第152話 みんなで食べるご飯は美味い
「夕飯なんだろねー」
「餃子じゃなきゃ何でもいいな!」
「ここで餃子きたら笑うわ」
18時半5分前、俺たちは食事の会場に移動していた。
先に風呂入ってれば浴衣姿にもなれたんだけど、そこまでの時間はなかったのでしょうがない。
到着した食事会場は小さめの宴会場みたいな和室で、大きなテーブルには8人分の箸とおしぼりとコップが既に置かれていた。
「女性陣はまだか」
「だねー」
「さて、ここで問題なのは」
「ん?」
体格のいい大和を中心に、両サイドから俺とあーすが大和の顔を見上げる。
なんでこいつは、悩ましい顔をしてるんだ。
「誰がどこに座るかだ」
「あー」
「んー、僕なんかなっちゃんに避けられてるみたいだから、端っこに座ろうかな」
「あーじゃあそれで。で、あーすの反対側から一つ空けて倫が座れば、勝手にだいが端っこに座るか」
「りょーかい」
「なんか、避けられてるの悲しいなー」
「まぁ後で話してみたらいいんじゃないか?」
「え、いいの?」
「別に俺の許可取る必要はねえよ。もう中学生じゃなく、大人同士なんだし」
「う、うん。ありがと。でも話してくれるかなぁ」
心配そうな顔を浮かべるあーす。
大丈夫だって、だいが話す気なんだから。
って心の中で返す俺。
「じゃー俺は二人の間……にすると、まるで合コンみたいなっちまうから」
先に座った俺とあーすの間に一度座ってから、思い直したように立ち上がる大和。
いや、お前は何を悩んでるんだ一体。
「おー、いい雰囲気だなー」
「ほんとだ~。修学旅行みた~い」
大和が右往左往している間に女性陣が登場。
俺とあーすの配置に気づいただいがささっと俺の隣に座り、その正面にジャック、その隣であり俺の正面にゆきむら、続いてぴょんとゆめが着席する。
大和の悩みも空しく、結局大和は一度は腰を下ろした俺とあーすの間に座ることになり、なんちゃって合コンスタイルが完成した。
俺、合コン行ったことないけど。
今回の座席を図にすると
ジ・ゆ・ぴ・夢
だ・俺・大・あ
ね。
「って、この座席合コンかよ」
座ってから気づいたのか、ぴょんが誰にともなくそんなツッコミをいれる。
すごいな、大和と同じ思考回路。やっぱりお前らお似合いだよ。
「だよなー。あ、ゆっきー場所代わるか?」
「いえ、けっこうです」
「え、あ、そう」
この構図を変えようとした大和が、あえなく撃沈。
俺がさらっと断ったゆきむらの顔を見ると、ゆきむらは不思議そうに小さく首を傾げていた。
まー、男の顔見ながら飯食うよりは、女の子の方がいいしな。
そして俺たちが席についてちょっとしたら、旅館の女中さんたちが8人分のお膳を運んできた。
いやぁ、着物姿の女性の給仕って、いいよね。
否が応にも高まる、入浴後の女性陣の浴衣を想像して、ちょっとだけ楽しみになったりしちゃったり。
「おお、うまそうだなー」
「写真とっとこ~~」
運ばれてきた料理は、海の幸あり山の幸ありの、豪華なお膳だった。
やはりこういう場所の料理は見た目もいいしな。
器からして気合入ってるし、目でも楽しめるってもんだ。
ジャックだけでなく、だいもささっと写真を撮ったりしていた。
「いただきま~す。あ、おいし~」
「とりあえずパッと食って、買い出し行って部屋で飲もうぜー」
「も~、ぴょんってばお酒のことばっかだな~」
「でも、飲むのも楽しそうだねっ」
「買い出しって、誰が行くの?」
「え、せんかんだろ」
「え、俺!?」
「あたしもついてくから~~」
食事を始めてそうそう、ぴょんの情緒もくそもない言葉に俺は苦笑い。
そして名指しで大和が買い出し係に任命されたけど、まぁこれはしょうがないよな。
大和がどこまで話を知ってるのか分からないけど、とりあえずこのあと、だいとあーすの対話が待ってるんだから、少なくとも俺は待機だし。
うん、すまんな大和。
ジャックが即座に同行を申し出たってことは、女性陣でも何か決めてたってことか。
しかし改めて考えると、大々的な作戦だよなぁ。
でもこれでだいとあーすの関係が自然になってくれるなら、必要な労力か。
その結末がどうなろうと、ここでぎくしゃくしたままだと、今後のギルドの活動にも影響しかねないもんな。
だいがどういう判断するか次第で、今度は俺が気まずくなるかもしれないけど。
まぁその時はその時だ。みんなが気を遣わずにいられるようになれるのが、一番だから。
だいがもし俺と気まずくなっても、俺が気にしないで、普通にすればいいんだし。
って、俺にとってはそうならないのが一番ではあるんだけど。
「考え事しながらご飯食べるのは、作ってくれた人に失礼よ」
「え?」
「ゼロやん怒られてる~~」
「食事中は、食事に集中しましょうね」
「え、あ、ご、ごめんなさい」
まさかの考え事バレ。
隣に座るだいの発言にジャックが笑い、それにゆきむらが乗っかってくる。
なるほど、これが給食とかで怒られる子どもの気持ちか。
すみませんでした。
あ、ちなみにこの後飲むということなので、夕食ではノンアルコールだからね。
だからまぁ、ぴょんが早く飲みたがってるわけね。
ほんともう、ブレない奴である。
そしてある程度、みんなの食事が進んだころ。
「そういえばあーすってさ~」
「ん~?」
「関西弁は使わないの~?」
「あ、向こうにいる時は周りのがうつって使ったりするよー」
「あー、わかるわ、それ」
「そういえばゼロやんも訛りないよね~~」
「東京住んでもう今年で10年目だし、元々そんな訛ってる地域でもねーからな」
「方言もなー、実際あんまし使わないよなぁ」
「せんかんさんは、ずっと東京育ちなんですか?」
「いやいや、俺も上京民だよ。俺は新潟生まれ」
「そうなんだ~」
「今年28世代は、全員地方生まれだな」
「それ以外が関東生まれだね~~」
しかしこの方言使ってよーとかのくだりって、昔からよく言われてきたけど、こてこてに訛ったり方言使ったりする人の方が、たぶんもう少ないと思うんだよな。
まぁ、イントネーションとかたまに違うって言われることはあるけど、そもそもがっつり方言使ったら、東京じゃ伝わらなくて二度手間なんだから、自然と標準語になるもんなのだよ。関西弁以外は。
「ぴょんも訛ってみてよ~」
「ん、おみゃあよーけ食べやー」
「おお~、あーすは~?」
「あかんあかん、できへんできへん」
「なんか、うさん臭さが増しましたね」
「ええっ!? ひどくないっ!?」
ゆめのふりに即座に対応したぴょんとあーすだったけど、あーすの関西弁にゆきむらが辛辣な一言。
その言葉に、だいも含めみんなが笑った。
うん、たしかにだいも笑ったんだ。
その光景に、ちょっと安心したのは、俺だけだったかな。
「ゼロやんも何か言ってよ」
「え、だから俺は基本標準語だって」
「私、ゼロやんが使うの知ってるわよ」
「え、何?」
「ちょっとこっちに背中向けて」
「え、何?」
この流れにまさかのだいが乗っかった。
いやしかし俺自身訛ってるとか、方言使ってる意識ないんだけど……。
とりあえず言われるままに、だいに背中を向ける俺。
大和の方を向いた俺に、少なくともジャック以外からの視線が来ていることが分かり、なんかちょっと恥ずかしい。
「じゃあ、ジャックカウントダウンをお願いね」
「お? おっけ~~。ご~~」
カウントダウン!? え、何なの!?
「よ~~ん」
ちょっとドキドキしてきた……。
「さ~~ん」
いやこれ、絶対普通のカウントよりなげーだろ!
ジャックのんびりしすぎ……って!?
「しゃっけっ!!?」
「ほらね」
「お~、ゼロやん何語~?」
そう言ってみんなが笑ってたけど……カウントダウン全然関係ないやないか!!
振り返ると、だいがドヤ顔でおしぼりで手を拭いていた。そして空いた皿の上には、案の定コップに入っていた氷がある。
お、おのれ……!
ちなみに解説なんかいらないと思うけど、だいが俺の首筋に氷を当てて、俺は「冷たい!」って言っただけだからな。え? 全然「冷たい」じゃないって? いや、あれが冷たいだから。
これは反射で出る言葉だから、直しようもないのだ。
しかし、俺だいの前でこれ言ったことあったっけ……って……あ。
これは絶対にバレてはいけない。バレてはいけないぞ……!
「イチャイチャしてんなー」
「どこがだよ!?」
「ん~、全部~?」
「今度私もやってみていいですか?」
「うん、いいわよ」
「いや、何の許可出してんだ!?」
だが、だいが作り出した空気は、さらにこの場を和やかにしていた。
今日一日、迷惑かけたって気持ちもあったからか、だいなりにちょっと頑張ってみた、のかな……?
「みんなそれぞれの言葉あるんだね~、いいな~」
「あれ、俺のターンは!?」
「何用意してんだよー」
「あれ!?」
この話題をまとめるようなゆめの言葉に大和が焦る。
その大和に痛烈なツッコミをおみまいするぴょん。
うん、どんまい大和。
「いや~~、いいね~~楽しいね~~」
「そうですね」
「ちなみにさ~~」
終始ニコニコした様子だったジャックの表情に、ちょっと悪戯っぽい雰囲気が混ざる。
あの顔は、なんか、ちょっと嫌な予感が!?
「だいは今のゼロやんの反応、いつ聞いたの~~?」
くっ!! きてしまったか!!
「え、おふ……あ、お、おうち! ゼロやんのお
「何慌ててるんですか?」
その質問にさらっと答えかけ、何かをはぐらかすだい。
やってくれたな!! ああもう、恥ずかしい……。
そして二の太刀を振るってくるゆきむら。
さすが、切れ味抜群すぎる。
「え、ほ、ほら、お家で水がかかったりとかさ、あるじゃない?」
「かかったりかけたりかー?」
「そうそう、水かけたり……って、違うわよ!?」
「だいそこまで言ったらもう答えてるよ~」
あー……なんという。
まぁ、たしかにね、俺が言ったのは、一緒にお風呂入った時ですからね。
え、いつって? 聞くなそんなもん!
そしてぴょん! 「いや、あたしの下ネタだったんだけど」みたいにがっかりすんな!
それ冷たくねーから! ってダメダメ! 今のなし!
「話の流れが見えませんけど……」
「いや、ゆきむらは分からなくていいから!」
「雨露に当たったときとかって言やあよかったのに、だいも倫も嘘下手かよ」
「先に言えよ馬鹿!」
ああもう、めちゃくちゃだな、おい。
俺の隣ではだいが完全に沈黙し、俺はツッコミに追われ、ゆきむら以外のみんなが笑っていた。
せっかく日光まで来たのに、これじゃいつものオフ会と何も変わんねぇじゃねぇか!
「いいなー。みんなこんなオフ会をやってたんだねー。僕も毎回来れればいいのになぁ」
だが、この光景が初のあーすが、ちょっとだけしんみりとそんなこと言う。
「あーすもまた来れる時おいでよ~」
「ゼロやんちは無料で泊まれるぞー」
「え、そうなのっ?」
「いや、ちゃんと許可取れ許可を」
「せんかんさんちもOKなんですよね」
「ん、まぁ俺んちはいつでもいいぞ!」
「いや、せんかんちは遠いからダメだ」
「それぴょん基準じゃ~ん」
だがそんなあーすの空気感も飲み込むように、みんながまた盛り上がる。
こんな落ち着いた旅館で、まさか大の大人8人がこんな騒ぐなんて、旅館側もびっくりだろうな。
他のお客さんたち、部屋が別でよかったわ、マジで。
ほんと、賑やかな奴らだよ。
でも、これが俺らったら、俺らなんだよな。
あーすとだいのわだかまりが溶けて、だいとあーすの昔話なんかも交えられたら、最高だよなぁ。
その時はまぁ、俺の彼女のだいの過去って形で聞きたいもんだけど。
どういう決着がつくのか分からないけど、まぁなるなるようになるだろう。
俺はみんなが笑えるように、動くまでだ。
そして、既にみんな食事も終えたというのに、その後も俺らはぴょんの「そろそろ酒飲みたいな!」発言が出るまで、しばらくくだらない話で笑い合うのだった。
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以下
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方言トーク、懐かしいです……。
(宣伝)
本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。現在は〈Airi〉と〈Shizuru〉のシリーズが完結しています。
え、誰?と思った方はぜひご覧ください!
3本目、ちょっと執筆が滞り中……頑張ります!
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