第139話 俺の愉快な仲間たち

 だいと手を繋いで、都庁方面へ向かう。

 日曜の朝でもやはり新宿は新宿で人が多く、多くの人々がこれから出かけるんだぜ! みたいな空気を発していた。

 お仕事の方は、おつかれさまです。


「あ、ぴょんとジャックはもう着いてるみたい」

「はえーなあいつら」


 駅構内を移動中、スマホの通知に気づいただいが教えてくれた。

 俺も自分のスマホをチェック。

 たしかにグループに通知がきているようだ。


山村愛理>Teachers『一番ノリって思ったら、もうジャックいたわー』8:12

池田しずる>Teachers『最年長の勝ちーーーーw』8:13

平沢夢華>Teachers『はやーwわたしはギリギリでーす』8:13


 大丈夫、俺たちもゆめと同じだぞ。

 そんな風に思ってると、グループ以外の通知も発見。

 送り主は、ゆきむらだった。


神宮寺優姫>北条倫『大変心苦しいのですが、ここはどこでしょうか?』8:01


 受信時刻は今から15分くらい前。そのメッセージとともに写真が添付されていた。


 いや、これ東急FANSやん。南口やないか!

 なんで? 上見て歩けば、都庁方面って看板出てるよね!?

 どんな動きをしたらそこに辿り着くんだ!?


 俺たちはまもなく西口から地上に出るというところだったのだが、しょうがない。


「あ、あのさ」

「うん?」

「ゆきむらに、電話していい?」

「え?」

「道、迷ったみたい」

「それは早く助けないと」


 ささっと俺の手を引いただいが、壁際に寄っていく。

 真剣な表情で「早く助けないと」って言ってた姿は、まるで絶体絶命の窮地に立たされた仲間を救おうとするような感じだった。

 あれか? この前の妹発言の影響なのか……?

 だいとゆきむらの関係、わからん……!


Prrrr.Prrrr.


「もしもし?」

『あ』


 いきなり俺から電話がかかってきたからか、ゆきむらの声はちょっと慌ててた。

 だが今は救出が最優先。ここは冷静に、相手の場所を確認せねば。

 隣にいるだいが、マジで心配そうな顔をしているせいで、何か俺にも緊張感が沸いてくるから不思議である。


「今どこ?」

『あ、ええと、ARTAってビルが見えます』

「おい、それ東口じゃねーか!」


 なんでそっち行ってんだよ!

 地図なしのダンジョンプレイかよ!


『むむ?』

「そのビルの前で待機」

『は、はい』

「今から行くから待ってろよ」

『わ、わかりました』

「うん、じゃあな」

『やっぱり、困った時はゼロさんですね』

「え?」

『待ってますね』


 たぶん、ゆきむらとしては特別な意図があって言った発言じゃなかったんだろうけど。

 ちょっとだけ、最後の言葉は可愛かった。


 でもそんな俺の余韻を全て消し飛ばす、だいの心配そうな顔。


「ARTA前だって」

「え?」

「いや、俺だってなんで!? って思うわ」

「ゆっきー……すごいわね」

「なぁ? とりあえず、救出に行きますか」

「うん、早く行ってあげましょ」


 まもなく地上に出るところだったが、俺とだいは進行方向を変更。

 まずはゆきむらを拾うべく、新宿というダンジョンを進み、東口方面へと移動を開始した。




「あ、いたいた」

 

 移動開始から5分くらいで見えてきたARTA前の日陰になるあたりで、ゆきむらはひっそりと立っていた。

 今日は鮮やかな白の無地Tシャツに、ベージュに近い白のワイドパンツに、白のサンダル。

 全ての白さが絶妙なコントラストになった格好。似合う。

 背中にはだいと同様カジュアルなリュックで、手にはハンドバック。


 しかし女ってのは、ハンドバックとか必ず持つよなー。

 俺なんか財布とケータイをポケットにいれて終わりなんだけど。あ、ハンドタオルもポケットには入れてるけどね。


 ゆきむらが見えたあたりで俺は恥ずかしさに手を離そうとしたのだが、だいがぎゅっと握ってきたことで阻止された。

 恥ずかしさを抑えつつ、俺たちはそのままゆきむらの方へと近づいた。


 うーん、流石に仲間内の前で手繋ぎて、どうなんだ……?

 いや、争奪戦継続の宣戦布告をしたゆきむらだからなのか……?

 そんなことしなくても、俺はだいと離れる気はないんだけど……。


 ゆきむらも俺とだいが近づいてきたことに気づいたのか、俺たちを見つけた瞬間こちらへパタパタと走ってきてくれた。

 その様はすらっとしたゆきむらでも、小動物を思わせるような感じ。

 でも、俺とだいが手を繋いでるのも、気づいたよな……?


「すみません、朝からご迷惑をおかけしました」

「あー、どんまい」

「無事でよかったわ」

「いや、大げさかよ」

「念のために7時半には来ていたんですが……駄目でした」

「いや、朝早っ!」


 しかしこの炎天下の中でうろついたり、待ってたのか。

 朝だから幾分楽だったとしても、日陰でも、暑かったろうな。


「水分補給とか、平気か?」

「あ、言われてみれば……すみません、そこの自販機に行ってもいいですか?」

「いいわよ、買ってあげる」

「え?」


 そう言って俺の手を離しただいが、ぱっと移動してスポーツドリンクを買ってきた。

 そしてそれをゆきむらに差し出す。


「はい、どうぞ」

「あ、ありがとうございます……ああ、生き返りました」

「うん、よかった」

「いや、大げさか二人して」


 ゆきむらの影響で、もしかしてだいも天然化してる……?

 そんなことを思わせる二人を眺めつつ、俺が腕時計で時間を確認すると、既に8時25分。


「あ、やべーな。もうあと5分で半だわ」

「す、すみません、私のせいで」

「ううん、気にしないで。ほら、いきましょ」

「あ、はい」


 そう言ってだいは、ゆきむらの手を取り歩き出す。

 ワンテンポ遅れて、俺もそれに続く。


 なんというか、今日のだいは積極的だな。ゆきむらに対して。

 姉心の目覚め……?


 1歩後ろを歩きつつ、俺たちはみんなが待っているであろう都庁の方を目指すのだった。

 



 8時33分。


「3人揃って遅刻かー?」

「ごめんなさい。道に迷ってしまって、お二人に助けてもらいました」

「お~、さすがゆっきー。ブレないね~」

「新宿は迷路だもんね~~」


 既にゆめも到着していたようで、待ち合わせの場所には既に3人が待っていた。

 遠くから手を振ってくれてたぴょんとゆめに対し、ジャックはポケットに手を入れて笑いながらこちらを見ていた。

 しかしあれだな。ジャックと会うのは、なんか久しぶりだな。


 ちなみに今日のぴょんは水色のTシャツにショートパンツで、平たいサンダルに麦わら帽子という、夏の少年スタイル。めっちゃ似合ってる。

 ゆめは白い水玉模様の黒ワンピ。こちらもめちゃくちゃ似合ってて可愛い。

 で、ジャックが黒のパンツにベージュのブラウス。シンプルでいい感じ。


 改めて思うけど、女性4人に対し男一人のこの状況って、すごいな。


「ごめんね、でもまだせんかんは来てないのかな?」

「そーいや、まだ通知ねーな」

「事故ったりしてなきゃいいけどね~~」

「ま、あいつなら大丈夫だろ」


 ちなみに荷物は、ゆめが一番多かった。小さめのキャリーですよ、このお嬢さん。

 何入ってんだろ……。


 逆に一番軽装なのはぴょん。ショルダーバックのみ。着替えとか持ってきたのかこいつ?


「そういやゆっきー試験受かったんだよね~、おめでと~」

「あ、ありがとうございます」

「あたしの後輩になる日も近いな!」

「そうですね、ぴょんさんみたいになれるように頑張ります」

「いや~~、ゆっきーがぴょんは、想像つかないかな~~」

「ゆっきーはゆっきーらしく、先生になっていけばいいのよ」

「そう、ですか」

「え、あたしなんかディスられてない!?」

「だってぴょんだし~」

「おいっ!?」


 沈黙の俺。表情はにこやかに。

 というか、この状況に割って入れる男とか、存在しねーだろ……?

 

 女同士盛り上がってる時は、俺は静かにすることを学んだのだ。

 それが処世術というものよ。


「今日のゆっきーの恰好可愛いね~」

「あ、ありがとうございます。ゆめさんもすごい可愛いです」

「えへへ~、知ってる~」

「うわ、でたその反応」

「可愛いは正義なのだよ~?」

「あたしはそんな自信持てないな~~」

「美人度じゃだいには勝てないけどね~」

「え、そ、そんなことないわよ。みんな可愛い」

「うわっ、でた! 上から目線! おい彼氏なんとかしろよ!」

「えっ!?」


 あぁ今日もいい天気だなぁとか思いつつ、俺は大和が来ないか道路の方を見ていたらいきなり話題を振られ、焦る。


「誰が一番可愛いですか?」

「いっ!?」


 そして追撃を放つゆきむら。

 おいおい、まだ会って数分なのに、いきなり大ダメージ技かよ!


 でも、もう以前の俺とは違うのだよ!


 みんなの視線が集まってるのを理解しつつ、俺はこう言ってやるのさ!


「みんな可愛いけど、お、俺にとっては、だいが一番、かな……!」


 どうだ!?


 俺の言葉にだいは嬉しそうに……してなかった。

 というかなんか、苦笑い。


「ま、及第点って感じ?」

「そだね~。ちゃんとだいって言えて偉い偉い」

「朝から惚気のろけるね~~」


 でも、ぴょんとゆめとジャックは、ニヤニヤした感じで笑っていた。

 ゆきむらだけ、少し残念そうな、感じ?

 いつものぽーっとした顔だから正確にはわかんないけど!


「オフ中イチャイチャしすぎるのはやめてね~」

「二人だけの夜とか流石にダメだぞ」

「し、しないわよっ!」

「夜は皆さんに平等に訪れるのでは……?」

「いや~~、ゆっきーの安定感いいね~~」


 ぴょんの下ネタも、なんか久しぶりだなぁ。

 顔を赤くするだいに対して、俺はもう苦笑い。


 あー、大和よ。早く来てくれ。


 と、ようやく俺の願いが叶ったか。


「お待たせ!」


 俺たちの前に、紺色のSUVが登場する。


「お~、似合う~」

「かーっこいいー」

「はっじめまして~~、ジャックで~す」


 運転席の窓を開けて現れた大和は、紺のポロシャツにサングラスをかけた姿で俺たちに声をかけてきた。

 20分330円払うことにはなるが、荷物詰んだりとかもあるので、とりあえず大和が車を駐車場内に止める。俺らだいたい公務員だしね。路駐はさすがに遠慮しときましょう。


「思ったよりかかっちまったわー」


 現在時刻は8時42分。

 運転席から降りてきた大和が、俺たちの前にやってきた。


 相変わらずの黒い肌で、サングラスが肌に同化しかけてるぞとか思うけど、カーキのパンツと紺のポロシャツ姿の大和は、なんというか男の俺から見てもカッコよかった。

 ツーブロックにした短髪も男前感あるし、ほんと俺とは真逆のタイプである。


「あ、はじめましてー。せんかんでーす」


 待っていた6人の中に知らない顔を見つけたのだろう、サングラスを外した大和はジャックの前でゆるく自己紹介をする。


「いやー、聞いてたけどしかし小せえな!」

「せんかんはでっかいねー」


 身長が180くらいある大和と、150もないジャックの身長差はすさまじい。大人と子どもと形容するのが、最も適切だろう。


「車、ありがとね」

「おう! とりあえず羽生のPAでゼロやんと交代するまでは、俺が運転するぜ」

「ゼロやんちゃんと運転できるの~?」

「馬鹿にすんなっ!」

「運転する姿、楽しみです」

「えっ!?」


 冷やかしてきたゆめとは打って変わって、さらっとそんなことを言ってくるゆきむらに、俺が照れてしまったのはしょうがないよな?

 

「今日もゆっきーは絶好調か!」


 そんな俺の姿を見て大和が笑いやがる。

 こいつめ……!


「ま、とりあえずさっさと荷物詰んで出発しよーぜ!」

「そだね~~」

「リダたち待たせるわけにはいかないもんね~」

「楽しみですね」

「うん、楽しみね」


 人数が人数だけに話し出すと長そうな空気をぴょんが締め、俺たちはそれぞれの荷物を車に積んでいく。

 

 いよいよ、みんなで宇都宮に向けて出発。

 今回のオフは、どんなことが起きるんだろうなぁ!





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以下作者の声です。

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台詞を見抜くコツ

ぴょん:伸ばし棒が「ー」

ゆめ:伸ばし棒が「~」

ジャック:言葉を伸ばす時は「~~」

ゆきむら:敬語

だい:それ以外の女性台詞

 男キャラはそこまで意識して分けている部分がないので、流れから汲み取ってください!

 基本的には誰の発言か分かるように書いているつもりですが、迷った時の参考までに。


 本編とは別にお送りしている『オフ会から始まるワンダフルデイズ〜Side Stories〜』も更新されています。現在は2作目、episode〈Shizuru〉をお送りしています。episode〈Shuzuru〉完結まで残り1話です(2020/7/17現在)

 本編とは違った恋愛模様、お楽しみいただければ幸いです!

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