第140話 「り」と「れ」の違いは段違い

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以下作者の声による前書きです。

―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―  普段こういうことはあまり書かないのですが、SIde Storiesもお読みになってくださってる方は、Side Story〈Shizuru〉のepisodeXIVをお読みになってから本話に進むことをお勧めします。

 もちろん読まなくても問題はありません!

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「よし、じゃあ席決めじゃんけんしようぜ!」

「へ?」


 荷物を積み終えたところでまたしてもぴょんが全体の音頭を取り出した。


 席決めって、そんなのどうでもよくないか?


「二列目の真ん中はゼロやんね~」

「え、なんで?」

「事故ったらそこが一番危険だものね」

「え!? だから俺っておかしくない?」

「ここは男を見せないと~~」

「死ぬときはみんな一緒ですよ」

「いや、縁起悪いこというな!」

「文句言わないで座りなさいよ」


 ええっ!?

 まさかのだいがそれ言う!?


「じゃあ、勝った順に助手席、2番目が運転席の後ろ、3番目が助手席の後ろ、残りが一番後ろね~」

「おっけー!」

「助手席はナビ役もあるから寝ちゃダメね~。じゃ~、じゃ~んけ~んぽ~んっ」


 ゆめの仕切りで、席決めじゃんけんが始まり、まず一人目が一瞬で決まった。


「くっそー、これが年の功か……!」

「いや、その言い方嬉しくないからね~~?」


 みんながパーを出す中、ジャックが一人チョキを出して一人勝ち。

 悔しそうなぴょんの演技に軽いツッコミをいれつつ、ジャックが助手席にさっさと乗ってった。


「じゃあ、ゼロやんの隣争奪戦で~すっ」

「負けられませんね」

「おお、ゆっきーやる気だな!」


 あ、もうノーコメントで。


「じゃ~んけ~んぽ~んっ!」


 朝から大人たちが真剣にじゃんけんするとか、今日も世界は平和だなぁ。


「っしゃ! 勝ったぜ!」

「くっ……無念」

「ゆっきーなんか、ノリノリね……」

「だいも負けてらんないね~」

「え、別に……」


 別にて! え、だいさん別にて!?

 

 そんな俺の心の声を無視するように、2番目に勝ったぴょんが運転席の後ろに座る。


 そして助手席の後ろ、俺の隣のもう一枠を手にしたのは――


「おお、若さの勝利~」

「勝てて嬉しいです」

「よかったわね」


 あ、なんだかんだだいちょっと悔しそう。嬉しい。


 先に後部座席にゆめとだいが乗り込み、俺も言われた通り真ん中の席に行こうとすると。


「あ、倫13な」

「え?」

「駐車場代よろしく!」

「あー……はいはい」


 車に乗り込もうとした大和の指示に従い、何故か俺が駐車場代を払いに行くことになる。

 まぁ、いんだけどさ、これくらい。


「ありがとうございます」

「あー、まぁ財布の小銭減って軽くなったと思えばね」


 俺が乗り込むのを待っていたゆきむらにそう答えつつ、駐車場代を払った俺が車に乗り込み、最後にゆきむらが乗って、準備完了。


 うん、左右が女性って、ちょっとなんか、緊張するな。


「ナビのセット完了~~」

「じゃ、行くぞー。シートベルトいいなー?」

「おっけ~」

「よろしくね」

「お願いします」

「ぶっ放していこうぜ!」

「いや、ぴょん、自分の職業忘れんな!」


 まるで先生のように大和が声をかけ、安定のボケをかますぴょんに俺がツッコみを入れる。

 あ、てか大和は元から先生か。忘れてたわ。


 緩やかに車が動き出す。

 目的地はリダたちが待つ宇都宮。まずは首都高へ乗るため、俺たちの移動が開始するのだった。




 大和の運転は安全運転で、正直安心だった。

 再びサングラスをかけて運転する姿は、やっぱりちょっとカッコいい。

 俺もPAに売ってたら買おうかなとか、ちょっと思った。


「そういやさ」

「どうした?」


 快調に首都高を進む大和が、前向いたまま声を出す。

 誰に対しての言葉か分かんなかったので、とりあえず俺が反応。


「ジャックは既婚者だったんだなー」

「は?」

「えっ!?」

「うっそ~!?」

「そうなの?」

「いつのまに……」

「あちゃ~~バレたか~~」


 突然の大和の言葉に俺たちが驚いたことに驚いたのか、一瞬大和が俺たちに視線を送ってきた。

 すぐにまた前を向き直したけど、いや、なんでそんなこと分かるの!?


「え、なんでせんかん分かったの!?」

「いや、だって左手の薬指に指輪してんのさっき見えたから。っつーかみんな知らなかったの?」

「マジか~。だからずっとポケットに手入れてたのか~」

「全然気づきませんでした」

「え、ジャック、いつ?」


 ぴょんの質問に答えた大和の言葉に、みんなが驚きを隠せないままジャックを見る。


「じゃじゃ~~んっ」


 助手席から少しだけ身を乗り出し、後方に座る俺たちに向け、笑顔のジャックが左手をぱーにして見せてきた。

 その薬指には、たしかにシルバーの指輪がはめられていた。


「え~、おめでと~!」

「おめでとうございます」

「おいおい、相手は誰だよ!?」

「くもんさん?」

「そだよ~~。先月の12日の日曜日に、プロポーズされまして、先月18日に入籍致しました~~。黙っててごめんね~~、びっくりさせようと思ってっ」

「マジかー」


 プロポーズ、入籍、そんな言葉とジャックが示す結婚指輪に、女性陣は興味津々な感じ。

 たぶん俺の後方でも、だいとゆめがジャックの指輪を眺めているのだろう。


 いやぁ、しかし結婚か……結婚かぁ……。

 

 この前の無様なプロポーズを思い出し、俺はちょっと苦い気持ちになった。

 そもそもプロポーズするなら指輪が必要だよな。うん。

 俺、だいの指輪のサイズも知らないんだけど……。


 ちなみに昔、亜衣菜と付き合ってた頃にペアリングをつけてたから、俺の指輪は15号なんだけど、亜衣菜がたしか9号だったから……手を繋いだ感じだいも……。

 って、この考えはクズすぎるな。もう何年も前の元カノとのこと思い出して考えるとか、やめやめ!

 

 切り替えだ!


「名字何になったんだ?」

「何だと思う~~?」

「いや、わかんねーだろ」


 俺の質問にまさかの切り返しを見せたジャックに、大和がツッコむ。

 そんな年齢聞いて、いくつだと思う? みたいなノリで言われてもノーヒントすぎるから!


「んー、くもん!」

「いや、そんな馬鹿な――」

「えっ、すご~~! ぴょん正解!」

「嘘だろ!?」

「うへ~、くもん、くもんって名字だったの~?」

「実名プレイヤーだったんですか」

「意外ね」

「そうなんだよね~~、池田しずる改め、久しいに門って書いて、久門くもんしずるになりました~~」


 ジャックの表情は、幸せそうだった。

 色々びっくりなことも多いけど、その顔を見れば全てが感動に変わる。

 

 そうか、あのジャックが……。


 ジャックの名を知ったのは、もうだいぶ前。かつてジャックが【Vinchitoreヴィンチトーレ】の最前線でプレイしている頃から知っていた。

 それまで俺の知る最高峰のサポーターは【Mocomococlubもこもこくらぶ】のたろさんだったけど、後に【Teachers】でサポーター役を務めたジャックを見て、その差はわかった。

 ジャックはほんと、何手か先の世界が見えてるような、そんな動きを見せるのだ。

 本人曰く『ログ見てればなんとなくわからないーーーー?』って言っていたけど、わかるかいそんなもん! って感じだよほんと。


 4年前から同じギルドに所属するジャックが、結婚かー。

 たしかに俺の一つ上ってことは、今年29歳だし、結婚しててもおかしくない年齢だもんな。

 LAの世界より、リアルの世界の方が確実に長いんだし、きっとその選択肢が正解なんだろうな。


「いやー、知ってたらお祝い用意したのに!」

「気持ちだけで十分だよ~~。みんなのびっくりした顔見れたし~~」

「もう一緒に住んでるの?」

「あ、同棲はね~~、けっこう長いんだ~~」

「子どもは~?」

「う~~ん、そこは神様次第って感じかな~~」

「あ、もうノーガードなのかー?」

「うわ~、さすがぴょんだな~」

「よくそんなこと聞けるわね……」

「ノーガード……?」

「ぴょんまたしてもせいか~~いっ」

「おおっ!」


 基本的に会話をするのが女性陣になる。

 まぁ、子どもの話とか、子作りの話とか、俺らはな、なかなか入りづらいよな、大和よ。


 でも同棲してて……ったら、そう遠くない未来には授かりそうな気もするけど、違うのかね?


「こういう関係なるまでくもんはほんと、その辺ちゃんとしてくれてたから、最近からなんだだけど、好きな人との子どもが出来たらって考えると、幸せだよね~~」

「わ~、ジャック幸せそうでいいな~」

「コウノトリさんが運んできてくれるといいですね」

「そうかー、話したことないけど、くもんはちゃんとしてるやつかー。いいな、そういう奴」

「うん~~、今度みんなにも紹介するね。何だったらうちきてもいいし~~」

「行きたいわね」

「うん、いこ~」

「ジャックんちオフか!」

「もう何でもオフ会にできますね」


 盛り上がる女性陣の会話の中心に座ってるだけの俺。

 完全な空気。空気化スキルが数値化できるなら、けっこう高めだね、俺は。


 大和の運転はサクサク進み、まもなく東北道が近づくことが青看板に書いてあった。

 東北道入ったら、羽生まではすぐかなー。

 運転久々だなー、とかそんなことを考える俺。

 

 しかし、油断はよくないんだよなー、いつもいつも。


「ゼロやんもそこらへんちゃんとしてるのかー?」

「なっ!? なんてこと聞くんだお前!?」

「あ、だいに聞けばよかったかー?」


 久々に振られた話題が、まさかのド下ネタ。

 けたけた笑うぴょんだけど、いや、それ後ろに彼女いる状況の男に聞くやつじゃねーだろ!?


「聞かれてるよだい~」

「え、ゼロやんもちゃんとしてるわよ」

「ちょっ、おまっ!?」

「え?」

「おお~~!」

「おーおー! いいねぇ、倫もやることやってるねー!」

初心うぶな高校生とは違うもんなー!」

「さらっと答えるとは、だいもやるな~」

「ちゃんと、とは……?」


 いまいちピンときていないゆきむらを除き、一気に車内が盛り上がる。

 今までジャックの結婚おめでとうのほんわか空気だったのに、何故こうなった!?

 

 というかマジで、なぜ答えたんですかだいさん……!?


 俺はもう恥ずかしくて、穴があったら入りたい。「り」だからな、「れ」じゃないからな! 「入」の読み方も間違えんなよ!?


 ため息をつきつつ、俺は額を抑えて下を向くしかできなかった。


「大丈夫ですか? 車酔いですか?」


 隣座るゆきむらが小さな声で心配してくるけど、大丈夫だよ。そういうことじゃないからね。


「まー、二人ももういい歳だしなっ!」

「むしろ何もないほうが不健全だよね~」

「順番は大事にするんだよ~~」


 天然を見せるゆきむらに対し、安定のいじりをしてくるぴょんとゆめとジャック。

 後ろにいるから顔は見えないけど、だいの反応がなくなったからきっとあいつもようやく恥ずかしくなっているのだろう。


「今夜色々聞かせてくれなっ!」


 いやほんと、仲間内で夜の営みの話とか、勘弁してくれって……!

 とりあえず、大和。お前は後で説教だ。


「大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫だから」


 変わらず聞いてくるゆきむらの声に適当に答えつつ、俺は一刻も早くこの席から動くべく、羽生PAに到着することを願うのだった。




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以下作者の声です。

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 ジャックの結婚ネタをSide Storyと合わせるための、138話と139話でした。

 本当はSideの展開をもう少し早くして、第6章スタートと同時に合わせる予定だったんですけどね!

 でもおかげで楽し気な彼らの日常風景も書くことができました。

 一度に7人もいると話の展開がなかなか難しいのですが、難しいなりに楽しくもあり、もう少し宇都宮到着までお付き合いいただければと思います!


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本作スピンオフシリーズである『オフ会から始まるワンダフルデイズ~Side Stories~』。現在は〈Airi〉と〈Shizuru〉のシリーズが完結しています。

 え、誰?と思った方はぜひご覧ください。笑


 しばしSideは休憩を挟みつつ、3本目もスタート予定です。

 本作についても、話数が増えると新規で読み始めようと思う方がその量にちょっと敬遠してしまうかな、と作者がプレイ中のMMO内のフレンド兼相談相手に言われたんですけど、やっぱりそうなのでしょうかね……。

 色々悩ましい。


 そしてヘタレない主人公の新作も書きたいなーとかなんかも思いつつ、日々の執筆頑張っていきます。


 今後ともよろしくお願いいたします!

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