第135話 二人でおでかけ

「ん……」

「おはよ」

「ん、おあよう……」


 隣でうっすら目を開けただいに気づき、俺がおはようを言うと、だいも返してくれる。


 昨夜、俺がだいを抱きしめた後、だいは思い切り泣いていた。

 その涙の意味は、色んな感情があったのだと思うけど、一番大きいのは安心だったからだと思いたい。


 そしてそのまま泣き疲れて眠ってしまっただいをベッドに運び、昨日に引き続き俺はだいと一緒の朝を迎えたのだ。

 俺は後悔とか反省とか、色々であんまり眠れなかったけど。


 でも俺の隣でもぞもぞとくっついてきながら、寝ぼけまなこで挨拶をしてくるだいは、やはり可愛い。

 この姿を見れることに、幸せを感じる。


「昨日そのまま寝ちゃったから、とりあえずシャワー浴びてきたらいいんじゃないか?」


 俺の言葉はそのままの意味で、着替えも化粧も落とさずに眠ってしまっただいへ、そんな声をかける。


「もうちょっと……」


 でも、再びもぞもぞと俺にくっついてくるだい。

 こんな姿はきっと俺しか知らない。

 この姿をずっと守りたい、そんな風に思わせてくれる姿だった。


 現在時刻は朝7時半。

 こうしてるのもいいけど、せっかく起きたなら起きたなりのことをしたい。


「今日さ、たまには出かけないか?」

「……にゅ?」


 眠れない中、色々考える中で浮かんだ考えを俺はだいに伝える。

 付き合ってから3週間くらいになるけど、俺とだいは一緒にご飯に行くことはあっても、何だかんだリアルでデートをしていない。

 日曜は色々混んでるからと言い訳して、出不精なとこがある俺たちなのもあるけど、今日はせっかくの平日休みなのだ。活かさない手はない。


 しかし、なんだ「にゅ」って、可愛いかよおい。


「デートだよ、デート」

「……えっ!?」

「うお!?」

「ったっ!」


 俺のデート発言に、一気に覚醒しただいが起き上がり、背後にある壁に思い切り頭をぶつけうずくまる。


「だ、大丈夫か?」


 俺も身体を起こし、だいがぶつけた後頭部を撫でてあげる。

 痛そうにしばしうずくまったまま、30秒くらいそのまま時間が過ぎた。


「デート……」

「え?」

「行く!」

「お、おう」


 顔を上げただいの顔は、目を輝かせて嬉しそうだった。

 普段の雰囲気など微塵も感じさせない、俺の前だけでしか見せない、素直なだい。

 ほんともう、普段とは別人である。


「どこ行くっ?」

「水族館とかどうかなぁって思ったけど、だいはどこか行きたいところあるか?」

「え、んーとね……遊園地!」

「え、ねずみのとこ?」

「うんっ!」


 わーお。

 その答えは予想外だった。

 俺として墨田区の方にあるスカイタワーに行って、水族館に行ったりプラネタリウムに行ったり買い物したり、普段行かないようなとこでご飯食べたりを考えてたんだけど。

 遊園地って、普通事前に予定立てたりしてからいくとこじゃないのか?

 いや、でもだいが行きたいところなら、なんでもいいんだけどさ。


「じゃあ、いこっか」

「うん! そうと決まったら、一度帰る!」

「あ、おう」


 完全に目を覚ましただいはパタパタとベッドから降り、荷物をまとめだす。


「ほら、帰るよっ」

「あ、うん」


 帰るよって、俺はここが家なんだけど。

 ま、いっか。

 昨日あれだけ悲しませてしまったのに、今こうして元気な顔を見せてくれてるのは、ありがたい。


 起きてから5分も経たずに俺はだいに手を引かれるまま、だいを家まで送るのだった。




 だいを家に送って、再び戻って来て我が家。

 現在時刻は8時2分。

 だいからは準備が出来たら連絡するって言われたから、とりあえず俺もシャワー浴びて、準備しようかな。


 しかしこんな突発的に遊園地に行くことになるとは、ちょっと思わなかった。

 そこに行くのは、2年前、前の学校の遠足での生徒引率以来か。


 プライベートで行くなんて、学生の頃以来だな。


「耳とか、つけるのかな……」


 この年になってはしゃぎすぎるのもちょっと恥ずかしいんだけど、でも、だいが楽しんでくれるなら、それでいい。

 昨日の汚名返上ってわけでもないが、今日はだいのための日にするのだ。

 俺はそう決めていた。


 いくつかきている通知を無視しつつ、俺はスマホである操作をしてから、シャワーを浴びて、初めての遊園地デートの準備を始めるのだった。




里見菜月>北条倫『準備できた』9:21


 シャワーも浴びて、着替えもして、身だしなみを整え終えてぼーっとテレビを見ていた俺のスマホに通知が届く。

 相変わらずTalkだと冷たい感じの文面だけど、これはもうすっかり慣れた。


北条倫>里見菜月『了解。駅向かうから、乗る電車連絡よろ』9:22

里見菜月>北条倫『はい』9:22


 そういやまだ朝飯食ってないけど、ま、いいか。適当に東京駅で乗り換える時とかになんか買うかな。

 乗換案内で目的地までを調べれば10時半くらいには着けそうだし。我慢できなくもない。


 とりあえず、遅れるわけにもいかないから、出発しよっと。




里見菜月>北条倫『9:38に高円寺着。3号車の一番前のドアのそば』


 駅についてスマホを確認すると、だいから業務連絡のような通知が届いていた。

 その指示に従い、ホームで電車を待つ。


 そして数分後。


「よお」

「うん、久しぶり」

「さっきまでいただろうが……って」

「うん?」


 中央線の座席に座っているだいの隣に座りつつ、俺は少し顔を赤くしてしまう。


 今日のだいのコーディネートはノースリーブの白のサマーワンピース。ウエストのあたりのリボン結びのおかげで、だいの細いウエストもばっちりアピール。裾が広がった感じはすごく可愛らしく、ほんと夏のデートって感じ。

 目的地が遊園地だからスニーカーなんだけど、それもだいが遊園地を楽しみにしている証拠だろう。


 しかもですね、仕事中か料理中以外はいつも下ろしている髪を今日は後ろで結んでいているのも、良い。

 圧倒的100点満点の可愛さだ。


「あ、いや、可愛いなって、思っただけ」

「え、あ、あり、がと……」


 昨日の反省もあり、俺はちゃんと言葉にすることを大事にした。

 そのおかげで照れただいの顔を見ることができたので、やっぱり可愛いと思ったら可愛いは言うべきだなと確認。


 そもそも俺ら恋人同士なんだし、褒めるのとか、普通だよな……!

 うん、デートしようって言った俺、GJぐっじょぶ

 

 心の中でサムズアップ。


「でも、遊園地って言うなんてちょっと意外だったよ」

「え、べ、べつにいいでしょ……ゼロやんと行きたかったんだもん」

「うん、俺も大会もひと段落したら、だいと出かけたかったからさ。……なんか、こういうの新鮮だな」

「うん、そうだね。しかも平日におでかけなんて、いいのかしら」

「7月入ってずっと頑張ってきたんだから、今日くらいいいだろ。来年の夏は忙しいんだからさ」

「そっか。そうね、来年は3年生の担任だもんね」

「そうそう。マジで目回る忙しさだぞ」

「うん、頑張らなきゃ」

「でも今日は、楽しもうぜ」

「うん。あ、そういえば、ぴょんたち平気だったのかな?」

「あー、なんか通知きてたな」


 完全に放置していた通知を確認すべく、俺はスマホを取り出す。合わせてだいも自分のを確認していた。


山村愛理>Teachers『昨日はバイバイも言えなくてごめん!楽しかったよ!』6:21

山村愛理>Teachers『そして私は何故ここにいるのか、隣でゆめが寝てて、床にせんかんがいるんだけど、ここはもしかして、せんかんち??』6:22

神宮寺優姫>Teachers『昨日はありがとうございました。またお会いできる日を楽しみにしています』7:02

神宮地優姫>Teachers『ぴょんさんのこと、せんかんさんがおんぶしてましたよ』7:03

神宮寺優姫>北条倫『ゲーム内含めて、今後ともよろしくお願いしますね』7:05

田村大和>Teachers『昨日はおつかれっした!俺の貞操は守られましたのでご安心ください。取り急ぎご報告』7:21

平沢夢華>Teachers『みんな元気でーす』7:32

平沢夢華>Teachers『せんかんが午前中年休出す優しさみせてくれましたー』7:33

平沢夢華>Teachers『ぴょんは今日は休暇出すそうでーす』7:33

平沢夢華>北条倫『だい平気だった?』7:34


 いやぁ、返すの面倒なるくらい多いわ。

 隣のだいを見ると、真面目な顔してフリックしてるから、俺も返すけどさ。


里見菜月>Teachers『昨日はお疲れさまでした。ゼロやんがご迷惑おかけしたことをお詫び申し上げます』9:41

里見菜月>Teachers『宇都宮オフも楽しみ』9:41

里見菜月>Teachers『せんかんもお疲れ様。ぴょんとゆめはゆっくり休んでね。ゆっきーは学校頑張ってね』9:42


「返信早いなー」

「うん」


 いや、うんって。

 でもあれか、他にもなんか通知来てたのかな。

 

 グループに返信したあとも、だいは何やらスマホに入力を続けていた。


北条倫>Teachers『昨日は色々ご迷惑おかけしましてごめんなさい。試合応援ほんとにありがとう!』9:44

北条倫>Teachers『またLAで』9:44

北条倫>神宮寺優姫『ほどほどで笑 学校頑張れよ』9:45

北条倫>平沢夢華『おかげさまで。色々ありがとな。とりあえず今日はデートしてくる!』9:46

北条倫>田村大和『仕事頑張れよw』9:46


とりあえずこれでよし、と。


「返信終わった?」

「あ、うん」


 気づけばだいは既に入力を終えたようで。

 ちらっと見えただいの画面には、これから向かう先のアトラクション一覧。

 

 楽しみにしてくれてるみたいで何より。


「ジェットコースターとか平気なのか?」

「むしろそれだけでも平気よ」

「え、マジ?」

「少なくとも高校生の時は平気だったし」

「ほほう」

「それよりほら、何乗るか予定立てないと」


 そう言って自分の画面を俺に見せるように近づいてくるだい。

 髪の毛のいい匂いが分かるくらい、近い。


「なんだっけ、あれ。俺海賊のやついきたい」

「あれね。じゃあ、時計回りで周りましょ」

「あ、でも飯はどうする? 朝飯食った?」

「食べてないけど、着いてから朝昼兼用で何か食べよっか」

「そーだな」


 周囲に人がいるから、甘えた声ではないんだけど、それでもだいが今を楽しみにしているのが良く分かる。

 こんな姿を、ずっと見ていたい。


 うん、やっぱり俺はだいが好きだな。


 きっとみんなで行ってもそれはそれで楽しいんだろうけど、今日は二人がいい。


 心の中で幸せを感じつつ、俺とだいは中央線に揺られ、乗換駅である東京駅へと進んでいった。





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以下作者の声です。

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 昨日はコメント多々ありがとうございました!

 このペースで続けていきます。頑張ります。


 ちなみに、なるべく公営なものはそのままに、私営なものは名前変えたりしているつもりなんですが、これから二人が向かうところはアトラクションだらけで名前考えるのもややこしいので、全て想像できる程度にぼかして書いていきます。

 あー、あれだな、って思いながら読んでくださると助かります。笑

 久しぶりに夢の国行きたいなぁ……(現実逃避)


お知らせ(再掲)

 本編とは別にお送りしている『オフ会から始まるワンダフルデイズ〜Side Stories〜』も更新されています。現在は2作目、episode〈Shizuru〉をお送りしています。

 【Teachers】以外のキャラクターたちが色々と活躍しています。気になる方はそちらも是非お読みいただけると嬉しいです!

 

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