第76話 コテコテすぎるわ!

 ガチャ

 ぴょんが持っていた鍵で、我が家の玄関を開ける。

 家主じゃなく来客に鍵持たせるとか、変な状況だなこれ。


「たっだいまー」


 玄関に並んだ女物の靴。

 ほんと、この家にこんなに女性がくるなんてなぁ。

 やっぱ女性がくると、家もいい匂いになるのかな……。

 

 ん? いい匂い?


 勢いよく家に入ったぴょんに続いて、俺も靴を脱いで目線をあげる。


「え」


 そこには、信じられない光景が!!


「あ、おっかえりー」

「ちょっと、さすがに恥ずかしいです」

「ああああああああ!! ご、ごめん!!」


 俺は慌てて靴も履かずに外に飛び出る羽目になる。

 って、ここ俺んちなんだけど!?


 だが自分の顔が赤くなっているのは自覚できるほどで……。

 ほぼ完徹の身には色々刺激が強かった。


 ドアを閉め、家主なのに中に入れずドアを背に座り込む俺。

 しかし、あんな光景見たのいつぶりだろう……?


 ってそうじゃない! ああもう、こいつら自分ち感覚かよ!


 もう予想もついただろうが、玄関を開けた先に見えた光景は、男友達に話せばラッキーとしか言われない光景だった、

 だが相手が知り合いだとすれば、絶対逃げる。

 今の俺がまさに体現した行動を、みんなするはずだ!


 ゆめは下着の上にYシャツを羽織っただけの姿でドライヤーで髪を乾かし、ゆきむらは下着だけの恰好で、バスタオルで髪を拭いていたんだぜ?

 髪が濡れた状態の二人は、ちょっと幼く見えたし、ゆめもすっぴんだったせいか、余計に幼く見えた。

 二人とも綺麗な白い肌だったなー、とか思ったり思わなかったり。

 これがいわゆるラッキースケベってやつか。

 ってああもう、寝てないせいで頭がおかしくなってんな!

 

「おーい、むっつりー」

「誰がむっつりだ!」

 

 玄関越しにぴょんの呼ぶ声がする。

 反射的に言い返すが、当然乗り込んでいくことなどできない。


 ああもう、俺の安息の地我が家が……魔国の者女3人に占領されてしまった……!


「TシャツとYシャツどっち派だー?」

「なんの話だ!?」


 あいつらいつ起きたんだ?

 というか勝手にクローゼット漁りやがって……。


 あれ? てかクローゼット漁られた……? 

 いや、さすがにな、家探しみたいなことはしないだろう。


 俺の脳裏に浮かんだ、俺自身でも忘れていた記憶。

 普段は無意識に押しやっていたが、なんとなく恋愛脳が刺激されたことで思い出した、過去の記録黒歴史


 あ!! 見られてないよな、大丈夫だよな!?


 そう、クローゼットの隅っこに隠すように置いてある段ボールには、俺が捨てられなかった亜衣菜との思い出未練が収納されているのだ!

 それを見られたらもう、恥ずかしくて死んでしまう。

 お前何年前の写真だよとか、うわー女々しいわー、とか言われるのが目に見えている!

 でもほら、よく言うじゃん?

 女は上書き保存、男は名前を付けて保存、ってさ!

 

「とりあえず、もう入っていいぞー」


 俺がドアの前であーだこーだ考えていると、再びぴょんの声が届く。


 ドア越しに聞こえる声を信用していいものか?

 だがさすがに靴も履かずにドアの前で座り込んでいるという状況は、誰かに見られたら不審者だと思われかねない。

 俺はぴょんの言葉を信じ、禁断の扉自分ちのドアを開ける。


 変わらずドライヤーの音は聞こえるが、見える範囲にいたのはゆめだけだった。


「すっぴん見られるのやだけど~、ゼロやんは特別だよ~」

「って、下は!?」

「え~、どこみてんのえっち~」

「いや、ここ俺んちだからな!?」


 ドライヤーで髪を乾かすゆめは、いつもよりかなり幼く見える。

 寝て起きたことで元気になったのか、活き活きした笑顔だった。

 特別にすっぴん見てもいいとか、言われてドキッとしたのは言うまでもないが問題は、その恰好だ!


 さっき見たまんま、まだゆめは下着姿の上に明らかにゆめにとってはオーバーサイズな俺のYシャツを羽織るという、男が好きな恰好ベスト5には入りそうな恰好をしていた。

 Yシャツのおかげで太ももくらいまでは隠されている形になっているのだが、それがなんとも煽情的せんじょうてきで、けっこうる。


 ああもう、あざと可愛いなこいつ!

 そうだよ俺はYだよ!!


「ゼロやんのYシャツ、いい匂いするね~」

「ふつうの、市販の柔軟剤だぞ?」

「え~、わたしけっこう好きだよ~」


 、という単語に露骨に反応するほど、俺の脳はまだ敏感状態だった。

 顔が赤くなった気がしないでもないので、とりあえず「そうか」と一言だけ告げて、俺は髪を乾かすゆめを通り越し、部屋の中に入る。

 部屋の中では、ゆめと同じ格好をしたゆきむらがぴょんと並んでベッドに腰かけて、バスタオルで髪を拭いているところだった。

 

よかった、服着てる……って、ちげーだろ!!


「なんでゆきむらも!?」


 ゆめよりも身長があるゆきむらでは、隠せる部分が圧倒的に少ない。

 白くなまめかしい太ももが露わになり、ゆめに続いての光景にが元気になりそう。

 しかも表情はいつも通りのぽーっとしたままだが、そこに濡れた髪という条件が加わると、なんというか、幼くも見えつつも、色っぽさも増すというか……ああ、やばい。


「お借りしております」

「おいおい、またなってんぞー?」


 トドメと言わんばかりに俺の横にやってきたぴょんが、再びの

 ゆめといいゆきむらといい、には十分な条件が揃ってるわけで……。


「あーもう! いい加減にしろ!!」


 まだ夜明けからさほども経っていないというのに、俺が近所迷惑上等の大声で一喝してしまった。

 

 日曜の朝から、うるさくしてすみません!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る