第54話 水曜日はハッピーデー

「……幸せだったわ」

「それはなにより」

「ああ、どうして猫ってあんなに可愛いのかしら」

「あー、猫だからじゃないか?」

「……深いわね」


 俺の答えにもなってない答えに対しても、まだ余韻に浸るだいはツッコんだりしない。

 全然哲学的じゃないですよー? 大丈夫かこいつ……。

 いやー、でもマジで猫カフェチョイスは正解だったな!

 GJぐっじょぶ俺!!


「でも、だいが写真撮ってくれるとは思わなかったよ」

「え、べ、べつに猫ちゃんたちが可愛かったからだし!」

「あ、さいでっか……」


 ですよねー。

 カップルという言葉を否定もしていなかったから、ちょっとだけ変な期待をして聞いた俺だったが、まぁね、うん。わかってた。

 しかし、俺としてはだいの超絶笑顔写真も撮れたし、満足なのです。

 バレたら殺されそうだけどな!!


「でも、まさかあの猫ちゃんがセシルって名前なんてね。びっくりしたわ」

「いやー、もはや奇跡だろ」

「亜衣菜さんは、きっと猫派よね」

「へ? な、なんで?」

「だって、猫耳キャラだし」

「あ、あー。そうかもな」


 うわ、絶対いえねぇ。〈Cecil〉のキャラメイクしたのが俺とか、絶対いえねぇ。

 たしかに亜衣菜は猫派だけど!


「今度教えてあげよっと」

「ほんと、仲良くなったんだなー」


 既に辺りが暗くなり始めた18時半頃、俺たちは猫カフェを出て駅の方へ進んでいた。

歩きながらの会話で、俺はだいと亜衣菜の二人の関係に少しだけ呆れる。

 いったい先週の水曜日、何があったというのか。

 俺には理解できていないままなのだ。


「そうね、ちょくちょく連絡も取るようになったわ」

「え、そうなの!?」


 いやマジほんと、この二人の関係って何なの!?

 あー、変な方向に進まなきゃいいんだけど……。


「あ、そういえば今日の夕食だけど、鉄板焼きはどう?」

「お、いいね! 鉄板焼きなら、ビールが美味そうだなぁ!」

「そうね。場所は三鷹だから、一駅だけ移動しましょ」

「三鷹かー。ほんと、テリトリー広いなぁ」


 流石、女版孤独のグ〇メをやってただけあるな。

 言わないけど。


 そんなわけで、俺らは中央線で一駅移動し、だいのオススメの鉄板焼き屋へと移動するのだった。




「いやー、今日も絶品ですなぁ!」

「お口にあって何よりよ」

「水曜なのにビールが美味い!」

「明日も仕事なんだから、ほどほどにね」


 だいのオススメの鉄板焼き屋は駅からまた10分弱ほど歩いたところだった。

 まぁやはりというか、このくらい離れると、駅の喧騒からも離れるので、そこまで客数も多くないのがいいところだな。

 既にビールは3杯目。

 いやぁ、今日は気分がいいぜ!


「でも、野菜がこんなに美味いとは驚きだよ」

「でしょ? お店の努力の賜物よね」


 肉も海鮮もそりゃ美味かったが、何より美味かったのがしいたけだった。

 いやほんと、噛んだ瞬間旨味が溢れる感じなの。

 いやぁしかし、農家の娘だけあるな……野菜に対するだいの意識の高さは、半端ない。


「あ、そういや今日は俺が奢るでいいんだよな?」

「は? どういう風の吹き回しよ?」

「え? こ、この前の日曜そういう約束したじゃんか」

「え?」

「え?」

「あ……!」


 この前の日曜、だいを遅くまで待たせてしまったお詫びと俺は電話越しに、次は俺が奢るとたしかに言った。

 デザート付きって要望までもらったくらいだからな。


「デザート付き、ってだいも言ってたじゃん」

「ああ……!」

 

 こいつ、どうやら自分で言ったことを忘れてたみたいだな。

 だが俺は忘れないぜ! あの日の、電話越しの眠そうな声! まだ話しててって言った甘えた言葉!


「いやぁ、あの日の電話のだいは――」

「死にたいのかしら?」

「え、ちょ、こわっ!」


 俺に向かって空いたジョッキを投げようとするだいさん。

 それはほんとやめろ! ほんとに死ぬ!

 

 顔を赤くしてるのは、ビールのせいじゃないだろうけど。

 たまには俺にも、優位に立たせてほしいってもんだ。


「もう忘れなさい!」

「えー……じゃあ、奢らせてくれたら?」

「なんでそんなに奢りたがるのよ?」

「いや、ほらこの前夜更かしさせちゃったし」

 

 もちろんこれは半分で、半分は


 ほんとは、楽しい時間をもらってるからとか、言えるわけねーよな。


「……今回だけ」

「え?」

「今回だけだからね!」

「わ、わかりました」


 照れながらも睨んでくるこいつが、可愛くてしょうがない。

 亜衣菜の可愛さとはまた違った可愛さなんだよな。

 

 昔から知っていて、俺への好意を示してくれる亜衣菜の安心感。

 昔から知っていたことを最近知った、毎回が新鮮な気持ちを教えてくれるだい。


 でも、こいつは俺のことどう思ってるんだろうか……。


「何よ、じろじろ見て」

「あ、いや、何でもないよ。すみません! 生一つ!」

「まだ飲むの? ほどほどにしときなさいよ?」

「これで最後にするって」


 考えても分からない。

 ああ、酒に逃げるとか、ほんとダメな大人だな、俺。


 その後しっかりとデザートまで幸せそうにいただいただいを見届け、俺たちの第3回外食の日は、終了するのだった。




「今日は一日付き合ってくれて、あ、ありがとう」

「いやいや、お誘いくださいましてありがとうございました」

「そ、それに、ご馳走様でした」

「は?」

「ああ! いや、どういたしましての間違い!」

「どうやったら間違えるのよ……」


 あぶねぇ! 

 今日一日色んなだいを見れたのが楽しすぎて、俺もご馳走様とか、変態か!

 

 現在時刻は21時半頃。

 いつも通りに俺はだいを送って、彼女の家の前までやってきた。

 

 モルモットを愛でるだい、猫語になっただい、美味しそうにご飯を食べていただい。

 あー、思い返しただけでにやけそう……。


「明日も仕事なんだから、ちゃんとやりなさいよ?」

「わ、わかってるよ」

「ならよし。じゃあ、LAの中で」

「ほんとに来るのかしらね?」

「わ、わかってるって」

「ふふ、じゃあね。おやすみなさい」

「ん、おやすみ」


 今日も今日とて、最後は振り返って笑顔で手を振ってくれるだいを見送る。

 あー、やっぱ可愛いな……。


 この姿を見たことあるのって……俺だけなのかな。


 俺だけで、あってほしいな……。


 今日はいい日だった。

 うん、誰が何と言おうと、水曜日はいい日なのだ。

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