第32話 騒動から一夜
翌日の放課後。
「せんせー! 動画みた!」
「あれなにしたの!」
「てか、セシルと知り合いなの!?」
「お、見たかお前ら」
『月間MMO』が発売され、リダが動画をUPした翌日、恒例のゲーマーズたちが俺を囲んできた。
来ると思ってたが、予定通りだ。
「あれは、たぶん銃と弓の新ギミックだ」
「え、なにそれ!?」
「新発見!?」
いやぁ、尊敬の眼差しが気持ちいいね!
「マジ! いやー、でも
「それな! よくそんなこと思いついたなー」
「まぁ、俺のすごさってやつだな!」
堂々と俺が発見したことにするが、死にかけて適当にやったとかはもちろん言わない。
こいつらにとって俺はすごい人であったほうが、気持ちいいし。
「動画すげー再生数だよ」
「攻略サイトでも話題なってるし、すげーな! 話題の動画で、しかもそのメインの人が俺らのせんせーとか!」
「俺フレンドに自慢しちゃお!」
「学校名はいうなよ?」
「それはわかってるって!」
職業バレはギルド名で知られてもいいが、さすがに職場バレはまずい。
焦った俺の言葉に生徒は笑っているが、ほんとに大丈夫だよな……?
「ま、参考にやってみたまえ!」
ゲーマーズにそう言って別れを告げ、俺は職員室に戻る。自席に座って持参したお茶を飲みつつ、机の上に放置していたスマホに目をやると、誰かからメッセージがきていた。
誰だろ。
武田亜衣菜『動画見た!何あれ!なんか悔しい!』
武田亜衣菜『今日、るっさんが話聞きたいっていうから、ギルドハウス来てくれる?』
おいおい、ログインしてない時の連絡で俺が対応したら、俺と亜衣菜が直接繋がってんのバレんだろうが!
まぁ、ゲームのことでちょっと熱くなってんだろうけど。
さすが廃プレイヤー……!
ちなみにギルドハウスと言うのはプレイヤータウンではない、海上都市ワラザリアにある建物で、その建物に入ると自動的に所属しているギルド専用エリアに飛ばされる建物だ。
うちのギルドはあんまり使用していないが、パーティ最大人数の24人を越えるような大人数ギルドは、打ち合わせなどでそこを使うことはある。
俺も昔【
ちなみにギルドメンバーから招待コードをもらえば、所属していないギルドハウスにも行くことができる。
【
スマホの画面を見ながら苦笑いを浮かべつつ、俺は『行ければ』とだけ返し、職務専念義務を果たすべく、グラウンドへと向かうのだった。
「はい集合~」
そして18時頃、いつも通りの練習を終えて俺は部員たちを集めた。
最近のこいつらは部活に対して真面目度が上がった気がして、うん、いい感じだ。
「7月11日の練習試合が決まりました」
「やった! どこと!?」
おもちゃをもらった犬のようにはしゃぐ赤城。
こいつ、ほんとソフト好きだなー。
「世田商になりました」
「おー、けっこう強いとこじゃん! いいね!」
「そうだな。次の週にもどこかと組めるように探してるけど、とりあえずその日に向けて、各自頑張っていきましょう」
「がんばる!」
赤城と市原は元気よく、その他の部員は「はーい」というちょっと温度差をもって返事を返してくる。
「ま、その前にテストだからな?」
学生の本分は頑張っていただきたい。
こちらの言葉への返事は、元気がなかった。
そして今日は駅から素直に帰宅し、色々済ませた20時過ぎ。
〈Cecil〉『やっときたー!』
〈Cecil〉『おそいー』
〈Zero〉『こちとら仕事しとんじゃい』
〈Cecil〉『招待コードはrinrinね!』
〈Zero〉『やめい!』
ログインするや否や送られてきた亜衣菜からのメッセージ。
招待コードりんりんとか、ジャックも連れてこうと思ったけどできねぇじゃねえか!
〈Zero〉『とりあえず、行くわ』
プレイヤーハウスを出て、海上都市ワラザリアへ転移をする。
俺は普段はあまり来ることがない街だが、転移なしだと乗船許可証というアイテムを手に入れて、プレイヤータウンから
まぁ今は各エリアに転移装置が実装され、転移魔法が使えればすぐいけるのだが、転移魔法が実装されるまでは、それはもう遠く感じた場所でもある。
石畳の街並みの中心地に向けて移動すると、オープンチャットで俺の名前を呼ぶログがちらほら見えた。
いやー、そうだよな。
亜衣菜の件と、動画の件と、たぶん俺今、話題の人だよな。
そして国会議事堂のような形をしたギルドハウスの前で、俺は招待コードを聞いてくるNPCに話しかけ、先ほどの招待コードを入力した。
いやぁ【
エリアが切り替えられ、ギルドハウス内に入る。
なんということでしょう。
【Vinchitore】のギルドハウスは、それはそれは豪華な内装が施されていた。
はっきり言って内装を豪華にすることに意味はなく、完全に趣味にしかならないが、まぁ大手ギルドという体裁もあるのだろう。
この辺の好みを出せる辺りは、MMOならではだな。
イベント衣装とか、そういうのと同じノリだろう。
ハウス内に入ると、ギルドハウスの廊下にはそこかしこに見たことがあるようなプレイヤーたちが多かった。
そんな中で一人、俺に手を振ってくるプレイヤーがいる。
〈Cecil〉『ようこそ【Vinchitore】へ。歓迎するよゼロくん』
〈Zero〉『どーも』
ハウス内だから全プレイヤーに見えるわけではないが、そのへんにいるプレイヤーたちには聞こえるオープンチャットで、亜衣菜が俺に声をかけてくる。
こいつは俺のことをどういう風に言っているんだろうか、うーん、気になる。
なんとなくすげー見られてる気分になりつつも、〈Cecil〉の後に続く形で、ギルドハウスの奥の部屋に向かう。
ギルドハウスのでかさは、俺の知る限り圧倒的だった。【Teachers】のものとは比べものにならない。
明らかに見られている状況に緊張しながら案内された一室に辿り着き、その部屋に入ると、それはそれはすごいメンバーが揃っていた。
〈Zero〉『【
〈
室内にいたのは、この前も会った〈
【Vinchitore】の格闘・刀使いのサブ盾統括〈
短剣・苦無の遊撃役統括〈
【Mocomococlub】の参謀の〈
がいた。もちろん全員が、スキルキャップの武器を持つ廃人たちだよ。
〈Taro〉『ゼロやんおひさw』
〈Zero〉『たろさん、お久しぶりです』
たろさんはもこさんと同じく小人族で、おかっぱ頭の男キャラだ。ギルドでは
〈Luciano〉『わざわざ来てもらってすまないな。昨日はセシルが迷惑をかけたこと、まずは詫びよう』
〈Zero〉『いやいや、別に大丈夫っすよ』
中の人がどんな人かは分からないが、相変わらずこの人と話すのは緊張するな。なんというか、監査で来た指導主事とか、教育委員会の人と話すような、そんな気分だ。
ギルド的にはセシルが部下だから、上司としての謝罪ってことなんだろうな。
〈Luciano〉『ちなみにこの部屋の会話はこの部屋の中にいる奴しか見えないようになってるから、安心してくれ。録画もしていない』
〈Zero〉『なるほど』
〈Luciano〉『お互いセシルには手を焼くな』
〈Cecil〉『あ、ちょっとーるっさん!』
〈Zero〉『へ?』
お互いって、どういうことだ?
ルチアーノさんはギルドでのセシルって意味だろうけど……。
え、この人、俺のリアルの話、知ってたりするのか……?
モニター越しに、嫌な汗が湧き出るのを感じる。
ほぼずっとログインしてるけど、この人、そもそも何者なんだろう……?
プレイ開始から約8年。
いまだかつてない緊張が、俺を支配していた。
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