第153話 だいの_冒険
賑やかな夕食を終えた俺たちは、全員が大和に1000円ずつ渡して、いったん男女それぞれの部屋に戻った。
そして大和とジャックは買い出しに出発。
このコンビは、なかなかレアだけど、ギルド立ち上げの二人だからな。まぁ思い出話とか、ネタは色々あるだろう。
そして部屋に戻った俺とあーすは、しばし二人でテレビを見ていた。
部屋に戻る前、ぴょんから手はずが整ったらトランプやろうって呼びに行くって言われたから、その合図待ちなのだ。
トランプは大和のだけど、まぁ勝手に遊んで怒る奴じゃないからな。いいだろう。
「ゼロやんなっちゃんとラブラブだね~」
「え、まぁ、それほどでも?」
「なっちゃんいい顔してたな~」
のんびりとテレビを眺めつつ、テーブルに両腕を置いて、その上に顎を乗せたあーすが、若干見上げるような体勢で俺にそんなことを言ってくる。
何というか表情は楽しそうで、昼頃に俺に宣戦布告のようなものを言ってきた様子とは、ちょっと違うような、そんな気がするんだけど。
あーすは今日一日で、何を思ったんだろう。
ちょっと気になった。
「今日一日なっちゃんを見てたけど、あんな風にも笑うんだね~」
「んー、まぁさっきみたいなのは、珍しい気はするけど」
「あ、そうなの?」
「うん。だいが自分から笑い取りにいくのとか、初めてな気がする」
「それを引き出したのが、ゼロやんってことじゃーん」
「その顔ムカつくわー」
「い
ニヤニヤしたイケメンは、イラっとすることこの上なかった。
ついついそのにやけ顔をつねる俺。
今後のギルドでの活動で、会う前より雑に扱っちゃいそう。
今まで通りに続けば、だけど。
あーすの顔をつねりつつ、少しだけ、今後の展開を想像して緊張してしまったが、あーすにはバレてなさそうで安心。
そして俺が手を離すと。
「なっちゃんともうシたの~?」
って、おい!
学生か!
「そんなこと聞くなよっ」
「えー、別に普通聞くでしょ、男同士なんだし」
「高校生かお前……」
「あー、じゃあ生徒の影響受けてるのかも~」
「大人が影響受けてんじゃねぇ!」
「まーでも、一緒にお風呂入るってことは、そういうことだよね~」
「やめい!」
「なっちゃん、すごい胸おっきくなったんだね~」
「いや、それ彼氏相手に言うか普通?」
「びっくりしたな~」
「いや、人の話聞いてんのかよ!」
なんだこいつ。何なんだこいつ。
ダメだ、何考えてるのか全然わからん!
とりあえず、話題変えよう!
「そういや、あーすの学校も、そんな頭いいとこじゃないのか?」
「んー? そうだねー、けっこう勉強苦手で、ヤンチャというか、手を焼く子たち多いねー。って、も、ってことは、ゼロやんのとこも?」
「あー、まぁな。基本素直な奴多いけど、勉強の方はあんまり、って感じだな」
「いやぁ、お互い大変だねぇ」
「そうだなぁ」
話題を変えたら、すんなりと変なところであーすと意気投合した俺は、そのあともしばしあーすと仕事トークを続けた。
ここに大和がいれば、きっとさらに火がついてただろうな。
そのまま5分くらい話していると。
「ゼロさん、あーすさん、トランプやりませんか?」
お、来たか。
「リベンジマッチです」
「いや、ジャックいないじゃーん。いいけどねっ」
「っしゃ。俺もその勝負乗った」
リベンジマッチと告げたゆきむらは、どこまで話を知っているんだろうか?
どう見ても本気でトランプをやりたそうにしか見えなかったけど。
まぁ、あーすも見事に釣れたみたいだしな。
よし。じゃあ、行きますか。
「おじゃましまーす」
「しまーす。おー、さすが5人部屋、広いな」
「おいおい、女の園をじろじろ見てんじゃねーぞ?」
「いや、呼んだのお前らだろうが」
女性陣の部屋は、俺らの部屋よりも広かった。しかも、ちょっとこっちの方がいい匂いがした気がする。いや、気のせいかもしれないけど。
ちなみに俺らが入った時、だいとぴょんとゆめは俺とあーすのようにテレビを見てたみたい。俺らが入ったことで、全員が振り向いたけど。
「ゆっきーの望む通り、大富豪勝負でいいのかなっ?」
しかしまぁ、あーすはそんな女性部屋を気にする様子もなく、いつも通りの感じ。
すごいなしかし。
そんなあーすの前に、スマホを片手に持った一人の女性が立って近づく。
「大地くん、今日はごめんね。今日全然話せなかったからさ、お酒入る前に、ゆっくりお話ししない?」
「え?」
いきなりかい!
何の前振りもなく、いきなりいくんかい!
さすがにだいの動きの早さにぴょんもゆめもびっくりしたのか、一瞬驚いたような顔をしていた。
もちろん俺もだけど、一番驚いたのはあーすだったな。
「え、いいの?」
「うん、よかったら」
あーすが俺の方を見て来たから、俺は「行けよ」とばかりに頷いてやった。
それにあーすも、何故かわからんがちょっと困り顔になりつつも、頷き返してくる。
まぁ、びっくりの展開だもんな。
うん、でもしっかりと話してきてくれよ。
だいが、過去と向き合えるように。
「じゃあ、話そっか」
「うん。ちょっと抜けるから、みんなでトランプやっててね」
「はいよー」
「いってら~」
「大富豪勝負です」
ぴょんとゆめの方へ一回振り返ったあと、だいは俺に頷き、あーすと部屋を出て行った。
ゆきむらの「勝負です」は、やっぱりちょっと本気度を感じたけど。
これが演技というか、流れを知っててのことだとしたら大したもんだよな。
さぁ。あとは二人を信じて待つのみ、か。
って。
「ゆめ、何してんの?」
「しーっ。今、ぴょんのスマホと通話中だから~」
「へ?」
口元に指をあて、静かにするように指示してくるゆめ。
操作を終えたのか、テーブルの上のゆめのスマホは、スピーカーモードで、その画面はたしかに言葉通りぴょんと通話中になっていた。
ぴょんはここにいて、スマホを持ってないんだけど。
「ちょっとここからは静かにしてね~」
「お静かにですよ」
ひそひそ声のゆめに続けて、ゆきむらもゆめを真似るようにそう告げてくる。
こ、こいつらまさか、盗聴するのか!
結果だけを待とうと思っていた俺だったけど、まさかこんな用意をしているとは……。
たしかにだいに何かあったら、これですぐ助けに行けるかもしれないけど。
うーん。しかし二人のプライバシーが……って、だいが持って行ったってことは、だいは同意済みってこと、なのか?
しかし、リアルタイムで聞くのは……ちょっと緊張するな。
『いやー、いきなり来てびっくりさせちゃってごめんね。まさかなっちゃんがいるなんて夢にも思わなかったよ。でも、みんなと会えて、僕今日は楽しかったなー』
ポケットにでも入れているのだろうか。少し音が小さいが、たしかにあーすの声が聞こえてきた。
全員が静かにテーブルの上のゆめのスマホに向けて耳を澄ます不思議な状況。
会話の途中で戻ってきたらびっくりするだろうから、一応大和に、宿についたら連絡してって送っとくか。
北条倫>田村大和『戻ってきたら宿入る前連絡よろ』19:58
『うん、私も今日はごめんね。その、大地くんのこと避けちゃって』
おお、だいの声も返ってきた。って、当たり前か。
声の感じ……やっぱ緊張してるみたいだな。
まぁ、トラウマの相手なんだし、それもしょうがない、か。
『あっ、ううん! でも話そうって言ってくれて安心したよー。僕、嫌われたのかと思ってた!』
だいの言葉に改めて安心した様子のあーす。その表情は想像するに難くない。
あのイケメンスマイルが、炸裂しているのだろう。
ドキッとか、してるのかな、だいのやつ。
『ううん、ちょっと、どうすればいいか、迷ってただけ』
『どうすればいいかって、何を?』
『え、だって大地くん、私のこと、嫌いだったんでしょ?』
『えっ!?』
おお、踏み込んだ!
思わず俺も緊張のせいか、ぎゅっとズボンの生地を掴んでいた。
「緊張されてるんですか?」
「え、ああ、まぁ、うん」
「何かあったら、慰めてあげますね」
「へ、あ、ああ、ありがとう?」
そんな俺の様子に気づいたか、ゆきむらはひそひそと小さな声でそう告げてくる。
その表情は俺がフラれればいいとか、そんなことは全く思ってなさそうな、もしそうなったら可哀想というような、同情に満ちていた。
ありがとう。でも俺まだフラれてないからね! 心の中でツッコむ俺。
そんな俺とゆきむらの様子をちらっと伺ったぴょんは、苦笑いを浮かべていた。
『な、なにそれ!? 何情報!?』
『えっ? だって大地くんあの日、中2の最後の日、男子だけで集まってる時、私のこと嫌いって言ってたよね……?』
『えっ?』
そして二人の会話はさらに核心へと切り込まれていく。
この返事に、あーすはなんと返すのだろうか。
室内には冷房の控えめなゴーッという音が響くほどの静寂。
誰も彼もが、静かに、ただ静かにあーすの言葉を待つ。
もし、あーすが俺らに言った「だいのことが好きだった」が嘘なら、本当に嫌いなんだったら、今すぐこの会話を止めに行こう。
ざわざわと落ち着かない胸の内と戦いながら、俺はひたすら、スピーカー越しのあーすの言葉を待つのだった。
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以下
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タイトルはふざけました。でも、空白に文字を入れる勇気もありませんでした。笑
でもあれですかね、年齢次第では、分からないですかね……。
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本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。現在は〈Airi〉と〈Shizuru〉のシリーズが完結しています。
え、誰?と思った方はぜひご覧ください!
3本目、ちょっと執筆が滞り中……少しずつ……。
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