第86話 お揃いとかいい歳になると恥ずかしい

〈Jack〉『誰がもらうーーーーw』

〈Gen〉『うーん銃鍛えてるやついたっけ?』

〈Pyonkichi〉『ジャックなら高いんじゃねーの?』

〈Jack〉『それなりにあるけどーーーー』

〈Jack〉『銃と弓用の防具は揃えてないんだよねーーーー』

〈Jack〉『あたしが銃使うことなんてなさそうだからさーーーー』

〈Soulking〉『たしかにうちには凄腕がいるもんねw』

〈Yukimura〉『頼もしいです』

〈Gen〉『防具で考えたら、軽装系か』

〈Jack〉『そだねーーーー短剣か苦無か上げてる人ならまだいいかなーーーー?』


 あまり防具の話をしてこなかったが、このゲームでは誰でもどんな防具でも装備することができる仕様になっている。

 これは様々なコスチュームを満喫してほしいという、運営の計らいで、サービス開始前から話題になっていたことだった。


 だが、当然使う武器によって相性がいいというか、適切な防具は設定されていて、特定の種類の武器を装備しているときに性能UPがあるというシステムになっている。

 例えば盾&片手剣を使うリダはフルプレートアーマーだし、斧を使うゆめも似たような装備だ。

 対してメイスや錫杖、樫の杖を使うぴょんや嫁キングはローブ系の装備をしている。

 だい短剣はいわゆる軽装と呼ばれる見た目的に軽そうなレザーアーマー系だしな。


 盾だったり、アタッカーだったり、サポーターだったりと、それぞれの性能を引き延ばす装備は様々だが、大まかに分ければ重装備・軽装備・ローブと3種類に分けられるわけである。

 厳密にいえばもっと細分化はされるけど。


〈Yume〉『苦無はあるけど~、銃なんてスキル1だよう』

〈Pyonkichi〉『だいはー?』

〈Daikon〉『私は、100ちょっとくらい』


「え!?」

「な、何よ?」

「そんなあったのか?」

「い、一応よ」


 ログを見た俺は思わず振り返ってしまった。

 ブルーライトカット用の眼鏡をかけただいは、何だかちょっと恥ずかしそうな顔をしている。

 だいが床に座ってる分、上目遣いになっている感じがして、こっちもなんだか恥ずかしくなってきた。

 しかし「一応」ってなんだ「一応」って。全銃使いに謝れ!


 でも、だいが銃をあげている記憶など全然ないのはホントだ。しかも100くらいとか。

 スキルを100まで上げるのはそれなりに時間がかかる。今は昔ほど時間がかかるわけではないだろうが、それでも片手間に上げられる値ではないだろう。


〈Jack〉『だいもらっちゃえーーーーw』

〈Gen〉『せっかくだしなw』

〈Daikon〉『いいの?』

〈Soulking〉『あーすがいれば、装備使いまわせたのにねーw』

〈Yukimura〉『私もスキル1でも槍をもらいましたよ?』

〈Daikon〉『ありがと』


 そしてドロップ品の銃を〈Daikon〉が入手したというログが現れる。

 これは譲渡不可だからな。これでもうその銃はだいのもんだ。


〈Pyonkichi〉『いやー、これでゼロやんとお揃いですなーw』


 お揃いって、ゲームなんだし、ダメージ減らすアクセサリーとか、みんな持ってる装備なんてたくさんあるだろうが……。

 こいつはいちいち茶化してくんなー。


〈Yukimura〉『お揃い・・・ちょっと羨ましいです』

〈Daikon〉『へ、変なこと言わないでよ!』

〈Yume〉『だいが銃スキル上げる未来がみえま~すw』

〈Jack〉『上げるのはやそうだねーーーーw』

〈Gen〉『おw二人目のガンナー銃使いかw』

〈Soulking〉『幸いいい先生がいるから、すぐ強くなれそうw』

〈Zero〉『へ?』

〈Yukimura〉『皆さんも先生では?』

〈Yume〉『ゆっきーほんとに国語科・・・?』

〈Jack〉『ゆっきーは天然だからねーーーーw』

〈Yukimura〉『むむ・・・』

〈Pyonkichi〉『だいガンナー化計画を始動しよう!w』

〈Daikon〉『え?』

〈Pyonkichi〉『ゼロやん、必要な装備で、取りに行かないとダメなの1個言え!』

〈Zero〉『え、えーっと』


 急な流れだが、ぴょんの言葉に俺は自身の装備を見直す。

 これは買えるな、とか、これは持ってるだろうし、とか、律儀に確認する俺を誰か褒めてほしい。


〈Zero〉『プロビデンススコープかな。俺はもうあんまり使わないけど』

〈Jack〉『なるほどーーーーw』

〈Pyonkichi〉『なんだそれ?』

〈Zero〉『タゲマをでかくする、銃と弓使いしか意味ない装備』

〈Yume〉『そんなのあるんだー』

〈Zero〉『実装されたのは2つ目の拡張のときだし、もうかなり古い装備だけどな』


 俺が名前を出した装備は、俺が言った通り銃や弓を命中させやすくする装備だ。

 照準マークをターゲットマークに合わせる必要があるのはすでに説明した通りの銃と弓の仕様だが、照準を合わせるターゲットマークが大きくなればなるほど、ベストショットはしやすくなり、ダメージは与えやすくなる。

 だが与ダメを増やす性能は0なので、熟練したガンナーは使うことはまずない、っていう装備でもあるな。

 それでもベストショットか否かはスキル上げでの殲滅速度に影響するし、ベストショットを外すというのはそれなりにプレイヤーのストレスにもなる。

 さらに動きが速い敵の時は便利だし、持っていて損はないはずだ。

 近接武器でもターゲットマークが大きくなる効果はあるが、それらは出現したタイミングでアタックコマンドを押すだけだから、全く意味はないので、本当に銃と弓専用装備だな。


 ちなみに2つ目の拡張というのはもう6年くらい前だったかな。

 「砂漠の呪い」という、その名の通り砂漠エリアが追加された拡張だ。

 そのエリアではピラミッド型のダンジョンでミイラたちを統べる者を倒すコンテンツがあり、このボスが落とす装備の一つがプロビデンススコープなのだ。

 当時はゴミ装備とか言われ、捨てられることも多かったのだが……ああ、思い出すだけで悲しくなる。


 スキルキャップが200時代のボスだから、今なら苦戦せずに倒せるだろうけど。


〈Jack〉『ピラミッドかーーーーソロじゃ取れないねーーーー』

〈Gen〉『あー、あれはなーめんどいなー』

〈Yume〉『ぱぱっといっちゃう~?』

〈Yukimura〉『手伝いますよ』

〈Pyonkichi〉『計画始動!』


 みんな協力を申し出るのには理由がある。

 ピラミッド型のダンジョンの進行中、燭台に火を灯すことで開くというギミックの扉があるのだが、これは30秒以内に3か所同時につける必要があるのだ。

 1人で2か所は、一定時間移動速度を上げるスキルを使えばなんとかなるが、3か所はどうやっても不可能という、既に6年前のコンテンツであるにも関わらずソロ殺しのダンジョン、それがピラミッドなのである。


〈Gen〉『この大人数でいったら瞬殺だなw』

〈Soulking〉『わたしは子ども見るから落ちるねーw旦那貸すから、いっといでー』

〈Yume〉『嫁キングおつかれさま~』

〈Pyonkichi〉『おつ!』

〈Jack〉『またねーーーーw』

〈Daikon〉『おつかれさま』

〈Zero〉『おつー』

〈Yukimura〉『おやすみなさい』


 だいが行くも行かないも何も言っていないのだが、完全に行く流れか。

 ほんとみんな、ノリで生きてるなー。

 まぁ俺も行くんだけどさ!


 一人ホームタウンに転移した嫁キングがパーティから離脱したあと、俺たちはそのまま砂漠エリアへと転移した。



「ほんとに銃あげんの?」

「こ、この流れならもうしょうがないじゃない」

「スキル100かー。なんかいいのあったかなー」

「え?」

「銃のソロはしんどいぞー?」

「手伝ってくれるの?」

「お。俺の盾が103だって。装備ないけど、適当に買えるもんで揃えるかな」


 移動の道中、背中越しに俺はだいにスキルを上げるのかの意思確認をした。

 正直銃使いの仲間が増えるのは嬉しいし、それがだいなら、って思いもなくはない。というか歓迎。

 幸い同レベルの武器スキルだと盾&片手剣があったので、久々にだいとスキル上げできるかもと、ちょっとだけ楽しくなったのは秘密である!


「あ、ありがと」

「スキルは上げて損ないしな」


 後ろから聞こえるだいの声は、少しだけ照れを含んだように聞こえた。

 俺が楽しみなんだよとか、そんな言葉は心の中にしまっておく。

 

 リアルでは夜だが、7人のキャラクターたちが走る砂漠を照らしつける日の光が反射し、モニターは眩しいくらい。

 背後から聞こえる砂漠エリアのBGMは、何故だか先ほどまでよりもズレが少なくなったように感じる。


 ちなみに砂漠エリアはゲーム時間で夜の時はミイラたちが湧き出るエリアだが、日中だとトカゲとか鳥とか、襲ってこないモンスターしかいないため、ゲーム内時間で日中に転移した俺たちの移動はさくさくだ


 しかし、だいもあの銃持ちか。

 

 改めて考えると、お揃いとか、今さらちょっと恥ずかしい言葉だけど、うん。

 

 悪くないかもな。

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