『元カノってやつだよw』
……
「マジ!?」
「あー……はい、そうです。学生時代の、彼女です……」
「え、なして!?」
「いや、学生時代彼女いるって話はしてたじゃん……?」
「え、それは聞いてたども……えっ!?」
〈Cecil〉『あれ?フリーズ?』
〈Zero〉『絶句だわ絶句!』
〈Cecil〉『なんだよー、ちゃんと言っとけよー』
〈Zero〉『いや・・・言うかね、それ』
〈Cecil〉『他人ならまだしも、妹ちゃんなんだし、隠すことでもないじゃん?』
〈Cecil〉『とはいえ付き合ってたの学生の頃だから、もうだいぶ前だけどねーw』
〈Hitotsu〉『え、あ、すみません、頭が追い付かなくて』
〈Cecil〉『あたしがりんりんをこのゲームに誘ったんだよー』
〈Hitotsu〉『あ、そうだったんですか・・・』
〈Cecil〉『うんー。元々ね、同じ大学だったんだよー』
〈Hitotsu〉『ほおほお・・・』
〈Cecil〉『りんりんは夢を叶えるために真面目に勉強やってたけどさ、あたしはちょっとサボっちゃってねー。愛想尽かされちゃったみたいw』
〈Hitotsu〉『え、そうなんですか!?』
おいおいどんだけ話すんだよ!?
「あんなに可愛い人を振ったとか……」
「いや、言っとくけど俺が振られた側だからな!」
ドン引きするような声に慌てて振り返って、正しい情報を伝える俺。
「でも別れた彼女に誘われたゲームを……ずっと続けてるって……」
「うっ……」
く……!
やはり亜衣菜に頼むべきではなかったか……!?
〈Cecil〉『ずっと連絡は取ってなかったんだけどね、今年になってあたしの仕事絡みでちょっと連絡することがあってさー。そっからまた友達に戻ったって感じかな~?』
〈Cecil〉『この説明で合ってる?w』
〈Zero〉『・・・よろしいかと』
〈Hitotsu〉『友達・・・』
「しかも最近彼女できたのに、元カノとも友達に戻ってたって……」
ぐふっ。
背後から聞こえる妹の言葉が、俺の背中にぐさぐさと刺さる。
いや、俺だってまた連絡取ることがあるとか、思ってなかったし……!
でも、また話し出したのはだいと付き合う前だし……!
しかし、絶対言えねぇ……まだ亜衣菜が俺のこと好きで告白されたとか、何があっても言えねぇ……!
〈Cecil〉『妹ちゃんにとって、りんりんはどんなお兄ちゃんなのー?』
〈Hitotsu〉『あ、え、えーっと・・・今本人が目の前にいるので、ちょっと言いづらいです・・・』
〈Cecil〉『あ、すごいw家族っぽいw』
〈Zero〉『いや、家族だから!』
〈Cecil〉『じゃあ今度聞くために、フレンド申請しておくねーっ』
〈Zero〉『せんでいい!』
〈Hitotsu〉『ええっ!?あ、ありがとうございます!』
なんというか、もう俺にはどうすることもできないのではないか。
そんな空気が漂い出す。
だが初対面でいきなりのフレンド申請にも関わらず、ちらっと振り返ると真実はちょっと嬉しそうにしていた。
もしや、初フレンドなのか……?
ついでにと、俺もフレンド申請を送ってみたりする。
あ、すぐ許可でたわ。
でもなんというか……真実と亜衣菜が俺の知らないところで話したりしたら、ちょっと怖いな……!
何話すんだろう?
勝手に俺に彼女できたこととか、言ったりしねぇよな……?
亜衣菜へそれを伝えるのは、けじめとして俺から伝えたいんだけど……!
でも、これ説明するのには時間かかりそうだし……!
俺一人、何とも言えない緊張感に包まれる中。
〈Cecil〉『じゃあプライベートの話はこのくらいにしてと。妹ちゃんは武器何上げてるのー?』
〈Hitotsu〉『あ、メイスです!』
〈Cecil〉『ほおほお。じゃあ特別にこれをあげよう!』
〈Hitotsu〉『え?あ、ありがとうございます』
俺の心配をよそに亜衣菜の話題がゲームの方向性に修正されていく。
おお……! 助かった……のか!?
「お兄ちゃん、なんか装備いっぱいもらった!」
「プレゼントって装備か。何もらったんだ?」
「んとね、天魔のメイスって武器と、大賢者のローブとか手袋とかっていうシリーズ防具一式!」
「え、マジ!?」
おいおい、それは今職人が製作できる装備の中での最高位じゃないですか!?
譲渡可能な装備ならMAXですよね!?
しかも一式って、え、買ったらいくらすると思ってるの!?
え、でも待てよ?
亜衣菜は今、鍛えてる武器を聞いてたよな……?
つまり、聞く前から用意してたって……まさか、全種類なんでもあげれるようにしてたのか……!?
おいおい、所持金どうなってんの!?
〈Cecil〉『装備してみてー』
〈Hitotsu〉『わかりました!』
俺の驚きなど知る由もなく、普通に会話を続ける二人。
価値が分からないとは恐ろしいね!
そして装備を変更したため、黒地にところどころ金色のラインが入ったローブ姿になる〈Hitotsu〉。
その装備あれば、スキルさえ上げればトップコンテンツもいけちゃうぞ?
〈Cecil〉『おー、黒っぽい恰好すると、よりりんりんと似てくるねーw』
〈Zero〉『俺じゃなくて〈Zero〉だけどな?』
〈Hitotsu〉『え、なんかすごいステータスあがったんですけど!』
〈Zero〉『そりゃ、その性能はトップクラスだしな』
今気づいたんかい!
〈Hitotsu〉『ええ!?』
〈Cecil〉『お姉さんからのプレゼントだよーw』
〈Hitotsu〉『あああ、ありがとうございます!』
〈Cecil〉『それで強くなって、色んなとこに行けるようなれるといいね!』
〈Hitotsu〉『はい!』
「お兄ちゃん、セシルさんいい人だね!」
「そ、そうだな」
セットで人にあげるような装備じゃないけどな! それ!
しかしあんなに驚いてたくせに、兄の元カノへもう順応ですか!?
〈Cecil〉『じゃあ、何かコンテンツでもいってみようか!』
〈Zero〉『え、一緒にいくのか?』
〈Cecil〉『そだよ?』
〈Hitotsu〉『え、嬉しいです!』
マジかよ。
会話もしたし、プレゼントして終わりだと思ってたんですけど!?
〈Cecil〉『どこがいっかなー』
だが、俺の気持ちなど伝わるはずもなく、亜衣菜がパーティを抜ける様子は感じられず。
どうしたものかと思ってると。
〈Daikon〉>〈Zero〉『こんばんは。帰省してもログインしてるのね』
こ、このタイミングで、〈
たしかにもうすぐ21時前で、いつもだいが平日にログインする時間ではあるけど!
〈Daikon〉>〈Zero〉『あれ?誰かとパーティ組んでるの?』
〈Daikon〉>〈Zero〉『何かやるなら、手伝おうか?』
いや、今君が来るとややこしいことになりそうなんですけど!?
え、どうする!? どうするよ俺!?
―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―
以下
―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―
(宣伝)
本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。現在は〈Airi〉と〈Shizuru〉のシリーズが完結しています。
え、誰?と思った方はぜひご覧ください!
3本目難航中。
書く時間が欲しいなぁ……。
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