第162話 個人情報は取り扱い注意

 午前10時頃に東照宮に到着した俺とぴょんは、少し先についた大和たちと合流し、その後定番の観光コースを散策した。


 道中日本史教師である大和のうんちくが炸裂したり、自販機の前でじゃんけんで負けた奴が全員分のジュースをおごる勝負で俺が負けてみんなにおごったり、そんなこともあったけど、まぁほんと、典型的な観光をしたと思う。


 ちなみに今日は全員が全員と話せる状況になったこともあり、大谷資料館の時と違って全員一緒に行動した。

 だいとあーすもそれなりに会話していたし、うん、この旅行でギルドメンバーの仲はより深まったと言えるだろう。


 俺もだいと一緒に写真を撮ったり、ゆきむらに頼まれて写真を撮ったり、男だけで写真を撮ったり、女性陣全員+俺の仮想ハーレム写真を撮ったりと、思い出に加えスマホのアルバムも賑やかになった。

 あーすもだいを含め全員とツーショット撮ってたし、大和も、ぴょんやゆめと一緒に写真撮ったりと、もはや全通りの組み合わせで写真を撮ったんじゃないかと思うレベルである。


 あ、俺と大和のツーショットはないけれど。まぁあいつはいつでも会えるからいいや。




 そして移動し、11時42分、華厳の滝に到着。

 なんで滝ってのは、見るだけでこんな圧倒されんのかなー。


「自然ってすごいわよね」

「ああ。そうだな」


 観光客用に作られたであろう展望スポットの柵に両腕を置いて滝を眺めていた俺の隣に、ごくごく自然にだいがやってくる。

 ある程度の距離はあっても、滝の音って聞こえてくるんだなー、すげーなー、とか思う俺。

 ちなみにみんなはみんなでそれぞれ眺めたり写真を撮ったりしているみたいなので、今は各自のフリータイムって感じだな。


「いいよなー。自然って」

「そうね、私も農家育ちだから、自然に囲まれるのはけっこう好き」

「おー。じゃあ今度でかけるときは、そういうとこいこっか?」

「えっ、行く! 約束よ?」

「おうよー。任せろ」


 何気ない気持ちで言ってみたけど、予想外にだいが喜んでくれたので俺も嬉しい。

 まぁこいつと色んなとこ行きたいのはほんとだし。


 とはいえ、俺も旅行ってLA始める前に亜衣菜と何回か行ったくらいで、実は大して行ったことないんだよな。

 うん、行きたいところはたくさんあるし、色々考えてみよっと。


「ほら、じゃあ写真撮りましょ?」

「だいもすっかり撮るのうまくなったなー」

「ゼロやんもたまには自分で撮りなさいよ」


 喜んだテンションのだいが、滝をバックに二人の写真撮るためスマホを起動。

 夢の国に行ったときはけっこう構図が決まらなかったりと苦戦もあったが、あの日と今日とですっかり手慣れた手つきになっている。

 俺もなんとなく、収まりのいい位置が分かってきたけど、撮るのはな、うん。お任せしたほうがいいのだ。

 だい、楽しそうだし。


 そんなこんなで二人の写真を撮る俺たちに。


「らぶらぶだね~~」


 ジャックが声をかけてくる。しかも、写真を撮ろうとしてる俺らを写真に撮りながら。


「ジャックはくもんさんと新婚旅行とか行くの?」


 だがそんなジャックの動作など一切気にせず、照れることもなく切り返すだい。

 らぶらぶだね、って言われても、最早こいつ平気になってきてるのか……!?


「んー、今のところ予定があるわけじゃないんだけど、くもん次第かな~~」

「まさか、【Vinchitore】ギルドの活動か?」

「そうそう~~。あたしは海外とか行ってみたいけど、そうするとけっこう長期で空けることなっちゃうからさ~~」

「さ、さすがね……」


 まさかと思って聞いてみたらズバリだったみたいで、苦笑いで答えたジャックにだいは若干引き気味だ。

 リアルを優先してくださいって、運営も言ってるんだけど、いやー……恐るべし。


 ん、でもそういえば……。


「ルチアーノさんも既婚者なんだし、そこら辺の理解はしてもらえんじゃないのか?」


 以前カミングアウトされた話を思い出す俺。

 ルチアーノさんはもこさんと夫婦なんだし。いつ結婚したのかは分からないけど、新婚旅行とかね、金持ちだし、豪華におこなったのではなかろうか。


 だが。


「え、そうなの~~?」

「え?」

「ゼロやん、ルチアーノさんとそんな話したことあるの?」

「え、あ、いや」


 え、元ギルド幹部でも、この話知らないの!?

 え、まさか亜衣菜以外だと、あのLAの世界で俺しか知らないレベルの話なの!?


「誰から聞いたの~~?」

「え、あー……本人だよ。前さ、俺が銃のギミック発見した時に、【Vinchitore】のギルドハウス呼ばれてさ」

「あ~~、くもんからその話は聞いたけど、まさかるっさんがゼロやんに身の上話するなんてね~~」

「あ、あはは……」


 どう誤魔化せばいいのか分からない事態に、愛想笑いを浮かべる俺。

 いや、ほら、これ以上話すとさ、もこさんが奥さんで亜衣菜が妹なんだよとか、ボロが出そうだし。

 この二人なら話してもいいような気がしなくもないけど、流石にプライベートなことだからほいほいと広めるわけにはいかんよな……!

 個人情報だし?


「でも、どんな流れでその話になったの?」


 何とかこの話から逃げたかった俺の思いもむなしく、だいの追撃が迫る。

 いや、表情的にね、純粋に疑問に思ってるんだよね。


 俺ら【Mocomococlub】にいたんだからもこさんと接点はあっても、俺とルチアーノさんに直接の接点なんてなかったもんね。


「ゼロやんとるっさん……ゼロやんと【Vinchitore】ってなると、セシルが絡んでるのかな~~?」


 な、何だと……!?

 ジャックーーーー!?

 またしてもか!?


「あ、なるほど。亜衣菜さんが関係してるなら?」

「そういうこと~~?」

「え、あ、いや」


 ど、どうする!?

 どうする俺!?


 ……いや、でも……変に誤魔化すほうが、よくないか……!?


「まぁ、うん。亜衣菜も関係なくはないというか……」


 こ、この話の時はまだだいと付き合う前だし、しょうがないよな!?


 ……うん、この二人なら大丈夫だろう!!

 さらば個人情報保護法!


「人の話だから、他の人に言うなよ?」

「え、なになに~~?」


 腹を決めた俺の表情にジャックは食い気味になり、だいは小さく首をかしげた。


「ルチアーノさんってさ、亜衣菜の実のお兄さんなんだって」

「えっ?」

「うっそ~~……」


 この情報にだいはもちろんのこと、さしものジャックも驚きの顔を浮かべる。

 いや、俺もね、初めて聞いた時はマジでびっくりしたからな。

 うん、その気持ちは分かるよ。


「あの日は、ちょうど亜衣菜のコラム記事の関係でリダの動画が炎上した後だったのもあったからさ、ルチアーノさんも謝罪というか、ちょっとそういう世間話をしたんだよね」

「でもそこで既婚者って話にもなったの?」

「あー……そこにさ、もこさんもいたんだけどさ」

「ん~~?」

「俺もなんでいるんだろうって思ってたけど」

「確かにβ版の時はもこもるっさんの仲間だったけど~~?」

「もこさんと夫婦らしいよ」

「えっ?」

「わ~~お」


 ここまできたらもう隠しきれまい。

 そう判断した俺はあの日に知った情報を二人に伝える。

 他のメンバーと違ってだいはもこさんを、ジャックは二人ともと知り合いだから、やはりその驚きは大きかったようで。


「え、夫婦なのにギルド別なの?」

「リダたちみたいな夫婦だけじゃないんだね~~……いやぁ、でもそっか~~……なんか、ちょっと色々納得なとこがいっぱいだよ~~」


 だが驚きもそこそこに、ジャックは何かすっきりというか、そんな様子。


「もこがちょくちょくるっさんと組んでたのも、β版にいなかったセシルが幹部に大抜擢されたのも、そういう事情があったんだね~~」


 むしろ、かつての【Vinchitore】時代を思い出してか、少し懐かしそうな表情になるジャック。


「ま、ということでルチアーノさんも既婚者なんだし、話せば分かってくれるんじゃないか?」

「そだね~~。うん、そうしてみるよ~~。ありがとね~~」


 そういってさっそくくもんに連絡を取るのか、ジャックはスマホを出して少し離れていく。

 新婚旅行とかさ、俺にはまだわかんないけど、一生に一度のもんだし、大事にしてほしいよな。

 というか、結婚式もやるのかな……?

 まぁそこはジャックたち次第だけど。


 と、ジャックの様子を見ていると。


「ルチアーノさんは、ゼロやんと亜衣菜さんのこと知ってたの?」

「え?」


 気づけば真横にいただいが、先ほどまでのご機嫌な感じではなく、いつものクールな表情になっていた。


「あー……直接言われたわけじゃないけど、たぶん、知ってたとは思うよ」


 うん、俺が言われたのは「これからもよろしく頼む」だからね。

 関係については、直接言われてないし?


「ふーん……」


 だが、何となくだいはご機嫌ななめな様子。

 だから俺はずっと伝えようと思っていたことを、今言うことにした。


「あのさ」

「何よ?」

「俺、だいと付き合ったこと、亜衣菜に話したいからさ。今月中に、あいつに話しにいっていいか?」

「え?」


 俺の言葉に、だいはしばし言葉を失う。

 周囲に人もいるのに、何故か訪れた一瞬の静寂に、俺の中に緊張が走る。


 でも、あの日亜衣菜の俺に対する気持ちを一緒に聞いただいだからこそ、俺が亜衣菜と話をしたいというのは、ちゃんとだいに伝えておきたかった。

 俺一人で片づけるべきじゃないと、思ってたから。


「ちゃんと言えるのかしらね?」


 少し考えるような間を置いてから、だいがそう言ってふっと笑う。

 その笑みは、俺への信頼、だと思いたい。


「だ、大丈夫だよ」

「じゃあ、信じた」

「任せろ」


 そう言って俺の胸に拳を当ててくるだい。

 昨日の今日だし、ここはちゃんとしないと、だな!


 俺の言葉に満足してくれたのか、だいの表情も柔らかくなる。

 その表情は、やっぱりほっとするものだった。


「来週は帰省するのよね?」

「ん、ああ」

「じゃあ私も久しぶりに実家に戻ろうかな」

「おー、ゆっくりしてこいよ」

「うん。お父さんとお母さんに、ゼロやんのことも話さないとね」

「お、おう!」


 亜衣菜と話すのを今月中と言った理由はここにもある。

 週明けの木曜から日曜まで俺は正月以来の実家帰省なのだ。

 東京で働きだして、今後実家に戻る予定もないから、年10日もない帰省は大事だからな。たまには親孝行しないとね。


 しかしだいは両親に言うのか! 俺も言うつもりだったけど、それはそれで緊張するな!

 だいの両親か……どんな人なんだろう?


「よもぎに会えるのも楽しみだわ」

「あ、じゃあ写真送ってな」

「ん、たくさん送るね」

「楽しみにしてるよ」


 あ、よもぎはあれだよ? だいの家で飼ってる猫のことだよ?

 しかしほんと、すげー大量に送られてきそうな気もするな……!


「夏休みももうあと半分だものね。休める時はしっかり休まないとね」

「そーだな」


 6週間に渡る夏休み……まぁ生徒と同じく全部休みじゃないけど、それでも仕事の負担は明らかに軽い。

 でもこの期間も、もう半分が過ぎたのだ。


 でも今年の夏は、今までの夏休みと違って、楽しかった。

 オフ会でのみんなとの出会いもあるけど、やはりだいがいてくれるからなのは、間違いあるまい。


「まだたくさん遊ぼうね」

「おう」


 暑い日差しの中、穏やかな時が流れる。


 いつかはお互いの実家に、一緒に行く日もあるのかなとか、ちょっとそんなことも考えつつ、今は今しかない時間を楽しもう、隣で穏やかな表情を浮かべるだいに、俺はそんなことを思うのだった。




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以下作者の声です。

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本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。現在は〈Airi〉と〈Shizuru〉のシリーズが完結しています。

 え、誰?と思った方はぜひご覧ください!

 

 3本目難航中。

 暑くなってまいりました。皆様もお体にはお気をつけください!

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