Side Story 〈Airi〉 episodeⅡ

「あ、でもあれじゃん。サーバーうつんねーと、あいつに会っちゃうのか」


 ゲームを起動して数分、〈Pyonkichi〉あたしの分身を動かしててふと思った。

 このゲームを紹介してくれたのは、あのくそ男であり、あいつもあたしと同じサーバーにキャラを持っている。

 あいつだけは、山村愛理あたしが〈Pyonkichi〉って知ってるんだった。

 まぁあいつは最近ほとんどログインしてないから、もう会うことはないのかもしれないけど、なんとなく、あいつがいるかもしれない場所は嫌だった。

 



「たしか、運営のとこの掲示板で、希望すればいいんだっけか」


 フルスクリーンを解除して、ブラウザを立ち上げる。

 ブックマークから公式サイトにアクセスすると、その掲示板はすぐに見つかった。


 行先はここ、17サーバーじゃなきゃどこでいいけど……。

 お、01サーバーの人で17サーバー行きたい人いるじゃん。

 01サーバーったら、このゲームの攻略サイトに情報を提供し運営するギルドであり、どのサーバーにも支部を持つ【Vinchitoreヴィンチトーレ】っつー廃人ギルドの本家がある大都会。

 アクティブプレイヤーも一番多いって聞くし、面白そうじゃん。


 あたしは早速17サーバーに来たがってる奴にサーバー移転希望を出した。

 全部でいくつサーバーがあったかは忘れたけど、別サーバーに行くなら希望交換制なのがこのゲームの仕様なのだ。


 掲示板に書き込みをすると、返事はめっちゃ早かった。

 ほんとびびるくらいの早さで来た。


Siroyamaしろやま〉さんねー。この人とあたしが、サーバー交換するってわけか。


 えーっと、神殿行って、お互いの名前を入力、っと。

 この神殿初めてきたけど、移転ってこんな感じなんだなー。


 掲示板の方に移転希望を書き込んだら、「いますぐ行けます」と返事があったので、あたしはすぐに移転できるみたいだ。

 しかしなんでわざわざ01から17サーバーに?

 友達でもいるのかねー?


 色々気になることはあったけど、特にしろやまさんと会話する場面もなく、あたしは神殿で〈Siroyama〉と入力した。

 しろやまさんはあたしより早く入力してたみたいで、あたしがEnter押した瞬間に、移転のエフェクトが始まったっけ。


 数分間、なんかうよんうよんした感じの映像のあと、再び神殿の画面に戻った。


「これ、ほんとにサーバー変わったのか?」


 画面に映る世界は、17サーバーの時と何も変わらない。

 そりゃまぁ同じゲームなんだし、とはよく考えればわかることだけど、変わらな過ぎて不安になる。

 半信半疑で全エリアサーチをかけると、そこに知っている名前は一つもなかった。


「おお……全然しらねーやつばっかじゃーん」


 このゲームを始めて1年ほど。

 ずらっと並ぶ知らない名前ラッシュに、改めて別サーバーにきてしまったことを実感する。


 冷静になれば、17サーバーのフレンドとかギルドに何も言わないまま、あたしは01サーバーに来てしまった。


 ちょっとだけ、罪悪感。

 みんなごめんねー。

 でも悪いのはあのくそ男だから。


「でもま、人生は一期一会だからな!」


 フレンドもギルドもなくなったが、そんなのはまた1から作ればいいし。

 あたしの売りは、勢いとこの前向きさだからなー。

 ここにはあのくそ男はいないし、思いっきり羽根伸ばせる!


 っていうか、あいついないなら、あたしはホントに〈Pyonkichi〉としてやっていけるんじゃね?

 そうじゃん。

 どうせ女らしくないんだから、あたしは山村愛理じゃなくて、〈Pyonkichi〉としてやっていこうっと!


 あたしは意気揚々と〈Pyonkichi〉を動かして、ギルドの募集とかを見るため、とりあえず海上都市ワラザリアへと、〈Pyonkichi〉を転移させた。




「うっわ、さすが大都会。めっちゃ募集あんなー」


 17サーバーも活気がなかったわけじゃないけど、01サーバーは桁が違った。

 スキル上げパーティ募集も、コンテンツ攻略募集も、イベント進行募集も、ストーリー進行募集も、ギルド募集も、ものすごい数がある。

 そして主催者の名前のそこかしこに、プレイ動画で見たことがあるような名前のやつがいる。


 そんな中であたしはギルド募集の中から、興味深いギルドを見つけた。


「【Teachers】? 募集条件、職業教師? なんだこれ」


 募集条件は普通武器スキルとか、スキル値とか、珍しいものでは種族とかがあるんだけど、リアルの職業を条件にしてるギルドなんて、初めてだった。


「これも何かの運命かー?」


 奇しくもこの条件をあたしは満たしている。

 なんたってあたし、中学教師だからね。


「えーっと、リーダーは〈Gen〉か。今いるのかな?」


 キャラクターサーチをかけると、ちょうど〈Gen〉もワラザリアにいるみたいだった。

 ラッキーと思い、あたしは〈Gen〉にメッセージを送る。


〈Pyonkichi〉『はじめましてー。ギルド募集みたんすけど、中学教師やってまーす』


 とりあえずメッセージ送信。

 返事がきたのは、5分後くらいだった。


〈Gen〉『はじめまして!条件OKです!ぜひうちにw』


 ゆるい返事だなー、って思ったけど、あたしにはそれくらいがちょうどよかったね。

 でもこれ、自己申告だけだからいくらでも嘘つけんじゃね?

 まぁ、話してればそいつが教師じゃないかどうかなんてわかるだろうけど。


 でも、コンテンツとか行くなら、使える武器とかスキルとか、重要じゃね?

 聞かれてないしから言ってないけど、ほんとに大丈夫か?

 あ、もしかして雑談系ギルド?


 そんなことを考えていると、〈Gen〉からギルドの誘いが送られてきたので、あたしはそれを承認する。


〈Pyonkichi〉『はじめましてー。ぴょんきちっていいまーす。よろしくー』


 ギルドチャットの緑色の文字が、あたしがギルドに入った証拠だった。


〈Gen〉『ようこそ!【Teachers】へ!』

〈Jack〉『こんちはーーーーwジャックでーーーーすw』

〈Kamome〉『かもめでっす。よろしくね~』


 って、3人しかいねーのかよ!

 すくな!


 これがあたしと【Teachers】の出会い。

 LAを始めて1年ほど。

 今からもう2年くらい前。


 こうして〈Pyonkichi〉は、01サーバーでも特異なギルドである、【Teachers】の一員となったのだ。



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以下作者の声です。

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 本編とSide Storiesを別の章としてUPしていくと、更新の度にSide Storiesの最新が位置的に最新ではなく、非常に読みづらくなることに気づきましたので、別作品として展開していくことにしました。

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