第6章 宇都宮オフ編

第138話 遠征前夜は浮かれがち

 夏休みも前半3週間が終わった8月8日の土曜日、22時半。


〈Jack〉『おっつかれさまでしたーーーーwゆめおめーーーーw』

〈Yume〉『いやー、ほんとずっと出ないのかと思ってたよーw』

〈Pyonkichi〉『おめおめw』

〈Daikon〉『よかったわね』

〈Yukimura〉『おめでとうございます』

〈Zero〉『おめー。でもこれで全員に行きわたったかー』

〈Senkan〉『出ないときってのは、ほんとでないからなぁ』

〈Gen〉『これで来週からは違うこともできるな!』

〈Soulking〉『ほんと、ゆめおめでとーw』

〈Earth〉『おめでとっ☆』

〈Yume〉『ありがとねー』


 夏休みに入ってからは、みんなのログイン率が相対的に上昇してたので、活動日以外もある程度いけそうなメンバーが揃ったら、俺たちはキングサウルス討伐を続けていた。

 その甲斐あってか、夏休み2周目にはゆきむらの刀とぴょんの樫の杖がドロップ。

 今週頭には嫁キングの錫杖がドロップし、現状最強クラスの武器未所持はゆめだけとなっていたのだが、その斧もついに今日、ドロップ。


 キングサウルス初撃破から2か月、ようやく全員が欲しい武器を手に入れたことになる。

 ちなみに俺もおこぼれで出た盾&片手剣をもらったりして、俺のパラディンとだいのガンナー上げも地味に進み、元廃人チックだった俺たちはスイッチが入ったせいか、既にそれぞれのスキルを250越えまで上げていた。

 昔より経験値がもらえる敵が増えてるのに加え、装備もよくなってるから、スキル上げスピードは各段に早くなってるみたいである。

 ま、俺の主催力もあるけどね!

 

 え、メイン武器キャップまで上げろって?

 あー……そうなぁ。そろそろ上げ切っとかないとな。

 秋の拡張までには、だな。


〈Gen〉『来週以降のやること、何か提案あるか?』

〈Pyonkichi〉『おしゃべり!』

〈Yukimura〉『それはいつもしているのでは・・・』

〈Yume〉『恋バナ!』

〈Daikon〉『高校生じゃないんだから・・・』

〈Jack〉『あ、秋のPvPに向けて中の人のスキルアップのためなら、いい案あるよーーーーw』

〈Zero〉『え、どんなん?』

〈Jack〉『明日話すーーーーwww』

〈Senkan〉『たしかに明日はみんな会うんだもんなw』

〈Daikon〉『そうね、明日の今頃にはみんなリアルで知り合ってるのよね、ほんと不思議』

〈Zero〉『いや、だい!一人可哀想だから!』

〈Daikon〉『あ』

〈Pyonkichi〉『確信犯かこれwww』

〈Yume〉『さっすがだいーw』

〈Yukimura〉『あーすさんは遠いですし、しょうがないのでは』

〈Soulking〉『ゆっきーも辛辣だなーw』

〈Earth〉『しょぼーん(´・ω・`)』


 モニター越しに思わず笑ってしまう俺だが、今日はそれに何かリアクションするやつはいない。

 明日明後日が旅行ということで、だいは今日は泊まりにきていないのだ。

 

 そう、明日明後日は旅行。

 ついに待望の宇都宮オフ前日なのである。


 ここまで毎週だいが泊まりにきてたから、ちょっと寂しいわけじゃないけど、今はそれよりも明日が楽しみな。

 一泊二日だから、大して荷物も多くないし、既に準備は完了だぞ。


 ちなみに明日の移動についての話は既に決まっている。

 朝8時にレンタカーを借りた大和が、8時半に都庁近くのコインパーキングに集合した俺たちを拾っていく予定だ。

 既に免許証のコピーは学校で大和に渡してあるから、運転は俺と大和でするって感じだな。


 運転とか正直実家帰った時しかしないので、7人乗りの車とか少し不安だけど、まぁ、なんとかなるだろう。


 ついに全員(※あーすを除く)集合だし、ゆきむらとだいが一緒になるって不安はあるけど、やっぱ楽しみだな。


 あ、ちなみにゆきむらは見事に教員採用試験の一次に合格したんだぞ。

 この前報告を受けて、宇都宮オフが終わったら8月22日の二次試験に向けた練習をする約束となっている。

 これはだいの了承済みだし、鬼教官として指導するつもりである。


〈Pyonkichi〉『明日寝坊すんなよ!』

〈Yume〉『朝、各自連絡することー』

〈Daikon〉『わかった』

〈Zero〉『りょーかい』

〈Jack〉『おっけーーーーw』

〈Yukimura〉『わかりました』

〈Senkan〉『寝坊したらごめんw』

〈Earth〉『いいなーーーー;』


 気づけば4人で始まった【Teachers】のグループTalkも、既に7人。

 10人のギルドで、7人も顔見知りになったって、ほんとすごいことだよな。

 しかも大半が現役教師。

 ほんと、不思議な縁で結ばれた仲間たちだよ。


〈Gen〉『明日は宇都宮駅のみどりの窓口前に、嫁と子どもと一緒にいるな!』

〈Gen〉『アロハシャツ着ていくから、たぶん目立つ予定w』

〈Pyonkichi〉『おお!そりゃわかりやすい!』

〈Yume〉『ありがとねー』

〈Yukimura〉『リダのお子さんに会えるのも、楽しみです』

〈Daikon〉『そうね、まだ小さい赤ちゃんなのよね』

〈Gen〉『おうwまだ半年くらいだからなー』

〈Jack〉『抱っこさせてねーーーーw』


 そうか、リダと嫁キングの子どももいるのか。

 

 子どもかぁ……。

 楽しみだな。


 ちょっと自分の子どもを想像したりなんかしっちゃったり。

 隣には立つのは、もちろん、な。

 

 そんな妄想をしつつ、明日はどんな日になるのか、期待でうきうきしながら、いつもより少し早めにログアウトし明日に備えるのだった。


 


 翌朝。

 

里見菜月>北条倫『おはよ。起きてる?』7:01

里見菜月>北条倫『7:58発の電車。10号車予定』7:02


 朝飯の準備をしていると、だいから通知がきた。

 相変わらず可愛げのない文面。普段のあいつを彷彿させるようである。


北条倫>里見菜月『起きてるよ。電車りょーかい』7:04


 ま、もう準備は終わってるし。いつでも出発できるぜ。


 いつもならだいと共に迎えるはずの日曜の朝は、やはり少し寂しかった。

 だからこそ、朝の連絡が嬉しいっていうか……あ、なんかグループの方もけっこう通知きてるな。

 そうか、たしかゆめが起きたら連絡とか言ってたっけ。

 あっぶねー、忘れてたわ。


田村大和>Teachers『おっす!我起床せり!』5:43

山村愛理>Teachers『うっわ、無駄に朝早い奴発見。化粧でもすんのかー?w』6:32

田村大和>Teachers『え、求められてる!?』6:37

神宮寺優姫>Teachers『おはようございます』6:42

平沢夢華>Teachers『おはよ~』6:47

平沢夢華>Teachers『ゆっきーの見事なスルーお見事w』6:47

神宮寺優姫>Teachers『むむ?』6:48

里見菜月>Teachers『おはよう。今日も楽しもうね』6:51

池田しずる>Teachers『おっはよーーーーwあとは荷物だけだーーーーw』6:55

山村愛理>Teachers『おい、ゼロやんだけ連絡ねーぞw』6:57

山村愛理>Teachers『だいの監督責任ですね』6:57

平沢夢華>Teachers『7時までに起きるかなー?w』6:58

神宮寺優姫>Teachers『あと1分ですね』6:59

山村愛理>Teachers『はいアウト―』7:00

平沢夢華>Teachers『これは罰ゲームですなー』7:00

里見菜月>Teachers『連絡してみます』7:00

里見菜月>Teachers『起きてた』7:04


 おおう。

 いや、起きてましたけど!?

 たしかに連絡忘れてたけど……。


 しかしまぁ、朝から文字だけでも愉快な連中だなほんと。


北条倫>Teachers『おーっす。起きてたからね?w』7:07


 ふう、これでよし、と。


神宮寺優姫>Teachers『連絡しようって、ゆめさん言ってましたよ?』7:08

池田しずる>Teachers『話聞いてないなーーーーw』7:09

山村愛理>Teachers『クラスにいるよな、こういうガキ』7:09

平沢夢華>Teachers『せめて生徒って言ってあげてw』7:10

平沢夢華>Teachers『罰としてゼロやんはサービスエリアで全員に飲み物おごりでーす』7:11


 しかしそうは問屋が卸さない。

 またしばし通知を無視してる間に、何故か罰ゲームが決まってしまった。


 まぁ、飲み物くらいいいか……。


 賑やかなくらいがちょうどいいし。

 もはや理不尽に慣れてきていることに自覚もせず、俺はしばし、朝食を食ったりしながら、出発までの時間を過ごすのだった。




「おはよ」

「あ、おはよう」


 定刻通りの電車に乗り込むと、カジュアルなリュックを背負い、小さめのハンドバックを手に持っただいがいた。

 休日のため阿佐ヶ谷と高円寺には中央線の快速電車が止まらないため、必然的に各停の総武線になる。そのため電車はそこまで混んでいなかったけど、二人分の座れるところがなかったからか、だいはドア付近に立っていたようだ。


 英字の入った白のTシャツに、青のプリーツスカートに、今日は少しだけ厚みのあるサンダルで、俺の隣に立つだいの視線がいつもより近い。

 けっこうシンプル目な恰好だけど、何着ても可愛いなこいつ。


 ちなみに俺も基本はシンプル。白無地のTシャツの上にネイビーの開襟シャツと、シンプルなジーンズに白のスニーカー。最近の外出はいつもこんな感じである。

 そして荷物として小さめのボストンバック。

 1泊2日なんて、こんなもんだろ。


「荷物、持つか?」

「あ、大丈夫。ありがと」

「おう」

「うーん、ほんと今日は楽しみ」

「そうだなぁ」


 そう言って嬉しそうに俺の顔を見上げただいの動きに合わせて、ちらっと首元のネックレスが見えた。

 この前買った、ペアネックレス。ささやかな首元のアクセントで、可愛い。

 あ、もちろん俺も付けてるけど……これはみんなにいじられそうで、ちょっと恥ずかしい。


「そういえば、運転って大丈夫なの?」

「あー、まぁこの前の正月以来だけど、なんとかなるっしょ」

「あ、実家では運転するんだ」

「まぁ、させてもらうって感じかな。雪積もってたらしないけど」

「そっか、秋田は雪が降るんだもんね」

「うん。正月だとそこまででもないけど、2月とかはそれなりに」

「いつか行ってみたいな」

「え?」

「あっ、えっと、変な意味でなくよ?」


 いや、変な意味ってなんやねん!

 てっきり両親への挨拶的な意味で言ってきたのかと焦った俺は、誤魔化してきただいに脳内ツッコミ。


 でも、いつか。そういう関係に踏み切る日が来るなら、それは避けては通れない道だ。

 だいのご両親とか、どんな人なんだろ。


「リダの子どもに会えるの、楽しみね」


 俺が一人妄想してると、さっきの言葉をうやむやにするためか新たな話題を投げてきた。


「子ども、好きなのか?」

「え? うん。好き」

「ほー」

「お兄ちゃんもお姉ちゃんも、もう結婚して子どもいるからさ。もう赤ちゃんではないけど、前は抱っこしたりあやしたり、可愛かったな。今もお正月とか親族で会うと、甥っ子とか姪っ子の子たちと遊ぶのよ?」

「ほうほう」


 だいが赤ちゃんを抱っこしている光景を想像。

 笑ってあやすところまでは想像できました。可愛いです。


「……何?」

「え?」

「変な顔してるけど」

「あ、いや、なんでもないよっ」

「ふーん……子どもに悪影響出るようなことはしないでね?」

「しねーよ! 俺、倫理教師だぞ?」

「すっかりその設定忘れてたわ」

「設定じゃねーから!」

「ふふ、冗談」

「ほんとかよ……。あ、そういえば実家と言えば、だいの帰省いつだっけ?」

「来週の木金土日かな。13日から16日までよ。ゼロやんも、帰るんだよね?」

「おう。俺も同じ日程」

「ご家族によろしくね」

「え? どういう意味で?」

「あ、え、変な意味ではなくよ!?」

「はいはい……ま、でもうちの両親も俺に彼女できたって言ったら、少しは安心してくれっかなー」

「うちは、それ以上かも……」

「ちゃんと話すんだ?」

「言うわよ! だから、ゼロやんもちゃんと言ってね?」

「おう。任せろ」


 今日も朝から、相変らずの俺たちで。

 オフ会後の予定を確認している間にも、電車は着実に進んでいく。

 だいも家族に報告か。連れて来いとか、なんねーよな……?


 早くもオフ会後の予定を考えたりしている間に電車は新宿へ到着。

 

 っと、とりあえず今日は今日だ。

 さ、みんなの待ってるところへ行こうか。


 俺は何も言わずだいの手を取り、総武線の車両を降りるのだった。




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以下作者の声です。

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 第6章スタートです!

 各章にだいたいこんな話だよという流れを示す言葉をいれてみました。

 思い出す時のご参考までに……。


お知らせ(再掲)

 本編とは別にお送りしている『オフ会から始まるワンダフルデイズ〜Side Stories〜』も更新されています。現在は2作目、episode〈Shizuru〉をお送りしています。episode〈Shuzuru〉完結まで残り2話です(2020/7/16現在)

 本編とは違った恋愛模様、お楽しみいただければ幸いです!

 

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