第21話 ギルドメンバー×長年のフレンド×同業者

「ゆめはまだ若いからいいけど、何だかんだもう結婚してる友達も多いんだよなー」

「あー、それは分かるわ。ご祝儀で出てくばっかだよな」

「そーそー。ゆめはまぁいいとして、だいは欲しくないとか言ってるうちに行き遅れちゃうかもよー?」

「よ、余計なお世話よ!」

「いやいや、年上の話には耳を傾けておくべきだってー」

「いい恋した~い」

「れ、恋愛とかよく分からないし……!」

「え、まさか今までずっといないの?」

「いないわよ!」

「だいはツンツンしすぎなんだよ~」


 俺とぴょんが今年で28、だいが26、ゆめが25という話だが、どうやら話の流れ的にゆめが一番恋愛経験は豊富な感じだな。

 しかしだいは今までずっと彼氏なしなのか。

 まー、たしかに常にあれだけツンツンされてたら、嫌われてるって勘違いされそうな気はするな。

 うん、俺もめっちゃビビったし。


さ~、甘えちゃえばいいんだよ~」

「!!!」


 甘えちゃえばいい、そう言ったゆめが、くる。

 全く予想していなかった展開に、俺は言葉も出せずに固まってしまった。

 だいも目を開いて驚いてるし、ぴょんは……なんか盛り上がってる。


「おー! やるなぁゆめ!」

「意外と筋肉あるんだね~」


 俺に右腕に両腕を回したゆめが、上目遣いに俺を見てそんなこと言う。

 たしかにこれは……可愛い。ちょっと、くる。


「おいおいゼロやんガチ照れじゃーん」

「ほら~、ドキドキするでしょ~?」

「か、からかうなよ!」

「え~、わたしゼロやん、じゃないよ?」

「おー、失恋したての女子に優しくするとか定番パターンか!」

「ゼロやんはわたしのことなし~?」

「だから年上をからかうなって……! とりあえず離れろっ」

「えー、ダメ~?」

「ゆめ、酔いすぎ!」


 あー、危なかった。

 だいの注意でなんとかゆめが離れてくれたが、正直まだドキドキしている。完全に酔いが醒めたわ。

 仕事中生徒たちがくっついてくることはあるが、プライベートでくっつかれるのはわけが違う。


「いやー、可愛い顔してやるねー、お姉さん見習いたいわー」

「ぴょんだって綺麗な顔してるじゃ~ん」


 ふわふわした笑顔のゆめは、ほんと甘え上手のザ・年下女子という感じで可愛らしい。

 こいつ、けっこうモテるんじゃないか?


「あたしは甘えるの苦手なんだよなー」

「え~、別にくっつくだけでもいいんだよ~」

「それはゆめだから出来るんじゃないかしら……」

「じゃあ、ゼロやんで練習してみなよ~」

「おい! 勝手に人を使うな!」

「よっしゃ! やってみる!」

「ええ!?」


 ゆめの無茶苦茶な言葉を真に受けた酔っ払いぴょんが、俺の正面の席から立ちあがり、俺の隣に座ってきて。


「どうだー、うれしいかー?」


 俺の左腕にくっついてくる。

 もちろんドキドキはするのだろうが、なんだろう、ゆめより柔らかさが少ない。


「あー、だわ」

「おい!」

「え~、じゃあわたしは~?」

「ちょ、ちょっと!」


 くっついてくるぴょんに触発されたか、再びゆめが俺の右腕に抱き着いてくる。

 あー、やっぱりゆめの方が、女の子がくっついてきてる感じがするな。


「酔いすぎよあなたたち……!」


 反対側の席に一人で座るだいからすれば、わけのわからん状態だよな、これ。


「ゆめの方が、女の子感あるなー」

「あ?」

「ぴょんこわ~い」

「誰がだって?」

「だ、誰もそんなこと言ってねぇだろ!」

「最低」

「ご、ごめんなさい」


 上目遣いは上目遣いだが、完全に殺気を放った目で俺を睨み上げるぴょんと、心から冷たい声で俺を非難するだい。

 結局いつも攻撃対象は俺ばかり。俺、ノーダメージで攻撃するガンナー銃使いなんだけどな!


「まーでも、あたしもゼロやんはなしじゃないな!」

「はぁ?」

「でもあれかー、元カノがあれセシルだもんなー。あたしよりゆめのがタイプかー?」

「え~、セシルちゃんと比べられんのはつらいな~」

「じゃー、あたしもコスプレしてやろっか?」

「何の話だ!」

「あ、ゼロやんちょっとドキドキしてる~」

「コスプレ好きかー」

「変態」

「違うよ!?」


 俺の名誉のために訂正させてもらうが、俺がドキドキしたのは不意にセシル元カノの名前を出されたからだからな!

 って、元カノの名前出されてそうなるとか、それもどーなのって話か……。


「だいは、ゼロやんはなの~?」

「え、な、何よ急に!」

「わたしはホントにゼロやんならだよ~」

「あたしも! 初めて会ったけど、2年前から知ってるから他人って感じはしないしー」

「あ、じゃあ今度は3人であそぼ~」

「え!?」

「おやおやー?」

「わ、私だって二人と遊びたいし!」

「ふ~ん?」

「俺の意見は!?」

「「関係なしっ」」

「ひどくね!?」


 完全に俺の意見は無視されるようだ。しかしこいつら酔っぱらってるからだろうけど、彼女なしの男相手に堂々と「あり」とか言うなよ……!


「じゃー、今度はゆっきーとジャックも来れるように、新宿とかで集まるかー」

「お~、いいね~」

「おお、それなら男も3人に!」

「それはどうだろね~」

「なー」

「え、まさか!?」

「当日までドキドキしてなさいよ」

「だいも乗り気じゃ~ん」

「べ、別にいいでしょ!」

「じゃー、7月3日の金曜とかは? テスト期間だからみんな部活ないっしょ?」

「わたしはおっけ~」

「私も大丈夫」

「じゃ、決まりな!」

「俺は!?」


 両腕をつかまれたまま進む会話。

 ほんとに、俺には発言権なんかないらしい。

 まぁ、俺も部活ないから行けるけど。


「また次も楽しみ~」

「そうだな! こんな楽しいと思ってなかったわ!」

「そうね、私もみんなに会えてよかった」

「ゼロやんは幸せ者だね~」


 否定はしない。


 ぴょんがくっつく左腕を力づくで動かし、時計を見るともう20時を回っていた。

 あっという間の4時間だったな。


「じゃー、明日もあるし、そろそろ解散しますかー」

「うん~、あ、その前にTalk交換しよ~」

「お、そうだな! ナイスアイディア!」

「あとでグループ作って招待するね~」


 みんながそれぞれスマホを手にしたため、ようやく俺の両腕が自由になる。

 ああ、自由って素晴らしい。


「そういえば、これでようやくみんな本名公開だな!」

「そ、そういえばそうね」

「ゼロやん倫理の先生で、名前倫ってウケる~」

「やかましいわ!」


 だいの連絡先と名前は昨日先に知っていたが、俺の連絡先に新たに二人が加わる。

 ピアノを弾いている後ろ姿のアイコンがゆめだよな。平沢夢華ひらさわゆめかっていうか。なるほど、〈Yume〉は本名の一部なんだな。

 で、テニスラケットとボールのアイコンがぴょんか。山村愛理やまむらあいり、か。〈Pyonkichi〉は、キャラメイクした時にでもつけたんだろう。

 ちなにだいのアイコンは練馬大根……ではなく、実家で飼っているというアメリカンショートヘアだ。だいに似て、美形にゃんこだぞ。


「ゼロやんほんと、LA好きなんだね~」

「ゲーマーアピールにしかならないわよ、それ」

「い、いいだろ! 嬉しかったんだから」

「ま、あたしらからしたらゲーム内の呼び方のがしっくりくるし、本名は使わないでいこうぜー」

「そだね~」

「それは同意だな」

「部活中にだいって呼んだら、殺すわよ?」

「それはしねーよ!」

「あ、そっか、いいな~だいは、毎週ゼロやんに会えるのか~」

「仕事で会うだけだから!」

「照れてんの顔にでてんぞー?」

「ああ、もう!」


 あ、そっか。だいとはこれからしばらく、毎週合同練習で会うのか……。

 うわ、上手くやれる気がしねーーー。


 お互いを知ってしまった以上、昨日みたいな対応は、期待できないよな。


「それじゃ、お会計してかえろ~」

「ああ、ゆめはよ」

「へ?」

「だって、ゆめを慰める会で集まったわけだろ? 予約とかもしてもらったし、ゆめの分は俺が出すよ」

「え~、いいの~?」

「うわ、イケメンかよ」

「さらっとそういうことできるの、女慣れしてる証拠ね」

「ゆめ可愛いもんなー」

「いや、そういうわけじゃねーから!」


 これは朝から決めていたことだったのだが、残念なことにぴょんとだいからは余計な勘違いをされてしまう。


「えへへ~、ごちそうさまですっ」


 だがゆめの笑顔が炸裂したから、まぁよしとしよう。

 ギルドメンバーが元気になってくれれば、それでいいのだ。


 下心じゃないからな!!

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