一曲目「闇姫様奇譚」7話

「カフェ・牝馬亭」一周年記念イベント開催!

 異世界の吟遊詩人・ビィーアによる弾き語りライブ開催‼

 ※入場無料。ただし、ワンドリンク以上の注文をお願いします。


 店の前に張り出したポスターがこれ。ベタすぎだろうが!

 だが、オーナーには逆らえない。そう、亜乃さんはよりによって、ビィーアを店のイベントに登用しやがったのだ。

 そして今日がその一周年イベントの当日だ。店内はなじみの常連さんたちでそこそこ埋まっている。

「ねぇねぇ、ビィーアさんってどこの人ぉ~?」

「えー、異世界の人ですよぉ~」

 亜乃さんがドリンクを運びながら笑っている。常連さんたちも、まさか本当に数日前に異世界からやってきた吟遊詩人だとは思っていないだろう。ネタをネタとして大真面目に楽しんでいるだけだ。

 でも、本当に「本物」なんだけどね……

 時間が来たので俺は店内の照明を少し落とす。例のシジルが描かれた半円形のステージには椅子が一脚のみ。そこだけが明るい状態になった。まずは亜乃さんがご挨拶。

「みなさま、本日はお集りいただき、まことにありがとうございます。牝馬亭の女将でございます。おかげさまを持ちまして、このお店も無事一周年を迎えました。これもひとえに、みなさまのご愛顧あってのものと、深く感謝申し上げます」

 深々と頭を下げる亜乃さんに、みんなから拍手が起こる。

「そこで本日は一周年を記念して、何と異世界から吟遊詩人をお呼びして一周年おめでとうライブを行います!」

 客席からどっと笑いが起こる。

「じゃあ、ご登場いただきましょう。吟遊詩人のビィーアさんです!」

 ここで俺がカウンターの奥に隠れていたビィーアを促す。彼はやや緊張した面持ちで客席の間を縫ってステージに向かった。金髪碧眼で竪琴を手にした彼を見て、お客さんたちから「おぉーっ」というどよめきと拍手が起こる。

「外人だよ」「服装がリアル~」「芸が細かいなぁ」「やだイケメン」

 そんなつぶやきも聞こえる中、ビィーアはステージの椅子に座る。

「ミナサン、コニチワ。吟遊詩人ノ、びぃーあ、デス。何故カ、コノ店ノ、ゴ主人ノ、亜乃サンニ、異世界カラ、召喚サレテ、シマイマシタ」

 わざと拙い外国語訛りの日本語で話すビィーアに、客席からくすくす笑いが漏れてくる。

「亜乃サン、言イマシタ。『らいぶ演ラナイト、元ノ世界ニ戻シテヤラナイ!』ッテ」

 客席が大いに沸いた。なるほど、つかみはOKだ。こういうところが、異世界でも人気だったのかな。

「ソレデハ、歌イマス。マズハ、恋ノ歌、デス」

 竪琴を鳴らしながら、ビィーアは歌い始めた。単純な旋律だけど、それが却って切ない恋心を聴く者に伝えてくれる。どこの国の言葉なんだろう。意味は全く分からない。

 ビーィアの歌を聴きながら、俺はあの綿密な打ち合わせを思い出していた。


「――あなたの見た目で日本語ぺらぺらは変でしょ? なので、ちょっと外国訛りでしゃべってほしいの。あなたの国でも、そういう人はいるんじゃない?」

「例えば……コンナ感ジ、デスカ?」

 ビィーアがいかにも外人っぽい日本語口調で話した。

「そう、それそれ!」

「私もある程度なら他の国の言葉は話せるし、他国の民謡・俗謡などを知っている。要は、あまり言葉が分からない振りをすればよいのだな」

「そうね、後は、当日歌う歌についてなんだけど――」

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