第141話 罰ゲームは実はご褒美?
午前10時13分。
その後もジャックの話になったり俺とだいの話になったりしながらも、ようやく車は左ウインカーを出して減速していった。
ああ、やっと解放される。
運転席に行けばもう少しはターゲットから外れるだろうし、安堵である。
次は大和よ、お前があの席で苦しむ番だからな!
「運転おつかれー」
「ありがとね~」
「ありがとうございました」
「ありがとね」
「あっりがと~~」
「おつかれ」
「おう! いやぁ、久々だったけど無事着いてよかったわー」
駐車場に車を止め、シートベルトを外した大和へみんなからの謝意が述べられ、大和は思い切り背中を伸ばしつつ、そんなことを言っていた。
大和の運転は安全運転そのもので、スピードも車間距離も乗っていて安心感が強かった。
若干、俺にプレッシャーかかったけど。
「うわ、あっちー……」
「だね~、早く涼しいとこいこ~」
「そうね、そうしましょ」
「じゃ、倫に先鍵渡しとくなー」
「おう」
「よし、じゃあしばし休憩だ~」
「こっから宇都宮まであとどんくらいなんだっけ?」
「んとね~~、たしか1時間くらいかな~~」
「12時に待ち合わせだし、余裕はありそうね」
「じゃあ、30分くらい休憩すっか!」
「りょーかい」
「わかりました」
「とりあえず、ゼロやんはみんなの飲み物奢りね~」
「うお、覚えてたか」
「会ったり前じゃ~ん? あ、スラバあるよ~?」
「え、自販機とかじゃないの!?」
車から降りた俺たちは、みんな揃ってゆめが指差したスラーバックスコーヒーへと動き出す。
「あ、私先にお手洗いに行ってきますね」
「あいよー。あそこいるから、そこにきてなー」
「わかりました」
「あ、じゃああたしもついてくよ~~」
「ゆっきーのことよろしくね」
「いや、この距離じゃさすがにまよわねーだろ……」
ゆきむらが先にトイレへ行くとのことで、ジャックがそれに付き合った。
ゆきむらの方向音痴を心配したのか、だいが大げさなのに俺はもう苦笑いである。
「ジャック、幸せそうだったわね」
「ん? ああ、そうだな」
「いいなぁって思った」
「うん?」
ゆきむらとジャックと別れ、大和を間にしてぴょんとゆめが前を歩いているので、その後ろを俺とだいが歩く。
なんか、こいつと話すの久々って気がするな。
そしてジャックの結婚の話題を口にしただいは、なんというか、いつもよりちょっとだけ優しそうな感じに見えた。
あ、いつも冷たいとかね、そういうわけじゃないけど、ほら? いつもはクールな感じだし?
「ああやって見ると、指輪もよさそうだったわね」
「あー、やっぱ買っとけばよかった?」
「ううん。私はこれも好きだから」
そう言って胸元からネックレスを取り出すだい。
俺の視線もだいの胸元に移動したけど、うん。やっぱりでかいな。眼福。
あ、今はそういう空気じゃないか。
だいが取り出したネックレスは、今俺も付けているこの前のデートで買ったペアネックレス。
合わせるとハートが出てくるとか、ほんと大人向けではない気がしたけど、まぁだいが喜んでるからよしとしよう。
でもあの時ペアリングも見とけばよかったなー。
そうすれば、買わないにしても指輪のサイズ知れたんだし……ちょっと後悔。
「おい、イチャイチャしてんじゃねーぞー?」
「し、してないわよっ!」
気づくとぴょんたちと少し距離が離れていた俺たちは、少しだけ早歩きになった。
結婚、か。
俺はだいと結婚出来るのかな?
したいとは、思うけど……。
俺ももう28になる年だし、年齢的には結婚しててもおかしくない年齢だ。
まだ付き合って1か月ちょいだけど、顔を知る前から換算すればだいと出会ってから7年は経つんだし、色々考えてっていいのかなとか、そんなことを考えるのだった。
「何にしよっかな~」
「あたし一番でっかいサイズかな!」
「途中でトイレ! とかやめろよー?」
「いんだよ、ゼロやんの財布なんだし」
「割り切った態度、すごいわね」
「それがぴょんだよ~」
「とりあえず、店内の邪魔だけはやめような?」
スラーバックスの店内は、30度を軽く超える気温に対して、ひんやりとクーラーが効いていてありがたい。
普段あんまり喫茶店とか行かない分、たまにこうやってくるとちょっとウキウキするのはなんでだろうな。
しかし一人500円として、7人で3500円か。1回飲み会行けちゃうやないか。
「俺アイスコーヒーで」
「あたしもっ!」
「はいはい。……それ缶コーヒーじゃダメなのかよ?」
「私はキャラメルのやつで」
「わたしは抹茶の~」
「あ、あのシェイクみたいなのね」
とりあえず先に5人分を頼み、会計を済ませ、商品を受け取った大和たち3人が羽生PAの特徴的な、和モダンな土産物屋に向かって行く。
さすがにだいは他の二人が来るまで、待ってくれるみたいで安心。
しかしほんと、大和のおかげであの二人の面倒みてもらえてありがたい。
「だいはトイレ平気か?」
「うん。でも出発前に行っとこうかな」
「俺もそうしよっと」
先に受け取った飲み物を飲みつつ、何気ない会話もいまじゃすんなり。
今度二人で車借りて旅行とかも、いいかもなぁなんてちょっと思ったり。
「お待たせ~~」
「お待たせしました」
「おかえり、ありがとねジャック」
「だからお前はどんだけゆきむらに過保護なんだ?」
「いや~~、トイレでて反対側に行こうとされた時はちょっと焦ったよ~~」
「はっ!?」
マジかよ!?
ジャックの言葉にゆきむらが少し俯いたから、きっとマジなんだろうけど……どういう性能してんだ? ダンジョン攻略とかじゃ、そんなことないのに……!?
「あ、じゃあゼロやんあたしはアイスコーヒーよろ~~」
「はいはい。ゆきむらは?」
「あ、私は大丈夫です」
「遠慮しなくていいのよ?」
いや、それ俺の台詞な。
と、心の中でツッコミつつ、俺も不思議そうにゆきむらの方を見ると。
「あの、外の露店のでも、いいでしょうか?」
「おー、なんでもいいぞ」
「ずんだシェイクなるものがありました」
「それも美味しそうね」
「はい」
「じゃあ、ゆきむらは後でってことで」
なるほどね。たしかに外にも色々売ってたし、それもありだったかもなー。
そんなことを思いつつ、ジャックの分のアイスコーヒーを買って、俺たちは4人揃って大和たちを追うように店外に出るのだった。
「いきなりお土産買うなよ?」
「み、見てただけよ!」
和モダンな羽生PAの中で、いきなりだいがお土産のお菓子を見始める。
たしかに美味しそうなの多いけど……その慌て方、さては買おうとしてたなこいつ?
「あ、ゼロやんたちきた~」
「よし、じゃあ後半戦の場所決めしようぜっ」
「あ、またやんのか」
そんな俺たちに、先に店内へと来ていたゆめたちが近づいてくる。
大和が手に何かの袋持ってるから、何か買ったみたい。……え、まさかお土産?
「今度はゼロさんが運転ですよね。勝たねば」
「お~~、ゆっきーやる気だね~~」
今度は俺は見てるだけなんだけど、小さく拳を握って勝とうと意気込むゆきむらは、正直可愛い。
うーん、しかしできれば隣はちゃんとナビできそうな人がいいんだけど……。
「俺は真ん中でいいんだよな?」
「そだよ~。じゃ~、恨みっこなしで勝負だ~」
店内の邪魔にならないエリアに移動し、俺と大和を除く5人が再びじゃんけんに興じる。
ちらちらとすれ違う人たちが眺めてくるから、まぁ変な光景だよな。
そして。
「おお、すご~、ゆっきー有言実行だね~」
「嬉しいです」
見事に一抜けしたのはゆきむらだった。その様子に年長者たち全員がちょっと微笑ましそう。
べ、別にだいに嫉妬してほしかったとか思ってないからね!
しかしこれで助手席がゆきむらか……うーん、なんか、ちょっと緊張してきたな。
そして続きのじゃんけんの結果、運転席の後ろがぴょん、助手席の後ろがジャックになった。
「いや~、わたしたち弱いね~」
「確率的にはちょっとびっくりね」
ここまで同様最後列がゆめとだいで決定。
真ん中に大和がいるって考えると、対角線になったら二人から俺なんて見えないのではないだろうか。
「じゃ、せっかく飲み物買ってもらったんだし、さっさと車戻ろうか~」
「そうね、休憩しようにも7人で座れるとこはなさそうだし」
「ドライバー代わるんだったら、そもそも休憩しなくてもよさそーだしな」
「ささっと宇都宮行っちゃお~~」
「あ、じゃあトイレ行ってくるわ」
「私も」
「じゃあ俺ら先車戻ってるな」
「あ、大和たちはもう行ったの?」
「おう。お前らが来るまでに行っといた」
「さっさと戻ってこいよー」
俺とだいがゆきむらとジャックを待っている間に、先にトイレを済ませてたということで、俺は再び大和に車のキーとついでに飲み物を渡し、トイレに向かう。
だいも飲み物をゆめに渡したみたいだ。
「あれ、ゆっきーは行かないの?」
「あ、ゼロさんに飲み物買ってもらってからいきます」
「あ、そうなんだ~。じゃあ先に行ってるね~」
「ここで待ってますね」
「はいよ」
「私は用が済んだら先に車行ってるわね」
「りょーかい」
そんなこんなで、大和、ぴょん、ゆめ、ジャックが先に車へ、俺とだいがゆきむらを店内に残しトイレへ向かう。
やっぱあれだな、トイレはタイミング合わせた方が楽だな。
帰りはそうしようぜって提案しようっと。
「お待たせ」
「いえいえ、買ってもらうのは私ですから」
用を終えて、再び俺はゆきむらの元へ戻ってきた。
律儀にその場で動かずに待っていてくれたゆきむらに、まるで飼い犬みたいだなとかちょっと思いつつ、ゆきむらが欲しいというずんだシェイクの売っている露店へ向かう。
「あれです」
「おー、いいね、リーズナブルだ。すみません、ずんだシェイクを一つください」
「はーい、330円になりまーす」
そして店員さんから商品を受け取り、ゆきむらに渡す。
「ありがとうございます」
「いえいえ。暑いからさっさと戻ろうぜ」
「はい」
嬉しそうに両手で俺からシェイクを受け取ったゆきむらは、すぐには飲まずに俺の後ろをついてきた。
立って飲んだりとかしないのは、あれかな、育ちの良さなのかな?
「普段運転されるんですか?」
「いーや、全く」
「じゃあ、私の方が運転得意かもしれませんよ?」
「え? ゆきむら運転するの?」
「はい。父が置いていった車があるので、妹と二人で買い物に行くときに使ったりしますから」
「おー、意外」
「今度ドライブしますか?」
「うーん、女の子に運転させるってどうなんだ?」
「そうですか……」
そんな露骨にしょんぼりしないでおくれ……。
しかし、免許持ってたこと自体がちょっとびっくりだったけど、まぁだいたい学生時代に取るもんだしな。
でも普段運転するのか、ちょっと意外だった。
そんな会話をしつつ、俺とゆきむらはみんなが待つSUVへ到着。
「っしゃ、ぶっぱなしていこうぜー!」
「いや、安全第一だから!」
運転席に乗るや否や、真後ろから飛んでくるぴょんの野次。
もはや当たり前のようにツッコミをいれつつ、全員がシートベルトをしているかを確認する俺。
「いや、大和でけーな。だい見えないじゃん」
「なんだー? 見えなくて不安かー?」
「そういうわけじゃねーよっ」
「ちゃんといます。シートベルトOK」
「わたしもOKだよ~」
「よし、じゃあ行きますか」
後方確認を完了し、出発しようとする直前、何気なく隣を見るとさっき買ってきたシェイクを飲むゆきむらと目が合った。
両手でカップを持ってストローを咥える姿は、ちょっと可愛かった。
その姿に一瞬見とれてしまうと。
「飲みますか?」
「えっ?」
少しだけ首を傾げながらそんなこと聞いてくるゆきむらが、俺の口元にストローを近づけてくる。
え? あ、いや! そういうわけじゃ!?
「美味しいですよ?」
「え、あ、ありがと」
え、そんな無垢な目で言われると、断りづらいんですけど!?
だいじゃあるまいし、美味しそうとか思って見たわけじゃないのに、ゆきむらは見事に勘違いしたようで。
なんとなく拒否するのも悪い気がしたので、差し出されるままストローを咥え、一口飲む。
あ、たしかに美味しい……って、いや、これはダメだろ!?
「おー、ゆっきーあーんとはやるなー!」
「ゼロやん照れてるじゃ~~ん」
「お前の飲み物それじゃねーだろー」
「え、何なに~? せんかんのせいで見えなかったんですけど~」
「ひ、冷やかすなよっ!?」
俺とゆきむらのやりとりを眺めていたであろう中列とゆめの声が飛んでくる。
ゆきむらは「むむ?」という感じになりつつも、再びストローを咥えて飲み直していたが……いい年して間接キスではしゃぐとか、ほんとお前ら何歳だよ!?
「早く行きなさいよ」
「す、すみません……」
ちょっとまだドキドキしたままだった俺に、大和の影からだいの冷たい声がやってくる。
その声に我に返った俺は、じーっと見てくるゆきむらの視線に耐えつつ、ようやく宇都宮への道後半戦へ出発するのだった。
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以下
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昨日も多数のコメントありがとうございました!
職業柄少し忙しい時期に入ってきましたので、お言葉に甘えてマイペースに更新を続けたいと思います!
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本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。現在は〈Airi〉と〈Shizuru〉のシリーズが完結しています。
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