幼女クロアギルド長のラクシア奮闘記
泉 燈歌
第1話
吾輩はクロアである。名前はもうある。
生まれた地——故郷である地球の日本国を遠く離れ、3本の剣によって形作られたと言われているこの異世界ラクシアへと流れついた転生者である。
……そう、転生者である。元の自分が死んだかどうかは定かではないが、姿かたちが変わって別の存在となってしまっているので、便宜上こう呼ぶのが正しいと思う。
吾輩はクロアである。身長は114.514cm、体重は秘密である。
何も知らないままに慣れぬ身体で異世界へと放り出され、色々なことがあった。それこそすべてを語りつくそうと思えば10万や20万字では済まないくらいにはいっぱいあった。なので、過去のことはひとまず置いておこう。
これから話す……今回の話は、今現在の話だ。
まずはクロアさんの一日を見ていこう。最近は生活環境も安定期に入り、忙しいものの充実した日々を過ごせている。
……クロアさんがクロアさんと自称するのは、一人称が「わたし」、「私」、「クロア」などなど色々試している時ずっと「クロアちゃん」呼ばわりされていたからである。ちゃん呼びはむずがゆい感じがするのでいただけない。慣れたら平気かもしれないが個人的な感傷の都合で慣れたくないのだ。
クロアさんの朝は早い。
クロアさんは小さな(本人の謙遜が多分に含まれた表現)冒険者ギルドの長である。冒険者とはおそらくファンタジーな世界観に慣れ親しんだ者なら言うまでもなくおおよそのことは察してくれるだろうが、依頼であれば非合法的なものを除いて大体なんでも引き受ける何でも屋さんのことだ。主な仕事は魔物の討伐や下水道の掃除に始まり、薬草採集や傭兵染みた戦争加担、ロマン溢れる古代文明の遺跡調査や探偵にでも頼めと言いたくなるような素行調査など多岐に渡る。
自分のギルドに所属する冒険者にあちこちから寄せられた依頼の仲介や紹介を行い、円滑な依頼遂行を補助するのがギルドの役割である。他のところでは少々違ったりもするが、クロアさんのギルドではそういう感じでやっている。
「ふぁ………………あと5分………………」
欠伸を一つ漏らし、そしてまだ時間に余裕があるから、と言い訳をして再び寝床に埋もれる。
過労死するほどではないが、毎日働き詰めなのだからこういうこともある。仕方がないのだ、身体は休みを欲しているのだ。
……そんな益体もない自己擁護の寝言を呟いていると、部屋のドアからコンコンとノックの音が響いてきた。
「クロアさんクロアさん、あさですよー。おきてくださいー」
毎日耳にする、慣れ親しんだ者の声だ。
どことなく拙い交易共通語(我々の文明社会で最も使われている統一言語である)でこうして起こしに来るのは一人しかいない。
「クロアさーん? おきないとかんかんかーんってならしますよクロアさんー?」
「はいはい、もう起きてるよ。ちょっと待っててね」
目は覚めていたので嘘は言っていない。
未練がましく寝転がり、オフトゥンの温もりを一撫でしてからようやく過酷な現実へと抜け出す。
「
枕元に置いていた魔法の発動体を手に取り、詠唱によって
そう、魔法だ。初めて見聞きした時は随分と感動したものだが、生活の一部となってしまってはただの日常風景に過ぎない。才能や種族の問題で扱えない者もいるが、この程度の明かりの魔法など学生が真っ先に学び覚える初歩のものでしかない。
寝間着を脱ぎ、ギルド長としての制服に着替えたら眠気など意識から消えてなくなる。いわゆる仕事モード起動というやつである。
「——おはよう、こぼさん」
「おはようございますクロアさん」
ドアを開け、律儀に待っていた小さな同居人と朝の挨拶を交わす。
人間の美的感覚だと見た目で性別を判別するのは難しい、二足歩行する犬のようなもふもふの人型種族。種族名はコボルド。遥か太古の時代に力を求めて人族から離れ敵対するようになった
1年ほど前に行き倒れているのをクロアさんが保護し、ギルドの従業員として雇っているのである。
「緊急の依頼はきてた?」
「きませんでした」
「一昨日出発した一行はもう帰ってきてる?」
「まだです……けど、おそらく
「そっかそっか、たしかにそうしそうだもんね」
廊下を歩きながら恒例の運営確認。
急を要する依頼は深夜だろうが早朝だろうが構わず飛び込んでくるし、冒険者が依頼や冒険で出掛けるのも朝に限らず、帰ってくる時間も昼夜問わないのは当然の話。
ギルドは24時間休むことなく開き続けている必要があるのだ。……無論、義務付けられているわけではないのでギルドによっては時間帯をきっちり分けて締め切っているところもあるにはあるが。
トントントントン日野の二トン、とリズムよく口ずさみながら階段を降り、食堂と空間を同じくする大広間へと到着。
まだ朝日が昇っていない時間帯にも関わらず、すでに何人かの冒険者の姿が見える。前日からずっと夜更かししていたり、睡眠が必要のない種族だったりと様々な理由で顔馴染みたちがそこにいる。
「ショタ…ショタ…ショタ…(起動音)
ショタはかわいいですね。最近はダウナー系のショタとか言うジャンルを見かけてプルルゥップルルゥップルルッ!!!!ってなりましたねぇ。ええ。ショタの良いところは穢れを知らない素直なところだと勝手に思っていましたが大人びておとなしくなったショタも股よろしい。しかし、所詮は無垢。そのメッキを剥がしてやれば、まぁ素敵!素直な子よりも繊細で敏感であぁ、これが罪と言うものですか。正に禁断の果実ッ!しかし、大人びていると言うことはつまり大人びる必要があること。そのうらに有る闇の存在を考えるだけでご飯が進むぅッ!あ、でも、指先ぐらいなら…ペロ…ペロッピチャッ…チゥ、チウチゥ………ジュルルッ!ズゾッジュッ!ジュルルルルルルルルルゥムッゥルルルルルルル……………。
んー、美味しい。ご飯をお伴にショタが何杯でもいけますねぇ。ごちそうさまでした。やはりショタは良いものですねぇ」(注:原文ママ)
「あの…………アレはいつまで起きてるのかな?」
「
「聞き方が悪かったね、あのショタコンはいつ永眠してくれるのかな」
「
「なんか怖いからやだ……」
――一角を陣取っている謎の不審者のことは見なかったことにした。例えよく知った間柄であっても、朝から相手にするのはもう少し軽い話題で済む人の方が精神衛生上よろしいので。若干の毒が混ざってしまったのは朝一番で最初に見た人物の呟いてる内容がアレだからだ。空想で済ませているとはいえ良い子には見せられない。可視化オーラとして纏っている穢れは伊達ではないのだ。まぁもっと穢れてるやべーのもいるが……。
……気を取り直して別の席で落ち着いている一団と目が合ったので近付いて朝の挨拶を交わす。
「みんなおはよう!」
「おはよー」「おはよう」「おっはー!」「Hello」「ぐもにぐもに」「おはようございます」「おはよ」「ぽきた」「ぽはよ」「ちくわ大明神」「挨拶は大事。古事記にもそう書いてある。おはようございます」「ぱんころ~」「おはようごぜーます」「誰だ今の」「あれは私のおいなりさんだ」「お前だったのかゴン」「暇を持て余した」「神々の」「
なんか思っていたよりいっぱいいたが最後ので全員静かになった。……ので、気にせずカウンター裏へと向かって朝一番の書類整理の仕事に取り掛かる。
「いつものです?」
「うん、いつものお願いね」
「わかりましたー」
いつもと変わらず、お砂糖ふたつにミルクを混ぜた紅茶を頼む。
依頼の整理と、いつまでも残っていた際にどこかの一党に頼んで受けて貰えそうな案件など様々な情報をまとめ、仕分けていく。冒険者のランクごとに勧めるべきものも違うし、余所のギルドに回して回されたりの調整をしたり、考えることは山積みなのだ。一日中書類とにらめっこをしていてもまるで終わる気配がないのだから大忙しと言っても過言ではないだろう。
「おまたせしましたー」
「あぁ、ありがと。そこに置いといてもらえるかな」
「はーい」
だいぶ昔、机の上に直接置いてもらったら見事に手をぶつけてぶちまけてしまった前科があるので、その後設置した専用の机に置いてもらう。
……ぺらぺらかりかり、紙とペンが踊る音だけがこの場を占めている。
こぼさんは朝食の支度に向かったらしく、紅茶を届けてから姿が見えない。
実に平和で、静かなひと時。
賑やかなのも悪くはないが、落ち着いて過ごせる時間というのも良いものだ。
「クロアさんクロアさん。あさごはんですよー」
「はいはいちょっと待っててね、これだけ片付けたらすぐ行くから」
「はーい」
呼ばれてから食堂の方から漂ってくる匂いに気付き、それと同時に自身の身体もエネルギーを欲していることを思い出したかのようにぐぅと音を立てた。
「今朝はー……お肉?」
「ですです」
「なら楽しみだ」
料理が得意な人が作っているときはいいのだが、たまにえげつない汚染兵器を生み出す事件が起きたりするのでここの食事は稀に命懸けとなる。……英国面な人の場合は朝食以外信用していないが。朝食だけならまともだからこそ英国面なのだ。英国なんて国はこの世界に存在しないがそれはそれ。
——ちなみに今日は朝からローストビーフだったので優雅な気分に浸れた。
朝食を軽く済ませると、再び仕事へと戻ることになる。
ギルド長は表立って冒険者と関わることはそれほどなく――無論、英雄と呼ばれるようなレベルの者や緊急の依頼など重要性の高いものの時は直接話すこともあるが――基本的な依頼の処理は受付カウンターにいる職員が応対する決まりとなっている。
毎日恒例の朝礼を行い、職員たちと直接顔を合わせて一言二言コミュニケーションを取る。順風な仕事には円滑な人間関係が必須である。
「それじゃあ、今日も一日頑張ってよろしくやっていきましょう!」
「はい。クロアさんも無理はしないように」
「昨日も遅くまで仕事してたでしょう?」
「大丈夫大丈夫! 慣れてるから!!」
昨日今日就任したひよっこではないのだから、多少の寝不足でどうこうなるものでもない。油断は禁物だがまだ無理をしている段階には至っていないと思う。
「さてと、今日中になんとかしないといけないのはー……小型の
「あ、奈落の方ならさっき食堂で話してる時に中級の一党が受けてくれることになりました。昼前には出発して夜までに戻るそうです」
「本当っ? いやぁ助かるなぁ……規模が小さい内に潰しておかないといけないんだけど中々みんな予定が合わなかったりするし」
「ですねー。最近みんな忙しいみたいだし」
「うちのギルドの評判がうなぎのぼりで仕事が増えてるからじゃないですか?」
「ギルド長が可愛いからでしょ」
「「なるほど」」
「褒めても何も出ないよ?」
「事実を言ってるだけです」
「そ、そお……? えへへ……」
これまでも散々言われてきているので慣れてはいるが、そしてその度に若干複雑な思いが沸き上がるものの容姿を褒められて嫌な気分になるほど捻くれてもいないのでやっぱりちょっと嬉しかったり。
「
「
「
そしてしれっと観葉植物に紛れ込んでいる二足歩行の寛容植物は存在感を発した数秒後には木材へと加工されていった。どうせまた近くの森でリスポーンするだろうしあれがなんなのかは全員もう気にしないことにした。実害もそれほどないのだし。
そうして、これまでの日々と変わらない業務を開始してから数時間。あっという間に過ぎているようにも感じられるが、平時ならそんなものである。非常事態宣言が発令されるような緊迫した状況にでもなったら嫌でも忙しくなる。
いや、街全体の危機に限った話ではない……誰かが助けを求めた時、冒険者ギルドは逸早くそれに応えるのだ。
「クロアさんクロアさーん」
切羽詰まったような、けれどもいまひとつ緊迫感に欠ける声が響いてくる。
さて今度は何事だ、と若干身構えているとやはり姿を現したのは小さなもふもふ。
「はいはいクロアさんですよっと。……事件? それとも事故?」
「じこー……です?」
「どうして疑問形なの?」
「わふぅ…………とにかくきてください!」
「わかった、じゃあちょっと行ってくる!」
「「いってらっしゃーい」」
少しの間くらい席を外しても支障が出ない職場というのは中々素敵なことではないだろうか。ありがたい話ではなかろうか。
勤務環境への満足感はさておき、とてとてと可愛らしい擬音でも出そうな走り方をするこぼさんに連れられてやってきたのはギルドの入り口。
そこには幾人かの顔見知りと、それ以外との半々くらいの割合で人だかりができていた。
「何があったの?」
「怪我人みたいですよ。目の前の道路で
「大変じゃん! みんな退いてどいてー!!」
顔見知りはクロアさんの姿を見ると道を開けてくれるので、すぐに中心へと辿り着けた。
そこには泣きじゃくる子供と、床に伏せている血まみれの女性の姿があった。
ひとまず、近くで手当てをしていたと思わしき冒険者から話を聞く。
「応急処置は?」
「一応自分が。
「他に誰か治療できる人は?」
できれば即効性のある魔法で、と見回してみるも――
「
「
「
「最後のはなんかちょっと違う気もするけどうんわかった頼りにはならないね!」
え、【夏の生命】は? などと聞いてはいけない。彼らに高揚など必要ないのだ。全国の
「じゃあ今、治せるのは……」
「クロアさんだけです」
ギルドには傷を癒すポーションの類も当然あるにはあるが、決して安いものではないしそれよりももっとローコストで効果のある手段が存在する。
……の、だが。
………………。
だが、今更躊躇うほどのものではないだろう。
別に……。
……うーん……しかし……。
「クロアさんー?」
「ママを……だれか、たすけて……!」
「——任せて!」
何を迷う必要がある。
目の前の命を救うのに、理由が必要か。
否ッ!!
「我が名はクロア! 第一の始まりの剣ルミエルの加護を受けし者、才児神クロアにゃり!!」
「クロアにゃん到来」「キタコレ!」「来た、メインヒーラー来たこれでかつる!!」「くろきゅあがんばえー」「お前ら黙って見てろよ……」「
神名解放。
普段は隠していた耳と尻尾が露わになり、語尾までも浸食されていく。
だが、そんなことは構わない。というかこれが初めてというわけでもなく。周りの慣れ切った野次馬たちの声も初見勢の驚く声も意識に入らない。
「我が神名においてここに奇跡を
クロアさんが翳した手から聖なる光が迸り、女性の身体を包み込む。
それは神の力の一片。始まりの剣から引き継がれし想いの力。人々の信仰によって支えられた世界の理。
……と、大層なことは言ったがこの世界においては割と普遍的なただの魔法に過ぎない。神の声を聴くことができる者たちが扱う魔法――神聖魔法に分類される、中位以上の神官なら誰でも扱える程度のものだ。
「——ふぅ、これでもう大丈夫にゃ。完璧に治せた……はずにゃん!」
「ありがとうクロアにゃん!!!」
「せめてさん付けにしてほしいにゃん……?」
例え相手が純真な子供だろうとそこは譲れない。
聞けば不注意で道路に飛び出したところを母親が庇ってこうなったそうだ。そのお説教は
……ここでひとつ弁明をしておこう。
にゃんにゃん言っているのはクロアさんの趣味ではない。断じてない。違うったら違うのだ。
これが、神名解放の際に毎回ほんの少しだけ躊躇う理由のひとつ。
この世界に転生したときに、いったい誰がなんの意図でどんな理由でかは未だにわからないが猫耳の生えた幼女の姿にしてくれやがったのだ。しかも語尾やな行で「にゃん」と言わなければ
長年やってきた経験で(慣れたくはなかったが)慣れてしまったせいか、羞恥心で悶えることはもうない。——とはいえ、元男としての意識まで殺すつもりはなく。罰ゲームのような悔しさを噛み締めつつ、遺憾ながらこうしてときたま力を開放しているのだ。
この世界は物語のように優しくはない。
殺せば死ぬ。殺されれば死んでしまう。
魔法による蘇生手段はあるけれど、条件が厳しく無限に行えるものでもない。死なない存在などありえないのだ。
そんな世界で生きていくには力がいる。
そう、か弱い幼女の姿でも過酷な世界に食い潰されないほどの圧倒的な力が……。
――というわけで。必要があればこうして現人神としてちょこっとだけ力の一端をお見せしては周囲の人々から信仰心を集めてさらなる自分の力へと還元しているのだ。信仰されない神などただの
閑話休題。
その後、女性は無事意識を取り戻し、子供と一緒に帰っていった。
治療費は後日、無利子の分割払いで旦那さんと相談するそうだ。クロアさん的には無辜の民からお金を貰いたい訳ではないのだが、無償での治療というのは非常に厄介な問題と面倒事を呼び寄せてしまうので例外は設けないつもりでいる。
それに他の教会に睨まれたら街で生きていくのに肩身が狭くなるし……良いことがなにもない、ただの自己満足で終わってしまう。それで迷惑を被るのが自分一人だけならまだしも、今の立場はギルド長。当然のことながら何かしら問題を起こせば相当数の人にも迷惑をかけてしまうことになるので、余計なことはしないに限る。
「じゃあクロアさんはお仕事に戻るから……みんな解散!」
「「「はーい」」」
神様モードが終わったにも関わらずいつまでもクロアさんを取り囲んで騒いでいた野次馬を散らせ――ついでに撮影してた不埒者を
途中、手軽に済ませられる昼食をつまみはしたが、おやつの時間など差し込む暇もないくらいには仕事が溜まっていたので日が暮れるまで地道に片付けていた。
そうして、終業のチャイムが鳴り響くと同時に一般の職員たちは仕事を終えて帰り支度を開始する。……夜勤組などはここからが仕事の始まりだが。
クロアさんは当然、労働基準法に基づいてこれでお勤めは終了である。この世界に労基なんてないのだけれど、過労死の概念はあるので問題はない。
「それじゃ、本日もお仕事お疲れ様でした」
「お疲れ様~」
職員たちはこのまま自宅に帰る者が大半だが、クロアさんの自宅はこのギルドなので帰るもなにもあったものではない。
ギルドの食堂で夕食を済ませる職員も毎日幾人かいるのでその人たちと話をしながら一日の仕事の終わりを労うのだ。
「そういえばもう聞きました? うちのあの超越組が今度は新大陸の生態系の調査を――」
「こっちもですね、新人研修の時からずっと私が担当してた子たちが今度ついにアビス強化に手を出すって報告してきてくれて――」
「うんうん、それもまたアイカツだね」
「ところでバタートースト猫の論文が先日――」
「絵が描けるようになりたいですせんせぇ……!」
「諦めたらそこで試合終了だよ」
「僕は君を食べたい」
「
「(ギルドなのか酒場なのか)これもうわかんねぇな」
「まぁ……賑やかでいいんじゃないかな?」
「セヤナー」
——そうして迎える夜。
騒がしく楽しい食卓も酒が入ってからは大人の時間となり、明日の活動に差し支える面子は散っていった。クロアさんもそのうちの一人だ。寝不足で仕事が手につかないなど、ギルドを預かるトップとして許されない所業だもの。
だからこうして、いつもと変わらず……いつものように穏やかな眠りに包まれて今日一日を終えるのだ。
今夜も良い夢が見られますように。
この眠りが明日を生きる力となるように。
……おやすみなさい。
幼女クロアギルド長のラクシア奮闘記 泉 燈歌 @SeNNT
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