第110話 試合後ミーティング?
「おっ、そらいい顔になったじゃーん!」
「ほんと、やっといつもの可愛さ戻ったねー」
「えへへ……ご心配おかけしましたっ」
「里見先生すげーな! そらにどんな魔法使ったの!?」
みんなのところに戻った俺たち、というか市原に赤城と黒澤が声をかけてくる。
やはりこいつらも市原のことが不安だったのだろう。
赤城の言葉にだいはちょっと戸惑ってるけど、こいつにもうちの部員には慣れて欲しいから、とりあえず無視っと。
「ふ、普通に話しただけよ」
天真爛漫な笑顔で迫る赤城にだいは少し照れていた。
しかし赤城は元気だなー。2試合フルで試合やった直後だってのに。
ちなみに赤城は2試合で8打数6安打7打点4盗塁の大暴れだった。
ほんと、野生児だな!
「里見先生が倫ちゃんの彼女だそうです!」
「え」「ちょ、ちょっと!?」
「マジ!?」
「うっそ……」
市原さあああああああん!!!!!???
言葉を失う俺とだい。
だがしてやったりのようなドヤ顔の市原の言葉に、生徒たち全員が驚きの声を上げた後、キャーキャーと試合後とは思えぬテンションではしゃぎだす。
あーもう、なんてことを……!
うちの部員たちは言うにも及ばず、月見ヶ丘の真面目そうな子たちすらキャーキャー言ってるんだから、ほんとJKってのはこういう話大好きだな……!
全員のキラキラした視線が俺とだいに集まる。
流石にこれを流すことはできず、俺は恥ずかしさに暑さが5割増し気分。
だいは……あ、石化してますね。
市原を元気にしてくれたのは感謝してるけど、それ自爆でもあるからな、お前。
「あーもう、俺らの話はいいから! ミーティングやんぞ!」
「試合中、ちょくちょく敬語とため口混ざってたのは、そういうことだったんですね」
「え、そうなの彩香!?」
「はい。1試合目の時、ちょっと思ってました」
俺の指示を遮った南川さんの言葉に、あの真面目そうな真田さんが驚きの声を出す。
2試合目はベンチに市原がいたからかなり気を遣ってたけど、1試合目は、たしかにちょっと油断もあったかもしれないな……。
「そら先輩、平気なんですか?」
「うん、大丈夫だよなつみちゃん。むしろモヤモヤが取れてスッキリって感じ!」
「なら、いいんですけど……」
不思議そうな顔で市原に声をかける柴田。
まぁそりゃそうだよな。
俺が言うのもなんだけど、市原は失恋したわけだし、普通は落ち込むもんだよな。
実際は失恋どころかなんか変な方向にスイッチが入ったような気はするけど……さっきの様子見てなかったら、俺だって「平気か?」って思うよ、うん。
「はいはい、いいから! とりあえずまずはミーティングやんぞ!」
「へーい」
盛り上がる見せるJKたちを何とか抑え、無理やりミーティングの空気を作る。
でもだいさん、そろそろ復活してくれませんかねぇ?
「戦術とか技術的な話はこのくらいだな。里見先生からは何かありますか?」
「そうですね――」
「うわっ、余所余所しい敬語!」
「恋人同士なんだから名前呼びしなよー」
俺が一通り試合中で感じた足りない部分を話し終え、真面目な話をしている間に復活しただいに話題を振った時、うちの3年共から野次が飛んできた。
っていうか、名前呼びって……そんなんしたことねーよ、1回も。
俺にとってだいはだいだし、だいにとって俺はゼロやん。7年前からずっとそうしてきたのを今さら変えられねーし!
「あのな、大人は公私混同しないの!」
「えー」
「お二人の時だけってことなんですか?」
「ゆ、優子まで茶化さないの……!」
赤城だけならまだしも、真田さんまで茶化してくるとは……!
あーあー、だいのやつ、照れてんじゃねーよ、ちゃんとしろー?
せっかく真面目なミーティングの空気にしたってのに……!
「はいっ!」
「ん?」
俺らのやりとりを見ていた市原が急に手を上げる。
どうしてかなー?
今、君らに発言求めてるじゃないんだけどなー?
「なんで倫ちゃんは名前で呼んでくれないんですか!」
「……は?」
「あっ、たしかにそれは思ってた!」
「そうだよねぇ、里見先生みたいに名前で呼んでくれるのいいなぁって思うなぁ」
「……あ?」
あ、いかん。
赤城はいざ知らず、黒澤まで名前呼びを求めてきたせいで、ついうっかり威嚇してしまった。
まぁ、全然効いてなさそうだけど!
しかし名前呼びって、今さらやだよ。
なんていうか、気恥ずかしいし。
「男の俺が名前呼びなんて、変だろ」
「えー、大和は3年のことみんな名前で呼ぶぜー?」
「うんうん」
「あいつと一緒にすんな!」
「やまもっちゃんも名前呼びだよー」
「え、マジ!?」
柴田の言葉に俺は思わず大きな声を出してしまった。
大和が3年の生徒たちを名前呼びをしてるのは知ってたが、山本先生まで名前呼びだと!? あんなに大人しそうなのに……!
ちなみに山本先生は1年の担任の30代の男の先生な。ちょっと、生徒を名前呼びしてるイメージはないような、ザ・紳士だ。
「呼んであげればいいじゃない」
「何を――」
「あっ、なんか彼女っぽい!」
「えっ、あっ!」
「何を言うんだ」と言いかけた俺の言葉を遮り、今度は佐々岡さんまで反応した。
部活中とか試合中は気真面目そうだったのに、やっぱ女子か……!
「はぁ……」
「倫ちゃんため息ついてる~」
「というか名前呼び恥ずかしがるとか、思春期の男子じゃーん」
そして俺への追撃を浴びせる木本と萩原。
誰が思春期の男子だこいつ! 遅刻したくせに!!
「あーもう! 分かったよ! 呼べばいんだろ呼べば!」
「おお!」
「折れた!」
多勢に無勢。元より女12人に俺一人だし、俺は戦略的撤退を決めた。
でもまぁ、名前で呼ぶだけだろ?
なに、そんなのやろうと思えばわけないし?
「ねっ、早く!」
円になっていた状態だったのに、気が付けば市原が目の前に迫っていた。
しかも、これでもかってくらい目を輝かせてる。
君、さっき、失恋したばっかだよね……?
「そ……」
……あれ?
あれ!? あれ!?
「そじゃないー!」
「何やってるのよ……」
目の前には頬を膨らます市原。耳に届くだいの冷たい声。
そしてニヤつくJKども。
うわ、これ、いざやろうと思うとはずい!
いきなり名前で呼ぶって、こんなに恥ずかしかったっけ!?
声が!?
って、だいよ! お前、吹っ切れたな!?
「そ、そら……」
「うんっ」
「あたしは!」「私はー」
自分の顔が赤くなってるのが分かる。
これはもう、思春期って言葉を甘んじて受けざるを得ないな……。
だが、1と0は違うのだよ!
我先にと手を上げてくるうちの奴らに対し俺は順番に睨むように視線を動かし――
「鈴奈! 明香里! 夏美! 理央! 珠梨亜!」
「おお!」
「違和感すっごいねぇ」
やってやったぜ!!
って、黒澤! なんだ違和感って!
でも、なんか、名前で呼ばれたこいつら、ちょっと嬉しそうというか……。
「これからもちゃんと呼んであげなさいよ?」
「あー、はいはい。わかりましたよ!」
もはや何も隠さないだいに俺はやさぐれた声で返す。
しかし、これはもうミーティングの空気じゃないな……。
名前呼びで浮かれた
お前ら今日部活で集まってるんだってわかってんのかよ……?
「来週も合同やるっしょ!? 楽しくなってきたなー!」
「ねっ、なんか今の感じなら優勝までいけそう!」
呆れる俺を無視して、赤城と真田さんが笑い合う。
ま、これが俺ららしいったら俺ららしいのかなー。
気づいたら俺もだいも、みんな笑っているのだった。
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以下
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話の中で出てくる
お知らせ(再掲)
本編とは別にお送りしている『オフ会から始まるワンダフルデイズ〜Side Stories〜』も更新されています。現在はepisode〈Airi〉をお送りしています。
気になる方はそちらも是非お読みいただけると嬉しいです!
そちらと合わせて、オフ会シリーズは現在は一日2話更新という形になってます!
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