第103話 尽きぬ悩み

 7月7日、火曜日夜。

 市原の不調に頭を悩まされていても、夜は変わらずやってくる。


〈Zero〉『うぃーっす』

〈Jack〉『やっほーーーーw』

〈Gen〉『おうw』

〈Earth〉『やっぴー☆』

〈Yukimura〉『こんばんは』


 俺がログインしたのは20時過ぎ。

 既にログインしてたのは4人だった。

 

〈Gen〉『中高は期末明けだろ? みんな大丈夫かね』

〈Zero〉『あー、俺はなんとか』

〈Earth〉『あーちゃんも平気だよっ☆』


 リダの言葉に答えるあたりは、やっぱあーすは本職教師なんだな。


〈Zero〉『聞いてみるか』

〈Earth〉『え、どうやってー?』

〈Zero〉『オフ会組はTalkグループあるんだよ』

〈Gen〉『おお、それは便利だな』

〈Earth〉『えー;あーちゃん仲間外れ;』

〈Jack〉『あたしは入ってるよーーーーw』

〈Zero〉『じゃああーすも今度来ればいいw』

〈Earth〉『遠いよー;』


 あーすの泣き言は放っといて俺はスマホでアプリを起動する。


北条倫>Teachers『今日はみんな来れそう?』


 送信、と。


神宮寺優姫>Teachers『もういます』


〈Jack〉『ゆっきーwww』

〈Zero〉『ゆきむらは知ってるよwww』

〈Yukimura〉『あ、そうですよね』

〈Earth〉『何々!いいな!楽しそう;』


 俺とジャックしか分からないことだろうが、ゆきむらの天然っぷりに俺はリアルで笑ってしまった。

 ほんとこいつはもう、狙ってんのか!?


山村愛理>Teachers『無理!』

平沢夢華>Teachers『わたしもきびしそ~。まだ残業中だよう』

山村愛理>Teachers『あたしも』

北条倫>Teachers『了解。頑張れよー』


〈Zero〉『ぴょんとゆめは無理っぽい』

〈Jack〉『そっかーーーー』

〈Yukimura〉『しょうがないですね』


 そしてさらに数分後。


里見菜月>Teachers『私も休みます』


 あ、だいも駄目か。

 まぁしゃあないよな。


北条倫>里見菜月『おつかれさん』


 だいには個別に連絡を入れといた。

 ほら、彼氏だからね!

 彼女を労うのは普通だよな!


里見菜月>北条倫『明日のご飯は行くから』

里見菜月>北条倫『絶対行くからね!』

北条倫>里見菜月『ん、無理はすんなよ』


 だいから返ってくるメッセージに、思わずにやけてしまった。

 こんなに会いたがってくれるなんて、嬉しい限り。


〈Yukimura〉『だいさんも×だそうです』

〈Gen〉『そうかー。じゃあ今日は別なことするか、解散だなー』

〈Jack〉『そだねーーーー』


 あ、だいと個別に連絡し合ってて、だいの出欠伝えるの忘れてた。

 ありがとうゆきむら!


〈Earth〉『スキル上げ??』

〈Gen〉『んー、俺らでちょうどいいスキル帯あるか?』

〈Jack〉『ちょっとなさそうじゃないかなーーーー』

〈Gen〉『だよな』

〈Earth〉『そっかー』

〈Zero〉『しょうがないな』

〈Gen〉『今日は自由行動で!』

〈Jack〉『おっけーーーー』

〈Earth〉『りょうかいっ☆』

〈Yukimura〉『わかりました』

〈Zero〉『あいよ』


 リアル重視のギルドだし、しょうがない。

 この話題は前回の終わりに出すべき話題だったなー。

 だいのガンナー化計画の話で、すっかり忘れてたもんな。


 さて、じゃあどうしようかな。


〈Yukimura〉『一緒にスキル上げしませんか?』


 俺が銃スキルでも上げに行こうかと思った時。

 ゆきむらからの個別メッセージが届く。


 そのままギルドチャットでもいいのに、なんでまた個別に?

 まぁそこがゆきむららしいったらそうだけど。


〈Zero〉『槍?』

〈Yukimura〉『はい。今150くらいなんですけど』

〈Zero〉『はっや!』

〈Yukimura〉『ゼロさん、最近盾上げてましたよね?』

〈Zero〉『そうだけど、まだ120もないぞ?』

〈Yukimura〉『多少経験値少なくても平気ですから』

〈Zero〉『そう言うならいいけど』

〈Zero〉『週末の試験、さすがに勉強しなくて平気か?』

〈Yukimura〉『今週は今日だけですよ、ログインするの』

〈Zero〉『あ、そっか。昨日いなかったもんな』

〈Yukimura〉『はい』

〈Yukimura〉『なので、今日だけかまってください』

〈Yukimura〉『七夕ですし』


 七夕に、かまってくださいって……!

 この前会った、ぽーっとした表情のゆきむらの顔が頭に浮かぶ。

 あの顔が言ってる言葉と考えたら、ちょっと可愛い……。


 って、俺にはすでに織姫が! だいがいるから!

 うん、べ、別に邪な考えとかじゃねーし!?


 一人モニターの前でテンパる俺。


〈Zero〉『じゃあ行くか』


 少し返事に間を置いてしまったが、俺はログでは平静を装ってゆきむらに了解を伝える。

 間髪いれず届く、ゆきむらからのパーティの誘い。

 承認を押して、俺とゆきむらの二人パーティが組まれる。


 こいつと二人パーティは、初めてだなー。


〈Yukimura〉『よろしくお願いします』

〈Zero〉『おう』

〈Yukimura〉『大森林のカブトムシでいいですか?』

〈Zero〉『それ、俺からすると格上じゃんw』

〈Yukimura〉『あ、そうか』

〈Zero〉『でも、いい盾だからいけっかな?』

〈Yukimura〉『やってみましょう』

〈Zero〉『あいよw』

〈Yukimura〉『現地集合で』


 簡単な会話で狩場を決める俺たち。

 取得経験値はプレイヤースキルによる判定を受けるため、無意識に適正エリアを考えたけど、たしかに今は武器でのスキル補正も大きくなっているからな。

 盲点だったけど、意外といけるのかもしれない。

 

 でもゆきむらの槍は俺の盾なんかより断然高火力だから、タゲ維持できるかわかんないけどね!

 しかし大森林かー。あの日、ここでの冒険で、だいは俺を好きになったって言ってたなー。

 うーん、ある意味思い出の土地?


 そんなことを考えながら、俺は転移魔法を使って大森林へとワープする。


 ゆきむらは俺より一足先に着いていたようだった。そしてゆきむらの先導で俺たちは狩場へと向かう。

 適当な場所に着いて、目当てのカブトムシ型モンスターをメインに狩り開始。


 かまってくださいって言ってた割に、ゆきむらは特に話しかけてくることもなし。


 かまってくださいを、曲解してたのは俺の方だったのかな!

 恥ずかしい!




 そして黙々と狩ること2時間弱。

 適正スキル帯のゆきむらが2つ、適正よりもスキルが低い俺の方が取得経験値は少なかったので、俺は1つほどスキルが上がった。

 あ、でも普通に狩りはできた。武器補正万歳。


〈Yukimura〉『そろそろ終わりますか』

〈Zero〉『いやー、けっこうできたな』

〈Yukimura〉『ですね』

〈Yukimura〉『二人でいると、なんか不思議な感じです』

〈Zero〉『え?』

〈Yukimura〉『七夕に二人でいるなんて、織姫と彦星のデートですね』

〈Zero〉『・・・は?』


 え、何この子? 何言ってんの?

 いやー、相変らず天然だなぁ……。


 と、脳内で冷静を保とうとするも、何故か俺は恥ずかしくてモニターの前で赤面しているのは、もちろん秘密だぞ。


 モニターの中じゃ、男同士が一緒にいるだけなんだけどな!


〈Yukimura〉『試験終わったら、またかまってくださいね』

〈Zero〉『とりあえず、頑張れ』

〈Yukimura〉『はい。頑張ります』


 ゆきむらの『織姫と彦星』とか『デート』とか『かまって』という言葉は無視して応援だけしつつ、俺たちはそれぞれプレイヤータウンに戻る。


 争奪戦とか、わけわからない単語をゆきむらはまだ意識しているんだろうか……。

 たしかにまだだいと付き合ったことは言ってないけど、なんていうか……言いづらい。


 というかなー、あれだよなー。

 ぴょんやゆめにも言ってねーし、オフ会メンバーには言わないと、だよなー。


 それと、亜衣菜にも。


 最近会っていた女性陣の顔を思いながら、俺は無意識にため息をつく。


 言ったら、どんな顔されるんだろう。

 でも、言わなきゃいけない。

 それが男としての、けじめだから。

 

 でも。


「まずは市原、か……」


 変なことを考え出したせいで、せっかく忘れられていた目下の問題を思い出す。

 今日の市原の顔も、まぁひどいもんだった。


 このままじゃ、赤城たちの引退にも影響が出るだろうし、はてさてどうしたもんかなぁ……。


 その日もまた、悶々とした悩みを抱えながら、俺は眠りにつくのだった。





―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―

以下作者の声です。

―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―

 Talkでの会話の送信先を書くようにしました。近いうちに過去の分も直していきたいと思います。


お知らせ(再掲)

 本編とは別にお送りしている『オフ会から始まるワンダフルデイズ〜Side Stories〜』も更新されています。現在はepisode〈Airi〉をお送りしています。

 気になる方はそちらも是非お読みいただけると嬉しいです!

 そちらと合わせて、オフ会シリーズは現在は一日2話更新という形になってます!

 Twitterで更新予定や更新のお知らせをしたりし始めました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る