第165話 俺のターン!! あ。

〈Senkan〉『おー、綺麗なとこだなー』

〈Zero〉『え、見たことないのか?』

〈Senkan〉『実はこのコンテンツ初w』

〈Daikon〉『そっか、せんかんは一昨年はもう1回引退してたんだもんね』

〈Gen〉『昔はよく通ったよなw』

〈Yukimura〉『綺麗なエリアですよね』


 リダをパーティリーダーとして組んだ俺たちは、みんな揃って空中都市へ転移したあと、コンテンツダンジョンである空中庭園を目指し地面が雲上という独特なエリアを進んでいた。

 画面上には見渡す限り青い空が輝き、遠くにはどういう原理か分からない大地が浮かんでいる。

 そこらへんにいるモンスターもほとんどが浮遊型の鳥型だったり魔法生物だったりと、ザ・ファンタジーなエリアなのだ。


 全てが地続きじゃないエリアだから、空中庭園までの移動も若干面倒だけど。


〈Daikon〉『都市の方も綺麗よね』

〈Zero〉『あー、たしかに。あんまり来ないけど、空中都市の教会ったら、よくゲーム内結婚式やってるもんなー』

〈Gen〉『俺も嫁とスクショ撮ったぞw』

〈Senkan〉『いやwキャラだと男同士じゃんww』

〈Yukimura〉『愛に性別は関係ないというやつですか?』

〈Zero〉『おい!?それあーすの前で言うなよ!?』

〈Yukimura〉『むむ?』

〈Gen〉『え!なにそれ!?』

〈Zero〉『は!!』

〈Senkan〉『なにそれ!?』

〈Daikon〉『はぁ・・・』


 とまぁ、ちょっとね、色々俺も会話にミスしたりということがありつつも、何だかんだで俺たちは空中庭園の入口へとやってきた。

 あーすの件についてはなんとか強引に誤魔化しに誤魔化したので、きっと大丈夫。うん。

 ごめんね、あーす。


 ということで。


〈Gen〉『じゃ、いきますかーw』

〈Senkan〉『ルート進行は倫についてけばいいか?』

〈Zero〉『たぶんまだ道覚えてるから、大丈夫だと思う』

〈Daikon〉『間違ったら言うから大丈夫』

〈Yukimura〉『だいさんが分かってるなら安心ですね』

〈Zero〉『あれ?俺の信用は!?』


 いつもよりおふざけ要因主にぴょんが少ないのに何故かツッコミ多めの会話をしつつも、リダの侵入申請中に俺たちは道中の移動用であるメイン装備から、今回のコンテンツの役割へ武器や装備をチェンジ。

 俺も黒ずくめのガンナー衣装から、全身鎧フルプレートのパラディンへと衣装チェンジ完了。

 もうけっこう見慣れたけど、やっぱこの格好は俺っぽくないんだよなぁ。


〈Yukimura〉『ゼロさんの鎧姿、新鮮ですね』

〈Zero〉『俺もまだ着慣れないわw』

〈Senkan〉『リダのローブもなかなかw』

〈Gen〉『いやwせんかんもだからw』

〈Daikon〉『そろそろ集中していきましょ』


 そしてリダの侵入申請が完了し、俺たちの画面が読み込み画面に変わり、数秒で俺たちはダンジョンエリア内に降り立った。

 画面左上のタイマーが、早速減り始める。

 

 引率の先生よろしくだいに注意されちゃったけど、たしかにここからはちょっと真面目にいかないとな。


 このコンテンツは制限時間30分で、道中の中ボス相当のモンスターは2体しかいないが、それぞれがダンジョン内の東西の端に配置されている。

 そして両方を倒さないと、中央最奥に位置するボスのワシに出会えないのだ。

 両サイドの中ボスは大した強さではないのだが、問題はその移動。


 このコンテンツには盾二人、と言った理由はここにある。


 侵入した中ボスを同時進行で撃破し、余裕をもって全員でボスに挑むのがかつてのセオリーと言われていたからだ。

 ボスのHPを増やしすぎないための7人編成で、盾・物理アタッカー・サポーターの3人で飛翔モードのない〈Crawling Dragonクロウリングドラゴン〉を、盾・ウィザード二人・ヒーラーで常時飛翔モードの〈Hawk Emperorホークエンペラー〉を倒す。これで当時の火力でだいたい15分ほどを残し、ボスを10分ほどで撃破するのがセオリーだったのだ。


 まぁ今ではサポーターのスキルに移動速度アップ魔法も実装されたから、全員で東西に移動しても、20分くらいあればボスまで到達できるだろう。

 特に二人は武器の火力もね、けた違いだしね。


〈Zero〉『雑魚は全無視。スイッチは俺がいくから、みんなは基本装置起動までワープのとこ待機。リダはみんなに移動UPを』

〈Gen〉『りょーかい』

〈Senkan〉『お、倫頼もしいじゃんw』

〈Daikon〉『なんだかんだ主催慣れはしてるもんね』

〈Yukimura〉『ゼロさん頼もしいですね』


 色々言われてるけど、とりあえずおしゃべりしてる余裕はないのでリダの魔法が全員に行き割ったのを確認し、移動開始。

 5人しかいないからパーティは分けられないし、今は1分1秒が惜しいからな。


 まぁ俺だってね、一応元廃ギルドに所属してたゲーマーだし。

 モンスターに見つかりにくくする移動支援魔法で半透明になっているパーティメンバーがちゃんとついてきているか確認しつつ、鎧姿の〈Zero〉を先頭に、俺たちは空中庭園を進んでいくのだった。




 移動開始から4分後、このコンテンツは半年ぶりくらいだけど、まだ俺の中にはルートの記憶が残っていたので、迷うことなく俺たちは最初の中ボスである〈Crawling Dragon〉、通称空トカゲと出会っていた。


〈Senkan〉『おっしゃいくぜ!』

〈Gen〉『いやー、俺も前出そうなるなw』

〈Zero〉『お前ら後衛だろ!w』

〈Yukimura〉『普通に戦っていいですか?』

〈Daikon〉『盾がんばってね』

〈Zero〉『ものは試しだ。どこまでキープできるか確認しよう』


 前にでかけた本職盾役の二人に静止をかけつつ、いつもは敵の射程圏外に位置取る俺が前にでてチアアップヘイト上昇スキルを使用。

 その直後、ヘイトが上がった俺に対して振り上げられた爪による攻撃や遠心力を伴った尻尾攻撃が俺に迫る。

 ふふふ、こちとらいつもその一瞬を狙撃してきたんじゃい!

 狙撃より許容タイミングの幅が広い攻撃を防ぐのは、わけないぜ!!


 モニター前で一人余裕の笑みを浮かべつつ、俺は空トカゲの攻撃を防ぐ。

 数発防いだところで、ヘイトの上昇を感じたのか俺の反対側、空トカゲの背中側に槍を構えた赤い髪の野性味溢れるイケメン〈Yukimura〉が登場。リダも阻害魔法を行使したりと、全員で攻撃を開始。

 きっと俺の後方にはだいも位置取りをして銃撃を開始したのだろう。

 通常攻撃だけでも、割とサクサク敵のHPが減っていく。流石、最強武器持ち二人だ。


 でもね。やはりというか、ちょいちょいゆきむらもダメージを受ける場面が増えていく。


 ちなみに俺はヘイト上昇や自身の防御力を上げるスキルやら、MP消費が少ないスキルを再使用が可能になれば即座に使う形で、必死にタゲキープをしてるんだが。

 しかしそれでもやはりゆきむらの方にタゲが向く。

 さて、どうしたもんかね!


 だいの持つ現状最高峰の銃であるフラガラッハの強さは同じく所持者である俺が知らぬはずもなく。

 さらにゆきむらが振るう槍であるヴァジュランダはほぼ同様のステータス補正と攻撃+300、命中+250、防御力+150、各種ダメージ耐性+20%、武器スキル+100、オリジナルスキル“クロダ・カラナ・ジョー”、通常攻撃が時々3回攻撃になるという、圧倒的な破壊力の武器である。

 だいに買ってもらった俺の盾とて決して弱いわけではないが……しかし武器は破壊力がものを言う。

 その威力にやはりタゲが俺とゆきむらでふらふらふらふら。


 ちなみにだいにタゲいくことがないのは、俺としょっちゅうスキル上げに行くから、俺の性能を理解しヘイト上昇を抑える装備をちゃんと揃えているからだ。これはね、リダがキングサウルスが落とす盾を手に入れる前に俺が考えに考えた装備でもあるから、効果てきめんなのだよ。

 しかしゆきむらはそう簡単にはいかない。タゲを取っても武器の補正で防御力も大幅に上がっていてすぐ死ぬようなことはないだろうが、回復に手がかかれば大和とリダのMP消費が増えていく。

 これは結果として、俺たちの戦いがじり貧になることを意味するのだ。


〈Gen〉『連撃はいついくんだw』

〈Senkan〉『早くタックルいけよw』


 俺があれこれ考えてるにも関わらず、後衛を務める二人からはまるで『暇なんですけど』みたいなログが届く。

 シールドタックルは盾持ち使える硬直スキルだが、こうも敵の攻撃が続くと、なかなかタイミングが見つからない。

 スキル発動までの1秒以内にはどうやっても敵の攻撃を受けてしまうし、受けたダメージ次第ではそれに伴うヘイト減少でゆきむらにタゲがいきそうだし!

 いやね、俺ががっつりキープ出来てれば1撃くらいどうってことないんだけど、既にタゲはふらふらしてるし、連撃で倒しきれればいいがもしゆきむらにタゲがいったまま連撃を開始し、中途半端に倒しきれなければ、硬直する直前までタゲを持っていたプレイヤーが敵の猛攻を受けかねない。

 かといってここでMPを大きく使用するスキルを使うのも……と、俺の盾経験不足が露呈する。


 そんな風に俺が悩んでいると。


〈Daikon〉『ゆっきーストップ』

〈Yukimura〉『むむ』

〈Daikon〉『チアヘイト上昇ビルドダメージ軽減タックル硬直

〈Daikon〉『先に私が撃つから、ゆっきーはコンセントレーション与ダメージ上昇からカウントレススラスト』

〈Yukimura〉『わかりました』

〈Senkan〉『おおw』

〈Gen〉『たのもしいw』

〈Daikon〉『ゼロやんいって』

〈Zero〉『りょーかい!』


 まるで呪文のようにカタカナを並べただいのログ。

 だがそれはすべてこの戦闘を終わらせるための戦術。


 ちなみに省力部分を補足すると『チアアップ・ビルドアップ・シールドタックル』ってことだけど、ビルドアップは盾の専用スキルの一つで、5秒間被ダメージを大幅に減少させる効果がある、けっこうMP消費の大きなスキルだから出し惜しみしていたんだが……たしかにこのまま時間を浪費するよりは、ここで使った方がいいか!


 だいの指示通りに俺がスキルを発動させ、敵を硬直状態にさせた直後、だいのビッグバンショットが炸裂し、光の奔流に包まれた空トカゲのHPが残り4割まで減少する。

 つよっ! と思った直後、正面に立つゆきむらが、残像を残すほどの速さで槍を繰り出しカウントレススラスト――


〈Senkan〉『二人ともつえーなw』

〈Gen〉『7割くらい残ってたのに、2連撃で沈めるかー。いやぁ、インフレだなw』


 あっけなく戦闘終了である。

 しかしだいの強さはある程度分かってたけど、ゆきむらもほんと強いな。武器だけじゃなく、たぶんスキル使用時の装備とかも、相当気合はいってんだろうなー……。


〈Daikon〉『すぐ移動しないと』

〈Daikon〉『ゼロやん、また道案内よろしく』

〈Zero〉『お、おう』

〈Yukimura〉『だいさん頼もしいですね』


 あ、頼もしさの矛先がだいへ……。

 さっきまで仕切っていたのは俺だったのに、肝心の戦闘で活躍できなかった俺から、見事な戦術を披露しただいへと仕切り役が変わる。


 く、くそう……!


〈Gen〉『いやー、だいすごいなwよく盾のスキル把握してたなw』

〈Daikon〉『リダの戦闘、何回も見てるし』

〈Senkan〉『すげーなw見てても指示出せる気しねーわ俺w』

〈Daikon〉『あ、リダ、ゼロやんのMP回復魔法切れてる』

〈Gen〉『おっとwいや、よく気付いたなw』

〈Yukimura〉『だいさんかっこいいですね』

〈Senkan〉『倫もしっかり頑張れよーw』

〈Zero〉『わかってるよ・・・』


 昨日の友は今日の敵……いや、敵ではないけど。

 かつてはパーティリーダーで大失敗して凹んでいただいは、もうどこにもいないようで。


 すっかり頼もしくなっただいに、感動とちょっとだけの寂しさを感じつつ、俺は次の中ボスと戦うため、再び先頭を走りながら空中庭園を駆けていくのだった。





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以下作者の声です。

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 書いていませんが、後衛二人は可もなく不可もなく、働きはしていたようですよ。

 

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本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。現在は〈Airi〉と〈Shizuru〉のシリーズが完結しています。

 え、誰?と思った方はぜひご覧ください!

 

 3本目難航中。

 暑くなってまいりました。皆様もお体にはお気をつけください!

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