第33話 衝撃の尋問タイム

〈Luciano〉『まぁ世間話は一通りに話が終わってからにしよう。もこたちもいることだしな』

〈Moco〉『あら、私はその世間話も参加したいけどなー』

〈Zero〉『勘弁してくださいよ・・・』

〈Luciano〉『では本題に入ろう。【Teachers】の動画は見せてもらった』

〈Luciano〉『何度も見返して、なんとなく予想はついているが』

〈Luciano〉『あれはGen氏を中心とした動画だから、確証を得たくてな』

〈Luciano〉『君の攻撃は、意図的なものだったのか?』


 何度も見返したとか、すげぇな、本気度。

 でも、ほぼほぼ推測はついてる、ってことか。なら話は早い。

 別に隠すことでもないしな。


〈Zero〉『ええ、意図的にタゲマを無視して銃撃を行いました』

〈Cecil〉『マジかー』

〈Taro〉『そんなこと思いつくかね・・・』

〈Luciano〉『なるほど』

〈Luciano〉『どういう風に戦ったか、聞いてもいいか?』

〈Zero〉『わかりました』


 俺の発言に皆が驚いているのは、分かった。

 この状況にちょっとした優越感を覚えながらも、俺は一昨日の夜の戦闘について簡潔に室内のプレイヤーたちに説明をしていく。


・ブレス攻撃のモーション中に口の中に銃か弓で攻撃をしかけると、1秒ほどの硬直状態を与えられること。

・攻撃モーション中の爪や足を狙撃することで、その部位での攻撃をブレスモーションが来るまで封じられること。

・5体目の中ボスも同様であったこと。

・尻尾については位置取りの関係で検証できていないこと。


 俺の発言に皆が驚きの言葉を言ったりしていたが、まだ検証できていないことを伝えたのは、俺の作戦だ。

 きっと彼らはこの言葉に触発される。

 俺がやらなくても、検証してくれるだろう。

 そうすれば俺は自分で検証するまでもなく、その情報を頂けるのだ。

 彼らは情報提供者としての体裁も保てるし、まさにwin-winって感じ?


〈Luciano〉『なるほど、戦闘中に二人目の盾持ちを移動させて、武器を持ち替えさせたのはそのためか』

〈Zero〉『はい。確勝を期すため、あーすにはずっとブレス用に照準を合わせてもらってました』

〈Zero〉『ただ、爪と足への狙撃については攻撃モーションに入った直後だと早くて、モーション中、盾に当たる直前の1秒もない間に当てる必要があるみたいです』

〈Moco〉『相変わらず、いい腕してるね~』

〈Luciano〉『こう言ってるが、セシルできるか?』

〈Cecil〉『何をおっしゃるうさぎさん!セシルちゃんなら余裕だし!』


 なんだうさぎさんて。

 しかしまぁ、たしかに亜衣菜セシルならできると俺も思うけどな。

 彼女のプレイヤースキルは、俺よりも確実に上なのだから。


〈Luciano〉『しかし、どうやって気づいた?』

〈Zero〉『え』

〈Cecil〉『たしかに、ゼロくんほどのガンナーが、タゲマ外すとか普通ないよね?』

〈Moco〉『たしかに』

〈Zero〉『あー、お恥ずかしながら・・・』

〈Zero〉『たまたまなんですよ』

〈Luciano〉『ほう?』

〈Zero〉『5体目やってるときに、セオリー通り背後から撃ってたんですけどヘイトあげすぎちゃって』

〈Cecil〉『フラガラッハ強いもんねー』

〈Zero〉『ああ。それでタゲがこっちきて、ブレス食らって死ぬなーってなったんですけど』

〈Zero〉『ちょうどそのとき照準合わせしてたんで、避けることもできませんでしたし』

〈Zero〉『それならいっそタゲマ外したらどれくらいのダメージでるかな、と思って適当に撃ったら口の中だったんすよね』

〈Cecil〉『あー、後ろ向きだと後頭部らへんでタゲマ動くもんねー』


 さすが亜衣菜は同じガンナー銃使いだけあってよくわかってくれてるな!

 生徒たちには言わなかった話を、俺は顔の見えない彼らには惜しげもなく話したが、亜衣菜のおかげできっと理解してもらえたことだろう。


〈Luciano〉『偶然の産物、ってことか』

〈Zero〉『そうですね』

〈Moco〉『でもよく硬直したって他のメンバー気づけたね』

〈Zero〉『まぁ、割とみんなうまいんで』

〈Cecil〉『たしかにいい動きするよねー、【Teachers】』

〈Luciano〉『ジャックが所属するだけあるってことだな』

〈Luciano〉『話を戻すが、銃や弓以外はタゲマを無視して攻撃することができないし、密かに実装されていた、遠隔武器に付与された新たな性能、って考えた方がいいか』

〈Zero〉『あ、今回のボスだけなのか、既存のモンスターにも有効なのかは知りませんよ』

〈Luciano〉『それはこちらで調べるさ』


 やったぜ、検証依頼達成!


 ちなみに、銃や弓以外はタゲマを無視して攻撃できない、とルチアーノさんが言うように、近接武器でモンスターにアタックしたくても、ターゲットマークがでていないときにアタックコマンドをしてもぶぶーっ、と不可を知らせる音が出るだけなんだよな。

 これはサービス開始時からの常識だった。


 つまりターゲットマークがでてないときに行動するのは盾持ちか、刀使いの受け流しか、格闘使いのカウンターだけだったのだ。

 上の3種以外は、ターゲットマークが出ていないときにできることといえば、防御姿勢くらいなんだよ。


 だからこそ今回の発見は、8年目にしての衝撃なのである。


〈Luciano〉『直接話を聞けてよかった。正直、君たちが動画をあげてくれなかったらずっと気づかず、【Vinchitore】の名に傷がついていたかもしれない。協力感謝する』

〈Zero〉『いえいえ、いつも攻略サイト、頼りにさせてもらってますから』

〈Luciano〉『そう言ってくれると助かるな』

〈Luciano〉『【Vinchitore】各部門に伝達。弓と銃スキル200以上の者は各統括の指示に従い、全エリア・全コンテンツの検証を開始だ』


 マジか!!

 そんなことすんのか!!


 俺がその言葉に目を見開いて驚いているうちに、ルチアーノさんとセシル、もこさんとたろさん以外が退室していった。

 全エリア・全コンテンツ検証って、どれくらい時間かかるんだよ……。


〈Taro〉『じゃ、ボクも戻ってギルメンギルドメンバーにこの話してきますねー』

〈Moco〉『ん、よろしくー』

〈Luciano〉『もこはいかないのか?』

〈Moco〉『えー、だってここから世間話でしょ?参加したいし』


 あ、ほんとに世間話するのね……。

 たろさんが退室し、室内には4人のプレイヤーが残る形となった。

 ほんと、この場にいるのが場違いな気がしてならないよ。


〈Zero〉『いやー、すごいっすね、ほんとシステマチックというか』

〈Luciano〉『うちも大手の名にあぐらをかいているわけにもいかなくてね』

〈Zero〉『いやいや、もこさんには悪いけど、LA内で最大手じゃないですか』

〈Cecil〉『それがねー。最近新しい攻略サイトが出来たの知ってる?』

〈Zero〉『いや、知らないな』

〈Cecil〉『うちらが情報提供というか、事実上運営してる”|Legendary Adventure Complete《レジェンダリー アドベンチャー コンプリート》”、LACは知ってると思うけど』

〈Cecil〉『最近“LAノススメ”っていう攻略サイトができてねー。情報量はうちより少ないんだけど、コンテンツの攻略方法とか、かなり詳細なんだよねー』

〈Cecil〉『初心者スタートしてからの行動指針とか、そういうのも出てるし』

〈Cecil〉『ここにきてライバル登場したんだよねー』

〈Cecil〉『あたしらも広告収入もらってる以上、PV稼ぐ必要あるしさ』

〈Cecil〉『最近マンネリだったし、新情報とか、喉から手がでるほど欲しかったわけ』

〈Cecil〉『だから正直、動画上げる前に教えてほしかったなー』

〈Zero〉『そう、なんだ』


 そんな事情があったのか。

 しかしLAノススメか、聞いたことないな。最近始めた生徒とかなら、知ってるのかな。

 明日萩原にでも聞いてみるとするか。


〈Zero〉『しかし、誰が情報提供してるサイトなんだ?』

〈Luciano〉『【The】というギルドを聞いたことあるか?』

〈Zero〉『あー、このまえもこさんから、名前だけ聞いたような』

〈Luciano〉『そこのギルドリーダーのHideyoshiひでよしと中心メンバーのMessiahメシアというのがサイト運営の中心人物らしい』

〈Luciano〉『君らの動画をみて、たぶんもう検証を開始してるんじゃないかな』

〈Zero〉『ほうほう・・・』


 Hideyoshi……は秀吉か? Messiahったら……昨日俺にやたらと非難のメッセージ送ってきたやつじゃん。うわ、いきなり印象悪いなー。

 秀吉ったら言わずもがなの天下人だし、メシアったら救世主の意味だから、LAの天下をとって、新規プレイヤーの救世主になるつもりなんだかねぇ……。

 そんな意識の奴が俺に暴言はいてくんなよ……。

 なぁ〈Mobkun〉もそう思うだろ?


〈Cecil〉『噂レベルじゃ、海外サーバーを使ってのRMTを斡旋してるって話もあるし、あんまり調子乗らせたくないんだよねー』

〈Zero〉『RMTか、久々に聞いたな』


 RMTとは“Real Money Tradingリアル マネー トレーディング”の略で、ゲーム内通貨をリアルマネーで売買する取引のことだ。海外のMMOじゃ禁止されてないのもあるみたいだが、国産MMOは軒並み規約違反としている行為である。


〈Zero〉『サイト経由で信頼を得て、RMTの顧客を増やそうとしてる集団、ってことなんですかね』

〈Luciano〉『おそらくは』

〈Cecil〉『ルール守らない子とか、ほんと嫌い』


 RMT自体は賛否があり、時間を金で買う、という風に是とする者もいる。対価に対する感覚は、人それぞれだからな。

 だが規約違反は明確なプレイヤーモラルに反する行為だから、運営会社が禁止する以上は、守るのがプレイヤーの務めだろう。

 LAを愛する亜衣菜としては、許しがたいんだろうな。


〈Luciano〉『彼らに会ったらどうしてくれ、という話ではないが、今後もし新情報を手に入れたら教えてくれると嬉しい』

〈Zero〉『わかりました』

〈Moco〉『私たちもるっちゃんたちに協力するわ』

〈Luciano〉『助かる』

〈Luciano〉『それと、今後ともセシルと仲良くしてやってくれ』

〈Zero〉『はい?』

〈Luciano〉『これは個人的なお願いだ』

〈Zero〉『え、どういうことですか?』


 個人的な、お願い?

 突然のフレーズに、俺の思考は混乱する。


〈Cecil〉『今度会ったら教えてあげるw』

〈Moco〉『別に今でいいんじゃないの?』

〈Luciano〉『ああ、もったいぶる話でもないだろ』

〈Cecil〉『えー、驚く顔がみたかったのに』

〈Zero〉『え、何の話、ですか?』

〈Luciano〉『セシル・・・もといは、だ』

〈Moco〉『そして、でーす』

〈Cecil〉『あー、言っちゃった。実は二人はなのでーす』

〈Zero〉『え?』


 ええええええええええええええええええええええええ!?!?!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る