第13話 リアルの出来事が与える影響は大きい

 いやー、よかったよかった。

 結局俺の出番なかったけど、やっぱ大人を動かすのは生徒の力が一番ってことだな。


 職員室に戻ったあと、月見ヶ丘の生徒たちが何を話したかは分からないが、里見先生の感情を動かすような話し合いがあったのは確かだろう。

 そして赤城の言葉。やはり3年間ちゃんと部活と向き合ってきた生徒の言葉は、重みが違うな。


 おそらくこの合同チームはいいチームになるだろう。

 里見先生が星見台と和解したことで安心した生徒たちは、お互いにTalkの連絡先交換をしていた。

 JKたちが仲良くなるのははえーなー。


「あの、私も北条先生の連絡先を頂いてもよろしいですか? 業務メールですと、出先の時とか対応できませんし」

「あ、もちろん! ぜひ!」


 ナイスだぞ生徒たちの流れ! 

 個人的な連絡を取り合うというわけではないが、里見先生みたいな美人の連絡先をゲットできたのはやはりちょっと嬉しい。


 俺は里見先生の提示したTalkのQRコードを読み取り、俺のスマホに里見先生の連絡が表示される。


「里見先生は、なつきさんって言うんですか?」

「あ、はい。野菜の“菜”に、夜空の月の“月”で菜月なつきです。実家が練馬大根ねりまだいこんとかを作る野菜農家でして……千葉なんですけど」

「へー、練馬大根って千葉でも作ってるんだ。知らなかったなー」

こまちだってでも作ってるから、ただの固有名詞なんですよ」

「そう言われれば、たしかに」

「そういうことです。では私から1回連絡しますね……あ」

「え? どうかしましたか?」

「い、いえ! サ、サバイバルゲームとかお好きなんですか?」

「ああ、ですか? いや、それゲームに登場する銃なんで、実際の銃じゃないんですよ」

「そ、そうなんですね!」


 って、こんなこと言うとゲーマーだって引かれてしまうか!?

 火曜日に手に入れた銃が嬉しすぎた俺は、Talkのアイコンを手に入れた銃の画像にしてしまっていたのだが、若干引いてるような気がする里見先生の対応に思わず焦ったのが、時すでに遅し。


「すみません、このあとちょっと業務をするので、また連絡しますね!」


 そう言って足早に校舎内に戻って行ってしまった里見先生の後ろ姿を、やるせない気持ちで俺は見つめるしかできなかった。




 その日の夜。

 ギルドチャットにて。

〈Zero〉『ちーっす』

〈Soulking〉『お、ゼロやんこんばんは~』

Earthあーす〉『やっぴー☆』

〈Zero〉『お、嫁キングにあーすじゃん。久しぶり~』

〈Zero〉『嫁キング、子どもは?』

〈Soulking〉『今は旦那に任せてる』

〈Zero〉『なるほど。リダは今中身いないのなw』


 俺がログインしたのは19時くらいだったのだが、さすが土曜日。既に紹介したメンバーだと〈Gen〉(中身なし)、〈Yukimura〉、〈Jack〉、〈Pyonkichi〉がログインしていた。

 ちなみに嫁キングこと〈Soulking〉は以前に説明した通り、ギルドリーダーの嫁で、現在は育休中の小学校教員だ。プレイヤーとしては犬型獣人の男キャラを使ってるくせに、錫杖スキルを上げてプリースト錫杖使いをメインとしてやっている。

 そしてあーすこと〈Earth〉はこのギルドに入ってまだ3か月目のプレイヤーで、弓と盾&片手剣スキルを上げている緑色の髪をした可愛い系女ヒュームだ。たぶん、ネカマだろうけど。


 ネカマ、という言葉はもう市民権を得た言葉だと思うが、ネット上で女を演じる人のことであり、MMOでの女キャラのかなりの数はネカマだと、正直思っている。

 だがまぁ自分の分身たるキャラクターを可愛い子にしたいという気持ちを悪いとは思わないし、それもMMOの文化だから、いいんじゃないかな。

 ネカマの姫プレイ(※男性プレイヤーに貢がせたりちやほやされること)は、正直どうかとは思うが、まぁそれもお互いが嫌な思いをしないのならば、ありだろう。

〈Juria〉にくっそ高い槍をプレゼントした〈Mobkun〉なんかは典型的な貢ぐ君なんだろうなぁ。


〈Zero〉『あれ、だいはまだ来てないんだ』

〈Earth〉『来てにゃいねー。ゆめちゃんもまだだよー』

〈Zero〉『たしかに』


 あーすの言葉遣いについては、触れないのが大人というものである。当たり前のように聞き流しながら、俺は今いるメンバーでの今日の攻略について少し考えてみることにした。


〈Gen〉:盾役パラディン盾&片手剣使い固定。盾いないとボス戦何もできずに死ぬ。

〈Jack〉:サポーターメイス使い。この前はヒーラー兼任と無茶をさせたが、嫁キングが来れるならジャックも少しは楽になるだろう。

〈Soulking〉:錫杖しか鍛えてないからプリースト錫杖使い一択。回復役が固定でいるのは心強い。

〈Yukimura〉:武士刀使い一択。名前からも想像がつくように、刀一本のロールプレイをしているタイプだからな。史実だと槍だと思うんだけど、それを言うのは野暮ってものだろう。

〈Pyonkichi〉:ウィザード樫の杖使い一択。だいより火力は落ちるけど、まぁ俺の火力上がった分大丈夫だろう。

〈Earth〉:とりあえず弓でいって、いまいちだったらサブパラディンでもやってもらうのがいいかな。あ、ボスまでの道中はあーすがパラディンで、リダに両手剣ファイターやってもらってもいいかもしれない。今後のためにも修行してもらいたい。

俺:ガンナー銃使い(譲れない)


 あとはだいとゆめがきて、9人か。この前より3人増えるから、HPが1.5倍くらいかな。だいがロバー短剣使いでゆめが斧振るえば、まぁギリ削れるかな。

 そんな試算をなんとなくやってみる。


 ちなみに5戦5敗していたときは、ボスであるキングサウルスの超火力に対抗するために回復を厚めにし、俺がサポーター、ジャックと嫁キングがプリーストをしていた。さらにゆめが回避に優れた苦無使いの忍者で、ぴょんがいればだいはロバー、いなければウィザードを務め、長期戦で確実にHPを削る戦略を取っていたのだが、回復が遅れて負けたり、火力攻撃力不足で負けたりと敗戦続きだったのである。


 ボス級のモンスターを倒す際の必須役割は盾役とサポーターなのだが、この前の火曜日は嫁キングが子どもが寝付かないせいで来られず、当たって砕けろの精神で俺が敵の攻撃範囲外から攻撃できるガンナーに回り与ダメを増加させ、ぴょんがいなかったからだいがウィザードで遠距離から攻撃し、ゆきむらが本来は防御面もある程度優れた刀スキルを捨て、火力オンリーのアタッカー武士をやり、ゆめが大火力の斧ファイターで殴り、とジャックのサポート能力に依存した火力全振り編成を組んだのである。


 あの編成で勝てたのは正直ジャックの個人スキルに依存してたと思うが、まぁ勝ちは勝ちだ。おかげで俺は最強銃を手に入れたし、ギルドの火力は大幅に上がったと思う。

 それにだいは本職ロバーだから、ぴょんがウィザードで行けるなら、だいの短剣もかなりのダメージソースになってくれる。

 ちなみに今回のボスは3分に一度魔法で一定ダメージを与えないと無敵化するというスキルを使うため、ウィザードが必須なんだよな。


〈Jack〉『ゼロやん、あーすは何で来てもらうべきかねーーーー』

〈Earth〉『なんでも任せろぅ☆』

〈Zero〉『あ、俺の火力爆上がりだから、盾2枚でもいいかもね』

〈Jack〉『あーーーー、たしかに。ヘイト軽減魔法でも、あの火力はカバーしきれないかもねーーーー』

〈Earth〉『あーちゃんがみんなを守りますねっ』

〈Zero〉『そのつもりでよろー』


 いちいち言い方にツッコミをいれたくなるが、相手にしたら負け、相手にしたら負けだぞ俺。……というかこんな中身でもこいつも教師なんだよな……恐ろしい……。


〈Yukimura〉『俺も、今回は防御寄りでいったほうがいい?』

〈Jack〉『そうだねーーーーゼロやんの火力に、だいとゆめの火力もあれば、けっこう足りそうな気はするかなーーーー』

〈Yukimura〉『わかった』


 ゆきむらはゆきむらで、しゃべり方とかまでロールプレイする気はないんだよな。名前と武器だけで、まぁ満足なんだろう。

 なんだかんだギルドリーダーは〈Gen〉だが、俺とジャック、だいはけっこうリダを含むみんなからいろんな質問を受ける立場にある。

 ぴょんには知られてしまったが、リダを除く他のメンバーは俺らが廃ギルドにいた経験があるのを知らないはずなんだけど、まぁやってるうちに分かるよな、そういうの。

 21時の開始まではまだ時間があるし、どれ、Juriaは何をしてるかなとサーチしようとしたとき。


〈Cecil〉『今日活動日でしょ? 今日の動画、UPしちゃだめってちゃんといっとくんだぞー』


 一昨日に引き続き、俺にとって特別な名前のキャラクターからメッセージが届いた。

 こいつの名前を見ると、なんとも言えない感情になるのだから、相変わらず情けないな俺。


〈Zero〉『わかってるって』

〈Cecil〉『ん、よろしい。次号の発売来週の水曜だから、来週の火曜もね!』

〈Zero〉『仰せのままに』

〈Cecil〉『で、あたしと行きたいお店決まった?』


 ぶっ。

 モニターを見ていた俺はそのメッセージに思わず噴き出してしまう。


〈Zero〉『は? 何のこと?』

〈Cecil〉『えー、一緒にご飯いこーって言ったじゃーん』

〈Zero〉『そんな具体的な話だったのかよw』

〈Cecil〉『つれないなー』

〈Cecil〉『お礼に奢るっていったじゃーん』

〈Cecil〉『あ、もしや』

〈Cecil〉『新しいできた?』

〈Zero〉『いねーよ!』

〈Cecil〉『ならいーじゃーん』

〈Cecil〉『ちゃんと変装するからさ?』


 『いねーよ』なんて自分で言ってて悲しくもなるが、後続のメッセージに俺がモニターの前で何とも言えない感覚を味わっていると。


里見菜月『今日は合同練習ありがとうございました。みっともない姿を見せてしまい、申し訳ございませんでした。次回は私もグラウンドで指導に参加しますので、来週もまたよろしくお願いします。里見』


 おお、なんて丁寧な人なんだ。

 いやー、ほんと綺麗な人だったよな……亜衣菜も可愛かったけど、系統が違うし……里見先生が彼女になったら……。

 って何を妄想してるんだ俺!


北条倫『ご丁寧に連絡ありがとうございます!全然気にしないで大丈夫ですよ!来週は、ぜひ里見先生のノックの腕前を拝見させてください(笑)』


 っと、こんな感じで送信、と。今日のことをぶりかえしすぎるのも、よくないよな。


里見菜月『拝見されるほどのものではありませんが……頑張りますね!』


 すぐにメッセージが返ってきた。そして続けざまに「頑張り大根!」というシュールな大根のキャラクタースタンプが来る。

 なんだこれ、意外すぎるだろ!

 ……ギャップ萌え……? ちょっと可愛いな。


〈Cecil〉『無視すんなー』


 あ、しまった。


〈Zero〉『本当に行くんだとしても、セシルが行きたいところでいいよ』

〈Cecil〉『え、ほんと? じゃあ探しとく!』

〈Zero〉『よろしくー』


 ここ何年も会おうなんて言ってこなかったくせに、なんかあったのか?

 まぁ、でも気まぐれな亜衣菜のことだ。どうせ忙しくて忘れる可能性も高いだろ。


 しかし、LA内で元カノと、スマホですげー美人と連絡取り合うとか……なんか、ちょっとドキドキするな。

 ってガキか、俺は……。


 亜衣菜は仕事上でのお礼だし、里見先生にいたっては業務連絡の延長だ。

 変な期待を持ってもむなしいだけだよな。


 Juriaのことを気にかけていたことなど完全に忘れた俺は、亜衣菜との思い出を思い出したり、今日の里見先生の笑顔を思い出したりと、かなり気持ち悪い時間の使い方をしながら21時の定刻を待つのだった。

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