第4章 エースの乱編
第97話 教師である前に人間。そして男はいつだって思春期だよな!
深夜のコンビニには、お客さんなんていなかった。
でも店員さんの目を気にしてか、だいはコンビニに入る直前、繋いだ手をぱっと放す。
なんか、ちょっとだけ寂しかったとか、べ、べつにそんなことないからね!?
しかし、ほんと、夢みたいだな。
恋人、か……。
「ゼロやんは何にする?」
「え?」
「甘いもの、いらない?」
「あ、うーん」
「あ、もしかして苦手?」
「そんなことはないぞ」
「そっか。たい焼き食べてたもんね」
「あー、あったなそんなことも」
秋葉原でだいとたい焼きを買いに行って、亜衣菜と
てか、俺だいと付き合うってことは、亜衣菜の想いには応えられないってことだよな。
いや、それはしょうがないというか、うん、やむを得ないけど……俺、山下さんに刺されたりしないよな……?
ちょっとだけ、背中に悪寒が走る。
いや、大丈夫だろうけど!
「どうしたの?」
「あ、いや、なんでもないよ」
俺の顔を覗き込むように見つめてくるだい。
やめて、可愛いから。
抱きしめたくなっちゃうから。
ああもう、俺もういい歳なんだけどな!!
美人で可愛い彼女が出来た喜び。
しかも中身も、俺と7年一緒にいてくれただけあり、相性ばっちし(のはず)。
え、俺ここで一生分の幸福使い切ったとかないよな?
なんか、ちょっと不安になる。
え、やっぱ刺される……!?
「ここはやっぱり、ケーキね」
俺が一人謎な妄想に入っているのもよそに、だいは楽しそうにスイーツを選んでいた。
ああ、微笑ましいな。
「おお、がっつりハイカロリー」
「いいの。今は気にしないの」
「
「え?」
「え?」
「……馬鹿なの?」
「え?」
「一緒に帰るに決まってるでしょ?」
「え、どこに?」
「……ほんとに馬鹿なの?」
「え、なん――」
「――私たち……付き合ったんだよ?」
「あ……うん」
「今日は、泊まりたい」
「あ、そ、そうだよな、あはは……」
「ああもう! 何言わせてんの!」
「いてっ! お、おい、暴力反対!」
照れて顔を赤くしただいのグーが俺の上腕に炸裂する。
いや、うん、今のは俺が悪かったです。
甘んじて受けます。
「土曜日は、お泊りの日にしてもいい?」
「え?」
「ダメ?」
だから!
それは!!
ずるいって!!!
「ダメ、じゃない」
「ほんと?」
「むしろ、嬉しい」
「……ふふ~ん」
あ、尻尾ピーンってなってる。
くそ、可愛い……。
これじゃ、俺のライフがいつまで持つかわからんぞ……!?
悶え死にカウントがマジで始まってるからな!?
ちらっとレジを見ると、店員のにーちゃんがニヤけていた。
すぐに視線を逸らされたが、明らかに俺とだいのイチャイチャ具合を見てニヤけてた!
もう恥ずかしくてこのコンビニ来れないじゃん!
最寄りなのに!
「と、泊まってくなら、なんか必要なものとかないのか?」
「あ、そうだね。ちょっと見てみる」
「おう」
コンビニスイーツとしては高価なショートケーキ(2個入)を手に持ったまま、俺とだいは店内を歩く。
とはいっても、食料品は必要ないので、衛生用品とかそこらへんのゾーンへ移動した。
だいは歯ブラシのところで立ち止まって選んでいたのだが。
俺はそこであるものに目を止めてしまった。
あー……買った方がいいかな……。
でもまだ、早いかなー……。
経験則から俺が立ち止まったところで、歯ブラシを取ってきただいが、俺の隣で立ち止まる。
そして俺の視線の先を、だいも見る。
って、やばい!
や、やばい!!!!!
「……欲しいの?」
「え、いや、その、ええと! ひ、必要かなーとか思ったり!?」
「ふーん……」
明らかに怪訝そうな顔で俺を見てくるだい。
やばい、怒ってる!?
「でもやっぱー、まだいらないよねー、ははは……」
テンパった俺は完全棒読みモード。
ここから挽回する方法があれば教えて欲しい!
三回どころか何回でも頭下げるから!
教えて諸葛亮先生!!
「まだ?」
「え、あ、いや!」
「……別に、買えばいいじゃない」
「え?」
「付き合ってるんだし、普通なんでしょ、そういうの」
「え、あ、いや、うん、ま、まぁ、そう、かな?」
「何よ、はっきりしなさいよっ」
「す、すみません!?」
「……ここでこんな話してる方が恥ずかしいわ」
「で、ですよね」
俺は恐る恐るそれを手に取る。
それをだいがまじまじと見てくるのも、恥ずかしかった。
「期待に添えるかはわからないけど」
「え?」
「私、付き合うとか初めてだし」
「あ、そう、だよね」
「……優しくしてね?」
「お、おう……!」
一瞬で俺の顔が赤くなる。
これを手にして顔を赤くしてるとか、ああもう! 高校生か……!
コンビニのレジに、ケーキと歯ブラシと、ビニール袋で包装された四角い箱を出す俺。半歩下がったところにだい。
でも、この買い物、彼女連れだとめっちゃ生々しいな……。
え、箱の中身? 言わなくても分かるだろ!
個包装された消耗品が6個ほど入ってるアレだよアレ!
なんだそれって? 言わねーよ!
分からない奴は分かる日が来るまで待ってろ!
「1321円になります」
レジをやってくれた、店員のにーちゃんがなんとも言えないいい笑顔だったのが、余計に俺を恥ずかしくさせる。
「ありがとうございました!!」
深夜だというのになんだあのテンションはツッコミたくなる思いでいっぱいだったが、無言で買い物した俺とは真逆な、店員のにーちゃんの元気な声に見送られ、俺とだいはコンビニを後にする。
ほんともう、深夜にここは来れない!
恥ずかしくて死んじゃう!
まるで童貞のように赤面しつつ、コンビニを出る。
外に出て人の目がなくなると、再びだいが俺の手を握ってきた。
もちろん、当たり前のように恋人繋ぎ。
しかしこいつ、けっこう積極的なんだな……。
まぁ、手を繋ぐだけで嬉しそうな顔してるから、いいんだけど。
右手にはだいの左手。左手にはコンビニの袋。
コンビニの袋の中には、しっかりとさっきの箱が入っている。
しかし、これ使うのいつぶりだ……?
でも大丈夫、俺は童貞ではない。
もうほとんど童貞レベルになってるかもしれないけど、使い方は分かってる。
大丈夫……なはずだ!
しかし、こいつと……か。
うわ、やばい、考えんな! まだ考えんな!
せめて、帰ってからにしろ!!
自分にそう言い聞かせても、一度始まった妄想は止まらない。
俺の倫理観はもはや風前の灯火。
ほんともう、色々やばい。
ちらっと左を見れば、俺の気持ちなど全く察していない、幸せそうな顔をした
買ったものの恥ずかしさを抱えながら、俺は話しかけてくるだいに適当な相槌を打ちつつ、我が家へと向かうのだった。
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以下
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本編とSide Storiesを別の章としてUPしていくと、更新の度にSide Storiesの最新が位置的に最新ではなく、非常に読みづらくなることに気づきましたので、別作品として展開していくことにしました。
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