第161話 たまには聞く側に立ってみたい
「あれ、ゼロやんどこ行ってたの?」
「ん、目が覚めたから朝風呂に」
「ええっ! どうせなら起こせよ! 俺も行きたかった!」
「いや、あんだけ爆睡してたら起こせねーわ」
「僕ももう1回入りたかったなー」
いや、あーすとはもう大丈夫。うん、大丈夫だからね。
ちなみに何だかんだあれこれ考え事をしていたせいで、俺が風呂から戻ってきたのはもう7時半過ぎだった。
さすがにこの時間になれば二人とも起きていたようで、いつでも出発できるように片付けを進め、俺がしきっぱなしにしていた布団も畳んで端に寄せてくれていた。
いつぞや旅館側からすると畳まなくていいとか何かで見たきがするけど、まぁ泊まらせてもらった側の気持ちとしてはね、何となくそのままにしにくいよね。
そして8時の朝食までの時間を、のんびりと朝のニュース番組を見ながら過ごす二人に俺も加わることとする。
「今日は東照宮に行くんだっけー?」
「おう。朝飯食いながら、車の班分けしないとな」
「俺と大和の車で、適当に半々にするか」
「グーパー1発勝負でやってみようぜ!」
「1発勝負て……2・6に分かれるかもじゃん、ってまぁ、別にそれでもいいけど」
「これでまた倫とだい二人とかなったら笑えるな!」
「そうなったら愛の力だね~」
「はいはい」
天気予報を眺めつつ、今日も快晴だなーとか思いつつ、朝から男3人でこんな会話。
しかしなんというか、やっぱり男だけでいるのは気楽っちゃ気楽だなー。
あーすと二人は、ちょっと避けたいけど。
そんなこんなで、5分前になったので俺たちは昨日の夕食と同じ朝食会場へと移動するのだった。
「よーっす!」
「おはよ~」
「おはようございます」
「おっはよ~~」
「おはよう」
時刻は8時4分。先についた俺たちよりも少し遅れる形で女性陣が朝食会場へと参上。
昨日の夜に見た浴衣姿だけど、どうやらぴょん以外はメイクまで済ませたようで、これはこれで少しテンションが上がった。
しかし夜遅くまで話してたってゆきむら言ってたけど、眠くないのかみんな?
「おはよ。ちゃんと寝たか?」
「正直まだ眠いわ……」
特に何か話すこともなく、昨日の配置のままに座った男性陣に合わせてか、女性陣も昨日と同じ配置に着席。
俺の隣に腰を下ろしただいに声をかけると、やはりまだ眠たいのか、力ない声でだいの声が返ってきた。
眠たげな目をするだいの頭を撫でたくなるけど、我慢我慢。
本当は昨日の夜何話してたんだよと聞きたいところだが、さすがに朝から聞くような話でもないし、だいの様子からとりあえずこの問いは胸の内にしまっておくことに決める。
「いただきま~す」
俺とだいがそんな会話をしていると、ゆめの「いただきます」が聞こえてきたので、みんなもそれぞれ「いただきます」をしてから食事開始。
やはり女性陣は睡眠時間が少ないからか、みんなして黙々と食べるという、穏やかな時が続いた。
「あーす帰りの新幹線何時なんだっけか?」
「東京駅18時ちょっとだよー」
「宇都宮から東京駅ってどんくらいかかるんだ?」
「新幹線なら1時間くらいだったよー」
「じゃ、余裕見て16時に宇都宮駅に行けばいいかー」
そして、ある程度みんなの食事も進んだ頃、俺からすると対角線側に座るぴょんの声が届く。
そうだった、車の定員の関係であーすだけはここで解散なんだった。
となると、色々時間を逆算してかないとな。
しかしさすがぴょん。何だかんだ、面倒見いいよなぁ、ほんと。
ゆきむらに何教えてんだよと文句は言いたいところだけどな!
正面には昨日と同じくゆきむらが座っているわけだが、ぴょんの方へ視線を移した後、何気なくゆきむらの方を見ると、ちょうど向こうも俺を見たのか目が合った。
今朝の会話のせいで若干気恥ずかしくなる俺に対し、ゆきむらはいつも通りの様子でお茶を飲んでいるけど……うーん、やはり考えが読めないな、こいつは。
「少し早く宇都宮戻って、お土産とか買ってもいいかもね~~」
「あ、それいいね~」
「じゃ、東照宮と華厳の滝見に行って、時間次第でこっちで昼食うか、戻って昼食うか決めるかー」
「おっけ~~」
そんな会話が続き、
その流れには俺も異論ないし、みんなも了解のようで。
「じゃ、誰がどっちの車乗るか決めようぜっ」
今後の動きが決まったのを見計らったように大和が朝の男子部屋の話題を切り出す。
ルールは簡単。俺と大和以外が1発勝負のグーパーで分かれて、3:3になったら代表者がじゃんけんして勝った方がSUVで負けた方が軽に乗り、2:4か1:5になったら少ない方が軽に乗るというものだ。
もし全員が同じだったら、万一を想定して俺一人になるのを避けるため、2回目があるけどね。
大和の提案に、みんなも乗ってくれて一安心。
だいが一人とかならないかなぁ。
あ、でもできればゆきむらかあーすが一人だけ、というのはやめてほしい……。
そんなことを密かに思いつつ、俺はこの勝負を見守る。
「じゃあいくよ~」
ゆめの合図でみんなが何を出すか構え。
「グーとパーでわかれましょっ」
突き出された手を見れば、パーパーパーパーパーグー。
まさかとは思ったが、まさかの1:5の結果。
「うっわ、みんなパーかよー」
この結果に、わざとらしく額に手を当てて嘆く真似をする者が一人。
「しゃあねーなー。道中はあたしがだいの代わりやってやるよー」
「いや、求めてない求めてないっ!」
奇しくも俺と二人ドライブが決まったぴょんの様子にみんな笑いつつ、9時半出発と決め、俺たちは朝食会場を後にするのだった。
そして、9時34分。
「じゃ、あたしらも行こうぜー」
「おう」
チェックアウトし、先に駐車場を出発した大和たちのSUVを見送り、俺の隣には昨日と似たようなラフな格好のぴょんが座る。
何だかんだぴょんと二人の状況って、思い返せば真面目な話の場面ばっかりなんだよな。
だいに好きな人がいると言われて勘違いから凹んでたあの夜とか、昨日のだいとあーすについての話をされる時とか。
ほんと、お世話になっておりますだなー。
「昨日はしっかり話せたみたいでよかったなー」
「え、ああ。だいから聞いたの?」
「おう」
運転を開始するや否や、さっそくぴょんが話を切り出してくれる。
流石に今ばかりは普通のテンションというか、ハイテンションではないみたい。
「ちゃんと安心させてやれよー?」
「分かってるよ」
だいたい目的地までは30分くらいということだし、ここはたまには俺も色々聞いてみようかな。
「昨日ちゃんと聞けなかったけど、ぴょんは最近どうなんだ?」
「あー? いっちょ前にあたしの話を聞こうってかー?」
柄悪っ!
いや、君公務員だからね?
さすがに「あー?」はねーだろ!
だが、言葉の割にぴょんの表情は、笑っていた。
「どーせ風呂入ってる時、男どもで誰とヤりたいとかそんな話でもしてたんだろー?」
「してねーわ! 大学生じゃあるまいし!」
「いやしろよそこはー」
「恥じらえ、少しはっ」
そして俺が攻勢に出ようとしても、すぐこれである。
いやまぁ確かに誰派だとかね、そういう話はしてましたけど!
さすがに全員が顔見知りの中で、公共の場でそんな話できねーよ!
ったく……結局ぴょんはぴょんか。
そう割り切って運転に集中しようとした矢先。
「まぁあたしはなー。どうなんだろうなー」
「え?」
珍しく少し声のトーンを落としたぴょんの声が耳に届く。
ちらっと横を向けば、珍しく苦笑いというか、そんな表情をしているようで。
「言っとくけどアレだからな」
「うん?」
「あたし、見た目ならゼロやんが一番タイプだからなー?」
「はいっ!?」
え、何それ!?
今それ言うの!? え、意図は!?
「焦ってんじゃねーよばーか」
だが、驚きが顔に出てしまった俺にぴょんが笑う。
今度は苦笑いじゃなくて、普通に笑ってるように見えたけど……。
「最初のオフで会った時、ちょっといいかなとは思ったけど、さすがにだいに勝てるとも思わなかったしなー」
車内はエアコンをつけていて十分涼しかったのだが、ぴょんは助手席の窓を開け、外を眺め出す。
外から入ってくる音のせいででぴょんの声が聞き取りづらくなったため、俺は聞き漏らさないように懸命にぴょんの声へ意識を向けた。
窓に肘をかけて外を眺めるぴょんは、今どんな表情をしているのだろうか?
「だいはすげーよなー。あんな一途に誰かのこと好きになれて」
その誰かって、俺なんですけど。
「ゆっきーもだなー。彼女持ちだってのに、よくあんな真っ向から好意向けれるよなー」
ノーコメントで。
「ジャックも結婚までいくってことは、しっかり一人の人間を愛せてるってことだし」
こんなトーンのぴょんは初めてで。
「あたしももうすぐ28だからなー。あれだろ? 嫁キングはもうこの年の頃に結婚したわけだろ? いやー、あたしは何やってんのかなー」
吐き捨てるように語るぴょんも、初めてだった。
「ガキんちょたちの前では大人ぶってえらそーにしててもなー。一番大人になれてないのは、あたしかもなー」
「ふむ……」
大人、か。
大人って何だろうなとか、今さらそんなこと言うのも何だけど、ぴょんは十分大人だと思うけどな。
周囲をよく見て、ぴょんを中心に見ればいつもみんなが笑ってるし。
何というか、俺らの支柱的な存在なんだよな。
「楽しいことだけして生きていきたいなんて、子どもの頃は思ってたけど、それだけじゃダメなんだよなー」
「その生き方はぴょんっぽいけどな」
「あたしっぽいねー……」
そう呟いたぴょんが、スーッと窓を閉めながら俺に視線を送る。
ちらっとぴょんの方を窺えば、真剣、という言葉が適切そうな、そんな表情。
その表情に思わず少しドキッとする。
いつもふざけててイメージ持ちにくいけど、ぴょんも普通にしてれば普通に綺麗な顔してるよな……!
「ゼロやんはだいと結婚するつもりあるのか?」
「えっ!?」
真っ直ぐに俺の方を向いて、何を言ってくるのかと思えば、まさかの質問。
予想外すぎた質問に、思わずハンドルを持つ手に力が入りすぎ、若干カーブを曲がりすぎるところだった。
あ、あぶねぇ……!
「ま、聞かなくても分かるわ。別に恋愛とか結婚が全てとは思わないけど、やっぱ誰かと色んな事二人で分かち合えるってのは、途中に色々面倒なことがあっても、結果的に楽しいんだろうなー」
答えようと思った矢先、またぴょんが話し出したので俺は再び閉口し、聞き役に徹する。
いつも何だかんだ俺が聞かれて答えたり、俺が聞いたりしていることばかりだったけど、こうしてぴょんの考えてることを聞けるのは、貴重だからな。
「みんなあたしとせんかんがー、とかって言うけど、今は何もないからな?」
「え?」
「今は、うん。まだ友達ってとこだし」
「そうなんだ」
「いじっても誰かさんと違ってムキにならなくてノリいいし、話しやすいとは思うけどなー」
あ、誰かさんって俺のことですね。すみません、まったく。
しかしこの流れの中で、いきなり一番聞きたかったところが出てくるとは思わなかった。
でもこの答えって……。
「俺が言うのもなんだけど、年齢とかさ、周りとかさ、そういうのに焦る必要はないんじゃねーかな」
昨日聞いた、大和の言葉を思い出す俺。
二人とも、お互いに悪い印象がないのは明白だな。
なら、焦る必要もないだろう。
人生のパートナーって、そうやって決めるもんじゃないだろうし。
……俺が言っても説得力ないだろうけど。
「聞いてきたくせに、えらそーにいいやがって」
あ、ですよね。
俺がちょっと苦笑いを浮かべるも……。
ぴょんは笑顔ってわけじゃないけど、何というか、穏やかな顔をしてくれていた。
「ま、なるよーになるか」
「そうそう、ぴょんなら大丈夫だろ」
「ん、あんがとな」
「いえいえ」
「ゼロやんはまず、しっかりだいのこと見てやれよ?」
「わかっておりますとも」
ぴょんと大和がうまくいけばいいなと思うけど、あまり周りがごちゃごちゃ言うべきではないだろう。
もう二人とも、子どもではないのだから。
その後いつもの調子で俺とだいのプライベートなことを聞き始めたぴょんに俺が慌てたり、呆れたりそんないつもの会話を繰り広げながら、俺はぴょんと二人、目的地へと進むのだった。
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以下
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本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。現在は〈Airi〉と〈Shizuru〉のシリーズが完結しています。
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3本目難航中。
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